無償の愛情で救われる人間を描き、「ダ・ヴィンチ」誌上でBL界の芥川賞と評された傑作!

箱の中(文庫版)

hako no naka

箱の中(文庫版)
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神169
  • 萌×213
  • 萌7
  • 中立8
  • しゅみじゃない11

--

レビュー数
40
得点
926
評価数
208
平均
4.5 / 5
神率
81.3%
著者
木原音瀬 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

媒体
小説
出版社
講談社
レーベル
講談社文庫
シリーズ
箱の中
発売日
価格
¥724(税抜)  
ISBN
9784062773256

あらすじ

痴漢の冤罪で実刑判決を受けた堂野。収監されたくせ者ばかりの雑居房で人間不信極まった堂野は、同部屋の喜多川の無垢な優しさに救われる。それは母親に請われるまま殺人犯として服役する喜多川の、生まれて初めての「愛情」だった。『箱の中』に加え、二人の出所後を描いた『檻の外』表題作を収録した決定版。

●箱の中
●脆弱な詐欺師
●檻の外

※本書は2006年3月に蒼竜社より刊行されたノベルス版『箱の中』と、同年5月に刊行されたノベルス版『檻の外』表題作を、『箱の中』として一冊にまとめたものです。

(出版社より)

表題作箱の中(文庫版)

同房の受刑者
痴漢冤罪で有罪になった会社員

その他の収録作品

  • 脆弱な詐欺師
  • 檻の外
  • 解説:三浦しをん

レビュー投稿数40

箱の中がすごく刺さりました…

しんどい話が好きです。箱の中凄かったです。求めていたのはこれ!BLが好きと気づいてからBLを色々読んでましたがあまりヒットしない私はこの作品を読んで、これだー!!!となりました。本当に素晴らしい作品です。
ただ、檻の外が…箱の中は最高でした。脆弱な詐欺師もすごく面白かった。檻の外…(作中で)子ども死なせてまで二人は結ばれないとダメなのですか???完全一方通行の話が大好きなのでBLを読む時に必ずしも二人が結ばれる必要はないと思ってる、なんなら失恋エンドも大好きな私としてはくっつかずに終わればいいじゃん!!なんで!!!ってなりました。ここだけどうしても受け入れられません……
それでも箱の中だけでもすごく好きなので好きです!!!!!

1

最高です!

BL小説の中でベスト3に入る神作品です!

お恥ずかしいのですが、BLは、
漫画ばかり読んでおりましたが、この本に出会い、
BL小説の奥深さと、面白さを知り
BL小説にはまるきっかけになりました。

実在するのでは?と思うような
リアルな人物描写と、心の描写の数々に
圧倒されました。

不器用な攻めによる
受けへの並々ならない愛情とその表現の仕方が
胸を打ちます。

この不器用さに心打たれるのは、
人との距離の取り方に戸惑う
暗くも甘酸っぱい思春期を
思い出すからかもしれません。

何度読んでも、
余韻の残る素敵な作品でした。

1

神! BLとは

木原音瀬先生、初読みの作品です。

全体的に物語としての完成度が高く、豚箱から始まるストーリーは惹かれるものがあり、読んでいる手が止まらない程面白かったです。
全体的に暗い作品でしたが、そのダークさに垣間見える喜多川の愛や執着心は純粋ながらも怖いものがありました。
自分的、箱の中と詐欺師編の話がしっかりしていて好きです。
檻の外は少し早足だった印象があり、穂花殺害事件は少しこじつけ感があったのでそこだけ苦しかったです。
でも、それらを抜きにしても神作品でした。
特に 人間の人間らしさは群を抜いて素晴らしいです。
この作品に出会えてよかったです。

追記。
不妊治療を10年続けている浮気相手の嫁に自分の子供を殺害されたり、
麻理子の「友達にも、みんなにも『麻理子の旦那さんは優しい人ね』って言われて、嬉しくて」発言には興奮しました。
『優しい夫』に縋っていたり、浮気した事にごめんなさいを言わなかったり、自分ばかりが不幸を被って堂野をずるいと言う所、彼女からは言葉の節々に人間の意地汚さを感じられて個人的に凄く好きです。

2

新書版、最高でした

講談社文庫版を先に読み、どうしても[雨の日][なつやすみ]を読みたくて図書館で借りて読みました。
本編は、箱の中はひたすら読んでてしんどくて何も悪くないのに疑わないやつがバカを見る感じで、信じては騙されてってのがあってしんどい。堂野の場合、自分のせいで家族がお金騙し取られるって相当キツイな。喜多川は、藁にもすがる思いで探偵に堂野探しを依頼してるから騙されてるなんて思いもしない。盲目で闇雲。そんな姿を見て、探偵にお灸を据えてくれた刑務所で一緒だった男のおかげで堂野と再会できた喜多川。
家庭を持ち子どもまでいる堂野と再会して、家族団欒を見ながらどんな気持ちだったんだろう。でも、会うのをやめられない。切ないなー。

あの不幸な事件から一気に喜多川×堂野ルートのストーリーが加速する。母親の不倫の怨恨で犠牲になった穂花ちゃんは、本当にかわいそう。
幸せな家庭を築いていた筈が妻の不倫、娘を殺されてなんてこんな目に遭うんだ、堂野。
穂花ちゃんが懐いて16になってもまだ好きなら嫁に貰ってやるまで言ってた喜多川。
事件の真相がわかってから、どんどん太々しくやな女になっていく妻。
だからこそ喜多川と堂野の結びつきが深くなったんだけど。


本編の終わりよりも[雨の日][なつやすみ]を読んでキチンと2人の話を読み終えた感がありました。

[雨の日]は、喜多川視点のお話
感情が感じられなくて朴訥で一途でちょっと怖いくらいの執着があるので、やべえ奴感があった喜多川。喜多川に押されて流されてるのかな?って思ってたけど、ちゃんと2人が思い合ってるのがわかって、愛情を感じるお話でした。

[なつやすみ]は、元妻の息子「尚」と「堂野」と「喜多川」の尚視点のお話。
めちゃくちゃ泣いてしまった。
喜多川が案外子ども好きで、面倒見が良く子どもに懐かれるのは穂花ちゃんの時もだったけど、尚くんも喜多川の事が大好きで短い交流の中でもとてもいい時間を過ごせててとてもいいエピソードでした。

読者として喜多川の最後まで見届けられたのも良かったです。死に別れがメリバではなく幸せな人生を全うできた1人の男の最後として捉えることが出来ました。
今後、何処かで多くの人がこの[雨の日][なつやすみ]が読めるようになればいいのにと思います。

私自身も所持していつも読める状態になりたい。

1

文庫版じゃない方をオススメします

この作品は大きなBLの枠の端っこにある作品だと思います。
一口にボーイズラブと言ってもコメディタッチや甘々、エロ、禁断もの、青春もの、など色んなアプローチがありますが、この作品は軽く読んで妄想の世界に・・・とはなりません。
木原音瀬さんは大抵が痛い、辛い、と評されますが、箱の中は本当にしんどい作品でした。

詐欺師に騙される母親、その要因には甘さ、普通さ、一般社会での常識が招いた、刑務所の常識を知らない、冤罪で収監されている本人。
でもこのエピソードが全体のアクセントになって喜多川との関係が際立っています。また、後で出てくる大江と喜多川の物語にも繋がっていると思います。

檻の外で、やっと二人に少し平和な時間がやってきます。文庫版では目次を見たところその後の「雨の日」と「なつやすみ」が入ってないようです。(私はホリーノベルズを図書館で借りました)

この後日譚で救われました。
木原音瀬さんのお話は「美しいこと(の後日譚、愛すること)」もそうですが、最後まで読まないと底から光が見えなくて辛さだけが残るように思います。
文学的にそれもアリだと思いますが、BLとするならやはり喜多川の一生と次の世代への光を読むことで落ち着くんじゃないかなと思います。

箱の中を読まれるなら是非、文庫版ではなくホリーノベルズのものを檻の外と一緒に読まれた方が良いです。
そしてBLの枠から出て評価されても良い作品だと思いました。

2

執着攻めが愛おしい

刑務所で出会う2人というあらすじを見て、読み始める前は木原先生お得意の極悪キャラが主役なのかなと思っていましたが、全然そんな事はありません。
主人公2人とも純粋で騙されやすい男です。
2人が愛し合ってから結ばれるまでがかなり長くて、その間に2人が失ったものは多すぎて涙が止まらなくなりました。
かなり長いので読む前は不安でしたが、読み始めたら一瞬です。バッドエンドでは無いけども登場人物のほとんどが不幸になってしまい胸が痛くなりましたが、それでも本当に読んで良かったと思える作品でした。

0

2冊分

箱の中はこちらの本で読みましたが、檻の外は旧版を手に入れたので、後日談も読めました。

講談社版の箱の中だけだと後日談が読めないのがわかり、色々探しました。

旧版の檻の外でレビューをしようと思ったのですがそういう仕様のようで、できませんでした。(ちょっとショック)
後日談込みで読まないと、尻切れとんぼと言うかなんと言うか。
二人を最後まで見届けてこそだと思います。

BLの枠組み以外で新版が出るのは、全然良いと思うのですが、BL仕様の内容の旧版が読めなくなるのはちょっと悲しいので、どうにかならないですかね。

後、三浦しをん先生の解説が読めると、ワクワクしていたのですが、電子版には無かったんです。無いなら購入前に知りたかった。
最初から紙本にすれば良かったと。

個人的感想は、後半堂野に喜多川が「子供作る時は教えてくれ」と頼む時に号泣してしまいました。
「お前の子供に生まれ変わるから」と。
どこまでも堂野を慕う喜多川にやられました。
頼むから幸せになってくれと。

全体の本の内容のレビューは皆様の素晴らしいレビューにお任せです。

色々愚痴ばかりになってしまいましたが、
とにかく木原先生の作品の中で一番好きです!
後日談で、今まで大変な目にあった幸せな二人を見届けられたので、大満足です。




1

もう、遠慮なく泣くことにした

はあ…号泣です。
鼻水ズルズル、涙はボロッボロ止まらず、目は充血し、
はじめは引っ込めようとしてたのですが、もう諦めて
物語を反芻しながら、思い切り泣くことにしました。

BLというジャンルを超えた一人の男の愛を描いた作品でした。
むしろ、BLという括りがあることで読まれないことがもったいない。
BLとか何も前置きせずに、そっと差し出して読ませてしまいたい(笑)

堂野は痴漢の冤罪で入った刑務所で同房の懲役・喜多川に出会います。
はじめは無愛想で何を考えているかわからない謎めいた男でしたが、
言葉を交わすうちに無垢で一途な人間であることがわかってきます。

