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「男と男が恋愛関係になるわけではないけれど、心の深いところでの結びつきが描かれる」こういうタイプの作品が、BLっぽいけどBLではない、もしくは一般漫画だけどBLくさい…なんていう理由で発表しにくかったり、評価されにくいことがあるとしたら残念なことですね。…などということを改めて思わせてくれる傑作です。
表題作の「独裁者グラナダ」では、主要登場人物の2人は恋愛関係になるわけではありません。主要な登場人物は人格に歪みがある天才肌の映像作家・鳴瀬と、平凡な編集者・中田。過剰に自己の存在を評価されようとする鳴瀬の危なっかしさと才能に中田は翻弄されまくります。
鳴瀬の作るクレイアニメーションのイメージは、作中に名前が登場するノルシュタイン(たぶんユーリー・ノルシュテイン)もあるでしょうが、おどろおどろしい雰囲気からするとブラザーズ・クエイかな? とても絵的にインパクトがあってイメージが膨らみました。
最初はサイコパスが登場するダークホラー的な作品なのかと思いましたが、話はそこにとどまらない展開を見せます。鳴瀬の病気のこと、そして引用される正岡子規の言葉がとても印象的で。その辺、すごくグッときました。
甘さもキュンキュンもラブシーンもない作品ですが、読み応えのある一作です。おすすめ。
同時収録の「Birthday」は、一見普通にBLの枠に収まっている作品です。設定や展開は少し懐かしめで「JUNE」的な世界。ですが、よくありがちなヤツかなーーと油断していると、やられます。
深夜の動物園とか、イメージをブライアン・ジョーンズに重ねるとかズルい…。
短い作品なのに、まるで映画のようでした。
先ず注釈から入って置くと、この表題作に
政治云々は一切絡んできません。
又受攻の立場にいる二人が肌を重ねる事も
ありません。この分類は、精神的な優位の
席順故にと受け取って戴ければ。
癒える事の無い病に冒されていると知って
いるが故に創作者としての欲に忠実であり
続ける映像作家・鳴瀬と全てを只淡々と
こなして行くだけだった編集者・中田。
彼等を引き合わせたのは鳴瀬の出世作とも
なったクレイアニメ『独裁者グラナダ』であった。
その出会いは果たして何を生み出してゆくのか。
物を創る人間なら一度はとり憑かれた感情を
巡る攻防戦の中に恋の様な激しさを見出した
のが今作であるかと。その重さ故に人によっては
拒否反応が出るやも知れません。
BLとして推すのならば弊録作の『Birthday』の
方が余程推し易いですね。
未来を見切った者と未来を切り拓こうとする者。
その二人の感情の展開は急速ではありますが、
そこには確かに愛着と執着が背中合わせで
存在しているから。
杉本亜未と言う作家の底恐ろしさを感じさせる
一冊です。
表題作にBL要素は無いのですが名作です。
編集者中田から見た天才映像作家鳴瀬を描いているのですが、鳴瀬の暴力的なまでの名誉欲、彼の口から発せられる「俺をほめろよ」という言葉はカリスマという単語が俗的に感じられる程に魅惑的です。
中田はその鳴瀬に魅了されながらも第三者として彼を見続け、彼と接し、鳴瀬は執着とは無縁な、けれど「己をほめる者」としてそれだけの為に金策に困っている中田にぽんと数百万の金を渡してしまえる男です。
どれだけ言葉を重ねても鳴瀬という強烈な人物の魅力は読んでみて欲しいとしか言えないです。
ひじょうに表現が難しい男なのですね、鳴瀬は。
それに反して中田は至って常識人で、けれど見る目はしっかりしています。
「独裁者グラナダ」は鳴瀬が作ったクレイアニメーションのタイトルであり、鳴瀬はまさに己の芸術においての独裁者、です。
同時収録作の「Birthday」は病院で出会う2人の高校生の話。
深夜の動物園で抱き合うシーンは心にぐっと来ます。
杉本さんは今は青年誌モーニングで活躍されてますがまたBL系も描いて欲しい作家さんの1人です。
表題作『独裁者グラナダ』と『Birthday』が収録。
杉本さんのBLというくくりの作品は初読みだと思います。
『独裁者グラナダ』はクレイアニメのタイトル。
突如現れた美しい独裁者が刺客に襲われ滅び、そしてまた生まれてくるという…
そんなよくわからない作品が映画館で上映されているところからのスタート。
そのクレイアニメを作った映像作家の鳴瀬と、平凡を絵で描いたような編集者の中田が主な登場人物なのですが、この鳴瀬がね!怖面白いわけです。(学生時代のパンチヘアもナイス)
自分の作品をこけ下ろした評論家をボコボコに。
しかも、評論家の子供の幼稚園と奥さんのパート先はリサーチ済みという念の入れよう…
もうここだけで心鷲掴みされましたね!
