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kiss
作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます
読みながら涙がボロボロ出てきて止まらなくなってしまい、どうしようかと思いました…
以下、ネタバレ含むレビューとなります。↓
幼馴染同士の、一方(攻)が一方(受)を追いかける恋。
様々な出来事を経て、やっと苑(受)が明渡(攻)にイコールの気持ちを返せるようになった時、衝撃的な展開が待っていてー
序盤、半ば一方的に苑の体を開いた明渡に少しもやっとしたりしたんですが…
それと同時に、明るくなんでも持っている明渡が、縋り付くように苑を愛する姿に、哀れみのようなものを感じてしまいました。
たとえ自分と同じ「好き」を返してくれなくても構わない、それよりも苑が本当の「恋」を知ってしまうことが怖い。
「好きになるってこんな気持ちかって、苑が知って…俺としてたこととか、俺との生活とか、後悔する日がきたらって考えたら苦しい。それなら、誰も、俺も、好きじゃないままでいいから傍にいてくれって思うよ」
ああ恋って、こんなにも人を弱く脆くしてしまうものなんだな、と。。胸が締め付けられるって、こういうことか、、と。
作中で苑が自分自身でも語っているように、二人の関係は常に一方的で、苑は明渡のことが恋愛的な意味で好きだったわけではないんですよね。むしろ明渡のはとこの女の子にほのかな好意を抱いていたぐらいで…
そんな二人の関係が、明渡の頭痛から始まった病気の発覚、そして手術後に大きな変化を迎え、もう切なくて涙なしにはページを捲ることができませんでした。( ; ; )
衝撃的な別れからの再会、そして希望の残るラスト…
”あとがきにかえて”のSS「アイス」には本当に救われた気持ちになりました。
続編があることを今知ったので、これから続きも読んでみます。
二人の未来に明るい光がありますように、と心から願わずにはいられない、切なく美しい作品でした。
もうすっごいとしか言いようがない
自分自身が親から邪険にされていた人間が読んだら、まぁ居心地悪くて…他を読んでいて信頼があるから読み進んだけれど、果菜子の母がもう…私にとっては果菜子母の人柄が1番しんどくて、なんでこんな、ぼんやりしてでもいい脇役がこんなに生きた人なのかと本当、すっごい
苑の父が一人になって、お金を取っておいたり自転車を大切にしたり、自分の寂しさから息子がいるという事実に縋っていただけのことを明渡みたいな人が丸で意味があるかのように告げてくる感じとかも、本当、そんな風だよね世間て
明渡て、強引で優秀なんだろうけれどあんまり良いやつではないような…てか、単純に無神経なのがひどい
脳に電極入れて操作すると欝の人がとても元気になったりするって話しも最近みかけたし、頭の怪我で脳に影響が出て人を愛したってことあってもおかしくない
でもやっぱり複合的に色んなものとその気持ちは絡み合って記憶されているんだろうし、明渡が後悔したりする人柄じゃないことがそれまでの描写で十分に解っているところがとても良かった
高校生のときの離でのとか、自分が好きならそれで良いってこんな自分勝手な…て思ったし、連絡も取らずに若者が2年も…とか色々思ったけれど、明渡みたいな性格の人じゃなかったらこんなできごとのお話読んでられなかったかも
虐待のところでだいぶ重たいからね
田舎町で、経済的に裕福とはいえない家庭で、両親からわかりやすい愛情を得ずに邪険にされて育った主人公の苑が、どのような小学生時代を送ったのかが冒頭で描かれます。
最初、読み始めた時には、主人公の境遇の悲惨さや人の翳りの描き方が木原音瀬先生の作風を思わせ、何度か著者名を確認しました。
心を閉ざし、何もかもを諦め受容する姿勢は決して子供らしいものではないのですが、中学生になり高校生になり、成人するその過程を苑の心に寄り添いながら読み進めました。
苑が影に居る少年だとすれば、地元の大手企業の息子である明渡はまさに対極で、完全なる光の中にいる存在。その明渡がどうして苑に拘るのか、一緒にいようとするのか、決して近い距離でもないのに毎日家に来るのか、戸惑いながらも苑はその理由を深く考えることなく、自分はじっと冷たく静かな深い水の中に閉じこもっている、その構図がまだるっこしくもあり、今後二人はどうなるのか、いつ頑なな苑が殻を破るのか、見守るように夢中で読みました。
成人になり、二人は東京で暮らすようになるのですが、それでも苑は基本的には子供の頃と変わらず、自分自身の中に閉じこもり淡々と日を過ごしていきます。
そんな苑がとうとう明渡への恋を自覚した、その場面から、明渡の脳の手術を機に二人の関係が少しずつ変わっていく一連に、ぐっと掴まれました。
硬膜下血腫の手術の後、明渡が自分を見る目がこれまでとは異なることに気が付き、医者を介した明渡の告白音源を聴いて、苑は大いに悲しみつつも、心のどこかで「やっぱりな」と考える。自分が人から愛されるわけがないと。明渡の勘違いだと考える方がしっくり来ると。そして、彼の人生を本来のあるべき姿に戻すのが最善だと自分の中で折り合いを付け、全てを手放すまでがとにかく震えました。
明渡が自分を好きだなんてそんなことあるわけがなかったんだ、と「魔法が解けた」と解釈する苑が悲しくも愛おしかったです。