本書は一見堂野の物語に思えますが、私には喜多川が初めて愛を知り、
その純粋な愛をどこまでもまっすぐに貫く愛の物語に思えました。

人間の美しさや恋愛の甘さだとかそんなものありはせず、
ズルさや汚さが描かれる中で喜多川だけがまっさらで、
彼だけがただ一人、美しいと思えました。

喜多川は親から愛されず、裏切られた生い立ちから
これまで人の優しさを知らずに生きてきた不幸な人間です。

だからこそ、堂野の「ありがとう」という他愛もない一言に心が動き、
生まれて初めて見返りもなく優しさを与えてくれた堂野が特別な人間に
なったのでしょう。

好きなおかずを分けてあげたり、就寝時に足を温めてあげたり、
風邪をひけば献身的に看病し、堂野を喜ばせるように絵を描く、
刑務所の中で出来うる限りの愛情を不器用に、健気に注ぎ続ける
喜多川に萌えてしまったのはきっと私だけではないはず。

そこそこ年を食った表情に乏しい図体の大きな男が
まるで生まれたばかりの雛の刷り込みのように
一心に堂野を追いかける姿を脳内で思い浮かべ、
いとおしさが溢れ出しました。

ただ、同時に喜多川の愛はときに一方的で強引で、
好意を向けられる相手の事情を汲むことなく、公衆の面前で
キスやセックスを迫ったり、出所後も消息を追うなど
常軌を逸した執着が怖ろしくなることもありました。

一般的にみれば、喜多川の独りよがりの愛の形は
嫌悪を抱かれるタイプなのかもしれません。

けれど、喜多川を突き動かすのは〝堂野と一緒にいたい〟
という、ただただ無垢なる願い。それだけなのです。
そのためには自分の生活も健康も空腹ですらも我慢出来てしまう。
そんな文字通りの「命懸けの恋」に心打たれずにいられませんでした。

堂野もまた喜多川に対して優しくしてやりたいという同情のような、
いとおしさのような思いを何度も抱きながら、その感情が何なのか
わからず、喜多川の愛を受け止めきることも出来ず、苦悩します。

そんな堂野をずるいと、臆病者となじることも出来ますが、
その葛藤も理解できてしまうからこそ、喜多川の出所の日、
日が暮れるまで立ち上がることもできず、一人涙を流す
堂野に私も一緒に涙を流しました。

喜多川の妻に関しては個人的には嫌悪しか抱けませんでした。
彼女にも事情があったにしても、受け容れることは出来ませんでした。

数年越しでやっと迎えた再会の後も、ドラマティックな怒涛の展開に
幾度も苦しみ、悲しみを抱え、それでも一緒に歩んでゆく道を選んだ
二人に、喜多川の祈りがやっと通じたことに悦びを噛み締めました。

最後の縁側でイチャつく場面を読んでいるだけで嬉しいやら
切ないやらで、もう涙がぼろぼろ止まらなくて…
これまでの人生で報われなかった分、喜多川にはその何倍も
幸せになってほしいです。

堂野の最後の選択は逃げや自暴自棄のようにも見えますが、
私は全てを失ったことでずっと目をそらしてきた自分の心に
ようやく素直になることが出来たのだと解釈しました。

他のレビューを拝読し、本書に番外編や後日談作品があることを知りました。
しかし、時すでに遅し。
知ったときには新書版・電子版の販売が終了しておりました…( ;∀;)
いつの日か、電子再販、あるいは番外編の書籍化を願うばかりです。
読みたい読みたい読みたいよう…

1

神×∞

読んだのは蒼竜社のHolly Novels『箱の中』『檻の外』だが、現在評価・レビューがこちらにしか書けないようになっているため悪しからず。

全腐女子さん・全腐男子さんに全力で勧めたい。読めばわかる。
私自身以前からこの作品は知っていて、あらすじやレビューを何度も読んでいたのだが、何となく暗そうなイメージで読むのを渋りに渋っていた。
ただ、腐女子として、この作品を読まずして死なないとは思っていたので、「今なら読めるかもしれない」というタイミングで読む決意をした。
どうせ読むなら文庫版には収録されていない短編も読みたいと思い、BLノベルズの方を中古で購入した。もはや本屋や電子書籍では手に入らないので、物によってはプレミア価格でビックリ…

私は今日の今日までこの作品を読むための準備をしていたんだと思った。小6から腐女子の私が10代の頃にこの作品を手に取っていたとして、正直ピンと来なかった気がする。ある程度人生経験を積んだ今だからこそ、心に響くものがあった。5年後、10年後、20年後など時を経て再び読み返した時にもっと違う感じ方が出来るように思う。あぁ、読んで良かった。
文庫版も読んでみようかな。

1

何度も泣きそうになりました。

今更ながら読みました。
蔦屋に行くと一般書と並んで置かれているので、ちょっとビックリしたのですが読んでみるとやはりそれだけ文学的に評価の高い作品なのだなと実感しました。
刑務所という全く未知の世界が舞台だったのに、読み始めから細かい描写で想像がしやすく、その世界観に一気に引き込まれました。読む手が全く止まらないのでぶっ通しで読んでしまったのも、よく調べれて書かれているからこそだと思います。本当に凄いなあと感嘆してしまうばかりです…。

冤罪な上に過酷な刑務所生活を描いた「箱の中」は読んでいてとても苦しかったです。刑務所なんて行ったこともないのに、その場の匂いや空気が生々しく感じられる描写で、堂野の苦しみがありありと伝わってきました。その苦しさがあるからこそ、喜多川という存在がまた強く読み手に印象付けられた気がします。
これだけで読むと、後引く切なさに胸が締め付けられる終わり方です。またその最後の描写も良いなあと思っちゃいました。

その後に続く「脆弱な詐欺師」は、第三者目線故に喜多川の執念のようなある意味、純粋な気持ちやひたむきな態度が伝わりやすい描かれ方と、ミステリー小説のような展開に本当に胸がドキドキと高鳴ってしまいました(笑)第三者目線ながら、流石木原先生らしい終わり方に思わず苦笑いというか…納得の終わり方でした…(笑)

そしてこの文庫本の最期を飾る二人の出所後を描いた「檻の外」。これが何よりも重く、苦しく、そしてこの本の中でも最も重要と言えるストーリーなのではと感じました。
妻子持ちになった堂野。堂野をずっと探していた喜多川。そんな二人の変わった家族ぐるみの交流が始まります。
最初の内は喜多川を思うと苦しくなるシーンもあれば、娘の穂香と少しずつ仲良くなっていく微笑ましいシーンも沢山あって、このままこの生活が続いてほしい…と前述の刑務所生活を思えば思うほど、幸せが身に染みるストーリ—なのに、娘の穂香の死により一変。物語が急展開を迎えます。
これに関してはミスリードも多々あるので、薄々感づかれる人も多いかと思うのですが、やはり目の当たりにするとその心理描写が緻密に描かれているので、分かっていてもかなり楽しめました。
娘を愛していた堂野と同じように穂香を可愛がった喜多川が二人で感情を爆発させるシーンは涙なしには読めません。本当にこのシーンが一番悲しいです。
その後の花冠を作るシーン、橋から落ちるシーンと最後までに2、3度泣いてしまいそうになったのですが…最終的に二人で暮らし始め、それは喜多川にとって念願の温かい暮らし、夢にまで見た「幸せ」なのに、そこに行きつくまでの過程が娘の死なしには出来上がらなかったと思うと、切なさがこみあげてきて手放しに喜べないのがまた複雑でした。これとは別に、さらにこの後を描いた「なつのひ」というお話があるみたいですが…二人に幸あれと願うばかりです。

全体的にBL作品あるあるというか、よく突き当たる愛のカタチとは、についてがテーマなのかな?と思うのですが、今まで読んできた作品とは一風変わった方向からそれを突き詰めていくので、ありきたりにならずに楽しめるのかなと思います。

解説には三浦しをんさんがBLについてを交えながら書かれているのですが、中々真理を突かれていて、これもまた面白かったです(笑)

1

話が凄すぎて・・・

木原作品は合う時と合わない時があり・・・こちららとても高評価のため期待大で読みました。
話は相変わらず読みやすく、どんどん読み進みましたが、正直これって恋愛もの?どこに感動するとこある?って感じでした。私の感性の問題かもしれませんが・・・。
主人公達をとりまく環境が非日常的で、色んなことがジェットコースターのように起きて、ついていくのに必死で主人公達の恋愛があまり入ってこなかったです。
真っ当な人間にここまで理不尽なことが起こるのかと思うと、ホラーより怖かったです。

2

唯一無二

刑務所に興味があり、また装丁画が魅力的でこの本を読みました。BLというのも目にしましたが、その時はあまり気にしていませんでした。この本にハマってから木原小説や他のBL小説も読んでみましたが、これほどの感動とじわじわと染みる幸福は持てません。特別な作品です。
主人公堂野は真面目で市役所勤めだったのが冤罪で刑務所に入れられ、騙され全てを失い、30年の人生がちっぽけに感じるどん底の描写が、前半濃密に描かれ強烈に胸を抉られます。また刑務所の用語や仕事など、無知の者でも入り込みやすい。
誰も信じられず死を考える毎日で、喜多川と交流を持ちます。ここまでに何人かの懲役(囚人)と話をするのですが、あらすじをしっかり読んだ人でないと誰を信じて良いのか分からない展開がまた面白かった。
冒頭の地獄描写から、喜多川の幼さの残る会話と交流に転換していく。その喜多川の言葉、後半の堂野の台詞が愛おしいのです。
真っ直ぐに向けられる好意と愛はBLでファンタジーにもあるけど、そこに超現実的な堂野と挿絵の無い(このイラストレーターの絵でもっと見たかった…)小説だと行く先が読めないのがまたのめり込む。
何も考えず淡々と過ごした刑務所の中で堂野と出会い色んな気持ちを知り、探偵雇うのに必死で働き、ボロ家に居て犬を飼う。喜多川は文字でしか表現されていないはずなのに脳裏に焼き付いています。
BLに慣れていなかった時分で「雨の日」「なつやすみ」を読み、やはりこの「箱の中」文庫に入れるには性描写が軽率に感じてしまい、無くて良かったと思います。(でも電子で読めるとか、何か手段は残して欲しかった…)ただ、絵を描きあの家で暮らし幸せを感じた喜多川(堂野)を最期まで読ませてもらったこと、描き切った木原氏には感謝しかありません。

