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off you go
めちゃめちゃ泣きました。
『is in you』で中々に嫌なキャラクターだった 密 のお話かと思いきや、そういうスケールではなかった...
良時、十和子、密
3人の関係性が言葉では表せないほどに絶妙で、素敵で、愛おしくて堪りません。
off you go というタイトルの意味合い、3人それぞれの想いを知った時にはもう涙が止まりませんでした。
前作で嫌〜なキャラだったはずの 密 も、知れば知るほど気付いたら大好きになっていました。
青石ももこ先生のイラストも大好きです。
文字だけでは伝わらない絶妙な空気感を丁寧に掬い上げた素晴らしいイラストです。
※作品のあらすじは皆さん書いているのと、正直ネタバレなくまっさらな状態で読んで欲しいので、私は触れないでおきます。
※しかしながらレビューするにあたり、内容に触れまくっていますので、このレビューを読んで、誰か1人でも、読んだ直後に共感してくれる方が居たら幸せだなと思い書いておこうと思った次第です。ネタバレしたくない方はご注意ください。そして繰り返しになりますが、是非ネタバレ無しで読んでください。
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好きすぎると言葉にできないことって多々ありますよね。
もう思いが溢れすぎてあれもこれも伝えたくて、どれから発したらいいかわかんなくて。
気がついたら感情が追いつかなくて泣いてる、みたいな。
この本はまさにそれでした。
一穂先生は本当にもう、油断ならない。
あらすじを伝えても、登場人物の人となりを書き連ねても、どうあってもこの興奮は多分、いち、凡人の私には伝えきれないのですが。
痛いし、はっきり言ってBL枠と言うより人間愛、家族愛枠に近くて。読む人を選ぶ本であるのもわかっています。
けれど、とにかく読んで欲しい。
佐伯みたいな口も態度も性格も悪い受けは、基本嫌いなのですが。
どうして今回ここまで引き寄せられてしまったのか。
多分、潔いからなんですよね。
もう、不毛で不毛で不毛すぎるこの男が、本を読んでいるとどんどん愛しくなっていって堪りませんでした。
前作、is in youで散々爪痕を残してくれた佐伯さんだったので、勿論、評価は甘くなっている自覚はあるのですが。
普段だったらそもそも、is in youに出てくるような当て馬は正直どうでもいいというか。
八つ当たりで散々口悪く一束に喧嘩は売るし、口が悪いとか実直に物を言うとかを口実に無神経な人間は嫌いなので、すっかり佐伯さんにハマってしまった自分にもクエスチョンマークだったんです。
けれども、これを読んだらもう、この人が何しても何言っても可愛くて愛しくて仕方なくなっちゃったんですから、佐伯さんマジック凄まじや、の一言です。
また、静視点で語られる物語も、一穂先生あっぱれでした。
読み始めは物足りないというか、佐伯がどんな事を考えてどんな風にこれまでを生きてきたか知りたかったのに〜と思っていたんですが。
とんでもない。
静視点だからこその、終盤に向けての色々な感情がひとつに繋がっていく様というか。
あー、この時この人多分こんな気持ちだった、ってのがぐわーっと伝わってきてしまって。
もう、どこ読んでも泣けてくるんですよ。
序盤、子供の頃のシーンで印象的だった佐伯の言葉で
「ずっと遊んでようぜ。俺とお前と静、三人で」
と言うのがあるのですが、
これは3人にとって約束である以上に、もう、呪いにも近いものだったんじゃないかな、と感じました。
何処かに、どこまでも、いつだって。
そうやって、世界に飛び出して行きたかった佐伯が、その言葉で3人の世界に縛り付けられたような気もして、それ自体を気づいているのかいないのか、それ以外の可能性を全部反故にして、そうやって不器用にしか生きてこられなかった佐伯が。
人間らしくて愛おしくて。
前作、一束との、人間関係や、それ以外の人との繋がりにも、いくらだって違う道を選べたはずなのに。
多分佐伯はそうしなかったしそうできなかったし、望んでも居なかったと思うんですね。
そのくらい強烈に3人の居場所を愛していたんだと思うし、それ以外に要らなかったんだと思うと、結局身体は自由になったとしても心はずっと不自由だったんじゃないかなぁと。
