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hana hoomurite yoru
市ヶ谷さんの作品の表紙っていつも素敵だなあと思っているのですが、この作品もとっても素敵で思わずジャケ買いしてしまった。ほぼ一冊表題作ですが、短編も1話収録されています。
大きなネタバレを含んでいます。ご注意を。
表題作『花葬りて、夜』
主人公はサトル。
リーマンとして働いていたもののブラック企業で精神を病み、祖母の勧めで生け花を始めたのが縁で、とある華道の家元・朔の付き人兼弟子として、彼の家にやってきた青年。
ほぼ彼視点で話は進みます。
家元として高い能力を持ち、またメディアへも引っ張りだこの朔。
綺麗で不思議な魅力を持つ朔に徐々に惹かれていくサトルですが、朔が広告代理店に勤める弓越という男性の愛人であるという事を知ってしまったことがきっかけで朔への欲情を自覚するのですが…。
というお話。
序盤から描かれているのでレビューでも書いてしまいますが、この作品、
(ネタバレ注意!!)
死にネタ
です。
朔のお葬式のシーンからスタートしてます。
ちょっと斬新だなあ、と思ったのですが、その理由は最後のあとがきで市ヶ谷さん自身が書かれてました。
「死にネタ」って地雷の方も多いと思うのですが、この作品は展開が斬新で、そして朔の気怠い色気とか複雑な思考回路とか、そういったものとうまく合致して「死にネタ」という設定をうまく生かしている。地雷の方にこそ、読んでほしいな、と思いました。
朔は弓越さんの愛人ですが、サトルとも関係を持つ。
サトルと爛れた関係をつづけながら、サトルを猫可愛がりすることはなく、むしろ辛辣な態度を取ることが多い。
サトル視点で描かれていますが、けれど朔の、サトルへの愛情や複雑な想いというのがきちんと読み取れる。終盤に朔視点での話が収録されているので、そちらでも補完はできますが、描き方がお上手でぐっと引き込まれました。
弓越さんとの関係。
家元としてのプレッシャー。
そして、サトルへの想い。
朔という男性は非常に複雑で、けれど繊細で、そして美しい。
市ヶ谷さん作品では中年のおっさんが主人公になることが多いですが、彼らの色気が半端ないのは共通している。
この作品もそうで、朔の視線の流し方やしぐさがめちゃんこ色っぽかった。
初っ端から朔が亡くなる、という事はわかっているので、いや分かっているからこそ、サトルと弓越さんの朔への愛情が哀しかった。この三人の間には、他人には理解しえない、深い愛情があったんだろうな。
『カフェ・ティミディア』
綺麗なカフェのオーナーに片想いしている郵便局員の男の子・久岡くんのお話。
久岡くん、ゲイで、オーナーに恋しているけど想いは通じないよな…、という片想いのお話なんですが、このオーナーという人の綺麗でおっとりした外見からはうかがう事の出来ない意外性が面白かった。
あと、カバー下はぜひとも読んでほしい!
ブラックの背景に、表紙はシルバーでタイトルと朔が。
そして裏表紙には弓越さん視点での朔との情事が小説で書かれています。
とっても素敵な趣向でした。
表題作+短編1編収録です。
「花葬りて、夜」
若くして事故死した華道家元・夜野田朔の通夜から始まる物語。
朔は本当に事故死なのか。恋人・弓越が感じる弟子・明川への疑惑。
明川と朔の間に、本当は何があったのか…
そんな愛憎劇のような、推理劇のような雰囲気で展開していくのですが、一応明川視点なので、朔の深い心理洞察みたいな部分はあまりありません。
だから、朔がいつも本当は何を考えていたのかがはっきりわかりづらい。
例えば、弓越との関係性。
例えば、家族との断絶。
例えば、いけばなの芸術性と流派の名を売る必要性、そして野心…
弓越との関係を、朔は「愛人」と言っていたけれど、(おまけにて判明するのですが)弓越はゲイで独身。決して「日陰の身」に押し込めてはいないのですよね。弓越はちゃんと朔を大切にしている。
そんな部分からもわかるように、朔は「自虐」的な人物なんだろうな…と感じました。またはある意味投げやりで気怠げな一面。
明川と一度寝た後に態度が急変するところなどは特に。読者も明川と共に、なぜ?どうして?と戸惑いますが、朔は明川を試している。どこまで自分を許してくれる?と。
「大いけばな展」の成功を受けてどこか陰のあった朔が一転明るく晴れやかな表情を見せ、つらさを飲み込んでいた明川も報われた、その晩に…
と一気に物語が動きます。ラストはバッドエンドなのでしょうか。喪失感に満ちています。
「カフェ・ティミディテ」
小さな町のカフェの、色っぽいマスター・叶上に片想いの郵便局員・久岡。
多分ノンケだろうし、無理、と諦めてます。
ある日、裏手で野菜畑もやっている叶上を手伝おうとして隠していた秘密を知られてしまった!
思いもよらない秘密でした。ビックリ。
「才能と劣情」
若く才能のある明川への羨望と嫉妬。彼の全てを呑み尽くしたい…
そんな気持ちを抱いて明川に抱かれていた、という朔の独白。
カバー下「良識と愛人」
弓越視点での文章でのSS。
弓越は弓越で朔に溺れていた事がわかります。
◆花葬りて、夜(表題作)
話の展開はすごく好みだったのですが、だからこそもっと深くこの作品に浸りたかったなというのが正直な感想。内容の重さに反して少し駆け足気味だった印象があります。確かにこのページ数の中では無駄もなく綺麗にまとまっていたけれど、せっかくなら読み終えた後にもっともやもやした気持ちを重く残して欲しかった。朔のこれまでの人生や、弓越との一筋縄ではいかない関係性などが本編でしっかり描かれていれば、明川との情事の背徳感や不毛さがより際立ち、結末から受ける余韻が濃いものになったような気がします。
◆カフェ・ティミディテ
予想を裏切る攻め受け、受けの秘密が面白かったです。市ヶ谷先生のタッチのワンコ系キャラは本当に愛らしいですね。落ち着いたカフェのマスターの叶上が、余裕たっぷりに久岡を愛でるところに萌えました。
「けむにまかれて」が好きなので、市ヶ谷先生の他の作品も読んでみたくて読みました。
受けの葬式から始まる、なかなかミステリアスでインパクトのある作品。そこから攻め視点で過去に遡るという構成で、「なぜ彼は死んでしまったのか」という謎解き風に話は展開する。
以下ためし読み以降の内容に触れるネタバレなので一応改行します。
肝心の真相がなんとも…。
なんのどんでん返しもなくそのまんま。
思わせぶりに引っ張っておいてこれは、とズコーとなってしまう。
死ネタバッドエンドはわかっていて読んだのでまあいいんだけど、無理だったのは、受けが「愛人」だと言っていた弓越というキャラと受けの関係が、物語序盤に想像してたよりずっとちゃんとした関係だったということ。
しかもそれがわざわざカバー下(電子でも収録されてたのは本来なら嬉しい)に文章と1Pのコミックで描いてあるんだけど……これいる? 攻め以外のキャラとのアレコレなんて、設定として作者さんの心に秘めておいてくれればそれでいい。
だって、こんなに長いつき合いなら、愛人どころか純愛じゃないの? これって、むしろ愛人だったのは攻めの方だったんじゃ?
本当に後を追いたかったのは弓越さんだったんでは…と思うとなんかスーッと冷めてしまって、残念ながら中立。
同時収録作はフェチもの。キャラに意外性があって可愛いし、明るいハピエン。これは普通に良かった。