2

ファンタジーと対極のような作品でした

最近になってBL小説を読み漁りはじめましたがこんなにも衝撃を受けた作品はありません。

 読み始めてすぐに辛くなり本を閉じるものの誰にも邪魔されずに静かなところでじっくり読みたいという衝動に駆られ一気読みしてしまいました。

 冤罪で懲役になり刑務所内でなすすべもなく極限の生活の中で触れた喜田川の計算のないやさしさに心を救われる堂野。だけど度を超えた喜田川の想いに戸惑うばかり。
 
 繊細でひ弱な(喜田川曰く普通の人)堂野を助けることにより初めて人の温もりに触れ持てる全ての愛情を堂野に向けてしまう悲惨な過去を持つ喜田川。
 
 とにかくこの二人はお互いに思いあっているけど心はズレまくっているので辛くて苦しくてずっと胸が締め付けられてしまいました。堂野の心情はいたって自然で共感できるだけにひたすら喜田川の身の上が気の毒でしかたありませんでした。

 そして中盤の喜田川が出所してから堂野を探し出すために探偵に詐欺にあってしまうのですが、もうなんなのこれ?以上読めない!これ以上喜田川から大事なものを奪わないでと作者様のSっ気を軽く恨んでしまいました。刑務所内で同室だった芝の登場で一気にストレスが引きましたがページを持つ手が震えました。

 後半で喜田川が堂野に再会して不本意ではあるものの家庭の温かさや堂野の娘に好かれるという心地よさを喜田川は味わうのですが、ここで堂野の娘が殺されるという悲劇が起こるわけで、、、。遺体が見つかった時点で前科のある喜田川が疑われるという予測はできたのでますます読むのが辛くなりました。酷すぎます。。堂野の妻には呆れてしまうけど、それでも娘の命を不倫相手の妻に奪われてしまうのだからやっぱり気の毒です。もう誰もかれもが悲惨で心のひりひりがおさまらない。

 真犯人が捕まって堂野が喜田川に会いに行った時自分が疑われたことなんかどうでもよくて堂野の娘が亡くなってしまったことを悲しみ涙を流す喜田川。そんな喜田川に心を寄せる堂野をそのまま力ずくで抱いてしまうという感情と欲情の危ういバランスがもう切ない。。

 こんな酷い出来事の末二人は一緒に暮らすことになるのだけど、どこにも心安らぐ場面がなかっただけに二人のこれからの暮らしが平穏でありますようにと祈らずにはいられません。

 たびたび読み返すのは辛いのですが、刑務所内での場面では、就寝後泣いている堂野の頭をそっと撫で続けたり冷えた足を温めてあげたりする喜田川、堂野の膝の上で頭を撫でられ目を細める喜田川、そしてお互いを「崇文」「圭」と呼び合うなど、こんなちょっとのやりとりがとても際立ってくるのです。

巻末の三浦しをんさんの解説にもありましたがBL界では変化球作品。すごいです。ノベルス版も読むことにしました。

 
 

5

攻めの幸せを切に願った

数度にわたり涙が滲んだ作品。傑作だと思います。
つらくて苦しくてでも早く続きが知りたいという葛藤に苛まれながら読み進めました。

本作もそうですが、綺麗だとか可愛いだとか魅力的な容姿に惹かれたわけではない男の恋愛関係をじっくり見せてくれるのは本当に有難い。
こういうのを読みたかったんだー!!と常に満たされまくっています。


話が逸れましたが、こんなにも攻めに幸せになってほしい…というか攻めが望む形になってほしいと願った作品は珍しいです。
※ネタバレ全開でいきますね↓

親に愛されることを知らず幼少期は狭い部屋に住み窓から食事を放り投げられていた…そんな異常な生い立ちのせいで普通の人としてはずれている喜多川(攻め)が彼なりに堂野(受け)に好意を向けていく流れに胸打たれました。
恋だとか愛だとか知らない世界で初めてその感情と出会ったと思うんですよ。
だからこそ普通の観点からみたらおかしくても彼なりにその気持ちと向き合いつつ堂野と距離を詰めていった。
堂野も刑務所という閉鎖された場所で自分に懐く喜多川に悪い気はしないし優しさや愛をもらったことがない彼に対してなんとかしてあげたい…という気持ちも芽生えていきます。
過剰なスキンシップからとうとうセックスまでしてしまうのですが…
堂野にとっては一生かけても繋いでいきたい関係としては考えられなかったんですよね。

そして堂野の出所を機に二人の関係は断たれます。

でもその道を選んだ堂野を決して薄情だとは思えないんですよね。
ここまで生きてきた彼なりの普通な人間性がこの異常な関係を続けないことを選んだ。
再就職して結婚して子どももできて…正直無理もないなと思ってしまいます。

しかし…喜多川は違います。
「脆弱な詐欺師」では出所した喜多川が堂野を探し続けている姿を見られます。
いつも同じ服を着て食さえも切り詰め探偵への高額な支払いのため一日働き続けている。そのお金を騙しとられているとも知らず…
日に日にやつれていく姿、それでも諦めるという選択肢はなく「堂野は見つかったか?」と繰り返す姿に心が苦しすぎてどうにかなりそうでした。

ようやく再会できても、喜多川なりの感性でまっすぐ愛しているだけなのにその愛している男に内心怖い、こいつは何か仕出かすんじゃないかと思われているところも可哀想で悲しくて。胃が重たくなりっぱなしでした。

堂野に喜多川への情はあるけど愛情ではない…。
まるで子どものように気持ちを伝える喜多川がうまい立ち回り方も知らずに苦しむ姿がとにかく切ない。
近くに越してきたり子どもになりたい、娘をくれ…といった想像もつかない彼なりの求め方には心を抉られていました。

私は結構受け推しになることが多いのですが、これはもう攻めに随分肩入れしてしまいました。
心を休ませてくれない展開が続きますので結末までしっかり見届けてほしいです。


喜多川が近くに越してきた時に、同じ雨が降っている場所にいたいと思うってとても素敵な表現だなと思いました。

三浦しをんさんの解説が的確すぎてこちらもじっくり読んでほしいところです!

ノベルス版も気になるので買おうと思います!!!

3

頭の中を苛められる感覚

木原音瀬先生の作品はいくつか読んでいますが、ちょっとでもM気質がないと楽しめない書き方をされるな、と感じます。
読んでいてやっぱり衝撃を受けたので、備忘的に、めちゃくちゃではありますが感想を書きたいと想います。

物語の前半部分、主に『箱の中』での展開は非常に生々しい。
知られざる世界についての描写が、丁寧かつ立体的で本当に面白いです。参考文献の欄にあった本全て気になってしまいます。
絶対に触れたくない禁域的な刑務所の空気、冤罪で逮捕された堂野の目を通し、嫌悪感を伴いながら感じることができます。

また、"変わっている男"として登場する受刑者の喜多川(後々の展開を思うと、なんとも皮肉なネーミングであると思わざるを得ません)が、箱の中で徐々に堂野に対する姿勢を変えていくのがこそばゆく、小さな男の子の面倒を見ているときのような感覚に陥ります。こちらとしては理解できない、けれど当人は一生懸命にやっていて、それに気付いた時に初めて愛らしいなと感じる、あの感覚です。
自販機に金を入れているんだからというセリフがとても印象的で、こういう考えの人なら本当にこんな言葉が出てきそうだと感心しました。
全編を通して、喜多川を軸に投げかけられる、普通とは、愛とは、感情とはという問いに苦しみます。

前半は駆け足で、衝撃的に終了してしまいます。
そして拷問のような中盤のスタート(褒め言葉に当たる)
探偵の男が語り手となり、堂野を探す喜多川と関わりを持つのですが、すごい。
小金が欲しい探偵と、堂野を探す手段を持たない喜多川。喜多川が搾取されていく様子、凡人が悪人に堕ちていく様はいっそ痛快でした。その末路も…

喜多川の人生に、明かりが見えない。かわいそう。そう感じることさえ間違っているような気がする。
読んでいるだけで責められているように感じる。
芝さんも喜多川も何も正しくはないんでしょう、でもあの探偵は間違っていたと私は信じています。心に大きく揺さぶりをかける章でした。

物語の後半は、個人的には失速したように感じました。
堂野の妻も子どもも登場するという点で、読む側としては傷つく覚悟を決めなければなりません。
刑務所の中での関係性は、他作品にはない面白さがあったのに対し、2人の再会からのえげつない展開は三文芝居の脚本みたいで嫌でした。
妻と子どもが、存在を最初から崩すつもりで作られたキャラクターに感じられ、もう少し意外性があっても良いような気がしました。
最後にかけてはグダグダと話が進み、そこで抱き合うんかいという萌のかけらもないセックスシーンや、堂野を陥れた女性は伏線か?と思いきや全然なんでもなかったり、当たり前のように妻がぶち壊れて喜多川を殺しかけるし、別に面白くない。
いっそ2人で死んでしまったほうが、物語としては好きになれたような。

しかし、喜多川が子どもを想い涙を流す場面は、純粋に美しいと感じました。喜多川というキャラクターが、いかに異質で、まっさらで気持ち悪くて、尊いか。
私にとってこの作品の全ては喜多川です。
喜多川圭が、人と違って気持ち悪い。
喜多川圭は、ただの普通の人。
彼の生い立ちから形成される人格を思うと、喜多川圭が実は普通の人なのが悲しくなります。

2人とも生きて一緒になったので、ハッピーエンドとして捉えますが、とりあえず喜多川のただひとつの欲が、今後も満たされていくことを願います。

前半の刑務所の描写、猛烈に動き出す喜多川と堂野の関係性の描写に神評価です。
読んでいて感じる痛みが読後愛おしくさえ感じられるのが、この作品の魅力かもしれません。

6

愛って何ですか?

