まりぽん812
hishi karafuru kin
計の視点で描かれていた「イエスかノーか半分か」を読んだときは、なぜ潮が計とオワリ(変装した素の計)の両方に惹かれたのか、よく分からなかったのですが、潮視点の本作を読み、すごく納得しました。思わず本編の方を読み直してしまいました。
政治活動に忙しい父を支え続けて病死した母が口にしていた言葉「自分は宇宙人だって思えばいいのよ」。家にも学校にもなじみきれず、家を出た潮の中に、その言葉はいつまでも残っていました。
どこの誰か何を考えているのかもわからない俺様な“オワリ”と、完璧なアナウンサーで“星の王子様”みたいな計。潮は、二人とも宇宙人みたいに感じていて、自分自身も周囲に溶け込めないと感じてきたからこそ、誰とも分かり合おうとしないオワリと、鎧をまとっているような計、二人とも放っておくことができなかったのでしょう。
計が大一番を務めることになったニュース番組のオープニング映像は、潮が作ったもの。本編では、ポロリと涙を流す宇宙人に寄り添うもう一人の宇宙人が登場する様子が描かれています。計は「傍にいるよ」という潮のメッセージを受け取って、大役を無事果たし切ります。
本誌の最初のページに記載されたキリンジの「エイリアンズ」の歌詞が、そんな二人に重なって見えて、ジーンときます。潮から計へのラブソングに聞こえて、その穏やかで少し寂しげで、温かいメロディーが心地よい余韻を残します。一穂さんの心にくい演出に唸ってしまいました。
計のことを星に例える潮は、もう寂しくも空しくもなくて、これからも計を胸に抱いていくのだろうな…と想像したラストの後の一穂さんのあとがき。「誰だってエイリアンズ」の言葉に、目の奥がツンとしてしまいました。だから一穂さんの作品が好きなんだなあ。優しさが沁みます。潮を描いた裏表紙も、とてもいいなと思いました。