お買い得商品、セール品、中古品も随時開催中
シリーズ第3部の2冊目。通しで13冊目になります。
収録作
・リクエスト
・雨また雨
・夏祭りの夜
「リクエスト」では、圭が心身共に復活します。スイミングクラブに行った2人が互いの水着姿に欲情し合って、成城での事件以来の不能だったらしい圭のナニが復活を遂げます。それで気持ち的にもすっかり整理がついて悠季に本心を明かします。義母の打ち明け話は真実なのか否か?自分が反抗し続けてきたものは何で、それの正誤は?音楽を選んだ理由は反抗のためか否か?ゲイに走ったのも音楽を選んだのも逃げるためか?という自問自答により自信を失い迷っていたけれど、喘息発作で気分的に死と直面したおかげで悠季も音楽も自分にとって必要な存在であることが分かり迷いが吹っ切れた、と。やっと本来の圭に戻ってくれます。そして、フジミの定演が決まり《チャイ・コン》にすることも決まり、市山さんが入院して慰問演奏することにもなります。また、小夜子さんの求愛は過激になり、寝ている悠季の身体中にキスマークが…。
「雨また雨」は、悠季が自分の音を見つける話で、その時の演奏シーンはとても印象的でした。悠季は、日コン入賞者披露演奏会で弾く《雨の歌》の福山先生と生島さんの演奏を聴いて自分とのレベル差に衝撃を受けます。握手を交わして意気投合する2人とは対象的に、身のほどを知って涙も出ない状態になる悠季。そうして絶望した悠季は圭によって救われ、再び自分の音を見つけようと苦しみます。そして次のレッスン帰り、おぼろげだった音が突然明確に脳裏に浮かび、その音を捕まえて実際の音にするため途中下車して駅のホーム端でバイオリンを弾き続けます。捕らえた音を弾き出すことに成功して自分の音を見つける悠季。そんな様子を見ていたお爺さんのリクエストによる突発リサイタルを気分良く済ませた後に、喜び勇んで帰途につくところで話は次回へと続きます。なお、悠季は市山さん退院祝いの慰問コンサートには参加しませんでした。
それから、この話を読まれた後で「夢見るバイオリン」(外伝『天国の門』収録)と「天国の門」(外伝『天国の門』再録/初出『クラシカル・ロンド』)をお読みになると悠季のバイオリンへの思いと悠季のバイオリンの音へ圭の思いが分かって、この話+次巻の内容理解がより深まり楽しめると思います。
「夏祭りの夜」は、夢かうつつか幻か、というような不思議な話で、圭視点です。悠季の実家から届いた悠季と圭2人分の手作り浴衣。圭の分は伊沢さんに頼んで悠季の実家宛てに中元を贈ったことへの御礼だとか。悠季の実家での浴衣姿を思い出して不埒なことを考える圭は、いそいそと祭りや花火に出かける計画を練ります。そして近所の稲荷神社の祭りに行くのですが、そこで2人は酒宴に同席させて貰ったり屋台で金魚すくいや綿飴などを楽しんだりした後に茶屋に休憩に入ります。そこの奥間で酒を飲みながら寄り添って気分良くキスやお触りしていたはずが、拝殿横の縁板に座ってイチャついていて・・・・という我に返った圭が己の愚かさに恥じ入る話でした。どうやら2人は狐たちに化かされてしまったようでした。
才能があるのに、それをちっとも自覚できなくて、自分がとても劣っていると思い込んでいる奴って、結構イライラしますよね。
どうも主人公の悠季は、作者にそう思われているみたいで、これでもか・これでもかっていじめられています。
今回も、そんな作品。
日本音楽コンクールで入賞し、音楽家の端くれとして羽ばたこうとし始めた悠季に、突然訪れる大スランプ!
「自分の音」というものが、わからなくなってしまうんですね。
悪戦苦闘するんですが、もう必死の努力でもどうにもなりません。
恋人の圭が全面サポートしてくれているのに、それさえ負担に思ってしまう、どうしようもないおばかさんです。
悠季の悪あがきと、その浮上を描く「リクエスト」。
ヒントは題名の「リクエスト」。意外なところから救いの手は現れてきます。
でも、その救いの手を救いだと自覚できるのが天才なんだと、まだ悠季にはわかっていないのが悠季ステイタス。
同時収録の「雨また雨」は、圭のライバルの野獣ピアニスト・生島高嶺の自然体に圧倒され、またまたプロとしての自信を打ち砕かれる悠季が楽しい、番外編。
「夏祭りの夜」は、圭と二人で出かけた地元の神社の夏祭りでの、とっても不思議な体験を悠季の語り口調でつづるストーリーになっています。
真摯に音楽をするっていうことは、精神的にも肉体的にも、ものすごく追い詰められるんだと思ってしまいました。