痴漢冤罪で実刑判決を受けた堂野は、刑務所での生活に心身共に参ってしまう。
追い詰められ泣きながら眠る夜、そっと自分の髪を撫でてくれた手に、堂野は何とか踏みとどまる。
堂野は慰めてくれた喜多川に礼を言うが、何故か喜多川はその後も堂野に「ありがとう」と言われることに固執するようになる。
どこか子供のように幼いところのある喜多川に無邪気に慕われるようになるのだが、そのうちに喜多川は堂野への好意を隠さず、愛してると迫るようになり・・・

正直、評価どうしようか迷いました。
人によっては地雷になりそうな部分もあるし、合う人・合わない人、好き嫌いが別れる作品だと思います。
そして悔しいけれど、私の貧相な語彙力では、マジでヤバくて凄くいい話だから読んで!としか表せない作品です。
是非読んでいただきたい。本当に心からお奨めします!
冤罪、刑務所、裏切り、死・・・全体的に暗いイメージの言葉が浮かぶけど、それだけじゃない。ちゃんと光を感じられる、読み応えのある小説なんです。
読んだ時は受け入れられなくても心に残るものがあって、何度も読み返す・・・頻繁に読み返したい本ではないけれど、でも私はこの作品を手放せません。
愛って何なんだろう?と考えさせられます。が、そういうことを考えずに一途に誰かを好きになれる喜多川は、一般常識から逸脱してるけれど、でもとても幸せなんじゃないかな。
本当に、すごいの一言しか出てこない・・・すみません。

BL小説を普段読まない方にもオススメしやすい文庫版。この本から友達をBL小説に目覚めさせるのもアリだと私は思いますよ。

4

一度で二度、三度おいしい

評価の高いこの作品。
今まで冒頭のサンプルだけ読んで、冤罪なのに有罪になって実刑判決を受けて投獄されるという点に悲しみと虚しさを覚えて敬遠していたのですが、思いきって読んでよかった。
冤罪という設定に感じた不快感など忘れるほどハマって、一気読みしました。確かに名作でした。

受けは(主人公)は非常に真っ当な常識人。
対し攻めは、不幸な育ちゆえに常識もなければ愛も知らない、無表情無感動な人間。
それが、受けに懐いてくるのがたまらなく可愛かったです。ワンコ萌え!
しかしこの作品のいいところは、そんなワンコ攻めが、常識のなさゆえに、そして受けに対する執着ゆえに、中盤から強引になってくるところ。
ワンコ攻めから強引攻めへ、というキャラ移行が実に不自然でなく描かれているのが素晴らしいなと思いました。
また個人的には、攻めが童貞なのもよかった。これは完全にただの好みの問題ですが。

表題作『箱の中』に加えて、その後日談『檻の外』も合冊されているこの本。
その間に、『箱の中』と『檻の外』の間に起きた出来事を第三者を主人公にして描く「脆弱な詐欺師」がまたよかったです。
第三者主人公のお話としてもピリリと辛口で面白いお話なのですが、受け・攻め二人のお話としてもとてもいい。
攻めの心情がよく伝わってきました。本当に、それにしか拠り所を見出だせないんだな、と。

明るい話では勿論ない。しかし暗い話、とも言えないように思いました。
受けの攻めに対する感情は本当に「愛」なのか、受けが悩むのと同時に私も悩みながら読みました。
けれどどうしても切り捨てられなかった、独占欲を感じてしまう、そのこともまた一つの答えではないかと考えたりしました。
もっともっとこの二人の話を読んでいたい。そんな気持ちにさせられたお話でした。

5

改めて

今更ですが改めて。木原先生作品にハマるきっかけになった一冊。非常に念密な描写にBLの枠に囚われない文体、最後まで祈るような気持ちで読んだ。読後感はなんとも、それなのに映画を見たような印象が強い。好みのカップリングじゃないのに、話が気になりいつの間にか2人を応援したくなる。しっかりストーリーを読みたい方にお勧めしたい。

2

リアル

BLって枠にとらわれず、ひとつの作品として本当に面白かったです!文庫化して普通の文学コーナーに並ぶのもわかる。ボリュームあって読み応えあって、なんせ刑務所内の様子がしっかり書かれていてリアルでした!

受けの堂野さんも真面目な人だし、攻めの喜多川さんなんてあまりにも切ない純粋なキャラで、すっごく好感が持てました。二人がくっついてくれて良かった。喜多川さん、幸せになって良かったって、ラストは泣けてきました。

ただ、BLでサイドキャラを気にしすぎるのは無粋なのかもしれないけど、死んじゃった堂野さんの娘ちゃんが、なんかあまりにも可哀想で…汗)それがやけに気になって、若干モヤモヤが残ってしまった。


あと途中で挟まれている「脆弱な詐欺師」、このクズ探偵かなり面白いですね笑)話の本筋とそんなに関係ないはずなのに、かなり引きこまれて読んじゃいました。木原さんの書くクズって、なんでこうも面白いんだろうか。

2

心痛いのに止められない

「泣ける、切ない」読み物を探しているうちにたどり着いたのですが、予想以上に心が打ちのめされました。
涙を流してスッキリしたかったのですが、そんな生半可な気持ちで読んではいけなかったようです。

堂野は本当に何処にでもいる人間らしく、散々迷ったり、後悔したり、出る結果に緊張したりしながら選択を繰り返していますが、そこを全て通ったからこその結末だと思うと、無駄な事って何も無いと思えました。

外でもおおっぴらに読める様に文庫本を
選んだのですが、結局2人を最後まで追いかけたくて『なつやすみ』『すすきのはら』へと手を伸ばす事になりました…。

人生で初めて「辛いのに読むのを止められない」という体験をした作品です。

2

文庫版のメリット

今さらではありますが。この作品はBLにおけるお約束の展開、萌え、非日常などエンタメ要素のみを求めておられる方には受け付けないかと思います。こうして一般書としても刊行されたことが示している通り、BLというジャンルで括るにはあまりに人間臭く、文学的で、お決まりのロマンティックさはありません。

私も当初、BLにはエンタメ性だけを求めていたため、予備知識なく初木原さん作品「熱砂と月のマジュヌーン」を読んで、ひたすら甘さが無く辛く重い展開ばかりだった為、ある意味トラウマとなり「苦手な作家さん」というイメージを持ってしまっていました。
しかし、この「箱の中」を読んでからは自分の認識の甘さに気付きました。木原さんはそんな定石の枠に留まらない作家さんなのだと。
本作品はBLという括りではなく、人間の心理、本質を描く中に同性愛があるというか、それを裏付けするために同性愛が必要という風に思いました。
文章力がなく形容できないのですが、読後は心の中を嵐が過ぎ去ったような感じで、しばらく呆然としました。
これほど心を持っていかれる作品は初めてで、本物の名作だと思いました。

さて、あらすじにも記載がありますが、本作品はBLノベルス版とこの一般向けの講談社文庫版の2パターンで刊行されています。
私が感じたこの講談社文庫版を購入するメリット・デメリットについてまとめました。

メリット:
・ノベルス版「箱の中」「檻の外」の大部分が一冊にまとまっている
・三浦しをんさんの素晴らしい解説が読める
・挿絵がないのでイメージが邪魔されない、小説としてより硬く重い感じで読める
・文庫として外でも読みやすい

デメリット:
・ノベルス版収録話(後日話)が無い!!
・草間さかえさんの素敵な絵が無い

私はノベルス版の存在しかしらず、ネットで誤ってこちらの講談社文庫版を購入し、後から色々と違いを知りました。読了後はもちろん、「ノベルス版に後日談があるなんて…!!」と、今からノベルス版も購入しなければ、という状況になっております。ですので最後までしっかり見届けたい方は、三冊揃えないのでしたら是非ノベルス版を選択される方が良いと思います。ただ、こちらの文庫版もより小説らしく、重く凄みがあり、私は好きです。

この名作に出会えて良かったです。
今まで敬遠していた木原さん作品ですが、少し覚悟をもって、読んでいきたいと思います。

7

喜多川の言葉に迫るものを感じる

萌えるかどうかではなく、評価という意味では間違いなく神作品です。
一般文芸としてとか、BLとしてとか、括って考れば
異なる評価になるとも思いますが、細かいことはどうでもいいと思わせる熱量があります。
傷ついた堂野が自分を一途に必要としている喜多川を受け入れたのは理解できても
なぜ喜多川が堂野に執心したのかは読了後もよくわからない。
(なつやすみやすすきのはらなどの番外編は未読なので)
刷り込みの一種なのだろうか
構って、褒めて、自分を見て欲しくて
それが堂野でなければならない理由はなんなのだろうか
それは愛情なのだろうか
考えても答えに行きつかない
ただ、再会後に「傍に居たい」ことを告げる喜多川の言葉は迫るものがあり、目頭が熱くなりました。
喜多川には、気のおける人の近くで生きて、最期を迎えて欲しい

2

人間にとって本当に必要な愛とはなんなのか

この小説を読んで、はじめに感じた印象は、「隙間」だった。登場する人物、それが主役級であっても、外見容姿、印象や性格に対する説明が、いわば「隙間」だらけだったのである。刑務所での生活、規則等についてはその都度説明があるが、必要以上の説明は無い。堂野以外の登場人物達の背景や想いも、描写されていない。このように余計な描写が無い分、我々読者は、想像力を働かせ、また人物達の動きに注意を払って、物語を読み進めることになる。しかし不思議なことに、それが却って彼等の感情面に、説得力をもたせた。


① 果たして、堂野にとって喜多川は「迷惑」でしかなかったのか。

喜多川の堂野への執着は、無論「尋常じゃない」といえば尋常ではないが、彼の生い立ちがその「尋常じゃない」にはっきりと理由付けをする。彼のような生い立ちを持つ人間は、この本に触れる確立は低い。故に、彼に共感しようとしても、大抵の読者は難しいと感じるに違いない。となると、読者はまず、堂野に共感しようとするだろう。だから数名のレビュアは、堂野を自分に置き換えて考えてみたときに、喜多川の執着を気味悪いと感じたのかもしれない。確かに堂野と喜多川の関係は、堂野が喜多川を拒否できない状況から出発している。しかし、喜多川が、まるで「犬」のように懐き、堂野が自覚する程の好意を寄せている状況からは、堂野にも充分「拒否する権利」は生じている(そして時にはその権利を行使した)、のにもかかわらず、ストレートな告白以降も、堂野は、エスカレートする喜多川の同性愛行為を赦している。自分に言い訳をしながらも、“赦している”という時点で大きく他とは異なるのだ。柿崎に迫られた際に出た悪寒のような「鳥肌」であったが、同じような表現は、喜多川との行為の時には使われていない。

そして何よりも、「芝」という存在が、大きい。彼はいわばリーダー的性格、兄貴肌であり、頭もキレ、鋭い観察力を持ち、そして空気を読むことができる頼れる男だった。そして芝は、堂野に対しても終始平等に接し、面倒をみ続けた。そんな「芝」が、夜中に狭い部屋で繰り広げられる喜多川の堂野への執拗な行為を、止めない筈がないのである −−− もし、堂野が本気で嫌がっているのだとしたら −−− 。つまり、彼は見抜いていたのだろうと思う。堂野が本気で嫌がっているわけではないことを。または、このふたりの間に流れる、独特の不可侵的空気を。揉め事を極力さける芝の「我関せず」が堂野と喜多川の関係の質を物語っているといっても過言ではない。

もうそれだけで充分なのである。それだけで充分、この問題、この関係は、喜多川と堂野の間の問題で、ふたりがどうしたいか、それだけにかかっていて、読者はそれを見守ることしかできない立場に置かれる。そこに堂野への感情移入も、喜多川への戒めも通用しないのだ。


② 喜多川は、なぜ「堂野」でなくはいけなかったのか?

