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ibara no ousma
物語はBLあるあるの様に淫靡では無く。意外にも深淵なるテーマを孕んで終息して行く。
「美」とは。ただそこにあるだけで完全なる「正」なのだ。
小石川あお先生の物語は、寓話的なメッセージを込めて愛を語るのだろうと予想していたんだけど。これはそれよりも些か哲学的、文学的な匂いもしていて。つまりはやはり、少々難解だ。
幾つか枝分かれして行く結末が予期されたので、ハラハラして読んだのだけど。
多分中でも一番優しい結末なんじゃないだろうか。
黒田に絢の母親を探して欲しいと依頼したのは、母親に横恋慕する店の客の1人だった。
つまりはモブだ。なんだー、である。モブは妻にホステスに執着している事がバレて、叱られたというので。捜索を打ち切ると言われる。
しかし、黒田は上司の制止も聞かず、個人的に事件を追って行く。
当主は、妻では無く、その連れ子である絢の美貌に幻惑され執着したのか。他者を支配してしまう程の美。黒田はいつのまにか自分もその美に支配され、ハマって行く。
ここまでは想定通り。
ただ、当主は美しい連れ子を愛してはいたが、そこに淫靡な禁断感や誘惑は無くて。
彼は自身が美しかった若き日々の憧れを持って、絢に投影していただけだったのだ。
身体も思うように動かなくなり、やがて老いて無くなるというその美。青春を謳歌する様な絢の美しさに、老いた身体の辛さや苦さを束の間忘れられていたのだ。
ここは、三島由紀夫の「終わりの美学」を彷彿とさせて、「青春の終わり」を思い出させる。完全な美とは美しさの真っ只中で終わる事だと。
それは不吉な予感を漂わせる。
事件は、ある眩しい光の射す午後。帰宅した絢を出迎えようと急いだ当主が階段から足を踏み外したという、まるっきりの事故だった。
窓から外を見ていた黒田は真相にたどり着く。黒田の口元のアップはとても不穏で。
そのカットは読み手側をゾッとさせる。
絢が幼ない頃、黒田は絢と出逢っていた。愛情に飢えていた子供と、やはり複雑な家庭で育った黒田の、血の記憶。黒田は、この時から我知らず絢に魅せられていたのかもしれない。
前当主と絢の間には、ただ憧れと思慕しか無くて。当主の遺産を母と奪い合うというゲームだったと絢が嘯くよりずっと。事実は優しくて。絢はこの棘の家を、短い間の親愛の想い出を。後に守り遺して置きたいと願うのだった。
描き下ろしには、恋多き母親がまた新たに恋をして、絢には双子の弟妹が出来る。絢は弟に棘の家を遺そうとしている、というところで物語は終わる。
その傍らには黒田が優しく寄り添っている。
ここまで読んで。やっとホッと胸を撫で下ろす。黒田は美に支配されたのでは無い。
絢も眩惑したのでは無い。ここにただ対等に愛情を寄せ合う恋人同士がいるだけだ。
この物語は不穏に終わらせる事も出来たし、血塗られた悪に染めても良かった。死ネタにだって出来た。けれど絢の美を無垢なものにして昇華させた作者の温かさにジワリ来て。
この物語の帰結はやはりこの一択だったと思わずにはいられない。
これはもはやBLですら無くて。美を巡るミステリーでもあり、人の生を語る文学なのかも。
同時収録は、絢の幼馴染み、秋さんのスピンオフ「放課後の道化師」
秋さんだけは、絢の美しさに眩惑されないもの、と私は決め付けていたが。秋さんの初恋はやはり絢だった。ただし、心を律して強い秋さんは、幼ない頃に失恋を脱して以降、絢の親友という立場にずっと居て。その事がとても心強い事には変わりない。
そんな秋さんの気持ちに気付いて、惹かれて行く保健医・白川。