けれどそれって究極の愛ですよね。
手書きのルビを振って、辞書の引き方を教えて、新聞を読ませて、そうしてすこしずつ十和子の手を引いて。
そういう愛し方をする佐伯が愛おしい。
大事なものを大事に大事にできる佐伯が愛おしい。
それなのに、葬式の駄賃にビールを入れた袋に潜ませた1万円札3枚が、不器用で不毛で、究極に切なくて。
言葉にできないものがそれに凝縮されているようで堪りませんでした。
そして唯一常識人というか。
健康体で、妹を心配したり友達を大事にできる良時が、いちばん歪んだ気持ちを抱えていた気もします。
ずっと遊んでよう、3人で。
その言葉を守るために、多分結婚した佐伯と、
その言葉に裏切られたと思って、多分結婚した良時。
ままならねぇ、に尽きますよ。
この人たちの遠回しの愛情と言ったらもう。
十和子を愛している密が好きだった。密を愛している十和子が大切だった。これからも、ずっと。三人で一緒に遊べなくても。こんなにも確かなことがある自分の人生は、絶対にいいものだと思った。
終盤のこの独白。
もうここで涙腺は本格的に崩壊しまして、読んでいて涙が止まらず次の行が読めないってそうそうないんですけれど。
私はこんな作品に出会える人生を歩めることが、それこそいい人生だって実感出来ました。
また、本編終了後の佐伯視点のSSで、ちょっと佐伯と十和子についても理解が深まったというか。
2人の関係性がやっぱり少しだけ違和感だったんですね。
大事なのはわかっているけど、結婚する必要性があったのかな?って疑問で。
でも、そのSSを読んで腑に落ちました。
多分、2人は同士だったんですよね。いつまでもどこまでも、傷を負った獣同士というか。
この2人の関係性も、お互い相手が良時であったなら成立しなかったんだと思います。
淀みのない呼吸、痛みのない消化、途絶のない駆動。それらを俺がどんなに憎んでいるか、どんなに妬んでいるか。どんなに愛しているか。
どんなに愛しているか。
この3人の物語は3人であっだからこそ成り立つ素晴らしいものだったと思います。
はーペーパー・バック読むのが待ち遠しい。そして読み終えるのがすごく寂しい。
この出会いに感謝します。
佐伯密、おそるべし。
「is in you」で当て馬の位置に甘んじていた佐伯密がメインのお話。
密と、子供時代に病室でベッドが隣同士だった十和子と、十和子の兄の良時。
いつまでもずっと三人で居ること、この完全なる関係性を、子供時代から学生時代、社会人になってから、そして現在に至るまで、時制ばらばらで行きつ戻りつして描かれた、極小にして壮大な物語。
当たり前だがそれでいてきちんとBL。
本当にBLっていうジャンルは柔軟で果てしない。
読んでいる途中で何度もこのお話の世界観に感心しました。
時制があちこちに飛ぶので、決して読みやすくはないのですが、それだけに描かれている三人の関係性の濃密さと複雑さ、そしてある意味至極シンプル(子供の頃の約束)、がすごくよく伝わってくる。
たとえば、いつまでも三人で居るために、兄妹という関係性が元々ある良時と十和子に対し、夫婦という形で関係性を築く密と十和子。これで良時と密も義理の兄弟になれる。
密と十和子は目的(いつまでも三人で)は同じで、同士であり、信頼もしてるし相手のこともよくわかっている。偽装結婚ではないけど普通の夫婦とは少し違う。でもこれによって三角形が保たれる。
という風に、一事が万事、当人同士が意識してたりしてなかったりというところも含めて、緻密に組み立てられているのです。
この三人の関係性に憧れもしますが一方で、とても僭越ですが正直なところ、このお話を書くのは大変だったろうなと勝手ながら思いました。
一穂先生のエネルギーを思い知りました。
「is in you」のことが出てくるのも楽しいです。
一束を結構好きだった、と密が述懐するところや、絶妙なタイミングで本命が現れた、と弓削のことを表現したりするところなど、別視点での見解にわくわくしました。
新聞社シリーズはほとんど読み切っています。
ペーパーバック2を読めば完読かな。
ペーパーバックを読み終わってこれまでの本を一斉に評価しようと思い立ちました。
他の本は評価のみなのですが、このお話だけレビューをと。
読み物として、とても楽く読ませてもらいましたが、BLとしてルンルンと楽しむだけとしては、佐伯が地雷でした。
と言うか、不倫、現地妻でドン引きです。