喜多川は、一途な男だ。その一途さは、たとえ彼の執拗な執着に眉をひそめる読者の心も動かす。なんの変哲も無い平凡な男である「堂野」を想い続け追いかける喜多川は、堂野と違い、整った顔と、若さと立派な身体を持っている。じゃあ、なぜそんなにまでして堂野でなくてはいけなかったのか。

世間知らずだった彼に、人の「情」を伝えようと"試みた"初めての男であること以外、堂野はこれといって何もない。

この作品の第二の大きな特徴、それは、喜多川と堂野の関係が、「依存」とはまったくの別物であることだ。「見返り」「利害関係」以外しか、人間関係の在り方を知らなかった、という喜多川の生い立ちとキャラクターの設定は、逆に彼と堂野の関係に「理性」と「冷静」という非常に重要な要素を与える。教師でも無ければ宗教家でもない堂野は、喜多川の「理屈」には刑務所を出る最後まで勝てなかった。「依存」とは異なる関係であること、それは、依存が、「見返り」や「利害関係」でしか人間関係を構築出来ない男の内には生じない現象であることから容易にみてとれる。「依存」でないふたりの関係は、つまりは「自然の流れ」と共にあることを、読者は常に感じていなければならない。


④ 愛情はどこから湧いてくる?

読者は多分、あの事件が起こらなかったら、堂野は喜多川を受け入れなかっただろう、と思うだろう。確かに、あの事件は、堂野も喜多川も関係の無いところで起こった事件で、まさに偶然だった。偶然のお陰で、露呈した事実をきっかけに、堂野は喜多川との人生を選んだ。釈然としない感情を、読者も、そして堂野も感じる。しかし一方で、堂野の麻理子への冷めようは凄かった。その熱の冷めるスピードと温度の低さには、驚く。そしてそこで堂野は自身に問うのだ。「確かに自分は、麻理子を愛していたはずだ」と。では、まったく同じような事件が、喜多川との間で起こったとしたら、堂野は同じようなスピードで熱を冷ましていくのだろうか、と読者はふたりに問うてみる。すると、多分、あのようには冷め切れないだろう、と確信がもてるのだ。そして、ああ、愛とは、そういうことか・・・、と妙に納得する。

様々な「愛」がこの世には存在している。だから、堂野と麻理子のような関係を、愛では無かったと結論づけることは、してはならない。しかし、堂野にとっての「愛」は、「喜多川の見せる愛」であった、というだけなのだ。自分の内側から沸き出るはずの愛ばかりを探して見失っていた人間が、誰かがぶつけてくる愛を、愛だと受け入れ、信じられたとき・・・堂野の愛は、喜多川の愛と交じり合うのだ。


三浦しをんさんは、こう書いている。

「本作は、愛によって人間が変化していくさま、真実の愛を知った人間が周囲の人間に影響を与えてくさまを、高い密度で表現している」(『解説』より抜粋)


・・・まさに、その通りだろう。

13

言葉にできない


BLという代物はわたしにとってある種の娯楽であり、あまり公にできない密やかな趣味でした。
もともと活字を追うことが好きで、“BL”という枠組みでなしにできるだけ沢山の小説を読んでいきたいと思っていたので、世の名作と言われる作品をある程度は認知していたつもりです。
しかし、今回本作を読ませていただいて、「こんなに素晴らしい作品があったのか…!」とBL小説としてではなく、ひとつの作品としてひどく衝撃を受けました。
稚拙な文章しか書けない自分がこの作品のレビューを書くのはあまりにも滑稽だと感じましたが、この素晴らしい作品を一人でも多くの方に知ってもらうため、この場をお借りさせていただきます。

本作の主人公・堂野は真面目でまともな公務員。
家庭は持っていないものの、家族とそれなりに幸せな毎日を過ごしていた、極々平凡な男でした。
そんな彼の人生を一変させたのが、身に覚えのない痴漢の罪です。
もちろん彼が罪を犯したわけではないので冤罪を主張し続けますが、それが裏目に出てしまい、最高裁判所まで闘った末に負けてしまった堂野は、初犯でありながらも執行猶予なしの二年の実刑判決を受けてしまいました。
そんな彼に執着する攻めが、殺人の罪を犯したことにより長期刑を受けた喜多川です。
日々死にたいと願い続ける人間不信の堂野と、殺人犯でありながらも純粋無垢な喜多川のおはなしには、BLによくあるとんでも展開は一切ありません。
今わたしがこうしてレビューを書いている間にも起こっているかもしれない、壮絶でありながらもどこにでもありうる平凡なおはなしです。

それなのに、ひどく心を奪われる。
どうしようもなく、この物語が愛しくなる。

わたしはこの文庫に収録されている【箱の中】と【檻の外】の新書版をどちらも読んでおりません。
そのため、みなさまのおっしゃるその後のお話などの知識は一切ないのですが、それらを抜きにしてもこの作品が名作であることは間違いありません。
なぜ新書版を買わないのか…その理由は「お金がない」に尽きるので(笑)余裕ができたら購入させていただくつもりなのですが、この文庫一冊だけで彼らの間に芽生えた愛情と幸せは十分に感じられると思うのです。

ううん…本当に言葉にできない。
「名作である」この一言に尽きます。

ちなみにBL界では有名な三浦先生が解説をなさっているのですが、そちらも要チェックです!
三浦先生の愛溢れる解説と共に作品を振り返り、もう一度読み返す…気がつけばすっかり木原先生の虜となっていることでしょう(笑)

7

執着と逃れられない運命と


そして、相手のためなら命など惜しくないほどの激情、情に限りなく近い、愛。

堂野も喜多川も、一般のBL小説に比べたら比較的に特徴もないかもしれない。冤罪や前科犯といった経歴はあるが。

木原作品の中で評価が軍を抜いて高かったのでずっと気になっていました。まさかこんなにも苦しくて切ないなんて。
木原先生は共に堕ちて行く受けと攻めを書くのが上手すぎます。第三者からみれば堕ちていっているのかもしれませんが、2人にとっては最高の結末なのでしょうけれど…

刑務所の中の生活は見てられませんでした。非道で、非日常で、早く堂野を出してあげたかった。年甲斐もなく泣いて、自分の境遇を憎むところは、何ていうか哀れでした。
喜多川もまたキャラがつかめず、次になにを仕出かすのかハラハラしました。
堂野と新しい奥さんと子供の中の暖かな幸せを、邪魔しないでくれとも思いました…

ですがやっぱり2人は一緒にいなければならなくなった。喜多川にとってはずっと変わらない気持ちだったけれど、やっとの事で堂野もその気持ちに呼応してくれた。

幸せになれて本当に良かった…
ゆがんでる、とか、ヤンデレ、とか、ジャンルを分ける単語では分別できません。2人を表す単語が存在しない。

だからレビューを書くのはすごく難しいですww
しかしこれは、皆さんがいうようにBLという枠だけで収まり切るものではないのは確かです。腐女子や腐男子でない人でも、読んで欲しいそんな作品です。

一気に読んで、この作品が大好きになりました。

2

胸が締め付けられる作品ですね。

ノベルスの方も読んでいましたが、文庫もついつい買って読んじゃうほど好きな作品ですね。三浦しおんさんの解説も在りまして、ホントに的にいった解説で、文庫では載らなかった作品もありますがその解説含めて、ノベルス合わせて3冊全てお気に入りになりました!絶対ずっと手元に置いて丁重に保管です!まぁ木原音瀬作品は全て丁重に扱わなければって私の中で決めちゃってますが(笑)
この作品はレビューが一杯ありますが、取りあえずレビュー読むよりも買って早く読んじまえ!と強く勧められる作品です(笑)

1

BLというジャンルにこだわる必要はないのかも

箱の中・脆弱な詐欺師・檻の外の3編が収録されています。
BLレーベルからノベルズが2巻出ています。
講談社文庫から出版されたことを評価したいと思います。

ノベルズを読んだので再読の感が強いです。
ノベルズのレビューと重なる部分もあると思いますがご了承ください。

痴漢と間違われ逮捕されてしまった堂野崇文は、無罪を訴え続けて最高裁まで争い、そのことが仇となり、実刑判決を受け刑務所に入れられてしまいます。
冤罪で箱の中に閉じこめられた堂野が精神的に追いつめられていくリアルさが胸に痛く息苦しい。
刑務所の中で出会った喜多川圭。誰からも愛情を受けられなかった喜多川は、精神的にとても未熟です。
喜多川が生まれてはじめて知る感情にとまどいながらもそれをひたすら求める姿が印象に残ります。
特殊な環境のなかで、近づく距離、流される堂野。
喜多川が堂野に抱く感情は狂気をはらんでいてとても怖い。

冤罪で服役した堂野崇文は、出所したあと結婚して家庭を持ちました。
時を別にして出所した喜多川圭は、会いたい一心で堂野を探しふたりは6年振りに再会します。
しかし、事件が起きて堂野の家庭は、木っ端微塵に砕けます。
娘、穂花の死、妻、麻理子の裏切り、慟哭の中で堂野は愛について考えます。
そして、喜多川と暮らすことを決心します。
二人で暮らすようになって「犬を拾ってきていいか」とたずねる喜多川。
『夢が、かなう。家があって、あんたがいて、犬が飼える』せつない、ハッピーエンドでした。

残念なことに「檻の外」に収録されていた「なつやすみ」が収録されていません。
文庫に未収録の関連作品「なつやすみ」をあわせて読んでいただきたいです。

1

名作

いつかは読み返したいと思っていた作品の文庫化!
ということで、思わず買ってしまった一作。
読みたい!の衝動で買っといていつまで放置。。。ってのは
いつものことなのであります。

お話は、痴漢の冤罪で捕まった堂野(受)と、殺人の罪で刑務所にいた喜多川(攻)との馴れ初めから~から~なお話。
以前読んだ時には、もっと感情移入して読んでいた気がしたのですが
時が経ったというのか、自分の中で何かが変わったのか。
もっと冷静に読める自分にびっくりしました。
断片的だった記憶が、そうか、そうか、そうだったそうだった。
と、ひとつにつながったといか、気づかない間になくしていたピースを
はめ直したというか。今回そんな気持ちでした。
これまでなかったものを与えてくれた堂野に、何も求めることをしなかった喜多川が執着する。唯一の存在と求めるその純粋さは
実際はたから見ると異質なのかもしれないのだけれど
至極単純な方程式で出来ていて、故に、胸打たれる人も多いのかなと思った。

全てを亡くし、裏切りにあい、さんざんな中で
自分だけを求めてくれる存在に最終的に移行してしまう堂野
どうなのよと思う反面、思わず後半は気持ちが乗って結局泣いてしまった。
以前のノベルで掲載されたその後の話。
今は手に入らない「すすきのはら」での話。
(すすきのはら未読ですが、あらすじは各所で読んだ)
これを読んで、ずっと引きずってた私の気持ちも少し変化しました。
結ばれた二人、その後の運命。
バッドエンドではないけれど、悲しいその後(´;ω;`)
だけれども、喜多川にしてみれば、唯一の存在をその胸中に入れ
受け入れてくれる悦びは何にも変え難く。
最後まで「しあわせだった」と笑ってたんだろうなと今なら思えるのです。
何も持っていなかった喜多川のしあわせを祈り
与えてやりたいと願った堂野も、最後まで幸せそうな喜多川を思っていたんだろうと思う。悲しいばかりの記憶しかなかったのですが
今作を読んでまた一つ新しい考えをもらいました。
読んでよかった。

2

ぜひ読んでほしい一冊!

