囀る鳥は羽ばたかない 1

saezurutori wa habatakanai

鸣鸟不飞

囀る鳥は羽ばたかない 1
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神1029
  • 萌×2126
  • 萌76
  • 中立30
  • しゅみじゃない53

278

レビュー数
116
得点
5907
評価数
1314
平均
4.6 / 5
神率
78.3%
著者
ヨネダコウ 

作家さんの新作発表
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媒体
漫画(コミック)
出版社
大洋図書
レーベル
H&C Comics ihr HertZシリーズ
シリーズ
囀る鳥は羽ばたかない
発売日
価格
¥648(税抜)  
ISBN
9784813030133

あらすじ

ドMで変態、淫乱の矢代は、真誠会若頭であり、真誠興業の社長だ。
金儲けが上手で、本音を決して見せない矢代のもとに、
百目鬼力が付き人兼用心棒としてやってくる。
部下には手を出さないと決めていた矢代だが、
どうしてか百目鬼には惹かれるものがあった。
矢代に誘われる百目鬼だが、ある理由によりその誘いに応えることができない。
自己矛盾を抱えて生きる矢代と、愚直なまでに矢代に従う百目鬼。
傷を抱えて生きるふたりの物語が始まる──!

H&C Comics ihr HertZシリーズ

(出版社より)

表題作囀る鳥は羽ばたかない 1

元警察官でインポの部下
ドMで淫乱のヤクザ,道心会傘下,真誠会若頭

同時収録作品Don't stay Gold

火傷フェチの医者,内科医
22歳,年少上がりの黒服のバイト

同時収録作品囀る鳥は羽ばたかない

モブ(刑事)
ドMで変態、36歳、真誠会若頭

その他の収録作品

  • 漂えど沈まず、されど鳴きもせず

レビュー投稿数116

不可侵な魂の美しさ

 「ヤクザ受けBL。マジ矢代最高だから読んでみてー!」と全然そそられない勧め方をされて読んだのがきっかけで、それに対して「マジ最高だったー!」と私もアホみたいに返したことを覚えています…。多くを語れないぐらいに、矢代の美しさに心酔してしまったからです。

 ずっと書きたかった『囀る』のレビューを4巻で書くことができたので、このまま一気に書いてしまおうと思います。矢代という人物の根幹が描かれている1巻は私にとって一番神な巻です。
 「人間は矛盾でできている」という矢代の最大の矛盾。影山と久我、影山と自分。綺麗な顔に傷の付いた体。世の中からはみ出した存在の矢代と久我。とても似ている二人。だけど矢代はわかっている「きみはひかり、ぼくはかげ」
 影山はなぜ久我に惹かれたのか。なぜ矢代じゃなくて久我だったのか。影山の言葉にその答えがあります。巻頭と巻末に並べられた話の中で、久我を「ギラギラしている」と言い、矢代には「ひとりだからだ」と言う。そして本編で百目鬼は矢代に「綺麗な男(ひと)」だと言っています。影山にとっての久我と百目鬼にとっての矢代は、眩しい存在だったのですね。ひとりの場所を照らす光になる眩しい存在。
 百目鬼は矢代の好みのタイプだと語られますが、それは影山に似ているからですよね。確かに二人はとてもよく似ています。寡黙な口を開くと真髄を付いてくるところなんかもそっくりです。だから部下に手は出さないと言いながら、矢代は来たばかりの百目鬼を特別扱いしてしまうんだろうな。
 
 ヨネダ先生は囀るのラストシーンは決まっていると、3巻が発売されたころに読者の質問に答えていますが(note参照)、1巻を読むと多分最初からラストは決まっているんだろうなと感じます。漫画やラノベなどではキャラが勝手に動き出すようで、どんどん話が膨らんでいく作品が多い中、囀るが小説のように感じるのは、そう言うところかなと思います。1巻ですでに完璧。それぞれの話の並べ方も秀逸過ぎて、逆に粗探ししたくなるほどでした。

 高校時代を描いた『漂えど沈まず、されど鳴きもせず』の中で、ひとり涙を流す矢代の姿が鮮烈に焼き付いてしまうから、本編の矢代がどんなに汚れても、“犯す”ことのできない不可侵な魂の美しさが際立ち、「綺麗な男(ひと)」だと言った百目鬼の言葉が、驚くほど心にすとんと入って来て、何度も読み返したくなりました。

