ナイトガーデン

night garden

ナイトガーデン
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神103
  • 萌×241
  • 萌16
  • 中立14
  • しゅみじゃない8

--

レビュー数
24
得点
741
評価数
182
平均
4.2 / 5
神率
56.6%
著者
一穂ミチ 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

イラスト
竹美家らら 
媒体
小説
出版社
KADOKAWA(メディアファクトリー)
レーベル
フルール文庫ブルーライン
シリーズ
ふったらどしゃぶり When it rains, it pours
発売日
価格
¥690(税抜)  
ISBN
9784040669052

あらすじ

静かな山の中で祖父と暮らす石蕗柊のもとに、祖父の昔の教え子だという男・藤澤和章が訪ねてくる。このまま一生山を出ずに生きていく、そう思っていた自分はなんて狭い世界しか知らなかったんだろう……生まれてはじめて触れた人の肌の熱さに和章への想いを自覚する柊。だが彼の瞳はいつも柊ではない“誰か"を見ていた……。「ふったらどしゃぶり When it rains, it pours」から一年、消えない傷を抱えた和章の愛と再生の物語。

表題作ナイトガーデン

休業中のプロダクトデザイナー,28歳
植物園のアルバイト,21歳

同時収録作品ブライトガーデン

プロダクトデザイナー,28歳
植物園アルバイト,22歳

レビュー投稿数24

棘を抱えて生きる

帯には三浦しをん氏の「一穂さんに、また泣かされた!」の文字が……
読後の感想を一言で言うと、確かにそうとしか言えない。
大好き故にどうしても評価が辛くなってしまう一穂作品なのだが、
ああ! 竹美家さんの挿絵も美しいこの新たな傑作を
どんな言葉で表現すればいいのだろう……?

『ふったらどしゃぶり When it rains, it pours』を読み終わった時に、
「和章をにも幸せを!」と願った人は多かったことだろう。
そんな読者の声に応えるスピンオフ、和章に新たな世界が開ける物語。

               *  *

前作は、雨の音がずっと途切れずに響くようなそんなイメージだったが、
こちらは静かな緑の匂いがするような世界。
それは、雑物を排して無機的な美の世界に生きる和章とは対象的だ。

整と別れ、後悔と罪悪感の中自らを罰するように生きている和章は、
仕事ができず、眠れず、という状況に陥っている。
そんな状況を、自らしでかした事の報いと淡々と受け入れていた彼は
かつての恩師・石蕗の元で書庫の整理を手伝うこととなり、
そこで石蕗の孫でその地の植物園でバイトしている柊と出会う。
まだ若いのに、何か訳があって両親とも離れ祖父と暮らす柊は、
ドイツ人の祖母の血が色濃く出た深緑の目と金茶の髪を持っている。


何もかもが対照的に見えながら
実は共に傷を負っていた臆病な二人が、少しずつ触れあっていく。
その行く手を照らすのは石蕗の叡智だ。
優しく深い彼の眼差しと言葉に支えられるようにして、物語が進む。
そして……

梢を渡る風のそよぎやページをめくる音、鼓動さえも聞こえそうな繊細な言葉が連なり、
決して一言たりと読み飛ばせないような物語が続く。
過去に囚われ閉じて暮していた二人がゆっくりと惹かれ合い
そしてそれぞれの棘を認めてそれが包まれ、心が解き放たれていく様に、
胸が締め付けられ、知らず涙が流れる。


途中整が登場するのだが、決してもう会う事のない幼馴染み二人の絆の強さ!
想いを残す、とか新たな恋人への不実とか、そんな次元ではない
修羅場や痛みや葛藤を越えて辿り着いた、人と人の深くて誠実な繋がりにも
感動を覚えずにはいられない。
それぞれの人生を変えた、それぞれの事件。
人にとっての「心の真実」や「罪」という真摯なテーマが
容赦なく抉り出されながら、
そんな困難な思いを抱えながら生きていく人々への暖かな視線に
心が光で満ちていくような感覚を覚える。


