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好きな人には、好きな人(オレの父さん)がいました。
kagefumi no koi
初読みの作家さまでしたが、ちるちるさんの作家インタビューでお見掛けして、面白そうだなと思って購入してみました。
内容をざっくりと。すみません、ネタバレしてます。
表題作『かげふみの恋』
アンソロ『背徳BL』に収録されていた作品。
主人公は高校生の悠太。ストーリーは彼視点で進みます。
悠太は、自分の母親の兄である伯父・秋文さんのことが好き。
でも秋文さんは、彼自身の友達でもあり、妹の夫である悠太のお父さんのことが好き。
悠太は、自分には振り向いてくれることのない秋文さんに切ない片想いをしていて…。
というお話。
父親と風貌がよく似ている、という理由だけで構わない。
少しでも自分に振り向いてくれたら、という悠太が健気ちゃんで可愛いです。
秋文さん×悠太の二人は、恋人、というわけではないのに体の関係だけはある。
まだ高校生で、甥っ子の悠太と関係を持つ、という所が「背徳」だったのかなあ。
個人的には「まだ恋人ではない」男の子と関係を持っちゃう伯父さん、という所に背徳感を感じたのだけれど。
『僕たちはまるで誘蛾灯のように』
オメガバースもの。
Ωの砂子くんは発情期を抑える薬が効きやすく、ほかのオメガのように発情期に左右されない体質。
「運命の番」とか、何でも手に入れているαのことが嫌いで、常に冷めた気持ちでいる大学生。
ところがある日、自分ではコントロールできない劣情を引き出されてしまう「運命の番」のαと出会ってしまって…。
自分の気持ちは置いてけぼりで、身体だけ発情してしまうことに反感を持ちながらも、当の運命の相手である森岡くんは常に砂子君の気持ちを優先してくれて。
はじめは「運命」に逆らえなかっただけの砂子くんですが、森岡くんの優しさに触れるにつれ、徐々に気持ちが寄り添っていく過程がとても良かった。
脇役で出てくる森岡くんの友達のαの宮田くんが気になるキャラだったのですが、カバー下が…!
激カワです。ぜひとも彼視点のスピンオフを書いてほしいです。
『あなたは冷たい』
高校生のヒカルは、学校でゲイという事がばれていじめにあっています。
そんな彼の心の拠り所は、かつて家族で住んでいた(今は住んでいない)家の庭に横たわること。
その家には今は別人が住んでいるのですが、その住人・吉岡という人が…、
というお話。
なぜヒカルは庭に引き寄せられるのか、「吉岡」はいったい何者なのか、ヒカルの母親は今どこにいるのか。
そういった謎を解き明かしながら進む展開はさながらサスペンスモノのようでした。
『嫉妬と支配欲の共生論』
カメラマンの都倉は男女問わずモテモテな男性。
その都倉がある事情から男性とキスしているところを学生時代からの友人である亘理に見られて。
「男も恋愛対象になるなら、自分と付き合ってほしい」と亘理に告げられた都倉は「なんでもいう事を聞くなら」という条件のもと亘理と付き合うことになるのですが…。
学生時代、何事にも亘理に勝つことができずコンプレックスを抱えてきた都倉が、その憂さ晴らしのように亘理を抱いたりするシーンにちょっと萎え萎えだったのですが、実は都倉も亘理のことがちゃんと好きで、という。
何をされても従順に都倉の言うことを聞く亘理が可哀想だけれど彼が幸せそうだから、まあいいか、というお話でした。
『今度は幸せになろうね』
ボロいアパート。
人形を死んだ赤ちゃんの代わりに抱く若い母親。
ヤクザで人殺しをしてきた男。
彼らが選んだ結末は心中で。
という、なんとも暗いシーンから始まるお話。
そのシーンを見ているのは、高校生の天野。
夢の中で見るそのシーンは、自分の前世だったとなんとなく感じ取っていて。
夢の中で自分が殺した男にそっくりな男に見覚えがあるなと思っていたら、同じ高校に通う久保くんだという事に気づき声をかける天野くんなのですが。
二人とも、夢を見て、それが前世だったという事も理解している。
かつて幸せになれなかった二人。
今度こそ、幸せになろうね。
出だしはかなり陰惨なストーリーですが、現世の天野くんの天真爛漫さがこの話を救いのあるものにしていました。
短編集なのでいくつもお話が収録されていますが、そのどれもが明るく楽しい話ではない。ロッキーさんのちょっと陰のある絵柄がそのストーリーによくあっていて、そこはかとないエロさがにじみ出ているのが良かったです。
どのお話も設定がとても良くて、ストーリーに引き込まれるのですが短編集なのでもう少し読みたいな、という所で終わってるのがまたなんとも言えない余韻がありました。
