お買い得商品、セール品、中古品も随時開催中
シリーズ第4部の4冊目は外伝集です。通しで20冊目になります。
《出版社あらすじ》
彼は自殺志願者のように思いつめた、どう見ても死にに行くとしか思えない顔つきをしていた。その彼と再会したのは、若手指揮者たちの登竜門であるヤーノシュ記念コンクールの第一次予選だった。──ハンガリー国際指揮者コンクールでの、圭の孤独な戦いを描いた表題作他、「ある革命」「懺悔と花束」など全八編を収録した待望の第4部外伝集!
収録作
・その青き男
・ブロンクス便り
・知り過ぎたEの悲劇
・ミッドサマー・パーティー
・モーツァルト日和
・ある革命
・休日
・懺悔と花束
「その青き男」は、音楽評論家のマルチェロ・パルニーニ視点によるヤーノシュ・コンクールの話で、証言編です。読めて嬉しかったです!時系列的には『アポロンの懊悩』の頃で、悠季にセレナーデを捧げて追い返された圭がテルミニ駅のタクシー乗り場に姿を見せるところから始まります。中年男特有のヒネくれ者であるマルチェロ氏は作曲家を目指していた過去がありエミリオ先生とはその頃からの友人のようです。そんな彼が圭に興味を持ち、コンクール予選からずっと追い続けることになります。音楽を志していた者の視点でコンクールの様子が語られるので分かりやすくて面白いですし、圭が「優勝者なしの2位入賞」という結果を「実質優勝」と評されることを厭う理由も判明します。なお、圭の才能と人柄に惚れてしまった氏は、ガラコンサートで悠季を紹介してもらっています。この話が一番好きです。
「ブロンクス便り」はソラくんが悠季に宛てて書いた手紙の内容になっている、渡米後の高嶺とソラくんの様子が分かる番外編です。時系列的には『バッコスの民』でフジミ定演のために圭と悠季がローマから一時帰国している頃の話になります。相変わらずラブラブでホットな2人が見られます。『グラッシュ・シアター』でピアノ演奏して稼ぐ高嶺とそのステージに飛び入り参加するソラくん。高嶺はソラくんのホルン演奏を聴いて何やら思ったところがあるようです。
「知り過ぎたEの悲劇」は遠藤くんの番外編です。時系列的には『バッコスの民』でフジミ定演のために圭と悠季がローマから一時帰国した頃の話になります。ドラムに鞍替えしている遠藤くんは、悠季からメトロノーム試用のアドバイスを貰ったり、知り合った元スタジオ・ミュージシャンの瀬戸さんにゲイかと尋ねてキスされて泣いたりしています。また、ソラくんや悠季のことが好きだというのも窺えますし、圭のことを【ジャイアン桐ノ院は音楽面じゃ凄いのに他は大人気ない】と評しているのには笑えます。
「ミッドサマー・パーティー」は悠季視点による不思議な話です。時系列的にはローマにきて最初の6月です。シェイクスピアの『真夏の夜の夢』のようなお遊び的な内容になっています。圭が持っている『真夏の夜の夢』を読み終えた悠季とイタリア語版の絵本『真夏の夜の夢』を悠季のために買ってきた圭が、夕食に出かけた際に夏至の祭りの人間チェスの駒にスカウトされて・・・という夢と現実とがごっちゃになった経験をします。
「モーツァルト日和」は、石田ニコちゃん視点の番外編です。時系列的には、圭と悠季がローマへ発った後の話になります。ずっと悠季のことを見守ってきたニコちゃんの悠季と圭への愛情を感じる内容です。五十嵐くんと鈴木ヨシコさんのことで話し合ったり(退団します)遊び上手な現コン(飯田さん)とコン・マス(五十嵐くん)の様子を微笑ましく思ったりしています。
