「どうやらあいつは女の服を着ていると俺に抵抗できない」

宇田川町で待っててよ。

udagawachou de matteteyo

宇田川町で待っててよ。
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神394
  • 萌×2121
  • 萌79
  • 中立42
  • しゅみじゃない43

--

レビュー数
82
得点
2733
評価数
679
平均
4.2 / 5
神率
58%
著者
秀良子 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

媒体
漫画(コミック)
出版社
祥伝社
レーベル
on BLUE comics
発売日
価格
¥638(税抜)  
ISBN
9784396783242

あらすじ

人通りの多い街中で、同級生・八代の女装姿を目撃してしまった百瀬は、
その日から毎日、「あのこ」のことを考えてしまう。
一方、そんな百瀬の様子に戸惑いつつも、
熱のこもった目線をそらせない八代は渡された女子高の制服に袖を通し、
彼の前に立つがーーー。
臆病な女装男子と、一途すぎる男子高校生の不器用で青いラブストーリー!

(出版社より)

表題作宇田川町で待っててよ。

百瀬慧吾,メタル好きの高校2年生
八代智哉,女装にはまる高校2年生

その他の収録作品

  • ボーナストラック

レビュー投稿数82

本当の自分

秀さんの描く女の子は妙に肉感的で、決してシュっとした美人じゃなく、どことなくゴツさを感じるのですが、それがやけに実在ぽくてリアル感を感じる。
今回の主人公は”女装男子”なのだが、最初に雑誌で見たとき、かわいくねー!ゴツイー!ちょっと気味悪い?と、思ったのだが、読んでいくうちに何故か慣れて、しまいには本物の女性よりも可愛く、色気があり、とても綺麗な女装に見えてきた。

とにかく、全てが素晴らしかった!よかった!引き込まれ感が半端なくすごい!
奥深く、破壊力がすごい!ガツンとやられた!
こんな興奮した漫画はひさかたぶりかもしれないデス!!

さておき、
彼女の酔狂で女装をさせられた八代が、ナンパしてきた男性に「かわいい」と言われたことから女装をはじめるようになる。
街でそれを見かけた同級生の百瀬に八代だと気づかれてしまう。
単なる興味が、八代への欲情を伴ったものだと気がついた百瀬の執着。
女装の意味に悩む八代。
幾分、百瀬の執着と押しが勝りながら、八代が自分の性癖に気がついていく物語になっているのではないだろうか?と感じたのですが。。。

この八代の”女装”というポイントが、とても考えさせられました。
クラスでも派手なグループに属しているということからも、結構お洒落で目立ちたがりなのかな?(この部分は推測)
女装して男性に「かわいい」と言われた言葉にときめき、その言葉が欲しくて女装して街に出る。
そこではまだ自分の本当の心が自分でもわかってない。
百瀬との関係の中で、徐々にそれが葛藤を伴いながら分かっていく気持ちの変遷が、いちいちうなずきを呼び、
百瀬が、自分の姉の服を着せた八代といるところに姉と遭遇してののしられたとき発した「お前より百億倍かわいいわ!」このシーンが決定打になったようなきがする。
”男に組み敷かれる側になりたい”その心の本音を呼ぶきっかけ、その心をカモフラージする行動だった?
女装というと、つい色物的な、ライトで軽いノリで扱う作品が多い中、性癖の悩みとして扱うその真摯さが、目新しくて斬新で、衝撃的だったかもしれないです。