ランキング上位に入っていて、ずっと気になっていたので購入しました。
『箱の中』を読むのも木原音瀬先生の作品を読むのも初めてで、この作品に出会えてよかったと思うと同時になんでもっと早く読まなかったんだ!とも思いました。

BL小説ではあるけれどそれだけじゃないというか…
男性同士の恋愛を読んで楽しむだけでなく、色々と考えさせられる作品でもありました。
BLが好きな人はもちろん、あまり興味ない方にも兎に角読んでほしいです!

購入した際は、三浦しをん氏のあとがきまでぜひ読んでほしいです。
あとがきを読むと思わず頷いてしまうはずです。
あとがきで三浦しをん氏が言っていましたが、『檻の外』に入っていた「なつやすみ」という番外編が文庫の方には入っていないそうです。
また、他の方のレビューを見ると『箱の中』にも番外編のようなものがあったようで…。
気になるので、今度『箱の中』と『檻の外』を購入してみようと思います。
「これなら最初から文庫本の方ではなく、『箱の中』と『檻の外』を買うべきなのでは?」と思う方もいるかと思いますが、最初は文庫本を購入してみるのがいいかも知れません。
文庫本を読んで気に入った方なら、「最初から『箱の中』『檻の外』買えばよかった~。」なんて思わず、もう文庫本も『箱の中』も『檻の外』も3冊とも手元に置いておきたいと思うはず!!

1

人間の醜さ、狡さ、弱さから目を背けず見つめる瞳とそこをえげつなく書きながら愛してくれる木原音瀬という救い。

 正直に告白します。
 私はディズニーランドが苦手です。もちろん素敵な夢の国だと認識しております。
 けれど、幸せそうな親子連れや素敵なカップルや元気いっぱいなキャラクターたちに囲まれたあの世界にいると「お前みたいな醜い、人間として汚れた人間の来るところじゃねえ!」と言われている気がして、居たたまれない気持ちになります。
 わかってます。ただの僻み根性です。

 勧善懲悪な物語が正直苦手です。
 正義の味方に雑魚キャラが無造作に殺されているのを見ていると、「彼らにもいろんな事情があってそこにいるんじゃないの?」と思ってしまいます。

 90年代のハリウッド映画が苦手です。主人公とその恋人さえ助かれば、それでいいのかと思わせるような展開が。その主人公をかばって死んだ人やたまたまそこに居合わせて巻き込まれて死んでしまった人に対して、何の罪悪感も感じていない彼らのラストの笑顔を見ていると無性にフラストレーションが溜まります。

 私が木原音瀬に初めて出会ったのは、小説BーBOYの『水のナイフ』、です。
 いっぺんでファンになりました。まさにこういう小説が読みたかったのだと思いました。出てくるキャラクターが不細工な受けと性格の超絶悪い攻め。そして居たたまれなくなるようなストーリー展開。そうそう、そうだよ。人生なんて恥ずかしくてみっともなくて思い上がっては落ち込んで…その繰り返しだし、いい人ばかりの世界観なんて、うさん臭くて。嫌な奴に遇うのが出会いで、でも一番最低なのは自分自身だし。
 そんな醜くてずるくてダメな奴でも、恋ができるかも…
 そういう夢を初めて見せてくれたのが木原音瀬だったと思います。

 それまでのBLの世界は可愛くてあるいは美人できれいな受けと男前の攻め、カッコイイ攻め、完璧な攻めばかりで。「そんな男いるか!」と思うような魅力的な攻めが可愛くて健気な受けを見初めるとか。美人だけど不器用な受けが素敵な攻めにその弱さを包容されるとか。
 それももちろん好きですが。
 ある意味、そりゃ愛されるよなと。それだけの要素がそろってたら男同士でも成立するわな…という。でもじゃあ醜くて性格の悪い人間はBLの世界ですら救われないんだなあと。もちろん現実ではそういう人間はもっとも愛から遠いことはわかっていました。
 けれどファンタジーの世界でまで、愛されないんだなあと。恋する資格すらないんだと。どこか絶望にも似た淋しい気持ちでいた私に。
 木原音瀬はさまざまなキャラクターやストーリーでめいっぱいの夢と救いを与えてくれました。
 容赦なくその欠点を暴き立てながら、そらさない瞳の奥にどうしようもない人間への愛を感じるのです。
 「これでも相手を愛せるか?」そういう問いを私たちに与えながら、「生きていても良いんだよ」と許されている感覚。
 そして、もちろん小説としての面白さ。
 いろんな世界を描き出し、いろんなキャラクターを生み出して。
 「小説を読むことの楽しさ」を心置きなく与えてくれます。

 子供のころから、ミステリーが好きでした。
 謎が解けていく爽快感はもちろんですが、人を殺すというそのネガティブな行為の裏にある悲しみや絶望や怒りや憎しみや醜さ。そこに安心するのです。
 私と同じでダメな人がいるんだなと。生きるって悲しいことなんだなと。
 
 この『檻の中』を都合三回体験しました。雑誌とホーリーノベルズとこの文庫。
 すべての人に愛される作品ではないのかもしれません。
 けれどいろんな形を代えて、たくさんの人の手に届いたら素敵だなと思ってやみません。
 「自分など生きている価値もない、ろくでもない人間かも…」と思っている人が。
 一般文庫になったことでその方たちの手元に届きやすくなり。 
 「明日もとりあえず生きてみようか。少なくとも木原音瀬の作品、すべて読むまでは」
 そう思ってくれる方が一人でもいたならば。
 それだけでもこの文庫化には意味があることだと思うのです。

 三浦しをんさまの解説が素晴らしく。ほかの皆様のレビューも的をついていて、素敵で。
 私ごときが何をいわんか…と思っていたのですが。
 やっぱり大好きだから。
 木原先生の誕生日も過ぎたことだし。はた迷惑な私の先生への愛を叫んでみました。
 不愉快になられた方、本当にごめんなさい。

 
 
 
 
 

26

私はBLに純文学を求めない。

大絶賛が続く中、苦手な木原音瀬さんに再チャレンジをする機会だと思い読んでみました。
苦手と主張するほど実は読んでもいないのですが、
「秘密」を読んで身の置き所がない思いを味わい
次に「箱の中」「檻の外」を入手したのですが、途中で挫折した過去があります。

きっかけになったのは、今回の惹き文句にもなっていますけれど
ダヴィンチのバックナンバーのBL芥川賞という企画。
6作品エントリーされた中で、受賞作がこの「箱の中」でした。
他のエントリー作品は…
剛しいら「花扇」、月村奎「そして恋がはじまる」、
藤たまき「プライベート・ジムナスティックス」西田東「恋をしましょう」、
今市子「楽園まであともうちょっと」でした。

当時BL読みとして駆け出しで、どこに手を伸ばしてよいか分からなかった私にとって
参考になる企画ではあったのですが、まず思ったのは「なんで芥川賞?」ということ。
私にとってBLは大衆文学であり、娯楽作品。
だとすると芥川賞というよりは直木賞でしょう?

さて今回再読してみて思った事は、
やはり私にとってはある種の忍耐(?)なくしては読めないということです。
そして、私はBL作品をそのようにして読む気はないのです。

キライ、というよりも読む必然性を感じない。
私がBLに求めている物は、こういうものじゃない、というしかないのだと思います。
基本キラキラお花を背負っていた少女マンガの系譜を、求めているんだろうなーと。
(ヒネたおばさんなので、それだけでは満足はできないのですが。)

作品の内容に関しては、他の方達が沢山お書きですし割愛させて頂きますが、
ひとことで言えば三浦しをんさんの後書きにもあった、
きれいなだけじゃない一途な愛、でしょうか。執着愛とも言えますが。
(三浦さんの後書きはBLへの愛が感じられる、力の入った文章かと思います。)

これを一般書として読むとしたら、冤罪に関する踏み込み方が半端だと思うし
こんなに何もかにも「愛」に集約されてしまうことに違和感を感じます。

人として生まれたら与えられるはずの愛情も与えられずに育ち
情緒が未分化だった男が、愛する対象を見つけて少しずつ成長していく話、
世界で唯一のこの愛を失ったら息をしていくことが出来ないほどの愛、
というのがテーマかとも思うのですが、BLとしてこういう愛の描き方は好みじゃない。

BLの世界では(という注釈つきですが)珍しい作品世界を
独特の淡々とした文章で描き出す作者の作品が
多くのBLファンを惹き付けるのも分からないではないのですが。
どんな本も、最終的にはそれぞれにとって好みかどうか、感銘を受けるかどうか、
につきると思うので、私のように好みじゃないと言う人もありというものでしょう。

29

snowblack

縞々様、コメントをありがとうございました。
頂いてすぐに気がつかず、御礼を申し上げるのが遅くなりまして申し訳ありません。

ファンの多い木原先生の、文庫化までされた作品に、新参者の私がこんな生意気なレビューを書くのは、実は結構ドキドキだったので、お好きとおっしゃる対照的な意見をお持ちの方から、暖かく受け止めて頂けるコメントを頂くことができ、本当に嬉しく思います。

木原先生が、BL界の中でひときわ力強く輝く忘れる事のできない存在であるとは、私も思っております。
Unit Vanillaの作品を読んだ時に、あんなに読んでいる和泉先生のお作は定かには分からないのに、何故か木原先生の作品はおそらくこれだろうと分かってしまう…(正解かどうかは不明ですが。)
そんな独特の色合いというか、個人的な感覚としては質感があると思っていまして、それはすごいことだと思っております。
ただ、それが個人的に好きか好きじゃないか?
そして、一般書として一歩引いてみた時にどうなのか?ということかなーと。