不器用で頑なで、ようやくほんの少し水の底から浮上しかけた時に押さえつけられる。それは、小学生の時に、普段は興味も無い神社のお祭りに行ってみようと思い立って酷い目に遭い、この世の何処にも自分の居場所がないと絶望したあの雨の夜を想起させられました。
最後も、安易に流れないのが良かったです。
ハッピーエンドがお定まりのBLだけど、このお話の場合は簡単に元サヤに戻るのは違うと思っていたので、距離感を保とうとする苑にほっとしました。「さわらないで」と手をはたき落とす場面も、できるだけ会わないようにしようとする姿も私には好もしく映りました。
終始、苑の視点で語られるので、読んでいる時にはこちらも当事者。
それが読後、俯瞰してみると、読書中には見えづらかった明渡や周囲の様子が少し見えるようになります。
それは、苑が大人になって、明渡のことを思いやることに似ています。
小さい明渡はこんなに暗く寂しい道を、自分の家まで毎日自転車で来てくれてたんだなとか。いつものように強引にしているようだけど、手が震えていることに気付いたりとか。
そういう目線の変化が、苑の成長でもあり同時に明渡の行動の解釈の助けにもなるのがとてもいい。
前述と違ってはっきり語られてはいないけれど、両親についても、苑を邪魔にするなど愛情表現がほぼ無いわりに、食事は一緒にしていたり、お祭りに行くのを止めたり、離婚したことを報告してきたり、未払いだったバイト代に手を付けなかったり、自転車が磨かれていたり、そういう小さい一つ一つも拾っていけば違う像が見えてくる。
細かい仕掛けが、一穂先生だなあと嬉しくなりました。
続巻も楽しみです。
勝手な見解なんですが、私の中で、凪良ゆう先生、朝丘戻先生あたりの作品は切なくて苦しいので、安易に手をつけられないというジレンマがあります。
そしてその先生達を抑えて、一穂ミチ先生。
この方の作品はどうも切なさ苦しさに不穏さを感じて(文章が上手いので入り込みすぎてしまうんですね)、1冊も手をつけられずにいました。
が、挿絵をyoco先生が書いているというのを盾に(?)、満を持して購入。
結果、放心状態でこの文章を書いています。
物語の概要や、登場人物については省きますが、なんといっても、苦しい、切なさい、苦しい、せつない…せつない…せつない…くるしい…のオンパレード。
そもそも高校時代までのあの不安定な距離感や、苑の生い立ち、家庭環境、明渡に対する怖いという負い目のような感情、罪悪感。
どれもリアルすぎてギシギシと容赦なく心が削られました。
それもこれも一穂先生の文章力と言えばそうなのですが、あらためて、安易に手を出してはいけない神作品だなと実感。
会話一つ一つ、モノローグ一つ一つが、いちいち心を抉るんです。
どちらかと言うと苑と共感する部分が多かったので余計に辛かったんだと思いますが、はっきり言って全然甘くなかったです。
(2人の関係がギスギスしてるから甘くない、とか喧嘩したから甘くないとかの問題ではなく、作品中に漂う雰囲気が切なすぎて苦しくて甘くない、という感じでしょうか…文体がそもそも切ないのです)
「自分の前に時間や未来や将来といったものが存在するのが恐ろしかった」と語った苑。
自分を養っていけるという手応えは自分にとって大きな収穫だった。
自分は大人になれる、なっていい。
そうやって、バイトを初めてしてみて、やっとそう思えるようになった苑。
そんな苑が、明渡宅で出された夜食に対して、
「人の家で、出来合いでない温かい食べ物を出されること、箸がちゃんと箸置きに載っていたこと、皿が真っ白にうつくしいこと。
それらが胸をつかえさせた」
と語ったシーン。
…………ぐううう……
感想さえ言葉になりません。
読んでいる最中ずっと唸っていました。
なんて苦しいんだろう。
攻めの明渡がまた、日向の人間なだけではなく、賢いんですよね。
明渡の光は苑にとって、強すぎて怖いというように、
確かに明渡は日向の人で、容姿や家柄にも恵まれている。
けれども、それを補っても有り余る優しさや賢さが明渡には見え隠れするんです。
よくいるクラスの日向の人ではないんですね。
上手く説明できないのですが、そこがまた物語を切なくさせるポイントでもあって、終始、明渡から苑への愛情は示されているのに、いたのに、ずっと通じあえない。
これまでの人生の片隅を照らし続けてくれたのは、紛れもなく明渡だから。
そんなふうに思っているのに、明渡への愛情がきちんと苑から相手へ繋がっていかないのがものすごく苦しかったです。
そしてちょっと展開が急だったなと思った部分もあったんですが、最後まで怒涛のどんでん返し。
本気で気を抜けない作品です。
またこの作品の題名にもなっている「キス」ですが、物語の要所要所でとても上手く絡んできます。
土砂崩れに巻き込まれて全て流されてしまいたかった11歳の時のキス。
それが全ての始まりでしたが、なによりも記憶に残ったのが手術の前、たった5秒足らずで交したキス。
手術後の別れのシーン。
私は勿論、疑わなかったんです。
5秒?
いや、10秒、とやり取りした2人が、
キスをせずに別れるなんて。
振り返りもせず道を分かたれるなんて。
こんな、こんなことってあるのか………!!!
一穂先生…………!!!
泣きました。
もう、次の行を読み進められないほどの切なさと苦しさに持っていかれて、もうグズグズでした。
家族に笑われるほど泣きました。
キスをしないで別れた2人。
泣きたいから泣いているので大丈夫です、といった苑。
全然大丈夫じゃないよ………!!!