41

静かにもがく歪みと劣情

足の甲に顔を乗せ、親指を食む矢代。
跪かされ、両手を後ろに組まれ踏みつけられる。
首の筋、踝辺りの陰影、Yシャツの皺、折り曲げられた膝。
表紙の澱んだ灰色の中に浮かぶ二人の構図に、目が離せず心が締め付けられました。

頁を捲ると、意表を突かれて『Don't stay gold』からのスタート。
確かに流れとしては、表題作から入るより読み切りから入る方が良かったのだけれど、敢えて影山と久我のお話だとは。
そうか、『囀る鳥は羽ばたかない』はこのシーンからスタートするんだった!だからこれを最初に持って来たのかと納得の瞬間でした。
そしてもう一つの読み切り『漂えど沈まず、されど鳴きもせず』は最後に持ってきたという。
『Don't~』で本編主役の矢代をチラ見させておいての本編、そして彼の高校時代の影山との関わりと思いで〆る。この流れに鳥肌が立ちました。

ドMで淫乱の若頭・矢代と、すっとぼけた天然で彼の部下となる元警察官・百目鬼のお話。
百目鬼は矢代の好みド真ん中で、矢代は百目鬼に綺麗なひとだと思われる。
しかし、百目鬼がインポの為、セックスは出来ない。
それが幸か不幸か、ある一定の距離を置いて二人は傍に寄る事が出来るのだが――と進んでいきます。

掲載誌でも読んだりはしていましたが、やはりこうして(連載途中とは言え)1冊にまとまって読むと流れがスムーズで頭に入って来やすい。
矢代の、時折ふざけた様子や言動も自然に見えるのです。
そして、彼の酷く冷めた目も、頭のいい部分も。
今回の表題作は、百目鬼の過去と思いを清算するというのが最重要項目だったなぁと思います。
真反対の二人なのに惹きつけ合うのは、同族だから?それとも足りない物を持っているから?と、進みそうでこれからも一筋縄ではいかない関係に引き寄せられます。


そして。
『漂えど~』の表紙は是非ともカラーのまま載せて欲しいな……と思って居た事が現実になっていて思わず立ち上がってしまいました(笑)
今回の3作品の中で、私はぶっちぎってこちらが大好きでたまらないのです。

この作品は、電子配信されていたもので読んで居たのですが、綺麗じゃないのに美しい色使いと矢代のしなやかな体に見惚れて居ました。

矢代と影山の、クラスメイト時代のお話。
ドMとして開花していた矢代の体の火傷跡や傷を見て、静かな興奮状態となる影山。
見て触らせて貰う事で一種の快感を覚える影山と、触られる事で自身の股間が疼く事となる矢代。
真っ直ぐでありながら同情の目を向ける影山に、どうしようもなく惹かれてしまう矢代。
ソレがソウだと気付いた途端、涙が溢れてしまうのです。

セックス無しで相手を思う事を「歪み」と思う矢代。
その矢代の思いこそが、影山のコンタクトレンズケースを机の中から盗んだそれこそが、混じりけのない純粋さを物語っている気がしてならないのです。
矛盾、反発、同情。
人生でたった一度だけ欲した人間の思いが、今は恋じゃなくとも心に有る感情に泣きそうになりました。


いつまでも交わらない、けれど寄り添い続けたい矢代と百目鬼の続き。
年内にも2巻が発売されるとの事らしいので、息をひそめて待ちたいと思います。


((余談))
通販特典の両面描き下ろし漫画ペーパー。
まさかのあのシーンをここで切り取られているなんて!と何だか嬉しくなりました。
なるほど矢代はあの顔を「いい顔」と言ったんだな……そりゃするでしょあんな顔(笑)
ヨネダさんはこういうオトし方をしてくれるから好きです。本編を決して邪魔しない、けれどクスッと出来る感覚が。

24

格が違うであります

待ちに待ったヨネダさんの第二作。
同人誌はちょいちょい拝ませていただいてましたが、やっぱり商業誌だと圧倒的に仕上がりが細やかな気がします。
この表紙…肌色多くないのに書店で買えないよこの濃厚なエロス。
完結してから読もう!と思って積むつもりだったのですが、うわー厚いよね…ふーん…チラッ
と、捲ってみたらちょうどそこがえっらいことされてるシーンで、あーもうだめだどんな漫画だよおいと、あっという間に陥落でした。