最後に全てのCPが少しずつ出てくる、『それぞれのハッピーエンド』が収録されています。
基本的には『かげふみの恋』の悠太メインのお話なのですが、それぞれのお話のキャラたちが悠太の高校の同級生だったり、先生だったり、すれ違う通行人だったり、という形で登場してました。
全体を通してシリアスな雰囲気が漂う暗めの話だったのに対し、この描き下ろしはポップな感じの明るいムードなお話で、これ、個人的にとってもツボでした。
短編集ですが、描き下ろしとカバー裏で十分すぎるほどの補足がされています。
本編で萌えなくても、そこまで読んだらきっと萌える。
【かげふみの恋】 萌2
伯父の秋文に片思いする悠太と、妹の夫になった友人にずっと片思いしていた秋文。
父に似た顔を利用して「父の身代わり」でもいいから秋文のそばにいたい悠太に、秋文の言葉がきちんと届かないのがもどかしい。
「似てる?」という言葉に対して、秋文は似ていないところを挙げる。
「おれのことも好きになって」と言う悠太に、「あいしてるよ」と言う。
悠太がこの言葉を「伯父だから」「リップサービス」と思わずに、ちゃんと信じられるようになるのはいつになるのかなあ。
ラストの秋文の独り言に、深い愛を感じます。
【僕たちはまるで誘蛾灯のように】【籠の中】 萌2
Ωというだけで恋愛も将来も制限されることが嫌で、αに負けない頭脳を身につけて、対等であろうとする法学部生・砂子(さこ)。
そんな彼が大学構内で森岡とすれ違った瞬間、「運命の番」だと知る話。
森岡に対する砂子の気持ちが「反抗/嫌悪」から解されていく過程が素敵です。
森岡が優しい。
ヒートが起きたときの砂子の叫びが切ない。
「モリオカがいなくても薬があれば生きていけた お前に捨てられたら俺はもう生きていけなくなる」
この一言がすっごく良い!
『しあわせに満ちた夜の庭』のα同士のCPが、森岡の友人として出てきます。
【あなたは冷たい】 中立〜萌
同性に告白したせいでいじめられているヒカル。
昔住んでいた家に行ってみたら、そこには吉岡と名乗る人間がいて…。
ちょっとオカルトっぽくもあり、囚われていた魂の解放的なイベントもあり、という不思議な話。
種明かしされても、吉岡の行動がよく分からなすぎて困惑。
【嫉妬と支配欲の共生論】 萌
学生時代からの友人・都倉が同性とキスしているところ見てしまった亘理。
男が大丈夫なら俺じゃだめかなって言うんだけど、都倉が分かりにくい。
「何をしても敵わなかった相手に対して優位に立つ自分」という立ち位置を手に入れたところで、結局は結果的に相手が望んだ状態になるという矛盾。
その矛盾が起こる理由は、都倉が自分の気持ちを自覚するまでわからないんだろうなあ。
【今度は幸せになろうね】 怖
悲しい最期を遂げた夫婦の妻だったという前世の記憶がある高校生・天野と、夫にそっくりな顔の同級生・久保。
記憶が天野に「久保が生まれ変わり」だと告げてくるけど、これ、久保目線で考えたらすごく怖い。
【それぞれのハッピーエンド】 萌2
悠太を軸に、すべてのCPが繋がったり、すれ違ったり。
こういうの、好きなんだよなあ。
悠太とヒカルは同級生。吉岡は当然悠太の先生でもあって。
駅ですれ違うのは天野と久保。
悠太の両親は森岡×砂子の回に出てきたα同士のCP・宮田の両親と知り合い。
秋文迎えに行った駅で悠太がぶつかるのは、亘理。
亘理も都倉の影響でカメラを始めたっぽい。
秋文の深い愛に乾杯。
◆かげふみの恋(表題作)
好きな人には好きな人がいた。自分よりずっと年上の叔父に不毛な恋をする高校生・悠太。そこまで分かった上で、この若さで積極的に迫る勇気があるのがすごいなぁと。父に似ている自分の容姿すら、利用する。お互い何も隠していない関係性ですから、そこに第三者が口を挟む隙はないですね。勢いを落とさず、伯父を射止めた悠太に素直に感心しました。
◆僕たちはまるで誘蛾灯のように / 籠の中
オメガバースもの。短編のオメガバースってあまり読んだことがない気がして、このページ数の中でがっつり読者の心を掴んでくるロッキー先生の技量に唸らされました。運命の番に抗いたがっているΩも王道といえば王道だと思うのですが、静かに語られる繊細な砂子の心情にはとても共感しました。そんな芯のある砂子に、まったく挫けずアプローチするαの森岡がまたイイ攻め。じわじわと砂子の懐に入り込み、真綿でしっかり彼の周りを包み込んでいくような迫り方が最高でした。
◆嫉妬と支配欲の共生論
これも予想外の展開で良かったです。カメラマンとして成功している都倉と、ずっと彼より優秀だった同級生の亘理。再会後亘理から告白されて、都倉は応える代わりに緊縛や撮影を受け入れることを強いる。亘理の見た目が攻めっぽかったので、彼が縛られて下になるのに萌えたのと同時に、ずっと自分の上だった亘理を都倉が搦め捕ったように見えて、実はまた亘理の手中で踠いているだけのような複雑な関係性に魅せられました。