本当に、ありがとうございました。
そして、これからもどうかよろしくお願い致しますm(_ _)m

縞々

snowblack様、こんばんは。
役にたったボタンを連打したいほど納得出来るレビューでしたので、我慢出来ずにコメントさせて頂きます。
私自身、木原音瀬は大好きな作家で、この本は蒼竜社版のみを所持しており、正直この本に対しては対照的な意見なのですが、それでもこのご意見には非常に賛同します。

BLは「傑作小説としての垣根」が少し低い部分があるというか、言い方を悪くすると、ちょっと毛色の違う作品を出すと、多少設定が甘くても傑作扱いになるきらいがありますよね。自分自身、木原先生は大好きですし実力も兼ね備えている作家さんだと思うので単純な言葉で片付けたくないのですが、それでもsnowblack様のような方もいらっしゃることに、偉そうであれですが、少し安堵を覚えました。
「小説としての面白さ」と「BLとしての面白さ」ってどうしても反比例する傾向があるので、なんだかなあとヤキモキする気持ちが、このレビューではっきりしました。有難う御座います。

勝手ながら、これからもsnowblack様のレビューを楽しみにしています。

一般文芸作としては微妙、木原音瀬エントリーモデル。

木原音瀬というと、むちゃむちゃ木原好きか、めっさ嫌いか、どっちかだったりするんですが、ワタクシは完璧ニュートラル、ウルトラ好きでも嫌いでもない。

一般的な文芸作品で、ある種の欠陥人間が純粋さのみを動力にして
誰かを動かすアガペー全開の愛、ってタイプの文芸作品は
決して新しいものではありません。
例えば、遠藤周作の「おバカさん」などがこの類だし、
カンヌ映画祭でパルム・ドールをとった映画「うなぎ」の原作である
「仮釈放」と「闇にひらめく」にも似た部分がある。
じゃあ、こういう文芸作品をねじふせるだけの説得力があるかというと…。
講談社文庫でほかの小説にまじって並んでいると、やっぱり「キワモノ」。

やはりBL的脳内補正がなくては読めない部分がどうしても出てくる。

本の折り返しに「ボーイズラブ界で」不動の人気って書きつけてあるのは正解だと思います、講談社さん。
一般的な文芸のアタマでいえば、無償の愛まではいいが、それが性別すらも超えた性愛に踏み込む必然性ってあるのだろうか。
喜多川のセクシュアリティはヘテロでもゲイでもないし、堂野は完璧ノンケ、それが優しさだけでセクシュアリティーすっとばして性愛へ行っちゃうものなのだろうか?
BLはそこらへんがデフォだからその必然性をねちねち追っていかなくてもいいんですけどね。

さて、一方、BL作品としてはどうかっていうとこれまたビミョー。
BLの枠の中においてはチャレンジングだが、
木原作品だったらもっと面白いのあるだろ!と思う。
同じ毛色のものなら、「秘密」のほうが好感持てるし、
執着度合いのスリル?からいったら「さようなら、と君は手を振った」とか
「嫌なやつ」のほうが予想外展開で面白い。

結局のところ、この作品、木原音瀬エントリーモデルにすぎない、と思う。

18

読んでわかる!


内容を簡単に説明されて、分かった気になっちゃいけないなあ。
と思うお話でした。
なんとなく冤罪の人と殺人犯の刑務所の中と、出所した後の話ってことは知っていて、
暗いのやだなあと思って買ったけど読んでませんでした。

そしてなんとなく電車の移動時間で読み始めたら、
うおおおおおおおおおおおおおお!!
ってなりました。

痴漢冤罪で捕まった堂野は殺人を犯した罪で捕まっている喜多川の
優しさに触れて惹かれると言いますが、
この「優しさ」がどういうものなのか読んでみなきゃわかんないですね。
喜多川がどんな行動をしてるとかちゃんと読んでこの「優しさ」を知ってほしいです。

この小説にはいろんなものが含まれてて、萌えもすげーー含まれています。
凄く考えさせられたのが痴漢の冤罪というか、冤罪についてでした。
BLという部類にもちろん入りますが、そういう部類にも入るんじゃないかな?
と思います。

私はまだBL文庫版を読んでいないので、早く読まねばと思います。

1

びいえるといっぱんのかきね

木原作品は心と体の調子を整えてからじゃないと読めない。
ぎゅっと逃げられないところまで追いつめられて「どうよ?」と答えを迫られるような・・・そう、多分「娯楽」としての読書ではなくなってしまうからだ(基本、能天気なハッピーストーリーが好物なので)
 そんなわけで以前ノベルズ版を友人に借りてものすごく気に入って、自分の手元にも置こう!と思いつつ追い詰められたくなくて、そのうち、そのうち……と、買うのは後回しになっていた。 
: 
: 
今回【檻の外】も同時収録っていってたから、あんまり気にしないで買ったんだけれど・・・びいえる読みの私的には【なつやすみ】も入って【檻の外】だったんだよねぇ、しみじみとつくづくもったいな、と。
でも、一般書としてはこれで完結。で良いんだろうなぁとも思う。
 
そうは思っても【なつやすみ】……やっぱり収録して欲しかったな。
 
ということで『文庫版』は評価は低め。なんです。ごめんなさい。

2

素晴らしい読み物。

厚みのある一冊がすべてひとつのお話なので
読み応えがありました。

まず感想として・・・、とても面白かったです。
そして良い意味で、重く痛みのある作品でした。

家の底が抜けると言われそうなほど読んだ数々の小説の中にも、
重くて痛みのある作品はいっぱいありました。
それに、「素晴らしい」と自分が感じる作品もいっぱいありました。

でも「素晴らしい作品だ」と思うのと「面白かった!」と
思う作品とは、自分の中で必ずしもイコールでは無かったりするのですが、
この本は、素晴らしい作品と感じられ
読んでいる時は痛くて重いと感じつつもどんどん読み進み、
読み終える事が残念と思ってしまうほど楽しめた1冊でした。

2人の主人公は勿論ですが、出てきた2人の妻たちの
身勝手ぶりなど、人間臭さが溢れていたように思います。

自分の中では、何度も読み返せる作品です。

2

後世に語り継がれる文庫化。

はじめに↓
①すでに旧作を所持し、購入を迷われている方。
同じ作品だけど、まったくの別物です。と言いたくなるほど印象がかわります。読んでみなければ味わえないので、少しでも関心があるならば読んでみることをオススメします。
②未読のため、旧作か文庫版か迷われている方。
BLの心得があるなら旧作。ない方は文庫版。が無難かと。

それでは本題。
もし「この先一生1つしかBL作品を読めなくなったら何を選ぶか」ときかれたら、
いろいろ迷った末、私はいつも最終的には『箱の中』と答えてしまいます。
そして慌てて「あ、でも『檻の外』込みで!」と付け加えるハメになる。
だって、2冊は切り離せない。誰よりも純粋な心で愛を貫いた『喜多川圭』という男の人生を描いた1つの作品だと思うからです。
今回、ついにその傑作が1冊にまとまり、しかも一般書として文庫化するという。
心の底から驚きました。そして、よくわからないけど興奮し震えました。
一読者にすぎないけれど、「敬愛し傑作と崇める作品がより多くの方に読んでもらうことができる!」というのが、こんなにも嬉しいとは!

普段は、旧作を所持している作品の決定版や新装版を買うことはないのですが、他の熱烈なファンの方々と同様、アマゾンでの手軽さを放棄して自分の足で買い求めずにはいられませんでした。
書店にいく間もずっとドキドキそわそわ。書棚に平積みされている姿をみた時は涙が出ました。
すでに内容を知っている作品を買い求めて行っただけなのに、書棚の前で泣くなんて普通じゃない。
こういう感動の仕方ははじめてです。後にも先にもこの瞬間だけのような気がしました。

■一般書とBLノベルス、2つの『箱の中』
同じ作品だけど、まったくの別物だった…!
これは意外な新発見でした。
正直、中身は同じなのだから、明確な差があるとは思っていなかったので、コレクション目的で購入したのですが…読んでびっくり!!
「見た目の装丁が異なるだけでこんなにも印象ってかわるんだ!」と、目からウロコの発見でした。
【一般書】版はボーイズラブではない。
とまでいうと語弊がありますが、辛い経験をした囚人たちが真実の愛を知る話、という比重が強かったです。
だがしかし、その後【BLノベルス】を読み返してみると、ビックリするくらい「BLを読んでいる」って感じがしました!
身内にススメるのは少し躊躇われる気恥ずかしさがあるというか…。
内容は同じなのに、不思議なものです。
読むまではやはり文庫版の装丁が気になりました。でも、BLジャンルというフィルターを外して、単純に作品自体に向き合って読んでほしいと思うなら、BLを想起させ、あるいはBLオーラを盛り上げるような要素は思い切って捨てるべきなのですね。
その読者心理まで計算抜いてのあの装丁。感服いたします。

■一般書・同性愛作品とBL。
文庫版を読んで考えずにはいられないのはやはりコレ。
この二つの違いはどこにあるのでしょうかね。
『ジャンル』について、その長所や短所を含め三浦しをんさんが解説で語っていたことに大きく頷きながら、改めて考えさせられる作品です。
一般書の形で同性愛を扱った名作としては、長野まゆみ作品や高村薫の『李歐』などがよく知られていますが、これらはBL愛読者だけでなく、広い層に読まれ支持を得ています。それらに匹敵するとも劣らない傑作である『箱の中』。読者層を分けるのはやはりジャンルという壁なのか…。
そんな中、「だったら、一般書という形で提供するから読んでみてよ」というような、前向きかつ挑戦的な今回の試み。本当に素晴らしいと思います。

これをきっかけに、BLというジャンルにも唸らせるような傑作が存在するということを、多くの方に知ってもらえるといいなと思います。
そして、もっと広い視野で【同性愛】という要素をとらえ、BL作家だけでなく、他の多くの作家に同性愛を扱った作品を書いて欲しいとも。
現在、同性愛を扱った読物のほとんどは、BL作家さんによるものですからね。BLジャンルに限らず【同性愛】というテーマはもっと広く扱われるべきです。
映画界がそうであるように、日本でも同性愛を扱った万人向けの読物がもっと沢山出てきてほしい。
そういう意味でも今回の文庫化は、BL業界、ひいては日本における同性愛作品全体に関わる大革新ではなかろうか……と思ってしまうのは大げさでしょうか。
数年後、数十年後に振り返ってみたときに、
「あの時、あの作品を一般書として文庫化したから、いまの日本の同性愛作品がある」
と語り継がれるような1冊になっていたら…と願ってやみません。