書き下ろしの『ブライトガーデン』は、それから暫く経った二人が
本当に光の中に歩み出す物語。
仕事を再開した和章が作ったグラスのシーンでは、再び泣いてしまった。
後書きのSSも、植物の神秘に準えて人が生の根源に触れる美しい話。


ところで、一穂先生が描く最近のHシーンには、
力作だが乗り切れない思いがあったのだが、これはすごく良かった!
不器用な和章の中に抑えて秘めた熱が溢れ出す様も、
柊の若くてまっすぐで無垢な様も、本当に愛おしい。



※新島ガラス
 http://www.niijima.com/kankou/niijima/active/2014-0313-1003-90.html

※『In The Garden』
 web連載中、最終回を前にした2014.5.13の作者のブログに
 http://ichimichi.exblog.jp
 石蕗邸からの帰り道の整の話が載っている。
 これがまたいいので、未読の方は是非お読み下さい。

 『ミッドナイトガーデン』
 2014.7.15の同じくブログに、おまけ短編も載っています♪


27

Krovopizza

snowblackさま、こんばんは!
コメントありがとうございます。

そういえば、私も初期の作品では
そこまで気になりませんでした>ラブシーン
『林檎』くらいさらっとした描写の方が
読みやすいし萌えるのにな~と時々惜しく思います。

和章はフェチ傾向強そうですよね!
ブログSSでは、匂いフェチにも思えて…。
何にせよ柊限定なのでしょうね♪

あ、レビューでは触れませんでしたが
整の登場もすごく良かったですね!
あの一気飲みシーン、
整の優しさが感じられてとても好きです。

yoshiaki

snowblackさま

コメントありがとうございます☆彡 さっそく読んでしまいました(*'ω'*)
とても素敵なご本なので、書きたいことがたくさん湧いてきますね。
私はヤンデレ好きなもので、ついあらぬ期待をしてしまったのですが、蓋を開けてみたらこれ以上なく一穂先生らしいやり方で和章を蘇らせた作品!
「一穂さんに、また泣かされた!」(帯)というよりも「一穂さんに、また一本とられた!」という感じです。
しかし手練れであるらしい和章が一体どこで勉強したのか、それだけでも教えていただきたかった・・・案外、実践じゃなくてゲイビかもしれませんけどねw

snowblack

yoshiakiさま、こんばんは、
コメントをありがとうございました。

和章が気になっていらしたとのこと。
これは彼の再生の物語ですが、読むと改めて「ふったら〜」では脇役だった彼が
何を思い何を考えていたかが見えて来て、前作への思いも深まります。
お勧めです。



yoshiaki

snowblackさま

これ和章の話だったんですね。
私も「ふったらどしゃぶり」では和章が気になってしまった一人です。(病みBL好きの私としては一番惹きつけられるキャラでして)
和章と整の息苦しい過去の関係を読んでみたい・・・と思っていたんですが、こちらは和章のその後のお話ですか。
でも、あの彼がどんなプロセスを経て新たな一歩を踏み出せたのか・・・
面白そう。これは読みたいです。

スピンオフの枠には収まらないくらい、とても大好きな作品。

一穂さんの作品の中では「雪よ林檎の~」や「ふったら~」がとても有名ですよね。自身も「ふったらどしゃぶり」を読んで一穂さんの虜になりました。でもこの作品を読むまでにはしばらく時間がかかりました。
というのも、「ふったら~」の和章(攻)があまり好きな人物像じゃなかったから。

でも、少し時間を置いてから読んだからでしょうか。
「ふったら~」よりも、こちらの作品のほうがハマってしまい、何度も何度も読み返すほど好きな作品になりました!
ストーリーの視点が変わると人物の印象までがこうも変わるもんかと・・・!改めて一穂さんてすごい作家さんだなぁと思いました。