一方、百瀬は実に気持ち悪い男でしたw
最初、登場したときに、暗いー、気持ち悪いー、www
クラスでもなんだか一人ぼっちぽくて仲間とつるんでなくて、オタク?と思いきやそうでなくて、
彼もまた、こういう子いるよねーなリアルキャラだったかもしれない。
彼のほうが八代のような悩みを抱えない分、かなりニュートラルだったと思います。
八代の女装を見て、勃ってしまった朝から意識するようになる、
女装に興奮欲情するのか、それとも八代だからなのか、比較的悩まない。
きっかけは女装だけど、それも含めた八代という人間への関心だったのかな。
でも、八代の女装がかわいいと思うし、好きなのは確かだw
雑誌で見ていたとき、なんと傲慢で嫌なやつなんだろうと思う部分もあったのだが、1冊で通して見てみると、彼は不器用な一途な恋する男子に見えるのです♪
しかも、最初キモイとか思ってたのに、なんか良くない?ってwww

秀さんのいろんな引き出しの色々なカラーが好きです!
夢見な展開、ちょっとキュンな恋愛展開、今回のようなちょっと痛さを伴いながらもリアルも感じる大人な展開。
そして、特徴としてストーリーもですが、キャラ萌えが必ずついてくる♪
今回も八代のツンデレ~ラスト近辺の誘う妖艶なあの色っぽさの変化に
百瀬のキモイ男子から、八代の影響かかっこいい男子に変身したラストまで
外見も含め中身も、何だか大人になっていくキャラクターが実に魅力的でした。

う~ん、、何が言いたかったのかとりとめもなくなり、本当に自分の伝えたかったことがかけているのかどうかわからないのですが、
一言で表すなら 「グレート!!」 と、両手離しで素晴らしかったと伝えたかったのデス。。。(あれ?やっぱり伝わってないかw)

22

繊細で生きにくい心の出逢ったもの

リア充で成績もソコソコ良くて、学校という空間の中で日向にいる八代。
偶然女装した彼を渋谷で目撃した百瀬は、背の高いハードロック好きのネクラ少年。

百瀬は女装の八代に惹かれ、ひたすら口説く。
自分でどうして女装するのか分からない八代も、何故八代に惹かれるのか分からない百瀬も
若くて青くて、体の芯に普段は押さえ込んでいる熱さと生きにくさを抱えている。

百瀬の姉とのやりとりや(八代は一人っ子だろうか?)、教室での他愛もない高校生の会話、
それらの日常的なリアリティが秀逸な分だけ、非日常的な女装シーンが際立つ。
可愛くない、どちらかというとちょっと怖い表紙や扉絵のインパクトがすごいが、
この華奢でまるで女の子みたい「じゃない」高校生男子が女装をするという設定が、
独特の世界と意味を醸し出している。

自分は何故女装をするのか?
八代は、本当は「抱かれたい」と思っている自分の感情に気がついていく。
この過程の描き方がいい。
それは俄には受け入れられない感情なのだが、でもそんな自分をひたすら求める百瀬がいる。

百瀬はクラスメイトの名前を覚えていなかったりする程、他人に頓着しない奴なのだが、
そんな彼だからこそ(若くて馬鹿だからというのもあるかもしれない)、
ただ自分の感覚だけで八代を「かわいい」と褒め認め、好意を隠さない。
それを、互いにとって幸せな出会いと言わずしてなんと言えばいいのだろう!

自分より大きく強いものに組敷かれることの劣等感と満足感、
性的な目で見られることの疎ましさと嬉しさ。
女性というジェンダーが持っているアンビバレントで厄介で、時に持て余すような感覚を、
こんなに詩的に表現している作品はなかなかないと思う。
本編の最後、彼らが去った後に残った暖かな空気の感じがとても好きだった。
八代が着ている服がどれも可愛いのも、◎!

非常に面白く読んだし、描き出される世界も好みだったのだが、
私にとってはこれは、萌えで評価できる作品ではなかった。
(仕方がないですから、評価は入れますけれどね!)
BL読み以外の人にも読んで欲しい作品。

ボーナストラックは、それまでとは別にお楽しみ♪という感じ。
もともとお洒落な八代が、百瀬の脳内ファッションショーをしているところが可笑しい!
そしてそれすらどうでもよくなる二人が、愛おしい。

17

秀さんは女子に容赦なし!