号泣だよ………。
やっとの思いで読み終わり、最後は余韻の残る素敵な終わり方でしたが、正直、続編のラブも読み始めるまでに何日もかかってしまいそうです。
そのくらいに苦しくて、切なくて、けれど全てを鷲掴みにするような神作品でした。
一穂先生…他作品も絶対に読みます。
思わぬほうに話が展開していって不穏な雰囲気に読み進めたい気持ちが逸った。明渡(攻)みたいに自信があって強引で、生きていく能力の高い男、物語の中で読む分には大好き。実生活では関わりたくない(笑)言葉の表現がとても綺麗で読んでて幸せな気持ちになる。一穂先生はあまり言語化されない気持ちを言葉にするのがとても上手で、ちょっと後ろめたかったり、隠したい気持ちを表現されて切なくなる。1巻特に胸が痛かった。1巻面白かったけど2巻少しもだもだを感じたかなー。
無駄の無い文章とテンポ良い展開が見事で、BL小説ランキング1位になったのが良く分かりました。
一穂ミチ先生の文章からは、そこにあるだろう空気の匂いや、登場人物たちの息づかいまでもが感じられて実に見事です。
お話の緩急も素晴らしいので、ページをめくる手を止めることなく一気読みしました。
実は勝手に痛い作品だと思っていて読む勇気が無くて、今回はちるちるさんのレビューを隅々まで確認してから読み始めました。
確かに辛い場面はありましたが場面展開が早いので、それ程引きずる事も無く読了することが出来ました。
明渡に腹が立つことも無く、逆に離れていた期間の彼の誠実さに好感さえ持ちました。苑の生きる上での不自由な性質も愛おしくて、それは読み手である自分の年齢から来る受け取り方なのかとも思いました。
またすでに「ラブ~キス2~」が出版されている安心感からかもしれません。
良作と出会えたことに感謝します。
評価が割と分かれていますが、わかれる理由もわかるなあと思う作品です。
BLテンプレだと、お金持ちで育ちも良くてなんでもできるちょっと強引なイケメンスパダリが、なんの取り柄のないネガティブ凡人に、さしたる理由もなく執着し、謎の恋の魔法にかかったまま大団円を迎えますよね。
本作はそのお約束を裏切り、もしもスパダリが恋の魔法から醒めちゃったらどうなるの?というお話なんです。
だから、安心の展開を求めて読むとあれ?と思うでしょうし、逆にテンプレには飽きたぞ、「なんでそんな受けにそこまで惚れるのさ?」なんて思う時に読むと新鮮なのだと思います。
主役は子供の頃からの幼なじみの2人。
スパダリ役の明渡は、親からも同級生からもいびられている根暗な苑を幼い頃からひたすら守り執着し独占します。
成長するにあたって身体も求めるようになります。
万事受け身の苑は、積極的にその愛に応えるわけでもなく、ただ流されるままに受け入れます。
やがて高校を卒業し、一端は離れるもののなんだかんだでまた流されるように攻めの住む東京へさらわれるように居をうつし、攻めの庇護のもと暮らします。
この辺りまでの若さゆえのの焦燥に彩られた執着と愛の描写はテンプレ通りですが、切なさ含みで読み応えがあります。
でもこの作品の肝はここからの急展開。
ある日攻めの体に異変が起こるのです。
脳の手術が必要とわかって、初めて苑は明渡への想いに気がつき、2人は養子縁組まですることに。
テンプレだったらここで永遠の愛を確信するのですが、この物語はここから急転換します。
明渡の脳の問題は、幼い日の怪我が原因と思われ、その時に脳に怪我したことにより、苑に執着するようになり、手術が成功したことによって、苑への愛着が失われてしまうのです。
永遠だと思われた恋の魔法が解けてしまったわけです。
(この辺の脳のなんちゃらは極めてBL的なので、医学的にどうなのかという疑問はあるのですが、そういうBL的な要素をBLテンプレを裏切る形で使うところが新鮮です)
BLテンプレによって当たり前のようにもたらされていた恋の魔法から醒めてしまった2人は、2人の力で再び愛し合えるようになるのか??
というのがここからの読みどころ。
この作品だけだと2人の行く末が曖昧で、一般的な物語としてはそれはそれでまとまっていると思うのですが、2巻までをセットで読むとBL的な結びにもちゃんと辿り着ける親切設計になってます。
BLテンプレを裏切るというのは、苑の人物造形にも言えます。
一見、テンプレ可愛そうな流されネガティブ受けなのですが、攻めの手助けはありつつも、ちゃんと将来を見据えて働くし、他に職をつけるし、毒親の支配からもきちんと離脱するんですよね。
テンプレフォーマットを利用する場合、いかに変奏曲をつくるかが作者の腕の見せ所になるのですが、そうきたかと思いました。
テンプレの、お約束通りだからこその良さと、お約束を裏切ることによる面白さの両方があり、その上でシリアスで切ない恋の物語になっていて、面白かったです。
評価に正直迷いましたがBL小説という枠をぎりぎり外れず実験的な事をやっていると思ったのでこの評価。
ラストの展開は賛否両論だと思いますが「人を好きになる」という事がどういう時に何を原因にして起こり、何故終わってしまうのかという事をこの本一冊で少しでも解明したかったのかなと思いました。
明渡の苑への恋愛感情が単に「土砂による怪我で出来た腫瘍の圧迫」が原因でそれが無くなったからハイ終了、ではなく事故のタイミングや二人の関係性その他複雑な要因が絡んでいた事。
また腫瘍を取り除きそれでも苑への気持ちが完全に消えたわけではなく、何か別の気持ちが恋か愛かに変容したと明渡が自覚した時点でこの本の役目はほとんど終了してしまっているので必然的にその後のページ数は少なくなります。
ラストの二人の名付けようのない関係性と気持ちは中盤のハイライトシーンで飛ばした光の束のように、光り続けるようですぐ消えるような不安定さでだからこそ綺麗だと思いました。
一穂先生は、あの一番人気のあるシリーズをイマイチ面白いと思えなかったので避けていました。しかし、ふと、本屋で素晴らしい表紙に目を奪われ。あまり深く考えず、青春系かな?高校生もの好きだし読んでみよっかな〜と軽い気持ちで購入しました。読み始めても、「あ〜はいはい、なるほどこういう展開ね」と幼馴染もののありがちな展開と決めつけ……むしろ、展開がゆっくりすぎることに若干の苛立ちも感じたり…(何様)
それが……それが!それがですよ!