最初の影山と久我のお話のときに、曲者役の矢代がほんとうの主人公だったという、スピンオフ好きにはたまらん展開です。
そもそもヨネダさんといえば、二次でも脇役カップルですもんね。
デビュー作も素晴らしかったけど、その後に出た小野田課長の同人誌のほうがノリノリだったように思えるし。

ああーしかしなんだこれもーなんだーーーすばらっしい!!
畜生な親に歪まされた子どもたち…やるせないです。
唯一の友達である影山を欲しがってるくせに、どこか自分に似た匂いを持つ久我をあてがう矢代。
影山が火傷フェチってことをわかってる上で久我を引き合わせたんだと、あとの話でわかり、そこでまた時間差で悶えました。うまい!うますぎる伏線!
影山の背中を押すようなことをしたり、気に入った部下の百目鬼を自分のものにはせず、突き放してみたり。
ドMなのでどこまでも自虐的で、Sでもあるのでなんの関係もないコンビニ店員をいびったり、常にとぼけた雰囲気ってのもたまりません。高校時代の話もまた好し。
そしてそして、矢代のあの背中の壮絶な色気!なにあれものすごいんですけどもびっくりした。
あんなエロい背中、ちょっと見たことないですよ。

とにかくこの分厚さなのに、読み終えるまでの時間がすごく早いように感じました。
百目鬼がムッツリ攻めに変身できる日がくることを祈りつつ、次巻を待つ!

19

「矢代」という男がもっと知りたくなる

前作「どうしても触れたくない」は大人気の作品で、その後の先生の作品にかなり期待がかかっていたヨネダ先生の待望の新刊です!
待ってました!というファンの方もとっても多かったと思いますが、その分ものすごいプレッシャーがあったよなぁ、きっと…と勝手ながらに思うのです。
しかしですね!今回の作品、その期待を裏切らない、いやそれ以上の想像・期待をいく、「やっぱりヨネダ先生はすごい」と思わせてくれる奥深い素晴らしい作品と
なっていました。実に読ませてくれる作品です。
まだまだこれから、という印象な1巻でしたが、続きがき、気になる~!!

まず表紙がシンプルな色合いながらにインパクトがあります。
『ドMで変態、淫乱の矢代』が跪き男の足に口づけている姿。
そして帯には『初めて見たとき、綺麗な男だと思った―――』というセリフ。
一体誰の言葉?と思いつつページを捲ると…、あれ?肝心の矢代が脇役のお話??と予備知識なしで読み始めたわたしはこれは表紙の矢代が主人公だよな…?と??で読み進めたのですが、その後「囀る~」1話が始まり、なるほどこう繋がるわけか!と納得でありました。

真誠興業の社長で真誠会の若頭の〈矢代〉と、組の用心棒として入ってきた〈百目鬼〉が出会ったのは、事務所で矢代が男と行為中の姿を見て『大丈夫ですか』と百目鬼が止めに入ったことが最初の出会い。

『男を好きになったことは一度もない』『“人間”に惚れたのは後にも先にも一度だけだ』と言う矢代。
深くは語られませんでしたが、幼い頃の義理の父親からの仕打ち、そして『俺みてえな人間にまともなレンアイなんて出来るわけねえ』という何もかも諦めている?とも思える言葉。
そんな矢代に、百目鬼がどう絡んでくるのか、矢代がどう変わっていくのか?というのがとっても気になります。

百目鬼がインポな理由。最初は『いつの間にか』と曖昧な理由を述べていましたが、実は百目鬼にも重苦しい過去があって。

百目鬼の妹の話はかなり深い話でした。過去のせいから溝ができてしまっている百目鬼と妹に対して矢代は面白がって絡んでいるのでは?と思われたものの、実はちゃんと上手くいくように矢代がやっていてくれていて。
妹が百目鬼のジャケットの内ポケットを見るシーンは、こう繋がるのか!と矢代の行い、計算に鳥肌がたちました。

矢代の望むもの、欲しいもの。
彼と影山の学生時代のお話も載っていましたが、ラストの矢代の姿には胸が痛くなります。誰か、矢代を救ってあげて…!
その相手が百目鬼となるわけなのですが、これからどうなっていくのか?
傷を負う者同士、2人の関係はどのように変化していくのか?
とっても気になります…!