■最後に。文庫化にあたり、収録されなかった短編について。
『箱の中』…【それから、のちの…】
『檻の外』…【雨の日】【なつやすみ】
番外編【すすきのはら】
囚人たちを通して真実の愛を探求した作品、という一般書としてなら「なくていい」というのは正論でしょう。
ただ、個人的には、喜多川圭という男の人生を描いた作品、と思っているので、私の中では【なつやすみ】がなければ完結しません。
彼が生き、人と出会い、心を知って、愛を貫き、一生懸命に尽くして、死んでいく話だからです。
実際に喜多川自身の目線で描かれたエピソードは【雨の日】のたった1話しかないですが、様々な登場人物の目を借りて喜多川という男の一生を繋ぎあわせた作品だと。

その人の最期の瞬間までを描いた作品はジャンルを問わず、けして多くないです。
もし、文庫版だけしか読んでいないのであれば、一人の人間の生涯を書ききった作品としても【なつやすみ】まで楽しんでみてください。

26

愛を考える

初めて読む先生。
小説に恋をした気分だ。
帯にも説明文にもBLと記載があるが、そんなことは関係なく色んな人に読んで欲しい。

自身は、予備知識ゼロで本作を読んだ。
小説は、ほとんど読まないが、今回ばかりは一気読みした。
これだけ集中したのも、漫画を読む以外では稀だ。

情景が浮かんで来る文章たちのおかげで、ずいぶんとお話に引き込まれた。

未だ苦しい気分だ。
かなりストレスがある設定(箱の中)が散りばめられていた。
それとは対照的に、無垢な情(愛情)が書かれていて、胸が締め付けられた。
そんな状態で、虚脱感がたまらない。


「脆弱な詐欺師」は、出所した喜多川が5年の歳月を経て堂野へ繋がる一歩手前までを、探偵の目線で描かれている。
ここで班長が登場するが、これがストーリーをギュッと引き締める形になっていて、スッとした。
「檻の外」では、刑務所の中で言っていた喜多川の思いは、そのまま実行された。
そして、喜多川に愛情を教えたい堂野は、色んな事由でその情に悩まされることとなる。


愛ってなんだろう?
それが最大の問いかけに感じた。
この小説では、“好き”より“愛している”の表現が多かったからなのかな。

言わなきゃ伝わらない、されど言い過ぎると希薄になる。
なんて難しい言葉なんだろうか。

誰かを大切に思うこと。
誰かを思いやる気持。
心からそう思い、体現できること。

解説で、三浦しをん氏も仰られていた。愛は決して美しいだけではない、とも。


これ以外にも考えさせられる言葉がたくさんある。
自身を見直すような、そんな作品。
そして、反芻したくなる、作品です。

表紙の美しさも目を引きます。(読まないと美しさが伝わらないかも)

7

もう、単なるBLじゃないよね

これは反則でしょうって言いたくなるような作品なんですよね。
『箱の中』と『檻の外』、過去に各ノベルズで発売された作品を1冊の文庫にして
再販されたものですが、1度も読んだ事が無い人はもちろん、過去に読んだ人も
同時に1冊で読むとまた、過去に感じた思いと違う見方も出来るのではないかと思います。

内容は、痴漢冤罪を題材にしたもので、シリアスで重い題材なのですが
単に暗い作品だと言うものではなく、全ての人間の感情がこれでもかと言う程
濃縮して詰まった作品なのですよ。
BLなんてジャンルの次元を軽く超えている作品なので、これを読んだ後だと
どの作品も霞んで見えるかも知れないと言う危うい作品でもあります。
是非1冊お手元に取って自身で確認して頂きたいNO1の作品です。

2

コノハラナリセ 完璧

旧本も 神。
文庫も 神。
完璧です。

泣きました。
号泣です。
大好きな木原作品が 全国民に読んでもらえる。
感無量です。

今日 本屋に行って買ってきました。
平積みしてある中 おじさんと若いお兄さんが手に取って
買っていかれました。
それを見て 本屋で実は泣きました。
素晴らしい作品は 誰が読んでもきっと心に
残ることでしょう。
一般書としても私は有りだと確信できました。

喜多川と堂野の恋愛は 純粋です。
魂を揺さぶられます。
正直に生きている人達の物語です。
ぜひ! たくさんの方に感動を味わってもらいたい。 

10

三浦しをん氏のあとがきが全てを語る

いよいよ、木原作品がBLを全く知らない人々にもお目見えする時がきました!!
と皆様、ドキワクして待たれたことでしょうこの文庫版。
発表になったとき、番外はどうなるのか?あの「すすきのはら」は入るのか?じれったいほどの気持ちで待ったのですが、番外は入らないとの情報に、そして表紙絵がアップされたとき、草間さかえイラストは絶品だったのに何故という気持ちもなくはなく。。。
しかし、この文庫本を読んで、一般文庫として出た意味を思ったときに、すごく納得できる構成でありイラストだったのです。
表紙に作中の人物イメージを持たせず、あくまでも文章の中で読者が読んで頭の中で作り上げていくための表紙なのだとも思えるのです。
『箱の中』からは表題と『脆弱な詐欺師』
あとがきにかえて、という描き下ろしの喜多川を騙した探偵のその後を描いた「それから、のちの」ははいっていません。
『檻の外』からは表題のみ。
皆が多分、安堵し、そして号泣した「雨の日」と「なつやすみ」は入っていません。
ええー!?あの「なつやすみ」があるからこそ、この二人の有様が~とも思うのですが、そこが一般小説として文庫で出た意味でしょう。

あとがきは、今絶好調で「腐女子の援護射撃する代弁者」(←勝手にネーミングw)三浦しをん氏が書かれています。
この氏の書かれているあとがきは、まんま読者の気持ちであり、腐女子の代弁そのものだと思いました!
BLとは一体どんなジャンルぞや?という、わかりやすい比喩を交えた解説をしてくれておるのですが、
先に述べた「雨の日」と「なつやすみ」はその”BL”として完結するための存在の話なんだということを納得するのです。
きっと、本編を読んでいたく共感した人は、その後を知りたいと思った人は、BL本で読んでみてよ♪
そしたらあなたもその日からBLに片足突っ込んだ人になるのよ♪的な・・・(すごいぶっ飛び解釈ですみませんwww)やはり援護射撃的なモノになっていると思います。
かといって、おしつけがましくなく、一般小説としても大変に受け入れてもらえる要素を多分に持った素晴らしい小説だということはきちんと述べられております。
この、しをん氏のあとがきも必読ですね。

本編への言及は、もう必要ないかもしれません。
痴漢冤罪であくまでも罪を認めず最後まで戦ったが為に最も理不尽な思いをしなければならなくなった主人公・堂野が、刑務所の中で辛い思いをしているときに、同室の喜多川に好かれる。
その刑務所内での出来事から、出所後の話、そして再会の話で構成された話。

何度読んでも、堂野に同化して辛くて苦しくて、一緒になって慟哭を覚え胸が苦しくなる前半。
必死で堂野を探す喜多川の、身を削って人を信頼して騙されるほどの、その執着に悲しさと憤りを覚える中盤。
人を愛することの意味を真摯に知らされる後半。
何度読み返しても、何度も何度も同じ体験をしてしまうほどのすぐれた作品だと思います。
愛だの恋だの、甘い部分が全面に出ておらず、そこに人の汚さやずるさも挿入されるからこそ、きっとBLを知らない読者にも自然に受け入れてもらえるはずだと思います。
これはこれで、正々堂々と本棚の前面に飾って大手を振って見せ付けられる本が一冊できたのではないでしょうか?
番外はないけど、本編だけでもとても好きですし、素晴らしい作品なので、そして一般文庫としての構成の仕方も納得でしたので、当然評価は「神」を付けさせていただきます。

34

東雲月虹

度々失礼致します。東雲です!
お返事いただきまして、誠にありがとうございます!
以前コメントさせていただいた時より緊張しました!!w
(あの頃は始めたばかりで、どれだけ凄い方なのかちゃんとわかっていなかった;)
やはり大御所様からお返事いただくと恐縮してしまいます…。
ドキドキしすぎて先程は旧版を旧盤と誤字を…失礼致しました。

HN、いやいやいや!そんなたいそうなものではございません!
茶鬼さんは、きっと“さきさん”っていう本名で、当て字なのかと予想していたら
まさかのチャッキー…w
いい意味で裏切られましたよw
こっそりくすくすさせていただきました☆
画像の猫ちゃんも誇り高い気位を感じさせますね!

お父上の本棚にゲイ小説とは!?
それはいわゆる…三○作品なのでしょうか…。
もしそうでしたら、『箱の中』もきっと楽しんで下さる事でしょう!w

ではでは、これからもレビューを楽しみにしております♪
ありがとうございました!感謝を込めて!!

茶鬼

東雲月虹さま

コメントありがとうございます(=^0^=)
HNのスレを見て、”げっこう”とも”つきこ”とも趣の深い読み方のできる名前だな~と思っておりました。
確かにこの本は一般向けなので、BLを読みたい人にはHOLLYの本を読むほうがよさそうです。
1Pづつのすり合わせは細かくしませんでしたが、要所要所を比較しましても多分手はくわえられてなさそうでしたので。
それにBLと違って一般文庫なら、いつでも書店で見つけることができると思うので、その点も安心できると思います。
私も、この本を今度実家へ戻ったら父親にさりげな~く渡そうかと企んでおりますw
ゲイ小説が本棚にあった父親ならきっと(笑)

東雲月虹

レビューを読んで鳥肌がたったのは初めてです!!
流石としか言いようがありません!!

「すすきのはら」が無かったのにはかなりがっかりしてしまい、
草間さんの“世界観ドンピシャ!”の挿絵も無いのが寂しいですが、
一般文庫として、に納得致しました。なるほどー!!

ここはひとまず、旧盤を読み返してまた素晴らしさを味わおうと思います。
今月新刊ラッシュなので(泣)
落ち着いたら文庫を買って、母(65歳)に読んでもらう事にしますw

いつもとってもためになるレビューをありがとうございます!!

茶鬼

こんにちは、カイさま。

皆さん期待の「すすきのはら」はありませんでした(´;ω;`)
そして、一般文庫本ですのでもちろん、挿絵も扉絵もまったくありません。
電車の中で読んでいても、堂々と中身を晒して読める本になっております。
確かに、既に持っている人には全くの重複で愉しみは減少した本にはなっていると思います。
なので、BL読者としてはhollyのほうが断然おすすめかもしれません。
ノーマルな人への布教には、新書より活字が大きく、本の厚みもさほど気にならないほど読みやすいので、この文庫は勧めやすいかもしれません。

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