残り三分の一で大どんでん返し〜〜!!めちゃくちゃびっくりしました!まさか、ここで、この流れできてこの展開!?と、何度「え?うそでしょ?」と叫んだかわかりません……
そこからはもう…涙涙涙ですよ。泣きました。やられました。
切ない。
あの途中「展開がゆっくりすぎる」と感じていたエピソードは、間違いなくこの瞬間の為にあったんだと。また泣きました。
ありがとうございます。最高でした。
2もある?らしく?必ず読みます。
一穂先生の作品、他のものも読ませていただきます。
買うか迷われていらっしゃる方、絶対買ったほうがいいです。
作家買いだったのですが、初めて読んだときは、これまでの作風とのギャップが大きくて、戸惑いました。一穂さんの作品は、物語の早い段階で登場人物に魅力を感じたり、透明感ある心理描写に惹かれることが多かったのですが、本作品は一読目ではそんな風に感じることができなくて。多分、明るく強引な明渡と感情薄い苑の対照的な人物像にも馴染めなかったし、私にとっては前半のエピソードが多すぎたのかもしれません。
でも、結末を知った後、二度、三度と読み返すと、前半のエピソード一つ一つが腑に落ちて、それらが明渡の手術後の大きな展開の中で束ねられていくのが納得できて、胸が熱くなりました。
いろいろなことを諦めて生きてきた苑は、弱そうに見えて、実はとても強かったのですね。明渡から去っていく姿は、悲しいけれど潔く、強くなければこんな風に諦められないだろう、と胸を打たれました。たくさんの我慢が、いつのまにか苑を強くしたのかもしれません。対照的に、結論を先延ばししようとする明渡は臆病に見えて。それまでずっと明渡が引っ張り苑がついてきた関係が逆転した別れ。とても印象深く感じたのは、前半のエピソードが丁寧に描かれていたからこそだと思いました。
消えた苑に、時を経て再び恋した明渡。子どもの頃、自分なんか消えたらいいのに、と言う苑に、明渡が、蒸発したって雲になって雨になるんだからなくなるわけじゃない、と言ったエピソードを思い出しました。自然豊かな土地で育った二人らしい描写だと思いました。苑を好きな気持ちは消えても思い出は残り、その思い出が雨のように巡り巡って、再び苑への想いを芽吹かせたと思うと、思い出の持つ不思議な力を感じます。
苑の両親の不仲さや愛情の薄さ、性欲を吐き出すようなセックス。そんなすさんだエピソードも、父親の死後は、冷凍庫から見つかった苑のアルバイト代、ピカピカに磨かれた自転車とともに、哀しく感じられました。父親も不吉な名字のせいで嫌な思いをたくさんして、ひねくれて、いろいろなことが上手くいかなかったのかもしれません。不器用な父親の愛情のかけらをかみしめる苑と明渡は、ずいぶん大人になったのだなと感じました。
二人のキスは何度も出てきますが、私が一番好きなのは、物語の最後、苑を東京に追いかけて来た明渡が神社で苑の手を握ってしたキスでした。神様の前で誓うキスのようで、明渡の手が汗ばんでふるえていたのがよかった。苑が明渡を追い越し、また明渡が苑に追いついて。二人はやっと同じ気持ちで向かい合えたことが伝わってきました。昔、二人が神社で見たカップルのキスも、そんな幸せがあふれていたのかもしれません。
決して明るい話ではないけれど、何回も読み返すうちに、とても好きな作品になりました。
この作品を機に、一穂先生の作品を何冊か読んでみましたが、これ以上に心に残る作品には私は出会えませんでした。
感想やお話の解釈は他の皆さんが素晴らしい物をたくさん挙げていて、その中のお一人と私の解釈や感想がほぼ一致しているので、この作品をおすすめできるタイプの方を考えてみたので、それを挙げようと思います。
おすすめできるタイプの方
・行間を読んで、登場人物の心情の変化を読み手として自分で補填できる、またはそうするのが好きな方(これ、終盤特に重要だと思います)
・受けが辛い思いをするのに抵抗のない方
・ほのぼの系やキラキラした少女漫画系王道ストーリー以外は受け付けないというこだわりは特にない方
・一途で絶対に受けを傷つけず、常に受けの味方である王子様のような攻め以外は受け付けないというこだわりは特にない方
・人気者キャラが日陰キャラを好きになるのに、不自然な感じがしない明確な理由が欲しい方
・卑屈さがあるキャラも受け付けられる方
・あまり良くない家庭環境や親の描写も受け付けられる方
・くっついた後のあまあま話も必須とは思わない方
・医学的な明確な裏付けがないと設定に納得できなくてモヤモヤしたりはせず、小説というフィクションであることで受け入れられる方
ざっとこんな感じではないかなと思います。逆に上記に当てはまらない方はもしかすると楽しめないかもしれないので、購入は慎重に検討されることをおすすめします。
小学五年生の苑にとって世界は悪意に満ちていた。両親の罵声や同級生のからかいに息を潜める日々。そんな苑に、クラスの人気者・明渡が構ってくるのが不思議でならなかった。ある夏の日、ふたりは神社でキスをするカップルを目撃する。その光景は互いの脳に灼きつき…?11歳、17歳、21歳、25歳…人生のターニングポイントにはいつもキスがあった。光と影のような幼馴染のふたりの、綻びだらけの恋物語。
↑このあらすじ、非常によく書かれていると思います。読んでからあらすじを読むと特にそう思います。キラキラしたほのぼの幼馴染みラブではありません。綻びだらけ。本当にそうだなと思います。
いつもは、Twitterで下調べをしてから本屋さんに行く私ですが、小説はあまりチェックしていなくて表紙買いというものをしてみました。とはいっても一穂ミチ先生の作品だということも購入する理由にはいっていたんですけどね。
すれ違う2人が、切なくてとても感情移入してしまいました。年を重ねていくごとに物語が、おもしろくなっていて、読み応えがありました。結構王道のお話なので、最近BLを読み始めたという人にもお勧めできるオールマイティーな本だと思います。
結構受けに執着している攻めの明渡と何にも執着しない空気のような存在の受けの苑のバランスがこのお話のカギとなっていてすごく面白いです。
エッチ的には標準的な回数です。特殊なプレイなどはなく、ただただ苑可愛いなと思うだけです。
王道なお話でとても面白いので、ぜひ読んでみてください。
評価が分かれているので、購入を迷っていましたが、思い切って購入しました。
結果とても良かったです。確かに、くっきりしてはいない余韻の残るエンドだとは思いますが、私はモヤモヤは感じず、十分ハッピーエンドに思えました。うまくいきすぎないところが現実的で、おとぎ話ではない、リアルな人間の心の動きを感じることができました。とにかく読後の満足感が非常に高かった。私は、ペーパー無しでもモヤモヤしませんでしたが、確かにペーパーがあると最後の攻めの行動へに結びつく気持ちの変化はつかみやすいかもしれないです。深く考えさせられる作品でした。絶対ハッピーエンドじゃなきゃ嫌!一途じゃなきゃ嫌!キラキラの王道ストーリーが好きという方以外は読んで損はないと思います。私はむしろこういう作品をもっと読みたい。
これを期に、一穂ミチ先生の他の作品も読んでみたいと思えましたが、色々とレビューを見ていると、どうもこの作品が異端なようなので、何を読むべきか・・。
