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steno grafica
この作品を読み終わったいま、BLの世界に足を踏み出してよかったと心の底から思いました。
碧、西口、すみれ、沙知子、松田...
色んな人がいて、それぞれの人生があって。
他人の人生に踏み込み合い、それを喜ばしく思うこともあれば、そうは思わないこともあって。
自分を構成する要素が自分をどうしようもなく苦しめることもある。
煩わしくて仕方がない、それでも大切な大切なアイデンティティ。
認めてあげられるのは自分だけだけど、それもまた他者との関わりの中で得られるものだったり。
一穂ミチ先生の文章は、本当にこちらの心を掴んで離してくれませんね...
何度も読み返す宝物になりそうです。
そんなみんなして男性同士で…とか思わなくもなくもないのだけれど、どちらかと言うとちょっと気になる脇役だった人のこと(この人の恋愛てどんなかな)てのを見せてくれるような感じで面白い
そしてシリーズを読み進めると香港での佐伯のこと、印象が変わってくる
佐伯みたいな博識な、嫌味で悪気があって口の悪い人、どの距離だったら面白く関われるんだろう
西口、仕事をたくさん見せてくれて面白かった
前妻や慕われる部下などもみんな同じ西口を見ているって感じがした
誰も言わない弱みをズケズケ言う佐伯とかひどかったけど、あれを新しい友人と同席させちゃうんだから、器大きいと思うけどな
子供を医者に育てた祖父母から丁寧に家事を仕込まれたってところ変わってるような気がするけれど、子供が勝手に医者になったってことなのかな
碧の作るご飯、本でも出しなさいよってくらい見事なんだよね
俳句も教え込まれていない、進学を強要されもしない、生活を教えて好きにさせたらとても密やかに育ったって不思議
西口が凄く好きになっちゃってるのが可愛くて
明日からまた愛妻弁当なんて、そんなに意識してってなったわ
二人共が意識してて関わったらドンドン好きになって、結果くっついて
良いお話だった
高評価と低評価がばっさり分かれていて、読んだ後にその理由に納得。
確かに、西口さんの態度は大人なのに子供っぽい。
そして私なんかは、前作の佐伯密に完璧ノックアウトされてるので、こういう日向の人の思考回路というか、男性側の気質?的なものが残る物の考え方がちょっと、余計に子供っぽく感じてしまったのかもしれません。
会社の雰囲気の中の話ではわかるんですよ。わかるんですけど、私には無理だな、って思っちゃって。
化粧のこととか、すみれちゃんからの好意についてのこととか。
う〜〜ん。
好意についてのことも、わざわざ口に出して言わなくてもいいじゃな〜い、と思ってしまいました。
あと、碧ちゃん。
碧ちゃん、嫌いじゃないんだけど別に好きでもない。可もなく不可もなく。う〜〜〜ん惜しい……
全体的には、よく纏まっていて思いもよらないこともあって、ドラマが詰まっていて、くっついた後の2人は可愛くて大変良いのですが、期待値が上がってしまったためか、そこまで入り込めず、惜しかったなぁ。
一穂先生の作品は大当たり!か、うん?掠らないぞ?の二極端なんですけれど、私の中で何となく考察した結果、
・子供っぽくて、受けちゃん含む周囲を幼さやおおらかさ?(この場合おおらかと言うより無神経に思えてしまう)で傷つけてしまう攻めが苦手
というのがなんとなく判明しました。
藍より甘くの入江くんも、就職先予定の上司のセクハラに動揺して、受けちゃんのことを散々けちょんけちょんに貶しましたけど、それがどうしても受け入れられなかった。
今回の西口さんは、碧ちゃんに特別酷いことは言ってないけど、言動が今どき珍しいくらい男尊女卑。(言い過ぎかなぁ〜でもそう感じちゃったんだよね)
反面、私の中で、佐伯を受け入れられる理由は、わかっててやってるとこかもしれないですね。
西口さんは無意識に周りを傷つけて知らないうちに受けに甘えられる日向タイプ。
佐伯さんは全方位ツンなので返り討ちも辞さない(タダでやられるハズないんですけどね…)日陰タイプ。
う〜ん、結局佐伯密が好きだ、ってことしか言ってない気も…