あれ?ハチ公前って宇田川町じゃないよね?パルコの方だよね?って読んでる途中で疑問に思ってたら、ちゃあんとあとがきで書かれてましたな。
『道玄坂で待っててよ』でもいいと思うけど『宇田川町で』のほうが、やっぱりかっこいい。

当時付き合っていた彼女に面白半分で女装させられたのがきっかけで、すっかり女装にハマってしまった八代。
クラスでは友達に囲まれてて勉強もできて、そつなくこなしているかのように見えるけど、女装して日曜のハチ公前に立っているのは何故なのか。
そんな八代を偶然目撃してしまった百瀬は、学校では暗くて無口でヌボーっとして、寝てるかヘヴィメタを聴いてるなに考えてるかわかんない系。
なのに、ターゲットにロックオンしたあとのの百瀬のまっしぐらな感じ、凄味があってよかったです。
相手の気持ちなんかお構いなしで、自分の気持ちを押し付け、追いかけ、追い詰める様がもう野獣。
八代は自分の女装への欲求の理由を百瀬に暴かることに怯えて拒絶するのですが、女装した自分をまっすぐに「かわいい」と言ってくれることにあっさり欲情してしまう。
どっちもゲイではなかったはずなのに、ですよ。
倒錯的な雰囲気にノックアウトってのが、バシーンッと伝わってくるのです。
ズバリなシーンはさほどないんだけど、百瀬の興奮ぶりや八代の反応だけでもう、かなりエロい。
そういうのがほんとにお上手だな~と毎度溜息です。
それとこれも毎度ですが、女子に容赦ないところ。
今回は百瀬姉…いやーもうほんとに家の中でこんなだよ私もって思う人が、いっぱいでいてほしい(笑)

17

その手腕に心掴まれる一冊。

前髪が長くて、暗くて、デカくて、何考えてんのかわかんない。
そんな風に思われている、百瀬(童貞)。

その百瀬が、繁華街で偶然、
何をするでもなく つっ立って 女の服を着て 長い髪をいじる
骨ばった肩の……男を見かけ、目を奪われる。

クラスメイトの八代だった。

たいして話したこともない
クラスでいちばん派手なグループにいる
かといって目立つわけじゃない
そこそこに勉強ができる
八代…が、……なぜ、女装?

最初は、そのなぜ?をコミカルに描き、読者を物語に自然と引き込んでいきます。

中盤、徐々に物事が明らかに。
でも、
恋に縁遠かった男の子と
男に愛されるのが初めての男の子。
もどかしいくらい手探りで、ときに強引で、すぐ不安でこわくなって、でも惹かれる。
その一途でまっすぐな想いに……

終盤は、気がつくとコミカルさなんて消え去って、生々しさと熱が本から溢れ出ていました。
でも、最後に残る余韻は……とても爽やか。


夢中になって読み進むと、ふと、
心を掴まれているのはわたしの方だと気づかされました。
女装、というインパクトの陰にあるのは、決して特別じゃない普遍な想いと悩み。
わたしにも経験のある気持ちでした。

表紙の八代の女装姿が、あまり好ましく思えない人にこそ、この本を読んでほしいです。
万人受けするわけじゃないのに、彼が女の服を着るのをやめない理由を知ってほしいです。
きっと、恋を知る人の胸には響くと思うから。
そして八代の印象は、ページをめくるにつれて変化していくと思うから。

その体験、あなたは……これからですか?