何でも持ってる人と何も持たない人の恋。それはある意味ロマンスの王道だ。とりわけ、前者が後者を見初め、熱烈な求愛の末に結ばれるというパターンは、古今東西問わず夢見る乙女の大好物だ。腐女子といえど例外ではない。本作も前半部分だけで終わっていたならまさに王道まっしぐら、糖分補給に最高の一作とたたえられたことでしょう。
でも根がひねくれものの私は、そんな王道ロマンスを読むたび思わずにいられないんです。「なんで?」って。その気になれば誰でも選べる立場の人が、なんでよりによって地味でさえない相手に恋焦がれる羽目になるのか。そして王道ゆえに、たいていの場合あまりその辺は深く追及されることなく終わってしまう。まあ恋なんてするものじゃなく落ちるものだから、思いっきり深く地の底まで転げ落ちてしまった人に「なんで落ちたの?」って聞いたところで当人にすら納得いく答えは容易に見つからないのかもしれない。
でも、本作にはちゃんとあるんです。なんで明渡があれほど激しく苑を求めたのかという謎に対する、明快なその答えが。一言でいってしまえば、それは「脳の誤作動」。ひとたび明らかになってしまえば、どんな感傷も入り込む余地のない、いっそ清々しいほど身もふたもない理由だったのです。
たぶん苑も、ずっと思ってたはず。明渡に熱愛されながら、「なんで?」「なんであの明渡が俺なんかを?」だからその理由がはっきりしたとき、「ああ、それでか」とすっと肚に落ちたんだと思う。だから意外なほど取り乱さず、おのれの取るべき道を最短で見いだすことができたんじゃないか。もちろん悲しくなかったはずはない。泣いてすがれば罪悪感から明渡は突き放すことなど到底できなかっただろうし、ましてや養子縁組までしてるんだから、それを盾に取ればいくらでも主張の仕方はあったはず。なのにあっさりと、本当にあっけなく苑は明渡を手放してしまう。私は、明渡に有り余る愛を注がれながらどこかいつも居心地悪そうにしてた前半の苑よりも、ここからの苑が断然好き。何も持ってないとずっと周囲に言われ続け、自分でもそう思いこんできたけれど、こんな最悪の時でもしゃんと頭を上げて歩いてゆくだけの立派な気概があるじゃないか。それを人はプライドと呼ぶんだよ。そして作品タイトルにもなっている「キス」。二人まだ小学生だというのに、血と情欲のにおいがプンプンする土砂崩れの中のファーストキスもインパクト大でしたが、私はお別れの場面での二人のキスが一番印象に残りました。雑踏の中、苑に請われて目を閉じる明渡。そのままきびすを返す苑。そう、ここでのキスは実際には触れることすらない幻のキスだったのです。でもどんな激しいキスより、百の言葉より、雄弁に苑の覚悟と明渡への想いが伝わるキスでした。
長い時間をかけて大切に積み重ねてきたものが、一瞬で跡形もなくなって綺麗さっぱりリセットされた後。苑の消え方があまりにあっぱれすぎて、残された明渡は本当に自分一人で考えなければならなくなりました。血栓の影響のなくなったいまが本来の自分だとして、いったい何が欲しかったのか。西へ行くも東へ行くも完全な自由。ただし次の選択はもう誤作動のせいにはできないからね。
「キス」の一言のタイトルが、あまりにもシンプル過ぎて、未読か既読か判断がつかないまま読んだら、
冒頭、何となく読んだことのあるような、
でも、適当に開いた後ろの方は読んだことのないような、
最初だけ読みかけて、中途にしてたのかなって読み進めてみて、
結果、やっぱり読んだことあったわ。
そして、これは、私の記憶力の衰えを差し引いても、記憶に残りにくいタイプのお話だった。
だって、まず主人公が、誰の目にも止まりたくないって隠れようとする性格で、途中までは何もかも流されるように受け身なままでって、
見事にというか、まんまと私の記憶からも抜け落ちちゃって、
このカバーイラスト、タイトルロゴのデザインも含めて、すごく、すごーく内容に合っているので、察して。
一穂さんの文章大好きです。
言葉のチョイスが本当に素晴らしい。
作家買いですが
物語の核心部分をネタバレしてます。
↓
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↓
↓
好きな作品は何度も読み返したい。
でも、これは読み返すと、あー明渡の苑に対する、心配も執着も好きも、血腫のせいなんだよね、と冷めてしまうから、たぶん読み返さない。
苑と過ごした時間は覚えてる、でも好きって感情だけが血腫と共に消えてしまった。
よくある恋人を忘れてしまう記憶喪失パターンに似てるけど、違うのは好きになった理由も、頭を打って血腫が出来たかもしれないってところ。
心じゃなくて、脳で恋をするの?
楽しかった思い出は残ってる、でももう好きじゃないって、蛇の神話になぞってるんだろうけど、かなり辛いし、はぁー!?って感じ。
だって苑は明渡を騙してない。
身体が忘れられないのか、2年経って苑のことがやっぱり好きだー!って。なんで?
好きになるのは理屈じゃないけど、なんで?
医学的にどうこうは分からないけど、なんで?
読解力がないので、終盤はなんで?ばっかり(笑)
いっそのこと、別れた後に苑に遊びでも本気でも、誰か相手がいるか、東京へ戻ってきた明渡を一度は完全拒絶して欲しかった。
「キス」一穂ミチ先生 読了
作家買いではありませんが、あらすじ読んでとても気になって+挿絵がyoco先生なので、迷いなく買いました。
全体的に切なかった。「イエス〜」とはまた違った雰囲気と文風で、yoco先生のイラストも同じく寒色系で相性抜群です。
まぁ血腫を取り出したら「好き」も同時になくなるというのは科学的な根拠あるかどうかわかりませんが、こういうめちゃくちゃ好き→もう好きじゃないという流れは大好きです。
だからそのあともう好かれてることに慣れているほうはこれからどう動くか、というのもすごく気になるので、後半からは一気に最後まで読み終わってしまいました。
が、やっぱりなんかちょっと足りないかなーというもやもやする気持ちも残っています。
例えば会ってない2年間のこと、2人どう過ごしていたか、明渡の心境はどう変わってたのかとかは、もっと描いてほしかったな。
特に「2年後」からの流れは個人的にちょっと展開早いかなーって思ったりして…正直一回読んで最後何言ってるかわからなかったので、もう一回読み返して、友だちにも確認してやっと理解しました。
コミコミさんの特典ペーパーも読みましたが、正直こんな話特典で書いて欲しくなかったです。ページ数が足りなかったら、小学生時代や高校時代の話少し縮めばいいじゃないかな…と思いました。
片思いの話なので、やっぱり子ども時代の明渡目線の片思い話が読みたかったんですね…。
全体的には良い設定でしたが、やはり後半から慌ただしい感じが否めないので、この作品が好きな方たちに申し訳ないですが、敢えてこの評価になります。
BL読んでると時々、この完璧な攻は受のどこが好きなん?と不可解になる作品も多いですが、この苑も地味でネガティブ。
性根は嫌いじゃないんだけど、そこまで惚れる良さがわからん。明渡の執着の、根本が曖昧で座りが悪い。なんだろこの足の踏み場がない感じ?まぁこの二人は対照的な所がお似合いではあるかー。なんて思って読んでたら!