前作is in youの時の不倫で嫌だなぁと感じていたのですが、主役ではなかったので大丈夫だったよう。
キャラクターとしては、いつもなら好きなタイプの人です。
博識な毒舌家。
他のレビュアーの方が書いていらっしゃったのですが、良時の元奥さんに対しての態度は最悪でした。
お前が言うのかよと。
他のシリーズも楽しく読ませてもらっていますが、佐伯の分だけこの本の評価には萌と言う言葉は使いたくないと思うぐらいに地雷でした。
他のシリーズの評価はもっと高いです。
読み物として凄く惹かれたので。
「is in you」のスピンオフ作品。
当て馬役の佐伯の幼馴染兄妹との不思議な三角関係を描いたちょっと大人なBL小説でした。
なかなかBLな展開にならず、幼馴染としての佐伯と良時+良時の妹の関係のストーリーがしばらく続きます。
それが決して面白くない訳ではなく、一般小説として読んだとしても面白いと思えるくらいでした。
ただ、萌えるかと言われたら…そこまでかな、という感想ですかね。
前作の2人がとても好きだったので、比べてしまうとちょっと評価は辛くなっちゃいますね。
酸いも甘いも噛み分けた大人が、色々な経験を経てやっとお互いにたどり着くというじれったさや、お互いを知り過ぎているからこそ一筋縄ではいかない関係性にモヤモヤハラハラしつつ長年の両片想いを傍観する、そんなお話でした。
良時、良時の病弱な妹十和子、良時の腐れ縁&十和子の(元)夫密の歪なトライアングル、妹を介した男たちの長い愛の話です。
別作品で登場済みの密は、長く海外に駐在し、妻がいるのに男とも浮気する(攻として)、切れ者だけど扱い辛い、難しい男。
そんな密が、異動で日本に戻ったものの十和子から離婚を切り出されたと、良時の元に転がり込みます。
良時は妹思いでかつ気難しい密とも長くて付き合っていける、温厚で常識的な優等生な男。
常識的という事は世間の多数派に逆らわない、ということでもあります。
若い頃の良時は、同性である密を愛しているという自分の気持ちに気付けていなかったか、無意識に気付かないようにしていたのか、といった風。
時に鈍感で、案外譲らない性格の良時のことを良く理解していれば、その時点で良時と恋愛関係を結ぶのが難しいのは密には明白です。
他方、十和子と密の間には病弱な者同士の連帯や信頼があり、互いに大切にしているのも確かです。そして支え合う関係として、男女間には、男男間とちがい、婚姻という便利な制度を世間は用意してくれています。さらに婚姻によって良時と密の間には姻戚関係という、友人よりも強固に認められた関係が築けるのです。
そう考えると、若い頃に二人が結びつかなかったのも無理ないかな、という感じ。
けれど、密たちの結婚後、当てつけのように良時がした結婚が破綻し、密が強引に乗り込んできた事で、良時はようやく自分が密に対してどう思っているのかを見つめ直すことになります。
としても、こんなにもややこしい関係の二人が今更結ばれ得るのか、結ばれるとしてもどうやって結びつくのか…というところが話の肝になります。
一見温厚で良い人っぽい良時が気難しい密に振り回されっぱなしに見えますが、良時には常識人なりの鈍感さと無神経さ、図太さがあり、密には密なりの一途さがあります。
そんな二人のシーソー関係がよみどころでした。(個人的にはどっちがどっち役をするのかという部分が新鮮でした。)
失敗しないと、回り道しないと、気づけなかった事があり、また一度失敗したからこそ、開き直った選択ができる事があります。
綺麗事だけじゃない、40過ぎ同士になったからこその恋愛だなと思いました。
一穂ミチさんは心理描写や比喩表現がお上手で、匠に適度に職業的なところも絡めてあって、好きな作家さんの一人です。
ですが、この作品についてはあまり好きになれませんでした。
辛口コメントなので、苦手な方は読まないでくださいね。
あらすじについては他の方が詳しくご紹介してくださっているので、割愛。
先に「is in you」を読んですぐにこちらを読んだのですが、こちらのお話は、「is in you」で当て馬として出てきた佐伯さんの義兄(妻の兄)であり幼馴染でもある良時の目を通して、佐伯密の人となりと妻の十和子も交えた三人の関係を明らかにしていくお話でした。
最後まで読むと、三人の各々の心情や生き方が理解はできる。理解はできますが、全てに共感はできませんでした。
一番共感できたのは十和子です。