14

間違いなく、2012年のベストBL漫画の一つ

他人の何気ない一言で、自分が生まれ変われるような気がする。
「それ」が恋だと気付くまで。

そんな過程を丁寧に描いた女装男子本です。
発売前に装丁を見た時点で気になるものの手を出さず、ちるちるでランキング上位に輝いていなければ、恐らく手に取りませんでした。
以前、秀先生の「金持ち君〜」のレビューで割と酷評してしまったため、再度手を出すのが恐かったのです。
しかし皆さんの評価を信じて正解でした。とても良かったです。秀先生のイメージがだいぶ変わりました。

町でクラスメイトの女装姿を見つけてから彼の事が気になりだし、学校でも目で追いかけっぱなし...というBLセオリーに乗っ取ったお話なのですが、ありふれた展開を丁寧に丁寧に綴る事で、読者が無理なく女装男子の感情の揺れ動きと、女装男子に惹かれる普通の男子の心のざわめきを感じ取る事が出来ました。
また、先生は平成生まれの男の子を描くのが上手い。いわゆる「ゆとり世代」というのだろうか。「普段はへらへらして喜怒哀楽を表に出さないけど、実は心に強い我を持っていて、友人にも彼女にもそれを打ち明けず、出し方も良く知らない」というような男子の心理描写が、表情や仕草にとても良く表れています。

タイトルもとても良いですね。渋谷駅でもなく道玄坂でもなく「宇田川町」という名前にした事にセンスを感じます。
前者二つだと煩雑な第一印象になりかねないのですが、宇田川町と付ける事で暖かみが出るというか、「人が住んでる」感じが出て、妙にローカル臭が漂ってて良いなあと思います。この漫画の作風にもとても良くあっている。
渋谷って「田舎臭い町だな」と感じる私にとっては、愛らしい印象を持ちました。今度から私も宇田川町って呼ぼう(笑)

物語の最後で、この題名の深さを知る事が出来た時、心にすとんと、二人への愛情が降りてきます。

「良いお話には良い装丁」のセオリーがまた一つ生まれましたね。
パッションピンク地に中性的な横顔、特徴的なタイトル、どんな書店でも目に飛び込んでくる「BLらしからぬ」装丁。
ソフトフォーカスをかけた渋谷の実写写真を話の間に挟む事で緩急がつき、漫画の世界を飛び越えて現実世界に二人がいるかのような気分にもさせてくれます。
で、装丁会社はこれまた「株式会社シュークリーム」さん。このたびも良い仕事してますねえ。

他作で失敗した経験のある私としては、秀先生初デビューされる方はこの本から手にとってみる事をお薦めします。

13

もっと早く読めばよかった

以前読んだ「彼のバラ色の人生」「リンゴに蜂蜜」で秀良子先生作品の独特の雰囲気にやられた者です。ちるちるさん内での評価がかなり良いこの作品も気になって仕方がありませんでした。しかし、ど派手なピンクの表紙に金髪の人物。内容は読んだことのない女装ものと聞いてなかなか手が出せませんでした。
やっと読むことができたわけですが、もっと早くに読めばよかった…自分の食わず嫌いに後悔しています。

内容は他の皆さんも仰っているように、女装男子・八代と、女装版八代に魅了された陰キャラ男子・百瀬のお話です。厚めの一冊に百瀬と八代のお話しか収録されていない分、じっくり話が進んでいたのもよかったです。

攻めの百瀬は、前半読んでいる間はツヤのない長めの黒髪というのもあり、じめじめしていて全然爽やかじゃない。八代が「たすけてえええ!」というのも納得でした笑
しかし、後半からだんだん百瀬がかっこよく見える現象が…。「好きなものは好き」を貫く百瀬はとてもかっこいいです!

受けの八代は私のお気に入りです。迷走したり流されたり、「好き」を突き離して「普通」でいたい、「普通」に戻れないのは怖い、そんなところが人間らしいというか。結局は百瀬に影響されて好きなものを好きでいる道を選んだこと、私としては嬉しかったです。

八代に「キモ」と言う百瀬姉に対して言った、百瀬の「てめーの百億倍かわいい」を聞いて八代が照れながらもすごく嬉しそうな顔をしているシーンが印象的です。よかったね八代…!