ひどい。ずっと、いつ捨てられたって構わないようにって生きてきて、本当に初めて自覚した途端の
ファンタジーだよね。蛇の神話。
苑泣かすなばかー!あんな良い子をばか!と最初の方とは裏腹の苑贔屓になりました。
にしても苑が冠婚葬祭の手続きができる大人になったとこが感慨深かったです。一人で出来るようにしてくれた。ここまで連れてきてくれたのは紛れもなく明渡。
二年も放置するなと言われてる明渡ですが、白紙から、二年で育ったんだと思う。記憶から、悶々と。最初は多分、本当に捨てようとしてたもんね。携帯アドレス変えたり。でも思い出は残ってた。
だからどこが良いかわからない→可愛いかもしれない→どう考えても可愛い。に育つんだよ!
だって好きだから捨てる苑の潔さとか、かわいいもん
評価の分かれる作品だと思います。
でも読んでよかった。
作品の内容は他の方が書かれているので感想を。
これをBLと表現するには言葉が足りない気がします。
文学?でもそれだけでもありません。やはりBLです。
こういう作品が書けるのはファンが多い一穂さんならではだと思いました。
たしかに商業BLでは嫌煙される内容かもしれません。
けれど、キャラクターが生きてる。ちゃんと呼吸をしている。
悩んだり苦しんだりしながら、それでも一生懸命生きている。
テーマは重いですが救いのあるお話だと思いました。
またこういった作品を書いてほしいです。
次の小説も楽しみに待たせて頂きます。
小説のレビューランキングが上位である事とyoco先生のイラストに惹かれ購入しました。この作家さんの本を読むのは初めてであり、よくある幼馴染みものかなーと軽い気持ちで読み始めたのですが、幼馴染みの二人のターニングポイントとなる各年代の珠玉のエピソードで紡がれた一風変わったストーリーが新鮮で良かったです。主人公の苑の計算されていない素朴な健気さに心を打たれました。
特に後半の展開は思いもしてなかったので、度肝を抜かれました。結末も手放しに喜べない気もするけれど、人生確かに全てクリアー(透明に澄んだ)にという訳にいかないので、こういう形で落ち着くのかなと思いました。
ところで、この小説の帯に「このBLがやばい 2018年度版BL小説ランキング」第一位と書いてあったのは、この作品じゃないでんですね・・。よく見ると、同じ作家さんの他作品でした。それでもこの小説も面白くて一気に読めたので、購入して正解でした。この作家さんは、何気無い日常のエピソードを掘り下げるのが上手な方だと思いました。こういう派手な世界観やドラマティックな展開が無い淡々とした日常を描く話って作家さんの力量が問われる所だと思いますが、最後まで飽きる事なく読者に読ませるのは流石です。かなりのベテラン作家さんのようですね。遅まきながら注目していきたいと思います。
普段BLは漫画ばっかりで、小説はほぼ純文学しか読まないです。
先日木原音瀬先生の「ラブセメタリー」を読んで先生がBL出身だと知ってBL小説も読んでみようと思い、色々探ったなかから前々からpixivでファンだったyocoさんのうつくしいイラストと感想レビューを頼りに購入しました。
めちゃくちゃおもしろくて一気に読み切ってしまいました。
苑の言葉はいつも明渡を否定するもので、もやもやすることもありましたが、彼の家庭環境問題が前提としてあったので不自然さはなく人物の造形が巧みでした。
明渡から苑への恋愛感情も読者に疑念をもたせながら進み、ある事件がキッカケで新たな展開をみせる、その部分はドキドキと切なさで忙しかったです。
漫画を読む時もbasso先生やヤマシタトモコ先生、ヨネダコウ先生や中村明日美子先生、井戸ぎほう先生など、行間を感じる漫画が好きなので、はじめて読むBL小説を「キス」にしてよかったです。
一穂ミチ先生の他作品も読んでいきます!
柔らかに見える一穂ミチという作家の容赦なさ、そんなものを改めて感じた本作だった。
人が人を好きになる気持ちは、一体人間の体のどこに宿るのか?
今では心は脳にある、と誰もが知っていて、でもどこかで納得できない
そんな根源的な問いが作品の根幹にあって、読み終わった後
ハッピーエンドなのだとは思うけれど、手放しで喜べず
タイトルは「キス」というこの上もなく明快でシンプルなものなのに、
考え込んでしまうような作品だった。
幼なじみの明渡と苑。
片や地元名士の息子でいつも人の中心にいるような明渡と、
両親から虐待され、学校では蔑まれ、目立たぬように静かに生きる苑。
恵まれた明渡は何故か(そう何故か!)苑に執着し、
体温の低い印象の苑は、差し出されるまま自分から握り返すこともなく
明渡と繋がっている。
有能で明るく自信のある明渡は、どうしても(どうしてだか)苑と一緒にいたい。
小5に始まり、高校生、大学生、社会人と長い時間を経た中で
後半突然、それまで張られていた伏線が「あ!」という感じで回収されるのは
なんとも見事。
見事なのだが、普通のBLだと思って読んでいた読者は
そこで初めて当初の問いを突きつけられ、
自分が追ってきた彼らの過ぎ来し方、彼らに積もった時間を思って胸が痛むのだ。
この「あ!」の中身は、是非実際に読んで頂きたいので書かないが、
ただ密やかに息をしていた苑が、その後しっかりとした存在として浮かび上がる。
単なる筋立てのご都合ではない女性の存在感と、
脇役それぞれに(たとえそれが悪役であっても)それぞれの人生があると
感じさせる筆致はいつもの通り。
要所要所でそれぞれ意味の違う「キス」が出てくるのだが、
脇役果菜子の場面が映像として美しい。
ここからが始まりというエンドだが、
主役2人は、これからどのように生きていくのだろうか?