前作では語られなかった和章の抱える闇や罪悪、そして和章は本当はとても情熱的で優しい面があるんだなと驚きました。自分の中で勝手に結論付けたり、好き=執着型なのは変わらないけれど(笑)
前作も今作もずっと過去に囚われながら生きてきたけれど、柊と出会えたことで、過去の痛みとともに生きていこうと思えた和章に読んでいて涙がでました。
受けの柊もとってもいい子。実は柊も過去に受けた傷をずっと抱えて生きてきたけれど、和章と出会えたことで人と愛しあうことや新しい世界に飛び出す覚悟ができた。
出会うべくして出会った2人なんだなあと思いました。

8

前作以上に好き

一穂先生の作品とは相性が悪いのですが、フルール文庫の作品だと何故か相性が良いので不思議です。
同じシリーズだからかな。
前作は、奇を衒った内容ではないのに今までに読んだ事のないBLだと感じ衝撃を受けたのですが、今作はジワジワと染み渡る感覚でした。
柊の魅力によるものでしょうか、前作以上に今作が好きです。
とにかく柊に魅了されました。森そのものみたいな子ですね。マイナスイオンを放っていそうです。
整への負い目や後悔で頑なだった和章が、自分で自分を幸せに出来るようになるのも良かったです。
それから、柊の祖父がとても素敵でした。

今作を読んで、花の咲かない季節の木々にも注目したくなりました。
ヒイラギモクセイや抗火石のガラスも検索してみました。
「ナイトガーデンシリーズ」は、整が見たら何をイメージして作ったのかバレてしまいそうですね(笑)

竹美家らら先生のイラストもピッタリで、相乗効果で素敵な作品でした。

7

整と交わした約束のゆくえ

「俺を支えてくれた力で、ちゃんと自分を幸せにしてほしい」
整が和章のために残した約束のゆくえはー。

藤澤和章は変な人だ。(変=普通と違っているさま)
手先が器用で、小学校の頃作った貯金箱で総理大臣賞をもらい、
プロダクトデザインの仕事は顧客の心を掴み成功をおさめている。
けれど本人は自分が欲しいもの、使いたいものを気ままにつくってきただけでそれに一定の需要があっただけだという。
テレビがきらい。ビニール傘・煙草・生成りか白以外のタオルやリネン・
無地じゃない洋服(ワンポイントも駄目)・写真や絵入りのカレンダー・
携帯ストラップ全般・隙間収納用品・突っ張り棒・フェイスブックがきらい。
あやふやや曖昧、社交辞令がきらい。他人に無関心だが、まじめで融通が利かない。潔癖で頑なな自我を持ち、低体温で平坦・・・。(ふったら&本作参照)

そして、ずーーーーーっと半井整が好きだった。
和章は自分が嫌いなので、好きなものは自分よりも大事。
整をイメージして製品を作っていたので、別れて以来制作活動は停止。
整を傷つけた自分自身を許せないし、許したくない。

しかし石蕗柊と出会って和章は変化していく。

石蕗柊は可愛い。
金茶の髪と緑の瞳。基本的にポジティブで素直。心優しい。
祖父と植物が大事。
頭で考えるより、身体感覚を尊重する野性的な面をもつ。
無防備で、世間知らずな青すぎる潔癖を内包している。
和章のにおいに反応したり、嘘を見抜いたり、
信頼した人には一切警戒せず、まっすぐに信じる強さがある。

石蕗次郎も藤澤和章も柊に好意的な視点なので、その可愛さが尋常じゃない。
好きになりたくないと思っていても抗えなかったのは無理もないと思う。
(恋に落ちた和章の甘さは予想を上回る糖度、柊の羞恥と素直さに悶絶)

約束は守られ、整には一顕がいて、和章には柊がいる。
裏切りと別れによる悲しみ、許しと出会いの喜びが詰まった一冊。

7

スピンオフありがとうございます!