と言って現実に佐伯さんと対面しても絶対お近付きにはなりたくないですが笑
また、一穂先生の作中の女性が、どうしても受け入れられない時と受け入れられる時に二分されることも、話を受け入れられるか受け入れられないか、につながっているのかも知れません。
すみれちゃんは嫌いじゃないけど、今は別にすみれちゃんの話はそんなに読みたくないなぁ〜BL読んでるし、みたいな気持ちになっちゃったんですね…ごめんねすみれちゃん。
そんなこんなで評価を下げてすみません。
けれどシリーズとしては読んでいて、あ、いま、ここら辺か、みたいなワクワクとかもあるので読んで損はなかったです。
みんな一人一人に、ドラマがあるんですねぇ。
一穂先生のお話はいつもどんなドラマが展開されるのかわくわくするんですが、同時にどんな職業が描かれるのかもすごく楽しみにしています。
今回は国会速記者です。この話を読むまで知りませんでしたが、養成所で訓練を受けた人が、国会の討論を特別な記号を用いてリアルタイムで書き留めているんだそうです。時代の流れで音声変換システムも活用されるようになり、碧は養成所最後の代の卒業生で、実質最後の速記者という位置付けです。
この職業の色々な側面が、碧のキャラクターにすごくマッチしている上に、最後の速記者という哀愁がさらに碧の輪郭を補強してめちゃめちゃ趣深くしています。優しく穏やかで言葉遣いは美しく、描かれる行動や思考に心の清らかさが明確で、弱々しそうなキャラかと思いきや芯はしっかりしています。そして慣れない恋心にあれこれ思い悩む様がなんともピュアで可愛い…!!自分のなかでは過去1番人柄的に素敵なキャラでした。
西口さんは「静」な碧と反対で、明るく華やかなまさに「動」タイプです。基本碧視点で、さざ波のような細やかで凪いだ雰囲気の中、軽いテンポと時にスパイス、スピード感を出してくれてバランスがよかったです。
off you goのお二人もちょろっと出てきます!こういうのスピンオフって楽しいですよね~、相変わらずのお二人でちょっと嬉しい。ちなみに本作はoff you go読んでなくても全く問題なく読めます。
他にも物語と二人の関係に厚みを出してくれる脇キャラが数名出てきますが、それぞれ味があって良いです。変に嫌なやつは出てきません。(佐伯さんは通常運転)
とにかく、碧がめちゃ素敵な子なので多くの人に広めたい!
stenographyは速記の意味だそうです。主人公が国会速記者で国会議事堂に勤めているのです。
主人公の名波くんのキャラクターが、若いのに老成しているというか、純粋培養の植物のようで、ひっそりしてて芯が強くてプロフェッショナルで、彼の持つ清澄な空気感にとても好感が持てました。
速記というお仕事も古式ゆかしいし、生活もとても堅実だし、休日に口述筆記のボランティアをしているのですが、その相手の松田さんとの交流もやはりとても穏やかで、この静かな時間を生きている人が、ガサツ極まりない新聞記者の西口さんとどういう風に恋愛関係になるんだろうと、楽しく読んでいきました。
もうこのまま、発展しない両片思いのままでもいいんじゃないかな、と思わないでもなかったです。
それだけこの世界観に癒やされてました。
松田さんの過去話にとてもそそられました(過去に無配されたそうですが)。
松田さんと名波くんの静かな交流がとても心地好かったので、正体を暴いた西口さんを恨めしく思ったりもしました。なんてことするんだと。読後の今でも解せないです。
登場する人物それぞれの人生をじっくり読ませていただいた感じです。
西口さんが「off you go」の佐伯と静の同期なので、ちらちら登場するのも楽しかった。私はやっぱり佐伯密が好きだなあ。
それと、女性キャラが光ってます。鉄の女1号2号にもう一度会いたいです。
新聞社シリーズのうちの一作。
今回の攻めは国会担当の新聞記者西口。
彼のよく通る声をなんとはなしに記憶していた、速記者の碧は、ある日彼の手作りのお弁当が縁で西口と交流を持つようになり、やがて二人は…という。
この作品、新聞社シリーズの中でも好みなのですが、その理由は大きく3つ。