再出発した2人の人生に幸あれと願うが、
関係というのは意志を持って育み続けるしかないものなのだ、と
改めて深く思いながら本を閉じる。
非常に印象的な物語だったが、キャラクターへの好みの問題もあり
心を持って行かれるような萌えは薄く、評価は「萌」。
※BLとしては、明渡視点の特典ペーパーで補完すると座りがよく
更には苑視点のnoteの小話まで読むとほっこりします。
ちょっと変わったお話でした
小学校から高校まで一緒の幼馴染の一方がいつしか恋心を募らせやや強引に手に入れるのですが、一方は友情としては好意がありながらも恋だの愛だのの想いは持っていなかったというところから始まります。
それでも体を許したのだから段々と恋する思いが育って行く物語なのかと思いました。
攻めの背景からして資産家の家とか親の会社の後継問題とか多難そうな障害を乗り越えて行く展開とかありそうだし…という予想はちょっと違ってました。
苑の生い立ちが不憫でした。
両親は常に険悪な関係でまともに仕事せず文句ばかり言っている父親、同じく文句ばかりで家事も子供も放りっぱなしの母親。
親から愛された経験がないから愛も恋もわからない。
明渡に好きだと言われても自分なんかを好きっていう相手の感情が信じられないし、好きかと聞かれても好きって何?と思ってしまうのも無理のないこと。
小学5年にして生きる希望も将来の夢もなく蒸発して消えてしまいたいと願う苑でした。
明渡は全く逆の育ちと性格です。
地元の名士の父親、恵まれた環境で明るき溌剌としています。
でも独りよがりで強引俺様、頭はいいが人の話を聞かないというのも個性として受け入れられる幸せ者です。
大人になった苑が人を恋する想いを知り自覚したとき、ようやく明渡の想いを受け入れたのに明渡の感情が揺らぐことになります。
頭の怪我のせいとはいえ、今までそこにあると思っていたものが幻で勘違いの恋心だといわれてしまった衝撃は計り知れないものがあったでしょう。
頭の傷が見せた偽物の想いで翻弄された生き方を後悔しているような明渡に、記憶はあるけど想いは消えたって何?酷すぎると叫びたくなりました。
必死に考え決意した苑が別れを告げひとりタクシーの中で後号するシーンは泣けました。
2年後やっぱり忘れられないからとまた強引にやってきて元サヤって安易すぎる。
結局幻なんかじゃなくて本物だったからまた元通り付き合おうという言い分が身勝手すぎて、苑には流されるなよと言いたくなりました。
もう心変わりしたりしないのかな?
大丈夫?
と不安を残すハッピーエンドのようでした。
なのでほかの方が語られているように本編だけでは満足できませんでした。
きっとこれから色々あるけれど頑張って乗り越えていくんだろうなという余韻を残した終わり方が好みじゃない自分にはきっちりハッピーにして!不憫だった苑を甘やかしてあげて!という思いを残してしまいました。
なのでペーパーとnoteは必読でした。
いい作品です。私のような年齢を重ねた女子たち(笑)にも、確かな読み応え。
読後感は、まるで文芸書のようなほろ苦さ。
苦手な方もいらっしゃるでしょうが、すごく好きな方も多いのではないでしょうか。
あちらこちらに美しい比喩があって、うっとりします。
続編があればいいな、なさそうだけど。
一穂先生の作品はどれも好きなんですが、個人的に今作が一番好きかもしれない…というのが読後一番の感想。
以下、あらすじ無視な感想で失礼します。
まず苑の子供時代の不憫さが悲しくて辛かった…。
諦める事を早々に覚え、波風起こさず毎日過ごすだけの苑にただ一人構う明渡。
そんな明渡との長い付き合いの話なんですが、明渡から向けられる好意に対し苑は、最初は罪悪感をも伴い惰性的で流されているだけなものです。
それが明渡の病気をキッカケに自身の気持ちを認識して、ようやく明渡とラブラブになったかと思いきや!!!
苑との記憶は残っているが今までと気持ちが違うなんて、とんでもなく残酷で…。
苑が明渡と離れるシーンは美しくて悲しくて泣けました。
タイトルの『キス』が要所要所で出てくるのですが、これがそれぞれに意味があって深いな…と思います。
ページ残り少なくなり「えぇ…まさか?!」となりますがバッドエンドではありません。
この余韻ある終わり方がもどかしいんですが、この物語にはあの終わり方がピッタリな感じがします。
あとがき代わりのSS、ペーパー、noteにUPされたSSの順で読むのが良いかな。
特にnoteのお話は、二人のこれからが明るいものになりそうなのが垣間見れます。
「切ない」という印象が強いんですが、読んで良かった…と思えた作品でした。
評価が二分されているようですが、私は好きな作品です。
一穂先生の作品の中では、『ナイトガーデン』に一番雰囲気が近いかなと思いました。
親からほぼネグレクトに近い育てられ方をしてきた苑と、ずっとその近くにいた幼馴染の明渡。お坊ちゃま気質でマイペースな明渡に絆され、頑なだった苑の心が徐々にほぐれていくのですが、苑が自分の気持ちを自覚した直後に不幸な出来事が二人にふりかかるんですね。
私は、事故が明渡が苑を好きになるきっかけだったとしても、その前から苑の目に見えないSOSに気づいてたのは明渡だけだったし、明渡以外に苑が心を預けれる人はこの先出てこないだろうと思ったので、あのラストで満足しました。
ただ、気持ちを自覚するのに2年はかかりすぎかなと思ったのと、苑視点だと明渡の心境の変化があまり伝わってこないので、できれば明渡視点の話をエピローグでもいいので入れてほしかったなと思います。
ストーリー展開や表現力は萌2だと思いますが、上記の点で総合的には萌1とさせて頂きました。
作家買い。
内容はすでに書いてくださっているので感想を。
この作品は攻めの明渡のことが好きになれるかなれないか、で評価が分かれそうだなと思いました。
ネグレクトされ、親から愛されずに大きくなってきたがゆえに、愛情というものを知らない苑。そんな苑を、大きな愛情で包み込むのが攻めの明渡。
自分に自信を持てず、半ば投げやりに生きてきた苑は、明渡の愛情を持て余しながらも少しずつ「愛」というものを知っていく。
ここで終わっていれば、バッサリ言っちゃうと「よくある話」。
けれど、ここからがさすが一穂さんというべき怒涛の展開を見せる。
あれだけ愛をささやき苑を取り込んできた明渡の、気持ちの変化。
苑に対する愛情が枯渇したわけでも、心変わりしたのでもない、というのがまたなんとも言えずしんどい気持ちになる。
苑が、可哀想で可哀想で…。
けれど、明渡を愛しているからこそ、明渡の手を放す苑の強さと愛情の深さに胸を打たれました。感情を表に出すことのない苑が、タクシーの中で流す涙に思わず落涙した。
明渡という男は自分勝手で身勝手なのだけれど、その強引さがあったからこそ孤独だった苑が救われたことは間違いない。
苑への恋愛感情がなくなってしまったときに、それをはっきりと苑に伝えたのも、彼の愛情だと思う。あのまま、気持ちがないままで二人で暮らしていることは、決して彼ら自身のためにはならなかったと思うから。
正直に言うと、最後、明渡ザマアなシーンが見たかった。
苑に、振られて振られて、苑と同じようにつらい思いを味わってほしかった、という思いもあるのだけれど、苑が明渡に惚れぬいているのだから仕方がない。
これからは幸せになれよ!