前作からフルールで楽しみにしていた作品です。
ふったらどしゃぶりも好きですが私はナイトガーデンの方がもっと好きです。
柊と祖父との繊細で暖かい関係が大好きだったので、突然の死にリアルにショックを受けてしまいました。
WEBで読んでショックを受け、文庫化で読んでもやっぱりショックを受けてしまいました。

作品を通じて厳かで透明な空気に心があらわれるような気持ちになります。
竹美家さんのイラストもとても素敵です。

4

ナイトガーデン(和章作)が見たいです

ふったらどしゃぶりでは私の中で好感度低いキャラベスト2だった和章と、金髪碧眼の山籠もり系(?)男子柊くんのお話です。
読み始めて最初に感じたことは、 和章って、こんな人だったんだ… ということです。 同じく一穂作品の、「雪よ林檎の香の如く」と「meet,again.」に出てくる栫さんと(人間っぽくないという点で)タイプが似てる…といいますか。
ふったらどしゃぶりでの和章は、(セリフだけでしたが)人間らしかったと思うのですが、全然温度がない和章。 やっぱり幼馴染との関係が切れて壊れてしまったのか… と考えながら読み進めていきました。
一方柊ですが、ほんと登場からかわいいったらありゃしない。 山の上から滑って出てくるなんて天使が降りてくるみたいだな、と。
さすがに温度がない和章も驚くよなあ…。
今回も竹美家ららさんの挿絵がまた良い雰囲気を出してくれていて…、特に時計を直すシーンの挿絵がとても素敵でした。いや、あのシーンの挿絵もこのシーンの挿絵も… と言い出すと止まらないのですが。
ふったらどしゃぶりよりも好きかもしれない、と思えたのは紛れもなく前作があったからこそなので、このお話に前作があってくれたことがとても嬉しいです。
和章についてですが、ふったらどしゃぶりの中では本当に悪い人だと思うのです。でもあの一連の行動にも和章なりの根拠や葛藤があって、ナイトガーデンでの人間っぽくない和章を作り出している。
そしてナイトガーデンの和章もまたやっぱり色々考えていて、そこに柊が入り込んできて働きかけていったことで、和章は自分の前科に恐れを抱きつつも、幸せになれたんじゃないかなあと思います。
それは柊においても然りなのですが(被害者と加害者という違いはありますが)。
とにかく、整も平岩も(たぶん一顕も)元気で良かった~。 やっぱり大団円が好きです。幸せな気分をもらえました。

4

良かったです(^_^)v

前作「ふったらどしゃぶり」を読んでみて面白かったので、すぐに後作「ナイトガーデン」を読み始めました。
前作の主人公たちがとても好きでしたので、今回はどうだろうと心配しましたが杞憂でした。
むしろ和章のことがよく理解できるようになり、今ではこちらの作品の方がより好きになりました。
和章は寡黙でちょっぴり冷たいイメージです。
例えば花をキレイと感じる情緒がなかったりします。
でも本当はとても繊細で優しい心を持っています。
たぶん生きることに不器用なんですよね。
そこのところ、今回の主人公である柊とその祖父が上手く接してあげてくれたなー、と思いました。
柊と祖父ですが、とてもよく似た二人です。
二人とも第三者から濡れ衣を着せられ、それに対し真っ向から対立し戦う道もあったはずなのに、逃げるという選択をします。
ここのところ、欧米人には多分受け入れられない感覚じゃないかなーと思いました。
戦わないで逃げるということはそのことを認めることになってしまう、そういう意味で欧米人は逃げたり自殺したりを好みませんもんね。
もっとも相手のあることなので、自分が濡れ衣だと騒げば、自分を陥れようとした人たちが逆に世間から白い目で見られる、そういったことを良しとしない、本当に心の優しい祖父と孫だったんだろうなー。
そう考えていくと、そんな人間を描ける作者様の優しさをつくづく感じずにはおれません。
今後お気に入りの作家さんということで、電子書籍化されてる本のみですが、全て読みつくして行きたいなと考えております。
祖父は他界してしまいましたが、和章と柊は幸せになれて良かったね。
素敵な物語を有難うございました。