女装ものか…と敬遠されている方もいると思いますが、そういう課題(?)があるからこそ2人の愛が深くなってゆくのかと思います。ぜひ読んで頂きたい一冊です。

12

評価のしようがない

秀良子さんは、私にとって、好みの作家さんではありません。

これ、面白かった。
面白いっていうか、可愛い訳でも素敵さ大爆発な訳でもないのに、最後まで読み切って又最初から開きたくなる。
「こういうのがクセになるって言うのか」と感じた作品。
それに加えて、『萌え』とは違う。
だからこそ評価に迷うのですけど、結果は『神』しかつけようがなかったのです。
いや、面白いとか面白くないとかじゃないですね。
「好き」なんです、この作品が。

「気持ち悪い君」と呼ばれる百瀬ですが、私はめっちゃ格好良く見えていたので私こそ「気持ち悪いさん」認定ではなかろうか(笑)
寧ろ八代の方にあまり魅力は感じませんでした。

八代は女性経験もそれなりに早くて、目立つグループに存在する子だから彼女だってそれなりに居て、セックスの数だってこなして来ているタイプだと思います。
最初は兎に角サルみたいになって夢中になっていたものが、ひょんな事から、自分が抱く女性に自身を投影していた。
「俺の下で喘いでる」
「突っ込まれて気持ち良さげにしている」
これこそが、自分の中の違和感がスライドされて、カチッとはまる。
自分もそうされたい。力が敵わない相手の下になりたい。
そういうイメージが、百瀬と居る事でハッキリと形になっていく。

百瀬は女性経験はおろか付き合った事すらないのだけれど、女装八代と出会って色々考えて居る内に、八代に魅力を感じるようになる。
何故女装するのか、ホモなのか、性同一性障害なのか、趣味なのか、…八代って何なんだろう、と。
元々は女装する八代が好きだったのに、女装しなくても八代を可愛いと思う。
百瀬の変化と八代の変化が、徐々に重なり出す瞬間を繊細にしっかりと強烈に見れたなと思いました。

最後。
待ち合わせ。
あの時見たワンピをまとって、百瀬を見つけて笑顔の八代。
少し髪が伸びて格好良くなりつつある百瀬。
風になびく髪、リストバンドに華奢なブレスレット。
好きな物から逃げない。
手を繋いだあの光景が、目に焼き付いて居ます。

11

本当に恐れたものの正体をあばく覚悟と愛。

BLの女装ものと言えば、
・『男の娘』系・・・無理やり女装させられる場合と、自ら女装趣味の場合とがある。可愛い見た目・言動のキャラが多い。内面も女の子っぽく表現されることが多い。男性向けっぽい表現も多い。
・『オネェ』系・・・一般的には女言葉を使い、「心」は「女」として描かれる事が多いが、BLの場合、主要キャラは「心」は「男」として描かれることが多い。
・『女装が趣味の普段は普通の男性』・・・単純に女装が趣味なだけで、内面の性的な不一致はない。心は完全に男性。BLで肝心な「男」×「男」の理想形の女装もの。
大きく分けるとこの3つが多いと思われます。
*『乙男(オトメン)』は女の子っぽい趣味(料理や手芸)はするけれど女装はしないので除外しました。 

こちらの作品の場合、『女装は単なる趣味』で、『普段は普通の男性』のパターンです。
これは他の作品にも見られますが、例えば木原音瀬先生の「美しいこと」「愛しいこと」もまさしくこのパターンです。ただし展開は全然違いますが。

受けの八代が女装をしはじめたきっかけは、
付き合っていた女の子に女装を強要されて、しかも外に連れて行かれた時に男の子から女の子だと勘違いされて「かーいーねー」と声をかけられたのがきっかけで、女装を何となくしてしまう、
というものでした。
本人も言っている通り、八代を女の子だと勘違いして声をかけてくる「同性をひっかける面白さ」にハマってやりはじめた事だったようです。
ところが百瀬に女装しているところを見られ、接触されたことから、
八代は単なる「女装」だと思っていたその行為の「深層心理」の部分が引きずり出される結果となってしまいます。
それがこの作品の面白いところです。
単純に女装した自分に引っかかる男が面白いという悪趣味ないたずら心だけが、彼に女装をさせていたわけじゃないんですね。