と陰ながら応援したい。
甘々でほっこりしたお話を読みたいときにはお勧めしづらい作品ですが、「人を好きになる」という事はどういうことなのか、を描いた壮大なお話だったように思います。
今までの一穂作品とはちょっと一線引いた作風で、非常に面白かった。あと、一穂作品にしてはエロ度がやや高めだった印象。
あ、そうそう。
最後、はっきりと二人がくっついたという描写はない。なんとなくモヤモヤする…、というのか。個人的にはこういう終わり方ってすごく好きで、「今から」二人の物語が新たに始まるんだな、と感じたのだけれど。
一部協力書店さんでもらえるSSペーパーと、一穂さんの「note」を読後に読んでほしいです。この二つを読むとモヤモヤが解消されるかも。という事で、これから買われる方には特典SSペーパーが付くところで購入されることをお勧めします。
控えめな不幸受けを溺愛する攻はBLの定番ですが
苑が明渡への気持ちをようやく受け入れたところで急転直下、
まさかこんな展開?!で驚きました。
明渡が自分勝手過ぎるよ~。
でも人間なんて基本はズルいもの、気持ちが動く理由やきっかけだって曖昧なことが多いし、現実はこんなものかもしれませんね。
それに苑の経済的自立や人間としての成長は明渡のお蔭でもあるので、
やっぱりこの2人の過程は必要なものだったと思います。
最後はちゃんと希望が見える終わり方でよかった。
特典ペーパーがなくても全く問題ないですし、
一穂さんのサイトでおまけ小話があるのでちょっと糖分補給もできます。
「イエスノー」や新聞社シリーズとは全然雰囲気が違うので、
今回は評価が二分しそうですね。
不幸受は甘やかされて終わってほしい方や、明るくて甘いのが好みの方は読まない方がいいかも。
私はBLにはヒリヒリ痛い要素も必要派(夢がなくてもOK)なので、
この作品もとっても好きです。
一穂さんはやっぱり読ませる文章を書かれる方だと改めて思いました。
残念な作品でした。
ネタバレがないと感想が書けなかったのでネタバレします。
主人公の苑の家は家庭崩壊していて自分は誰にも気にしてもらわない存在でいたいと思っています。
そんな自己肯定もできず、消えてしまいたいと思っている苑を追い回して無理矢理に体を繋げたのは明渡。
人気者の明渡に苑は期待はしない、好きじゃないといいながらも流されて言いなりになって、いつか捨てられると思いながら暮らしています。
(ずっと苑の自省的な話が続きます。)
しかしある時、明渡の病気がわかって、好きだったんだとわかった苑。やっと二人は、と思わせたあげくに、明渡の好きの気持ちが病気のせいで、何で苑のことを好きだったかわからないと言われて、苑をまたどん底に落とします。
それから苑は必死で忘れようとするのにまた現れて、結局中途半端で終わってしまった感じです。
あれだけどん底に気持ちを落としたんだから、最後ぐらい思い切り引き上げて欲しかった。
書店ペーパーがないと完結しないらしいです。
一穂ミチ先生が好きだったのに。
幼馴染み同士の、長年に渡る恋物語になります。
作品自体はひたすら淡々と進むのに、その中で登場人物の心情がしっかり掘り下げてあり、まるでキャラクター自体が生きて呼吸さえしてるような錯覚を受けます。切なくて、優しくて、なのにリアリティがあって生々しい。決して一気に引き込まれるような派手な作品では無いのに、ページをめくる手を止める事が出来ませんでした。
「ふったらどしゃぶり」が個人的に大好きなのですが、あの雰囲気が好きな方はハマるんじゃないでしょうか。心に深く沁みる作品だと思います。
内容です。
明るく太陽のような少年・明渡と、地味で恵まれない少年・苑との、長年にわたる恋物語です。小学生から始まり、高校生、社会人と年代記風に書かれています。
家庭環境にかなり問題があり、愛情に恵まれず育った苑。逆に、裕福な家庭で愛情いっぱいに育った明渡。どこか達観したような、常に受動的な苑を、明るく人気者の明渡が常に構いと言った感じでストーリーは進みます。やがて二人は一緒に暮らし始めますが、明渡が頭痛を訴えて倒れ-・・・。
一応、死ネタではありません。しかし切ないです。
こちら、ネタバレは止めておいた方がいいと思うので避けますが、幼馴染み同士が結ばれるまでを描いた優しい物語だと思っていると、意外な落とし穴に驚く事になります。
人の「好き」という感情はどこから来るんだろうと、なんだか物悲しい気持ちになったり。「愛」と言うのは絶対的なものであって欲しいのですが、それ自体が割と不確かで儚いものなのでは無いかと考えさせられます。
また、フィクションにありがちな、純粋でキレイな愛情も存在しません。生身の人間の、打算的だったりズルかったり、そんな部分がしっかり書かれています。
もともと夢を見たくてBLを読むわけですから、不快に感じる方もおられるでしょう。
ただ、そんな部分も全部引っくるめて、また乗り越えて、それでも互いに居る事を選ぶという所に、深く心を打たれるのです。弱い部分もあって、生きている人間だと思うのです。
と、さっぱり意味が分からなかったら申し訳ありません。しかし、読み終えた後は、二人の物語に深く感動すると思います。私はしばらく現実に戻ってこれませんでした。
すごく素敵なお話だと思います!
あと、タイトルにもなってる「キス」がとっても上手く使われてます。深い・・・。
*補足です。
この補足をしていいのか迷ったのですが、ちょっとこれだけは伝えたくて。
レビュー本文でラストには触れませんでしたが、希望の見える、素敵なラストだと思います。何を持って完結とするのか明解に答える事は自分でも出来ませんし、人それぞれの感覚もあるとは思います。
ただ個人的には、すごく一穗先生らしさの出た、余韻の残る素敵なラストだと感じました。