3

人間は、変われないからこそ愛おしい。

「ふったらどしゃぶり When it rains, it pours」のスピンオフ。
「ふったら~」では整(受け)の同居人だった和章(28)の、その後の物語です。
前作では、交通事故で両親を失った整と同居し、お互いに愛情を持ちながらもセックスレス・・・といういびつな関係を続けていた和章。
その結果、整はもう一人のカズアキ(一顕)と恋に落ち、和章の元を去ります。
抱いてほしいと懇願する整を、子供をなだめるように穏やかにかわす和章。
整が他の男と一夜を過ごしたことに激昂して、むりやり整を犯す和章。
「ふったら~」では、そんな歪みと矛盾に満ちた和章の行動が印象的でした。

あの和章が、新しい恋――?
私がこれまで読んだ一穂作品には登場しないタイプの病みキャラだけに、興味をそそられました。
読む前にイメージしていたのは、整との過去を見つめ直し、和章という人間を一旦完全に解体させてからの再生劇。
実は、読み終えた後、竹美家ららさんの「もしも和章が受けだったら」と題したイラスト付きあと書きに出くわして大興奮してしまったんですが、私も、前作の延長線上に和章像を思い描くと、今回は和章受けという展開が面白そう・・・と思ってたんです。
それも、これまた竹美家さんが書かれている通り、一度は「ものすごくやさぐれ」るという、実にBLっぽ~い展開が。
和章は、一度壊れて、別の形で再生する――そういう顛末を想像していたんですよね。

しかし、一穂さんの選択は全く違うものでした。
今作には、和章は「心に棘を抱えた人間」として登場します。
つまり、前作で彼が見せた、歪みや矛盾、それによって整を傷つけ、整を失ったこと、そのすべてが「心の棘」としてさらりと表現されていて、彼の病巣に関しては抽象化して遠景に遠ざけた感じ。
あ、こうくるのか。
和章の病み加減が一番気になっていた私は、当初肩すかしをくらった気がしました。
しかし、読んでいくうちに、そもそも根本から違う方向性なんだなと。
今作の根底に置かれているのは、「人は変われない」「過去の傷は癒えない」という発想です。
和章の根本は、何も変わりません。
よく考えてみると、彼は今作でもまた、同じことを繰り返してる。
「ふったら~」では、交通事故で両親を失った整の面倒を見ることで、整を親族や友人たちから遠ざけ、自分だけのものにした和章ですが、今回もまた、一緒に暮らしていた祖父を失って和章を頼って来た柊(しゅう 21)を抱く。
しかし、今回は整の時のようにこじれることなく、2人は前向きに恋人同士として歩き始めます。
和章は変わらないのに、同じことをしても、うまくいく相手と、そうでない相手がいる。
同じ人間が同じようなことをしても、負の思考に追い込まれていく時と、プラスの循環に乗れる時がある――
その違いを、出会いの奇蹟に帰結させた物語。私には、そんなふうに読めました。
ヒイラギとギンモクセイとが交雑してヒイラギモクセイが生まれたように、出会うはずのなかった2人が出会うことで開かれた、新たな未来への道筋。

和章の病巣を突き詰めるのではなく、変われない彼を、「繰り返しても大丈夫」と勇気づけることで前に進ませるという――
なるほど。
読み進むうちに、当初感じていた違和感が薄れ、一穂さんのいつもながら美しい比喩表現溢れる文章に、心地良く説得されていく自分がいました。

作中に引用されているドイツの諺“Einmal ist keinmal.”は、この物語の中では本来の意味ではなく、やはり柊の間違った解釈「一度駄目でも諦めるな」でいいのでしょう。
それが間違いだからこそ。
そういう柊の前向きな気持ちと既成概念にとらわれない強引さ、若さが、和章を再生に向かわせるために必要な力だったんだと思います。
全て、出会いの奇蹟。
これ以上ないと思えるほど和章にピッタリな相手を巡り会わせた(そう思わせてくれたのは他でもない一穂さんの筆力なんですが)ところに、この作品の魔法がある気がします。

「ふったら~」が情感あふれる雨の描写が魅力の作品だっただけに、この作品の中で雨が降るたびに、前作で感じた情感が蘇ります。同時に、和章の重い過去も――
そういう意味で、やはり「ふったら~」と併せて読むことをお勧めします。

しっかりとBLでありつつ、人間ドラマとしても読ませる作品。
「和章(やさぐれ)受け」というどっぷりBLなアナザー・ストーリーも実のところ捨てがたい思いなのですが・・・そちらは妄想で補完ということで(笑)

17

Krovopizza

yoshiakiさん、こんばんは~!