まるで1本の映画を観ているような感覚でした。やっぱりヨネダ先生はすごいなぁ…。
かなり読ませてくれる作品でした。じっくり読んで、どっぷりとヨネダワールドに浸れます。
読み終わって一息ついて、そしてまた読み返して。「矢代」という男に夢中になっていくのです。
これはぜひとも音声化してほしいですー!

18

どれをとっても『神』以上

大好きな漫画家さんは沢山おりますが
ヨネダさんは別格過ぎます。
シリアスの中の控えめでさりげない笑い、
モノローグのセンス、
キャラの個性、
コマの流れ、
すべてにおいて
ヨネダさんでなければこんなに惹きこまれないだろうなと
改めて思いました。

実は私、ヤクザものは得意じゃないのです。
普段好んで読んだりしません。
でも、ヤクザ社会だからこその
人間関係やその業界ゆえのエピソードが効いていて
物語の深みがより一層増すような気がしました。

影山と久我のお話から始まって
(もちろんこちらはこちらで素晴らしかったんですが)
「…あれ!?」と思わせといて
からの矢代話!!って、唸るしかない!!
最後は高校時代話で矢代と影山の関係性と
矢代の歪んだ経緯を読ませてくれて
また最初から…と時間さえあればキリがなく繰り返したくなるのです。

矢代は本当に今まで読んだことのないキャラでした。
ドMでネコで何人にも犯されたいと妄想までするのに
厳密にはホモじゃないとか!
部下がお気に入りのチンピラに血祭りにされている姿を見て
笑っていられる非道さもありつつ(面白がってるだけか)
百目鬼の妹には適温と思われる優しさをかけられる男。
どんな事にもポーカーフェイスの百目鬼の変化を見たくなり、
わざと怒りを向けさせて欲情したり…。
本心を隠して飄々としているあたり、非常にぐっときました。
でも百目鬼にはちらっと覗かせて、
そこにもきっと百目鬼は惹かれたのでしょう。

この二人が、どう想いを交わしていくのか!
百目鬼のイ○ポは治るのか!!
(だって矢代を早く抱いて欲しいんですもの…;)
続きをみたくてたまりませんが
また何度でも読み返して待たせていただきます!!

17

一度読んで、もう一度読む

個人的にストーリーテラー組に入る作家さん。
過去作も面白かったですが、今回が一番破壊力があるなと思います。

メインの登場人物がヤクザですが、任侠物としては少し色味が違うのでご注意。
明るいノリをお好みの方や、逆にとことんドロドロエロスをお好みの方にもオススメできないかも。

もちろんマンガなのでフィクションなのですが、登場人物たちにちゃんとリアリティがあるのが素晴らしい。
八代であれば、なぜ倒錯した性癖になったのか。
百目鬼であれば、なぜ不能になったのか。
キャラクターの根源に関わる部分を設定だけで終わらせず、ちゃんと描いているところはさすがです。

ヤクザの攻でインポ設定という斬新な設定の百目鬼も、寡黙で誠実な男という空気が出ていて好印象ですが、何より個性的なのは受である八代。
淫乱でドSかつドMで、頭が回って性格が捻くれている、どう見てもまっとうじゃない男。
こういうタイプのキャラクターは脇役や当て馬キャラでたまに出てきたりするのですが(この本でも冒頭の作品では脇役として登場してます)、最初は彼が主人公で大丈夫か!?と思いました。
けれど、この八代がどんどん魅力的に見えてくるから不思議!
どこか洗練された容姿に潜む崩れた色気や冗談めかした時の微笑、ふとした時に覗く寂しげな表情。
百目鬼が惹かれていくのとシンクロするように、八代に魅了されてしまいます。

八代は好意を持った相手にはすごく人間臭い行動を取ってしまうところがあるんですよね。
たぶん本当は誰かに優しくしたいのかもなぁ、なんてしみじみ思ってみたり…でもやっぱり変態だよ!(笑)

この作家さんのうまいなぁと思うところは、「無表情」「無言の間」「言葉のチョイス」。
動と静、台詞と無音。
独特の間合いや描写がとても好きです。
言葉としては「こんなに綺麗な男がいるなんて~」という百目鬼の台詞や、百目鬼の性器を咥えて「勃たない方がいい」というシーン。学生時代の話の中のモノローグなど胸にグッとくるものが多くて時として涙腺にきます。