良時については、自分だけが健康という負い目や博識な密への劣等感から密への気持ちを長らく封印していた、というのはわかります。
けど、妹の夫が海外で現地妻何人も作って好き勝手やってるのを薄々知っていて、「男の性だから仕方ない」で容認していたのには、女の私は嫌悪感しか感じませんでした。密と十和子に体の関係がなかったことを知っていたのならまだわかるのですが、当時は普通の夫婦関係だと思っていた上での容認だったので。
あと、密に男とも関係があったことを告白され、その場の勢いで密を抱いたことについても、ずっと女性が性愛の対象だった良時が、いくら長年秘めてきた思いがあったにせよ、40超えた痩せぎすのオッサン相手にいきなり最後までできるのかと、リアリティのなさを感じずにはいられませんでした。
密については、優秀すぎる頭脳と喘息という病気を併せ持って生まれてきたがために、こんな偏屈な人間に仕上がった、というのは理解できるのですが、良時と十和子以外への態度が人としてどうかというレベル。
いくらお互いに割りきっているとしても、海外の現地妻を性欲処理の相手としか見てないし、良時の前妻(不倫で子供作って離婚した)への罵倒は、あんたにそこまで言う資格あるのか!?と思ってドン引いてしまいました。決して不倫を容認するつもりはありませんが、料亭の一人娘で跡継ぎを望まれているのにずっと子供に恵まれず、昔馴染みとつい過ちを犯してしまった前妻の方が、まだ共感できます。
十和子についても、何の病気でもないけどただ生まれつき体が弱い、で最後まで通されてしまったので、お仕事関係の描写はあんなにリアリティあるのに、何故そこだけ曖昧にしているのだろうという疑問がずっと頭から離れない感じで。心情に完全には感情移入できず。
他の方が最初は良さがわからなかったけど、読み直したら理解できた、と仰っていたので、内容を完全に忘れた頃にまた読み直してみようと思いますが、とりあえず初読では、私も良さがわかりませんでした。
新聞社シリーズ第2作目。前作で妙に存在感を主張していた佐伯のお話でした。シリーズなのでリンクしていても当然なのですが、彼がスピンオフ候補になると思い至らなかった自分は迂闊でした。よく考えると確かに彼しかいないですよね…。
佐伯と妻の十和子、十和子の兄・良時の関係性を描いたもの。
『is in you』で爪痕を残していった、あの「佐伯」が香港から日本に戻ってきてからのお話だったので、めちゃめちゃ興奮して一気に読み終えました。
佐伯(以下、「密」と記)の背景を知れば納得の、それはそれは倒錯的で強固な絆を三人が密かにシェアしていた事実。このトライアングルはわたしにとってBL的に難易度の高すぎる設定だったけれど、むちゃくちゃ萌えました。
密と良時は同い年で40オーバーのおっさんず。明光新聞社の同期というだけでなく、小5からつきあいのある幼馴染みのような間柄です。
生まれつき病弱な十和子が入退院を繰り返していた病院で、喘息持ちの密と同室になったのが出会いのきっかけでした。その頃からすでに密の人格は仕上がってましたね笑
語りが三人称なのでストーリが進むごとにそれぞれの思いを垣間見ることはできますが、巻末収録のSSのひとつ、「I L××E YOU」を本編に組み入れて時系列を入れ替えたら神だったかもしれないと思いました。早い段階である程度ネタバレをにおわせてもらった方が、やっぱり!と萌えがより強く感じられることもある。重めのこのお話もそちらのパターンで読んでみたかったです。
密が胸の奥にしまいこんだ思いと、良時の無自覚だった密への気持ちが十和子の婚約シーンでほのめかされた時、不意をつかれてゾワ〜っとしました。密の父親が亡くなった時のエピソードでは萌えMAX!!もう、これだけで萌え満タンでした。
二人は本編でセックスしてみせなくても全然よかったかな。BL的には必須だからしかたないけど、むしろ二人の生々しいセックス見せない方が逆にエロかったかも。セックスしなくても互いを強く欲しているメンタルの部分が十分に伝わりすぎているので、BLではあるけど本編の二次創作でエロ妄想したい尊さでいっぱいっていうか…。SSの「off we go」でその願望が叶ってしまうのが嬉しすぎました。
二人はいい大人なので冷静なエロ目線がしっくりくるし、一つひとつの行為に余裕はあっても、気持ちには余裕がない良時のギャップがたまらない。他のSSを読み進めるたびに佐伯に魅了され、あとがきの彼に撃ち抜かれてしまった…。