まず、一穂作品の魅力として、登場人物の仕事ぶりが生き生きと描かれていることがあるのですが、この作品も新聞記者や速記者のお仕事というものがしっかり描かれています。
その上で、この作品は西口の部下の女性の仕事ぶりについても脇役だからと雑にせずに触れていて、それが印象的だったんです。
次に西口という男のキャラ造形。
バリバリ働くけれど、生活にはちょっとだらしない。
部下の女性に手を出さない程度には真っ当だけど、平気で下ネタを言う体育会系男社会の悪習には染まっている。
明るく親しみやすいが、デリカシーに欠けるところも。
仕事のできる格好いい女に惚れるだけの度量はあるけれど、そんな女に負けたくないというつまらないプライドは捨てきれずに離婚に至った過去がある。
美味しそうなお弁当を見れば、男ではなく女が作ったと短絡的に考えてしまう古い考えの持ち主で、家事は女の仕事という古い考えから抜けきれていないところがあって、実際本人の家事能力も低いままである…などなど。
欠点の書き込み方が絶妙で、リアルにいそうなダメな男だけど憎めないおっさんなのです。隙があるからまわりが絆される系。
で、おじさんが惚れるのが、碧というひとまわりも年下の男の子。
国会の速記者である碧は、でしゃばらず、でも使命感を持って淡々と仕事をこなし、古風とも思えるくらいに、今時の子のノリに安易に流されず、品行方正に、日々の生活を丁寧にきちんと営んでいます。
名を知らしめるぞ!的な昭和男子の野望とは縁遠いけれど、仕事も生活も自分のスタイルを淡々とつらぬく芯の強さは、そりゃ西口みたいな男にとっては谷間の白百合のようにも見える事でしょう。
西口だけじゃなく読者の私もメロメロです。
そう、この作品の3つ目の魅力は碧の暮らしぶり。
出てくる手料理が全部美味しそう…。読むとちゃんと自炊せねば、と思わせてくれる作品でもあります。
というわけで、水と油のような二人が結びつくまでの恋模様を楽しみながらも碧の丁寧な暮らしぶりに惚れ惚れする作品でした。
新聞社シリーズ第3作目。本作を最初に読んでシリーズと知ったにもかかわらず、リンク作を読む気になれなかったのが再読してよくわかりました。
本編は国会速記者、名波碧視点のラブストーリー。昼時、議事堂の食堂で頻繁に居合わせる男の声に惹かれ、意識するようになった碧。自分の手作り弁当がきっかけで、声の主、明光新聞記者の西口と言葉を交わします。
西口は前作『off you go』のメイン、佐伯と静の同期。44才バツイチ独身で、碧は26才なので年の差ものです。
前に読んで記憶に残っていたのは、料理上手な碧のお弁当やごはんがどれも嫌味なくらい美味しそうだったことと笑、オースターの小説が出てきたこと。印象としてはしっとりとして静謐なイメージでした。
再読しての収穫は、雰囲気は変わらずに好きだけど碧と西口が好きになれなかったこと、『ムーン・パレス』、次作のメイン候補の目星がついたことと女性キャラが不憫に思えたこと。
碧は作者の描く受け像の中でも個人的に苦手なタイプなので、彼に惹かれる西口とそのキャラにも萌えられませんでした。以下は不愉快になられる方がいらっしゃるかもしれないので、自衛してください。
碧と西口の部下のすみれは互いに尊重しあっているように描かれているけれど、腹の中でマウントの取り合いしながら、あの人にはあなたみたいに品があって家庭的な人がお似合いよ、いいえわたしなんか地味だし家事くらいしか能がないし、男社会で対等に渡り合っているあなたの方が相応しいわよ、的な女同士の静かなる攻防にしか見えませんでした。
このお話、西口が最終的に選んだ、彼にとっての理想的な女性像を描いたものだとしか思えなくて。西口はノンケです。性別関係なく碧だったから好きになってエッチにまで至るのは、西口が男の碧に元妻の沙知子には無かった魅力を見出したからですよね?なのに沙知子と碧が一重まぶたの控えめな顔立ちで、見た目に共通点があるなんて情報を加えた作者の意図がよくつかめませんでした。
読みながらモヤモヤし続けていたのですが、沙知子の顔写真を見て碧が抱いた、そこだけ妙に男目線な感想にモヤモヤゲージが振り切れてしまいました笑