一度読み終わって、すぐにもう一度読み返しました。
読み返すと気付かなかったことが目に入ったり、複線に気付いたりできるのでぜひ複数回読んで欲しいですね。
今までは一冊完結でしたが、この作品は続刊有りとのこと!
二巻を楽しみに待ちたいと思います。

15

人間観があふれている

圧倒的な、ヨネダ先生の考えるところの「人間」というものが
溢れています。
矢代というキャラクターはヨネダ先生しか描かないキャラクターだと思います。
とんでもない境遇を生き延びるためもあってか、
もともとのたちもあってか、とんでもない思考の持ち主なのだけれど、
すごく人間らしいように思えたなあ…
最後に泣いてしまうシーン、すごくよかった。
人間というものは矛盾でできているという言葉がすごく
納得でき、愛しく思えたのです。
考えてみたら、歪んた境遇で本当に心から歪んでしまう人間はいるけれど、
ここで泣ける矢代は、そのぶん純粋で、歪みきらないのだと思います。
途中までが、ものすごい境遇と世界なのだけれど、ひょうひょうと
進んでいるところも、いいと思いました。
本当に大変な世界を生きている人は、かえってそこをサバイブするために
明るくよそおうものだと思いますし。
矢代が高校時代、自分はすでにMで、家庭内暴力とかいう辛気臭いものではなく
望んで傷ついていると言いますが、現実のそういう被害者やいじめの被害者だって
自分が被害者であるという現実を認めたら、生きていけないので、
そういう現実を認めず自分は違う、と思い込むもので。
どこまでが矢代のさがかなあ。
もともとの性質も全て含んで矢代なのでしょうが、それが人間ってやつかなあ。
こちらの評価で読んでみて、あわなかった作品も多々ありますが、
これは神評価の多さは伊達じゃない!と思いました。

14

Fluctuat nec mergitur …たゆたえども沈まず。

何処かで聞いたことがあるかと思いきや。
「漂えど沈まず、」ここに逆説的に「されど」と続ける。
有名なParis の紋章に掲げられた文言をもじって、つけられたタイトルに思い巡らす。

読み返してみて。冒頭があらすじとは違って、影山と久我の物語でちょっとびっくりしたというのを思い出す。え? 矢代と百目鬼の話じゃないの?と。フツーに説明しても良いのだ、こっちは影山、矢代とは少なからず縁のある人間で。医者の息子だったけど、これこれこういう理由で、今はヤクザものを診るしがない診療所の医師だ…。などとヨネダ先生は描かない。
いくつかのエピソードを絡めながら、その人物像や性癖までも表していく。

何度も読み返すページがある、というかこの1巻は少し痛すぎて。
そのページしかホッとするところが無いのだけれど。
百目鬼が酔った矢代を抱えて、「…綺麗だ、頭…」と。「とか思ってんだろ‼︎ 目がそう言ってんだよなあお前。」と、三角さんが怒るところ。…実際に百目鬼がそう思っている事は、このシーンの前にも、そして後にも吐露しているのだが。三角さんが只者では無いことが解ったりもするシーンで、とても良い。そして、たった1カットなのに、矢代がとても綺麗なのも分かる。

百目鬼と妹を再開させるシーン、矢代の粋なところを見られるシーンも。
くだくだしい説明が無くても、その人物像を浮き彫りにしていく。

もう一つ、この1巻には大事なシーンがあって。これが5巻を経て、徐々に効いてくる。
「男、おとこ、オトコ、兄貴だの親父だのと、まるで仮性ホモの集まりだ。」
「男の嫉妬ほど手に負えねーもんはねぇ。」
この時はまだ私たちは気づいていない。
抗争だの、跡目争いなどというものに巻き込まれていく。それぞれの思惑や変わっていく百目鬼と矢代の関係と。ひたひたと近づいていく終結に。

13

今後の展開が楽しみです

前作「どうしても触れたくない」から、ものすごくお久しぶりの作品。
期待度はいやでも高まるってものです。
・・・で、感想は?というと

私は、主人公が置かれている環境設定が好みなので、素直に面白かったと思います。
色欲にどっぶり埋もれながらの受けでありながら、その男っぷりが際立っている矢代の
キャラクターにも強く惹かれます。
どMであって男らしい…ていうのも少々矛盾しているような印象ですが、それが矢代
なんですよね。

どMであるその事が、矢代の生い立ちを考えるとすごくせつなく思われます。
空虚なその心のうちを、自分を苛む事で埋めているような矢代が、こちらも又、複雑な心情を抱えている側近の、百目鬼とのかかわり合いで、どのように変化していくか楽しみです。