最初、女装を強要する百瀬に対して、八代は気持ち悪がっているのですが、女装の八代を見て百瀬が「かわいい」と言ってくれたり、それこそ女性そのものと比べて「百億倍かわいい」と言われてしまって、どんどん百瀬に対してときめいていくんですね。
そしてついに百瀬は男性の姿の八代にも可愛いと迫り始める。八代はこんなのオカシイ、ガチホモじゃなないか、と思いながらも迫ってくる百瀬を完全に切ることができないでいます。
それどころか百瀬を自分の家に誘ってしまう。けれど結局怖くてできないのですが。
その怖くてできない、というのは、結局は自分のセクシャリティに気づくのが怖いから、ということでした。

誰だって人と違ってしまうことはものすごく怖いです。
人と違うということは個性的であるとも言えるけれど、同時に誰にも理解されないのではないか、という恐怖がつきまとうことになります。マイノリティであるということを自覚するということは、同時に孤独を手に入れるようなもので、とても悲しい自覚でもあります。
私も人と違う部分が多いので、彼の恐怖には共感するものがありました。
だから自分のセクシャリティに気づくことは彼にとってはものすごい恐怖だっただろうと想像できます。

けれど、「女の姿」でも「男の姿」でも、どちらの姿でいても自分を好きでいてくれる百瀬の愛によって、八代は「本当に恐れたものの正体」をあばく覚悟ができるのです。マイノリティでもいいんです。理解してくれる友がいたり、それこそ自分を愛してくれる人がいてくれれば。たった一人でも、この世に自分を理解してくれる人が居るということが、どれほど幸せなことか。

そうして、百瀬と付き合う覚悟を決めた八代は「おとこに組み敷かれてあえぐ側」というセクシャリティをも受け入れることになります。平たく言っちゃえば自分は受けであるってことを認めたということになるんですが。

なので、この作品は受けは女装をしているし、攻めも女装を強要していたりしましたが、
結局のところ、受けは「女になりたいわけじゃない」し、攻めは「女が好きなわけじゃない」という感じがしました。

女装という一種の倒錯的な雰囲気と、しっかり「男」×「男」にしているところが良いと思ったので神評価です。変に女の子になろうとする受けだったり、女性らしさを強要する攻めでは成り立たない作品だったと思います。
この部分、木原先生の「美しいこと」のほうは末廣が完全なノンケで女の姿と男の姿で扱いが全然違って、受けが大変だったな~なんて思い出しましたwいやもうそっちの作品も大好きな私的神作品なんですが。

受けの八代の心理描写も丁寧で良かったと思います。
ただ、攻めのほうはもう少し分かりやすい描写を入れて欲しい気もしましたが。

ところで全然関係ない話ですが、モブキャラが時々なにわ小吉さん風に見えるのは気のせいかな?うん、気のせいですね(汗)
ちょ、なんでこんなにレビュー長くなったんだろう(;´д`)
もうこの辺で終わりにします。ご観覧ありがとうございました。

8

BLに抵抗がある方にも読んでほしい

ズガーン!と後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を味わったのが、BLハマりたての4年前。
あの日からずっとわたしのBL本棚の1列目にいます。
何度整理や処分をしても、この本の定位置は変わらず。
それくらいずっと好きな作品です。