「ある革命」は、圭視点による外伝で、圭の初めての男にまつわる話です。【変人倉】のことも少し出てきます。時系列的には圭が高校2年生・17歳の頃です。同級生の宅島勇人(宅島建設の御曹司)に誘われて行った会員制クラブでリッチーと出会い初の男性経験をします。リッチーにゲイとして生きると宣言し、過去に女性から受けた仕打ちを告白する圭。その後リッチーが渡米するまで関係は続き、彼は圭に愛情と温かい思い出をくれました。
「休日」は、悠季視点で、息抜きのため圭とウィーンで過ごす話です。圭が常用しているイタリア製コロンの話から、悠季は圭に、それを最初にプレゼントしてくれたウィーン遊学時代の恩師マエストロ・キルヒナーの夫人ラミアさんを紹介されます。ラミアさんの「圭が素直になれる人と出会えて良かった」という言葉に涙ぐむ悠季。けれど森の散策中に、圭がワルツの特訓を受けた人はキルヒナー氏の愛娘マリアさんであることが発覚します。圭は彼女とはやましい関係ではなかったと言いながら何も語りたがらず、圭の気持ちを察した悠季は問い詰めることをやめます。そして緑の中でホットな時間を過ごす2人です。ちなみに、圭とマリアさんのあれこれは「フィンランディア」(『フジミ・ソルフェージュ』収録)に書かれています。
「懺悔と花束」は圭視点による外伝で、節操なしだった頃の自分の愚行を後悔して懺悔する話です。時系列的には圭の日本帰国により2人が別居生活に入る少し前のValentine's Dayで、舞台はウィーンです。悠季の26歳の誕生日を一緒に祝えなかった圭は、Valentineも兼ねたお祝いの用意をしていましたが、アパートに届いたのは圭が悠季に贈るために注文した白百合の花束ではなく圭宛の赤いバラの花束が7つ。しかもコンサートとディナーを終えて帰宅するとリビングには7人の悪漢たちが。8人が全裸で写っている写真を前に圭は7人を相手に犯した愚行を悠季話して懺悔します。悠季は自分と出会う前のことは責めないと言って自身の肖像画をプレゼントしてくれます。誰に描かせたのかを問い詰めている圭ですが、これを描いたのはサルディーニャの別荘で知り合ったエミリオ先生の友人だと思われます。
表題を含めて8本の短編が収められています。
すごくお得な一冊です。
総ページも350ページを超えます。
一話一話が楽しくて、あっという間に読んでしまいました。
「その青き男」は、ハンガリー国際指揮者コンクールでの圭の戦いぶりを音楽雑誌記者の目を通じて描いています。本選まで残った圭の、力ずくでオーケストラをねじ伏せるシーンが圧巻でした。
「ブロンクス便り」はニューヨークで暮らす圭のライバルのピアニスト・生島高嶺と恋人ソラくんの楽しい音楽生活と成功を、ソラ君の語りで楽しめます。
「知りすぎたEの悲劇」は富士見交響楽団のパーカッション担当の遠藤くんのちょっと刺激的な過去の話。
「ミッドサマー・パーティー」は、圭と悠季が見た夢のお話で、ちょっとエッチが刺激的。
「モーツアルト日和」は富士見交響楽団の良心、喫茶店のマスター石田国光こと、ニコちゃんのお話。五十嵐君の相談に乗ったり、イタリアに渡った悠季のことを心配したりと、ほのぼのしたストーリーになっています。
「ある革命」は圭が高校2年生のときの、ゲイデビューのお話。まだ若い圭の苦悩、そしてその救済が描かれています。
「休日」はウィーンの森で休日を過ごす圭と悠季のラブラブなお話。みんなが見ているかもしれないのに木陰に隠れて・・・という刺激的なシーンもあります。
「懺悔と花束」はバレンタインの日に圭に送られてきた花束をめぐる騒動を描きます。とんでもない自称・友人たちに、プッツンきれちゃう悠季が楽しいです。
どれもこれも、楽しく読めて、とってもお得な一冊でした。