結果的には白川と恋をする事で、秋さんの失恋は癒えていく。保健医と生徒、という立場にモダモダしていた白川をその大きな愛情で救う秋さんはやっぱり男前。
この2人も描き下ろしで数年後、仲睦まじい姿を見られて幸せ。
秋さんは養家の病院を継ぎ、男らしい鷹揚さを見せていて。その側には白川がいる。
この物語の中で一等男前なのは、秋さんじゃないかな。
上巻は謎めいていて、
母探しに協力している黒田の正体と
養父の死の真相と
魔性の女と言われている母の真相と
絢はいったいどういう子なのかと。
これどうなるのと思っていたけれども、上巻のラストで行方のわからなかった母も見つかって、黒田の正体もわかって、話は絢と黒田の物語へ。
下巻では黒田の目的が何かと気になりつつ読み進めていけば。
養父の死の真相と上巻で出ていた魔性の女の真相が。
絢はただたださみしいだけの子供で。
自分ではわからずに無自覚に周りを虜にしてしまうような子供でもあるんだけれども。
魔性の天真爛漫といった感じでしょうか。
でも、絢はただのさみしいだけの子供でもなく、ひとりで頑張ろうとしているとこもあって。
そして黒田の目的は当初はいなくなった母を探してあげようと思っていたのが絢に惹かれずにはいられなかったって事でいいのかな。
黒田は過去に絢と出会ったことがあって、その頃から何か惹き寄せられるものがあったのかもしれないなーとも思いました。
描き下ろしの「棘の王子様」でその後のふたりが読めてすごく良かったです。幸せそうでたまりません。
歳の離れた絢の双子の姉弟が微笑ましかったです。
絢の幼なじみの秋さんと保険医の「放課後の道化師」もこれまた好きでした。
この本はなんかレビューというか感想がうまく書けなくてすみません。
でも、なんだかとても好きな本でした。
謎はわかった。
けど、ふうん。という感想です、スミマセン。
美しい親子、余命少ない義理の父。父の死と借金。そろそろさがす遺言書。そんなにあのお屋敷が大事なんですね。
そして黒田と絢。なにがそんなにお互い?あの日に狂った人生だから?
絢をなぜそこまで泣かせたいの?
足りない二人が求めあってるの?
絢に双子の弟妹ができて。絢は相変わらず美しく愛を振りまいて。
お屋敷の行方をきちんとして黒田の元へ。
棘の王をやっと退位したのかな?
下巻。
ストーリーは義父の死と絢に関連はあるのか?という視点に移り変わり、同時に絢が遭ったという誘拐未遂事件、そこに黒田も何か関係が⁉︎
だから黒田が絢に深入りしていくのか…
しかしそれ以上に絢の心にも黒田が深く入り込んでいて、BL展開も色濃くなってくるわけだけど。
絢の「魔性」が思わせぶりだけどその真相はというと、一つの事象を異なる角度から見ることでこうも違う世界になるのか、という視点の転換。
まず、「魔性の女」と言われた母親の芙蓉子は単に飽きっぽくて子供より恋を取る。だけどごく普通の女性だったということ。
なら真の魔性か?と思われた美息子の絢は、母の相手に自分も好かれたいと振る舞っていただけだったこと。
何より、義父の死の真相も。
財産目当てという疑いも。
クルリと裏返った真相は、愛情と感謝がその底に流れていた…
まあ、後味が良いとは思うけど。思ってたのとは違っていたかな?というのが正直なところ。
それよりも。
下巻の後半は作内スピンオフ的な秋さんと保健医さんのストーリー「放課後の道化師」。
これが良かった!言えない本気を隠す年上受けの色気!
ラストは本編から十数年後?なのかな、の最終編「棘の王子様」。
芙蓉子サンが産んだ絢の弟の視点から。
みんなみんな幸せになったよ。
「棘の王様」自体では中立寄り、「放課後の道化師」と「棘の王子様」全部合わせて総合「萌」で。