休日の渋谷、ハチ公前。
遊びに来た高校生の百瀬が目にしたのは、女装をしたクラスメイトの八代で…。

声をかけずに2度やり過ごし、教室では八代の姿ばかり目で追ってしまう。
脳裏に残る女装姿の八代が頭から離れず、いろいろな疑問が渦巻きまくりです。
「ホモなの?」「罰ゲーム?」などなど。
気になって、考えて、見つめまくって。
1人の人間のことで頭が占領されて、夢にまで見てしまったら、それはもう恋。
BLでは恋を自覚するのによく使われる「夢」ですが、夢の威力ってはんぱない。
わたしも昔、レコードショップでバイトをしていた時代に、全く好きじゃなかったバンドのベーシストと家庭を持つという夢を見てから、やたらとそのひとが気になって、販促用ポスター見ては「この人…、わたしの夫…」とあほなことを考えていた瞬間がありました。
潜在意識に直接訴えかけてくるもの。夢、恐るべし。

八代は陽キャ、リア充、クラスの中心グループ。
百瀬は隠キャというか、クラスでは目立たないけど、オタクというのではなくてno music no life系のDK。
私服だと「あれ?百瀬って意外とおしゃれ」って思われる系。
そして体も大きい。

接点のなかった2人だけど、百瀬のグイグイ攻撃で距離を詰められて、自分の奥底にあった願望を引っ張り出される怖さを八代が感じる心理描写が素晴らしいんです。
ふつうじゃない感情。
きっかけは頭の緩い元カノにさせられた女装だったけど、「女」として見られたときに感じた「何か」が八代の心を痺れさせて、その「何か」に蓋をしたまま、こっそり続けていた女装。
秘密を知られて、距離を詰めてくる百瀬にその「何か」を暴かれる恐怖が読んでいる方にもしっかり伝わってくるから、手に力が入ります。

百瀬はそれまで男女交際におそらく興味がなかったタイプ。
それよりも自分の好きな音楽なんかに時間を費やす方が大事っていう感じ。
だから初めて自分の中に芽生えた感情に戸惑う思考回路が楽しい。
戸惑って、考えて、観察して、それでも分からなくて、相手にぶつかっていく。
不器用で言葉足らずだけど、その不器用さが愛おしい。

そう、一言で言うなら「愛おしい」。
もともと男が好きなわけでもない2人が、じわじわと相手に頭と心を占領されていって、抗いながらも恋に落ちる。
巧みな人物設定と心理描写に引きずり込まれて、読者も2人に頭と心を占領されていくんです。
そしてわたしたちは抗わない。
喜んで受け入れるので、この作品と簡単に恋に落ちてしまうんだなあ。

8

ただの「好き」ほど無敵なものはなし


秀良子さんの描くサブカルっぽい男の子が大好物な私。
百瀬いいです。好きなものが例えみんなに理解されなくても、構わない。それはそのものに対しての熱い想いなんかではなく、きっと本当にただ「好き」なだけ。
理由というものは自分を守ったり、相手を責めたりすることが多いと思う。
だからこそ、損得のない百瀬の「好き」「かわいい」は大きな意味を持つのかもしれない。その時の八代にとって、だけど。



八代はきっと、女の子っぽい子だったんじゃないかなぁと思う。周りに気づかれない程度に。
だって一般的男子高校生はきっと制服の仕立てとか素材などまず気にしないし、服にシワがあったってどーでもいーし、部屋はそんなに綺麗じゃない。はず。(偏見?笑)

顔の造り同様に、繊細で丁寧な八代の心が百瀬のおっきなハートで包みこまれていく過程にキュンとしっぱなしでした。

だってもうコマの流れがまず切ない。八代が女子服に顔を埋めるとか。キスまでの間隔とか。百瀬にがっつかれて怖じ気づく八代の言葉達とか。最後に宇田川町で待ち合わせする二人の空気とか。

すごいなぁ…秀良子さん…。
と思わず呟きたくなる作品でした。

最後のボーナストラックの八代にはもう一歩踏み出して実践してほしかったなぁ(笑)
今のままのシンプルでラフな百瀬スタイルもかっこいいけど、モードにコレクションファッションぽいのを着こなして八代がメロメロになっちゃうをのも見たかった。

7

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