とはいえ、この作品は、好き嫌いが分かれるかもしれないですね。
基本的には、SやM系の作品は苦手な方なので、私も作品紹介を読む限りでは、
どうかな・・・と思っていました。
でも、ストーリーの進み方と人物設定の巧さで、そのあたりはあまり気になり
ませんでした。

あと、やっぱり、「せりふ」の間合いがすごくいいなあ・・・と感じました。

12

神シリーズの第1巻もやはり神。

ずっと感想を書きたかった1巻。
ただ、思い入れが強すぎて感想がまったくまとまらず書くことができませんでした。
でも、5巻の感想を書けたので今年中に既刊すべての感想を書こう!と決め、まずは第1巻から。


1巻を読了後、ここ数年読んだどの本よりも大きな衝撃を受け、様々な感情や感想が心に渦巻きました。
読書でこんなにも激しく心揺さぶられたことは、大袈裟ではなく本当に久し振りなことでした。


初読の際に思ったのは、矢代は百目鬼に出会う前、誰かに寄りかかったり甘えたりしたことはあったのだろうか、ということ。
百目鬼におんぶやひざ枕をさせている場面の矢代は心安らかで幸せそうにも見え、もしかして“絶対的な安心感のある父親像”を求めているのかな、と思ったりもしました。

1巻時点で、影山と百目鬼が似ているところを考えていたのですが、個人的には外見とか思考回路ではなく、矢代を性的に見ない・扱わないという点も挙げられるのでは、と感じていました。
矢代がなんらかの身体的接触を仕掛けても相手側(影山と百目鬼)からなんの性的反応なし。
恋する相手の条件として無意識に“自分に性欲を向けない男”を選んでいる気がしたのです。
自分を虐げ罵倒しつつも腰を振る「男」も「セックス」も矢代は深層心理では蔑視しているように思えました。
ただ、自分はドMで淫乱だから、女性とのセックスよりも性的満足度の高い男を相手に選んでいるだけで自分はホモではない、と矢代自身も自己分析していて・・・。
影山にしろ百目鬼にしろ、自分に対してセックスを求めることはないし、もちろん自分を虐げたりしない。
そんなある種の安心感に惹かれた面もあるように思えたのです。

そして。
実は5巻まで読んでもよく分からなかったのは一体いつ、矢代は百目鬼に惚れたのだろうか?と。
もちろん最初から気に入っていたので、一目惚れかもしれません。
でも、なんというか、ここ!この瞬間に恋に落ちたよね!という場面がわからず(私の読解力が足りないせいです)にいたのです。
でも、最近ふと思ったのは、第1話の組事務所で矢代と刑事のセックスを性暴力を受けていると勘違いして百目鬼が止めに入ったシーン。
恐らく矢代にとって初めて“性暴力から救ってくれた人”が百目鬼だったのかな、と。
矢代の表層の意識はともかく(セックスを邪魔されてご立腹だったし)深層心理では助けてくれた百目鬼をヒーローとして慕う気持ちがうまれても不思議のない場面だと思い至りました。
この解釈は見当違いかもしれませんが、個人的には納得できてスッキリです(笑)


『Don't stay gold』
影山と久我の物語が主で、矢代は脇役にまわっています。

『囀ずる鳥は羽ばたかない』
1巻で既に大切なキーワードが出ています。
例えば矢代が百目鬼に言った「お前は優しそうな普通のセックスしそうだから嫌だ」もそう。

『漂えど沈まず、されど鳴きもせず』
矢代と影山の高校時代の物語。
最後のモノローグで涙を流し続ける矢代。
この日以来、矢代は泣くことはなかったのではないかと思わされました(5巻で涙を見せましたね・・・)。
この物語は「矢代」という人物と、『囀ずる鳥は羽ばたかない』を流れる通奏低音を知れる秀作です。
彼がまだ高校2年生であることを思うと、辛く哀しく、誰かがどこかで救ってあげられなかったのか、とたまらない気持ちになります。
フィクションの「漫画」であることを理解していても、強く突き動かされるように矢代を助けたい気持ちになるのは、物語が持つ類稀なる力に他ならないと思います。
また、1巻から読み直すとヨネダさんの物語を構築する手腕の素晴らしさに脱帽するばかりです。

12

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