このレビューを書きながら思ったのは、エロがなくても萌えられるのに、エロが入るとなぜか萎えるというBLにあるまじき破格の法則。考えすぎた上に奥が深すぎて混乱してきたので、平和なエロエロが読みたくなりました笑
「ずっと遊んでいようぜ、俺とお前と静、三人で」
攻めの良時と受けの密は幼馴染み。良時の妹の十和子と、喘息を患っていた密の病室が同じだったことをきっかけに知り合う。出会ってから良時と密と十和子は、お互いをかけがえのない存在として認めて成長していくものの、時間を重ねるにつれて、ずっと3人でいることの難しさに気付いていく。
そんな中で、良時を想っている事を自覚しながらも、3人の関係を保つために、受けの密が選んだ選択は、十和子と結婚する事だった。十和子は密の想いに気付きながらも、彼女のある事情から密のプロポーズを受け入れる。良時は別の女性と家庭を持ち、密の幼い頃の宣言のように、3人で仲良く、穏やかに過ごす時間が続いていた。互いの気持ちに見て見ぬ振りをしながら20年間保ってきた3人の関係性。しかし、その関係は十和子からある日突然突き付けられた「離婚」という一言からとうとう崩れ始め…。というお話です。
新聞社シリーズ3作目。女性キャラがかなり深く物語の歯車として絡んできます。登場人物はみんな40代。平均年齢がぐっと上がるので、前作ほどの瑞々しさや甘酸っぱさ、疾走感はないものの、歳を重ねてきた大人の恋愛だからこそ滲み出る、しがらみや葛藤や苦味が良かったです。時間をかけてゆっくり丁寧に焙煎された珈琲みたいな小説。直接的な表現は少ないけど、何も無いところに実は登場人物の色々な感情や葛藤が散りばめられていて、行間を読む作品だなと思いました。
受けの密がなかなか強烈なキャラクターで、一筋縄ではいきません。一癖も二癖もある人物。病弱で、クールで、博識で、口が悪くて、仕事が出来て、捻くれ者。最初はこの人をどう料理したら受けになるんだろうと首を傾げていましたが、読み終えると納得。彼が大切な人にしか見せない弱さがあって、大切な人の為なら何を犠牲にしても構わないという危うさを持っていて。すごく献身的でいじらしい健気なキャラクターなんです~。でもこれは対良時さん限定の受けだなと思いました。密の健気さって他作品の健気受けみたいに常に出てるわけじゃないんですよ。普段は飄々とした食えない奴なのに、ふとした拍子にグラッと崩れかけて、そういう健気さを見せるのがずるい。一穂先生しか書けない魅力的なキャラクターだな~と思いました。
密が良時の元妻に罵倒の限りを尽くして罵るシーンがあるんですけど、もう凄いんですよ。敵意剥き出しでよくそんな悪口思い付くなってくらい。彼女が良時を裏切って他の男の人と子どもを身篭ったっていう背景があるんですけど。賢い上に博識だからもう口が回るのなんの。
そのすぐ後に良時に結構無理やり体を暴かれるんですが、そこで初めて身体を暴かれて苦痛しかないはずなのに、密はさっきとは打って変わって悪態のひとつもつかず無言で耐えて抱かれるんです。なんだかそのギャップに密~;;となりました。
好きなシーンは、密が「ままならねえよ、なあ、良時」って言う所と、電話中に良時さんに書かれたたくさんの「密」の文字に密さんが身体を火照らせる所です。「良時の手で遊ばれた自分の名前」っていう表現がなんか物凄く艶っぽくていいなと思いました。あと、全部読んだ後もう一度読み直して「良時良時」を探すのが楽しかったです。
密の魅力にどっぷりハマった1冊でした。面白かった!
甘々~!ラブラブ~!執着攻め~!みたいな言葉とは対極にある作品。
飲み物で例えるなら殆ど砂糖の入ってないカフェオレ。
決して劇的な話じゃありません。激しい展開もありません。回想を含め淡々と進んでいきます。でも飽きずに読んでしまうし、攻めが受けを押し倒したとき、腑に落ちるんですよね。
個人的には受けのキャラがめちゃくちゃ好きです。
賢くて不遜でひねくれてて口が達者で気が強くて変人で…ってかんじなのに、攻めのことめちゃくちゃ好きじゃん…分かりやすく好き好き大好き~!って感じじゃないけど、すっごい愛してるじゃん…人生かけて片想いしてたんだねって思うともうたまりません。
主要な登場人物として女性も出てきますし、好みも分かれると思いますし、分かりやすい描写でないとダメな方には向いてないと思いますが、ハマる人にはとことんハマる話だと思います。わたしにはハマりました。