や、この段階ですでにBLではないですが…
中田がそのボコボコ場面を目撃し、しかもその後インタビューに行かなければならずドキドキ…だったわけですが、なぜか超愛想良いんですけどー!な鳴瀬。
ただその方が人間の心理として、かえって怖いんですよね。
そして鳴瀬の口癖は『俺のことほめてください』。
この言葉って、すんごく深読み出来ますよね。
ヤバイ匂いがぷんぷんです。
ただ、ラストまで読むとこのぷんぷんが、文学の香りへと変化していきます。
作中では正岡子規が引用されているのですが、なかなかうまい演出で読み入ってしまいました。
正岡子規は結核で血を吐き晩年は動くことも出来ず苦しみ抜いて死んでいくのですが、同じ病ではなくても彼を重ね、病で亡くなった父を重ね、生き急がずにはいられなかった鳴瀬の生き様がじわっと染みました。
やってきたことは横暴以外のなにものでもないわけで、彼の作った『独裁者グラナダ』は彼自身でした。
しかし、人から嫌われたり疎んじられたりという普通なら避けたい、そんなことにはなりたくないと恐れるものを彼は恐れず、それ以上に自分が生きた証を残そうとした潔さには脱帽です。
この表題作を読むとBL?と頭を傾げることもありますが(中田は結婚しますし)、男同士のお話と言えなくもありません。
ラブではないけれど、きっと中田はラスト鳴瀬へ男惚れしたと思いますしね(苦笑
スタートとラストでかなりテンションの違う作品ではありますし、シュールと言えます。
でも、わたしは好きでしたね。
『Birthday』の方は完全に死亡エンドです。
ただ、こういう前向きになれる物は読めます。
高校生の小山とクロのお話です。
人間には忘れるという心を守る機能が付いていますが、小山にもそんな優しいスイッチが入って大人になっていったんですよね。
けれど、痛みの名前は忘れてしまっても痛みの本質だけは体に残っている。
読み手としてはクロへの切なさがありますが、でも清々しいラストでした。
杉本さんはもうBLは描かれないのかな?
すごく稀少な作家さんだと思います。
杉本先生作品初読みです。
2本ともおもしろかったです。
病、死を前にしてどう生きるかというテーマに惹かれます。
□表題作
鳴瀬が創作する者で独裁者である。
かつて小説家に憧れ挫折した中田が鳴瀬の才能と魂に惹かれる。
中田が鳴瀬の魂のかたちを見たようなラストがよかったです。
鳴瀬の怖い面や「ほめろよ」が嫌だったのですが、最後のそのセリフは全く印象が変わるのがおもしろかった。
作品を残すだけでなく、人の心、記憶に残り、作品が創作者まで活かす力になる…それこそ鳴瀬の生きた証だとよくわかりました。
正岡子規の病牀六尺の引用も好きでした。私も岩波文庫持ってました。
独裁者とは言え、独りでは生きた証をつくれない。
自分の才能、作品の価値を理解し惚れ込む中田という人物が必要だった。その関係性のお話。
BL的萌えはありませんでしたが、精神的、魂に惹かれる話としておもしろかったです。
作中のホラー映画の映像が怖すぎて変な笑いが出ました。
□Birthday
こちらの方がBLぼかったです。
死んだら心(意識)はどうなるんだろうと考えるよな〜と共感しました。
クロがストーンズのブライアン・ジョーンズに憧れて「B'zとかきいてんだろぉ?」と言うのが笑ってしまいました。ストーンズファンは言いそう(偏見)。ちなみに私もストーンズ好きですがB'zはいいと思いますよw
ブライアン・ジョーンズに憧れた理由はそういうことか〜となりました。
クロが葬儀屋のことをメンインブラックと言うのもツボでした。