碧が沙知子とすみれに嫉妬できるのは、彼女たちと同じ土俵に身を置いているからですよね?そのくせ自分が男であることに自信のなさを感じている碧には、同性であることを逃げ道にしている一束と同じずるさを感じました。
碧が西口の誤解を早いうちに解かなかったのも理解に苦しみます。好きなら好きと相手に伝えて、ウザがられても仕事ぶりは変わらない、すみれの方がよっぽど好感が持てました。終盤に起こしてしまった業務上の失態は、彼女が女を利用するキャラだとは到底思えなかっただけに残念でしたけど…。
BLにでてくる勇ましい女性キャラは大好きで、彼女たちの役割も承知しているけれど、この作品での扱われ方は疑問でなりません。受けを際立たせるために女性キャラの立場が貶められているように思えて、読むのが辛くなりました。
巻末SSは西口視点。ある意味女性が苦手な者同士、理想的なお相手に出会えた二人を素直に祝福できたらよかったのですが…。
国会記者の年上攻めと国会速記者の年下受けのお話。速記って何か分かりますか?私は知らなかった。国会での議員の発言を話すのと同じスピードで全て書き留めて、議事録を作る仕事なんだそうです。普通の文章だとまず追いつかないから、訓練された速記者だけが使える、暗号のような、速記文字という記号を使うそう。求められるスピードは10分間に4000字。速記者は記録することが仕事だから、議会では何か発言をすることも、書く文章に自分の感情を乗せる事もなく、ただひたすらに黒子として徹して、ペンを滑らせるのみ。
そんな仕事に就く受けの名波は、普段の生活でも物静かで落ち着いた性格。自分のことを「透明人間」と表現するけれど、仕事に対しては誇りとやりがいを持っていて、真面目に務めていた。そんな名波が少しだけ気になっている人物が、攻めの西口。昼食の時間に食堂でいつも聞こえてくる彼の声は滑舌良く、区切りが明確で、聞き取りやすい。名波は職業柄か、西口の声が聞こえた時、いつも思わず耳をそばだててしまう。けれども直接会話したことがある訳では無いので、一方的に相手のことを知っている、という少し不思議な関係が続いていた。
ある日二日酔いの西口に、名波が自分で作ったお弁当を食べさせたことをきっかけに、2人は仲良くなっていく。少しずつ会う機会が増え、会話をしていく内にお互い恋愛対象として意識していくものの、西口は名波が毎日持参する手の込んだ弁当を理由に、名波のことを妻帯者だと勘違いしていて…。というお話。
しっとりした大人の上質なBL。あとお料理の描写がとっても魅力的。国会とかほんと全然分からないアホな私だけど、とっても面白く読めました。こんな難しい業界や職種をなんの違和感も感じさせずサラッと書いてしまってる一穂先生はやっぱりすごい。
受けの名波碧がとっても健気でいじらしいくてかわいい。料理上手。家事全般もできる。そして相手を立てながら聞くのも上手という、少し女性的な、不思議な魅力を持っている受けです。でも仕事はバッチリこなすし、しっかり自分の考えを持っているので決して女々しい訳ではありません。話の中で、この子が攻めの帰りを待って1人で眠る描写があるんだけど、すんごい広いベッドなのに、壁際にちいさくちいさく丸くなって寝てるんですよ。こういう、わざとらしさとか押し付けがましさのない健気さが物語の端々に自然に組み込まれてて、この子のことがとっても好きになりました。
攻めは40代既婚者バツイチ。大人の魅力たっぷりで、受けと違って社交的で、記者という職業柄、とても華やかな人物。普段は堂々と構えているけれど、受けのことになると動揺してわたわたしてしまったり、悶々としたり…。と、とても見ていて可愛らしかった。普段は受けのことを「名波くん」て呼んで、年の差を意識せず気さくに話すんだけど、大事な時に「碧」って呼び捨てにして年上らしく振る舞う所がずるいしかっこいい。あと絶対受けのことだけは「お前」って呼ばずに「君」って呼ぶんです。そういう丁寧な部分も素敵だなと思いました。
好きなシーンは自己嫌悪と疲れと受けの健気さに我慢がきかなくなって思わず受けを呼び捨てにして無理やりキスしてしまう場面と、思いが通じあって、攻めが受けに優しく語りかけるところです。
全体的に静かで優しい雰囲気が漂う素敵な小説。とってもオススメです!