◆今度は幸せになろうね
これはもっと読んでみたかった! 転生ものなのですが、古い時代から転生したわけではなく、死んですぐ生まれ変わったくらいの設定なのが斬新で。もう人を殺したくないと言った夫の最後の望みを叶えた妻。悲しい最期だったけれど、心底愛し合っていた夫婦だったんだろうなと。そして2人は、現代の高校で同性の同級生として出会う。本当に素敵な導入で、前世の記憶を持つ2人のこれからをもっと見守りたくなりました。
アンソロテーマ内でとても綺麗に話がまとめられています。
ロッキー先生の美しい絵柄と相まって、どれも少し薄暗いというか排他的であり、彼らだけの世界で完結しているところが最高です。
〇背徳BL-かげふみの恋-
年上×年下の背徳感がたまりませんでした。
受けは恋に一直線な様子で、年下らしく躊躇しているおじさんとの壁を飛び越えていきます。
背徳感を強く感じていたのはおじさんの方でしょう。
さらにこの物語をより濃くしているのは、”おじさんは受けの父親が好き”という部分。ここがあるにも関わらず、おじさんの本心が見えないところがミステリアスでした。
最後のおじさんの「今度は手放せそうもない」は背徳の極みです。
〇発情BL-僕たちはまるで誘蛾灯のように-
大好きなCPです。
大学構内で出会い、お互いに運命とわかり、悩み受け入れる話。
過程としては王道ですが、オメガバースならではの”理性と本能”の葛藤がしっかりと描かれています。
αはぐいぐい行きますが、ちゃんとΩを尊重し彼の気持ちが整うまで待つことができる男です。
Ωは”αに出会わなければ普通に生きていけたのに”という気持ちの葛藤があり、”望んでいないのに本能は求めている”というところに苦しみます。
苦しみながらも受け入れるΩと、その気持ちを理解していて包み込むαの有能さに萌えました。
〇オメガバース×BL-籠の中-(発情BLの続き)
”うなじを噛まれるかペアの指輪をつけるか選べ”とαに言われたΩが、それを決断する過程が描かれています。
別のα×αカップルとの関わりも交えながら、しっかりと悩んで最終的な結論を出すまで。
”本能がαを求めることは止められないと理解していて、心までもαへ向かっていることに戸惑っている”というΩ。
言葉で表されることは少ないのですが、彼らの表情から心情を読み取ることができ、ちゃんと好き合っているんだなとわかります。
〇怪談BL-あなたは冷たい-
怪談だけれどホラーというよりは薄ら寒い雰囲気。
昔住んでいた家の庭に母親が埋まっていると信じるヒカルが、そこに住んでいる現住居人の吉岡と交流する話。
情報が少ない分、”怖い”という気持ちが増します。
〇性癖BL-嫉妬と支配欲の共正論-
緊縛とカメラとプレイが絡み合ってとても濃いです。
友人として付き合ってきていた2人の関係が変わるはなし。
これからどうなるんだろうと気になる終わり方でした。
〇描き下ろし-今度は幸せになろうね-
短篇なみの長さがまるまる描き下ろし。
前世で夫婦だった2人が転生して、高校生の時に出会う話。
前世が悲惨だった分、今世では幸せになって欲しいと感じた話でした。
描きおろしでそれぞれの小話とその後を読むことができます。こういうの好きです。
町中をすれ違っていく彼らは皆ハッピーエンドを迎えていて良かった。
1冊でそれぞれ変わった表情の話を読むことができるのが短篇集の魅力で、ロッキー先生の描かれる雰囲気が最大限に活かされている話ばかりです。
ぜひその世界観に触れてみてください。
『しあわせに満ちた夜の庭』が大好きで、そちらに登場する脇役のお話が収録されているのを読みたくて買いました。『しあわせに〜』の2人が登場するシーンがあって嬉しかった。ロッキー先生が好きな方には、一貫した雰囲気がしっかりあるので、迷わず買って良い1冊でしょう。
短編集です。ロッキー先生は細かな部分は曖昧なまま余韻を残して作品を描かれることが多い。それがハマるときもあり、もう少し情報欲しいなってときもあり、今回は後者でした。巻末の描き下ろし(多分)やあとがきで補完されてるところも多少はあれど、個人的に短編作品はそういったところ抜きにして完結していて欲しい。「共生論」の「絶対嫌だったのにおれた人」が自分としては本編の理解を揺るがすネタだった。結局折れてるじゃないかという。君もなんだかんだそれで幸せじゃないかという。ひょっとしたら幸せになれたからこそ、縛られる側を受け入れられたのかもしれない。そんな、自分にとっては深い一コマ。