髪フェチ…は私が勝手にそう思ったなんだけですがw、
あの和章が、自然より何より柊の髪を美しいと感じていたり、黒髪の柊にムッとしていたりするところが
可愛いな~なんて和みました♪

yoshiakiさんのレビュー:「人間は、変われないからこそ愛おしい」に非常ーーーーに共感しました!
和章は整がいてもいなくても幼い頃からあんな性格でw、
ちょっと変わってるけど愛すべき人物ですよね。

聡明で愛妻家な石蕗先生も素敵だし、
柊の若さ、まっすぐさも良かったです♪
柊がこれから大人になっていくところも見てみたいな~~

コメありがとうございました☆

snowblack

yoshiakiさま、こんばんは。

確かに、巻末の和章ヤサグレ受けのイラストは楽しかったですね。
そういう方向性はなかなかにBL的だと思うのですが、
でも私は正直そういう展開はあまり想像していませんでした。

「ガラスがね、白い膜に包まれて丸くなっていてビックリしました。
おばあちゃんの身体が、おばあちゃんを守ろうとして頑張ってくれたから。
もしも棘が抜けなくたって、時間が経てば身体の中で大丈夫になります。」
という一文の含蓄の深さ。

棘は抜けない、というのは悲観なのか、抜けなくても大丈夫という、楽観なのか、
その受け取り方は人それぞれかと思うのですが、
ふんわりと見えて冷徹な一穂ワールドの、地に足のついた力強い人間観に
とても共感を覚え、そして勇気づけられます。

“Einmal ist keinmal”という言葉を、私はM.クンデラの小説で知りましたので、
あの哲学的で思索的なイメージを喚起させられながら読み始めました。
内へ内へと閉じて行く和章の思考を、違う次元に引っぱり上げるような
「一度駄目でも諦めるな」という柊のまっすぐな眩しさ。
そんな存在に出会えた奇跡のような幸せ。
でも、奇跡は起こるべくして起こることなのだとも思えるのが
一穂マジックなのか、あるいは実は人生の真理なのか……。

長々失礼致しました。

   和章達も、整達も、あなたもわたしも、
    Auf jeden Regen folgt auch Sonnenschein!


人に傷つき、人に救われる

『ふったらどしゃぶり』で大変気になる退場の仕方をした
和章のスピンオフ。

読後まず思ったのは、非常に精神的な作品だということ。
ややもすると地味ですが、
脳裏に一面の緑が浮かぶような自然の描写は素晴らしく、
哲学的で繊細な心情描写にも大変引き込まれました。


プロダクトデザインの仕事を休職中の和章は、
大学の恩師で、今は静かな山の中に暮らす石蕗の下で
書庫整理を手伝うことに。
そこで石蕗の孫・柊と出会います。

この作品、和章と柊の視点が入れ替わるのが良いです。
生い立ちも性格も全く違う二人が
惹かれ合っていく流れが分かりやすいし、
それと同じペースで
読者も二人のことを理解し、好きになることができます。

冷たく見えるほど論理的で合理主義な和章は
意外と優しく、内に強い独占欲を秘めた人物。
野生児のような柊は、
天候や人の気持ちの機微を本能で感じとる繊細な子。
うわべだけのお世辞や相づちのない二人の会話は
ときに鋭く、ときに素朴で温かい。
二人の醸し出す空気が
とても心地よく、好きだなと感じました。


作中で何度も登場するドイツの諺"Einmal ist keinmal"

ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』にも
出てくるこの諺が、本書のキーポイントに思えます。

和章、柊、石蕗の三人は、それぞれ過去の取り返しのつかない出来事のために、各々の心に「刺」を抱えています。

それぞれある部分では達観し、ある部分では傷ついている
三人が、互いの存在に少しだけ救われる。
その瞬間にグッとこみ上げてくるものがありました。

和章は、柊の前向きな一言に。
柊は、立ち止まる自分を肯定してくれる石蕗の懐の深さに。
そして石蕗は、おそらく最初で最後の心の叫びを
傍らで聞いてくれた和章に…。

「一度はものの数ではない」ほど軽いからこそ、
人は何の気なしに放った言葉や行動により
誰かの人生を取り返しのつかないほど狂わせたり、
また逆に救ったりもできる。
そんな人間関係の、人生の真理を突いているような
無情なようで希望も感じられる展開が胸に迫ってきます。

和章のスピンオフである以上に、三人の人生が交錯する
群像ドラマとしての面白さ、筆の巧みさに
唸らされた作品でした。


ところで、一穂作品のラブシーン、
いつもは喘ぎ台詞の陳腐さや、状況説明の段取り臭さが
苦手なのですが、今回はあまり気になりませんでした!
和章が最中にペラペラしゃべるタイプではないことと、
世間ずれしていない柊なら、多少女の子っぽい喘ぎでも
まぁアリかなと思えたことが大きいです。

また、ツボだったのは
お風呂上がりに、和章が柊の髪を入念に乾かすシーン。
髪フェチ?ってくらい、
たびたび柊の髪を気にする和章が良いです♪
ベッドでも隙あらば柊の髪に触っているんじゃないかな~と妄想が膨らみました。


前作で和章のその後が気になった方、
繊細な心理描写を求めている方、
静かに思索に耽りたい方にお薦めしたい一冊です。

12

snowblack

"Einmal ist keinmal"の言葉は、印象的でしたね。

ところで、一穂作品のラブシーン、
いつもというよりも、ここ最近の(アイズオンリー以降あたり?)
ちょっと頑張って書きました的な喘ぎやセリフや状況説明が私も苦手だったのですが、
今回は愛おしい気持ちで読みました。

髪フェチは私も気がつきませんでした!
読み返してみよう……
和章って、髪に限らず絶対フェチだよなぁ……とは思いますw


yoshiaki

Krovopizzaさま

こんばんは(^O^)

>和章、柊、石蕗の三人は、それぞれ過去の取り返しのつかない出来事のために、各々の心に「刺」を抱えています。

BLで「3人」というと、カプ+当て馬1名を想像しちゃうんですけど、この作品では受けの祖父が入るというところが独特ですよね。
木の「根上り」に例えられるような柊と石蕗の関係も、素敵。
「ステノグラフィカ」でも老人が重要な役割をしていて、一穂作品には老人へのリスペクトを感じます。
BL的にも石蕗先生、ダンディですよね(*‘ω‘ *)
ちょっと萌えました♪

和章髪フェチは気づきませんでした!
そう言われてみれば・・・なんとなく「らしい」気が。

取り残された方のお話

「ふったらどしゃぶり」で、取り残されてしまった方の和章のお話。

「ふったら~」の和章の印象と、この作品の和章が違うように、
「ふったら~」の整と、この作品で和章が思っている整の印象も随分違う。
本当に弱くて、依存していたのは和章の方だったんだなぁ。
そんな和章が、それまでの生活すべてから逃げ出して、偶然たどり着いた大学時代の元恩師・石蕗の家。
石蕗とその孫・柊のそばで、和章は、徐々に感情を習得していく。
教わって、その名前を知ることで得る知識は、学問的なことだけではなく、
自分の中にある感情も、教わって、その名前を知ることで、そこにそれがあったことに気付く。
それには、高層マンションの中で閉ざされた空調の空気ではなく、草と木と土の生の気配に満ちた、この舞台でなくてはならなかったのね。

4

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