面白かった〜‼︎
大きな声で一言、初めに書きたかったのです笑
『is in you』シリーズ3作目、今作のカップルはかなりの年の差ということで、読む前は若干尻込みをしておりました。
44歳は、一般的におじさんと言うのでしょうか?私見ですが、30代後半からは印象によりけり、その人となりによると思っています。結論からして、西口さんは私にとっておじさんではありませんでした。壮年期真っ只中の、魅力的な大人に見えました。
今回も舞台設定が本当に見事でした。遠い記憶ですが小学生の頃、国会議事堂見学に行ったのを思い出しました。行った人はわかる、あの独特の雰囲気、周囲から逸脱した世界観が大変面白いので、まだの方は見学ツアーがオススメです。
また碧の速記者という職業ですが、知ってはいたものの深く考えたことがなかったので、すごく興味深い内容でした。碧は、速記者は透明人間、影側の仕事という風に捉えているのですが、本当に一種の特殊能力のような職業でした。一穂先生にはぜひ、一般誌でノンフィクション系のお仕事小説も書いて欲しいです。
私事ですが、ここのところ心から揺さぶられる!という作品がご無沙汰でしたので、興奮しております。今作の特に惹かれた部分は、登場人物を多面的に描いているところと、碧の初恋の、片想いのみずみずしさが文を通してありありと伝わってきたところです。
多面的、というと特に西口さんの性格付けが好ましく思いました。
グイグイ来るけど基本的に優しくて、優しいかと思えば、優しさ故に冷酷で。彼の、悩ましいが切り捨てたくない過去が、心の強弱のバランスが、最高でした。
そして、碧が西口さんに恋をしていく様子。美しささえ感じるほどにみずみずしくて、涙が出そうになりました。碧は四角四面とは違うけれど、すごくそれに近い真面目で、生きる喜びもまだ知らないような、無垢な印象を受けました。自分で丁寧に生活をする姿、布巾を縫ったり、お料理をしたりする彼には、私が持っていない物を持っている人だ、とめちゃくちゃ癒されました。家事の合間に布巾を縫う26歳、最高に可愛いです。
碧が西口に対して、すみれという女性の存在を通して、好意から来る怒りの感情が発露する場面は特に圧巻でした。
普段冷静な彼が、冷静でいられなくなり、そんな自分を、ああ、恋をしているからだとやはり冷静に見ている。その辺りの表現が秀逸でゾクゾクしました。
碧のモノローグに
『あなたと出会ってから、僕はすこし変わったような気がする。透明だったはずの僕を見ていてくれたと知った時から』
という一文が、ぽつりと出てきます。この言い回し自体は、特段珍しいものでは無いと思います。ですが、そのタイミングと一連の流れが本当に良くて、一気に心を持って行かれてしまいました。
最後まで勢いを落とさず読ませてくれる作品です。
今のところシリーズ内ではこちらの続編が1番読みたいです。
とっても面白かったです!
一人で評価下げてすみません……
序盤と終盤は「萌✕2」だったのですが、中盤に引っ掛かりを感じる描写が数多くありまして……そのせいで評価低めです。
何に引っ掛かったかというと、攻めの西口の言動(と、それにまつわる受けの反応)。
本作の攻めは、「大人と子どもが互い違いに噛み合ったような男」で、「年甲斐がな」くて、「切羽詰まるとつい物言いが無神経になる」人なので、国会議事堂の食堂でAVの話をしちゃったりする。
そんな攻めのことを序盤は憎めないヤツと思って読めていたのですが。
最初に引っ掛かりを覚えたのは、攻めと受けが親密になってきて、初めて二人で飲んだ場面でした。
離婚したさみしさを攻めが語った直後、酔っ払って足元もおぼつかない攻めを心配した受けが「送ります」と言った時の攻めの返しが、「何で」。
……心配して送るって言ってくれてる相手に、「何で」って返すかな普通、ってここでまず思っちゃったんですよね。
地の文には「いいよ別に、とか気にしないで、じゃなくてどこか、責めるような、響きのきつい問いかけだった。さっきの言葉を西口がもう、後悔し始めているのを知った。」とあるのがまた納得いかなかった。
勝手に長々と語っておいて、勝手に後悔したからって心配してくれた相手に責めるようなきつい言葉言うのってどうなんだろう。
そんなふうに、このあたりで私の攻めに対する評価が一段階下降しまして。
さらに大暴落したのは、攻めに想いを寄せる、攻めの部下の女性(すみれ)のまつげについて
「いや、マスカラ変えたのか知らんけど、先週あたりから濃すぎたからさ。ノーマルヒルのジャンプ台みたいになってんぞって言っといたんだけど、あれだよね、レギンスといいネイルといい、女のおしゃれとか身だしなみって、こっちのまったく望んでない方向に走ってる時があるよね」
などと言ったことを、失礼だと受けに批判された時に返した言葉。
「やりもしない女、ちやほやしたってしょうがないだろ」。
…優しい受けは、そんな攻めに対しても「軽べつの念が起こらない」らしく。
その理由は「本気じゃないとすぐ分かったから。西口がひどい言葉を使えば使うほど、すみれを大切に思っていることが。応えてやれないのが心苦しい、脈もないのに想い続ける女の真剣が煩わしい、できればつめたくなんてしたくない……。」と思っているのがわかると言うのですが。
いやいや……相手の想いに応えるとか応えないとか以前に、「こっち」の望むような形でおしゃれしろという発言自体、彼氏でもないのに何様のつもりなんだ、っていう話じゃないですか。
なのに攻めは、彼氏じゃないからこそ何言ってもいいんだ、っていう発言したわけですよね? 彼女なら機嫌損ねたくないから(ヤるために)褒めるけど、そうじゃない女だから何言ってもいいんだ、って。
それでいて、想われるのは煩わしいとかもう……身勝手すぎる。
百歩譲って、本気の発言じゃないからと大目に見たとしても、でもやっぱり「ヤりもしない女」呼ばわりはないと思うし、また「言葉は命」「言葉は武器」である新聞記者(44歳の大ベテラン)であることを思えば、本心じゃないなんて言い訳にもならない。
また、この発言に対する受けの反応もまた奇妙で、「西口さんが言うとさまになっててよかったな、と思い返し」ていて……なんかもう…
その後も、仕事終わりの飲み会で、女性社員が同席していても彼女を除け者にして攻めは男性陣と「キャバクラぐらい」ではない店(ソープとか?)に行くのが恒例だという話が語られたりして、なんだかもう、攻めを素敵な優しい大人の男だとは全く思えなかった。
終盤になると攻めは受けとくっつくのですが、しかし、ちょいちょい攻めの身勝手さは垣間見えて。
(受けが初めて作った手作りごはんも、冷める前に食ってあげてほしかった。セックス優先するんじゃなくて)
なんだかとても、残念な感情を抱えたまま読み終わりました。
攻めの部下の女性は本当に可愛くて健気だったし、受けも真面目な人で好印象だったので、本当に残念。
いや、攻めもいいところはいっぱいあるんですけれども、でもなぁ……