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off you go
めちゃめちゃ泣きました。
『is in you』で中々に嫌なキャラクターだった 密 のお話かと思いきや、そういうスケールではなかった...
良時、十和子、密
3人の関係性が言葉では表せないほどに絶妙で、素敵で、愛おしくて堪りません。
off you go というタイトルの意味合い、3人それぞれの想いを知った時にはもう涙が止まりませんでした。
前作で嫌〜なキャラだったはずの 密 も、知れば知るほど気付いたら大好きになっていました。
青石ももこ先生のイラストも大好きです。
文字だけでは伝わらない絶妙な空気感を丁寧に掬い上げた素晴らしいイラストです。
※作品のあらすじは皆さん書いているのと、正直ネタバレなくまっさらな状態で読んで欲しいので、私は触れないでおきます。
※しかしながらレビューするにあたり、内容に触れまくっていますので、このレビューを読んで、誰か1人でも、読んだ直後に共感してくれる方が居たら幸せだなと思い書いておこうと思った次第です。ネタバレしたくない方はご注意ください。そして繰り返しになりますが、是非ネタバレ無しで読んでください。
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好きすぎると言葉にできないことって多々ありますよね。
もう思いが溢れすぎてあれもこれも伝えたくて、どれから発したらいいかわかんなくて。
気がついたら感情が追いつかなくて泣いてる、みたいな。
この本はまさにそれでした。
一穂先生は本当にもう、油断ならない。
あらすじを伝えても、登場人物の人となりを書き連ねても、どうあってもこの興奮は多分、いち、凡人の私には伝えきれないのですが。
痛いし、はっきり言ってBL枠と言うより人間愛、家族愛枠に近くて。読む人を選ぶ本であるのもわかっています。
けれど、とにかく読んで欲しい。
佐伯みたいな口も態度も性格も悪い受けは、基本嫌いなのですが。
どうして今回ここまで引き寄せられてしまったのか。
多分、潔いからなんですよね。
もう、不毛で不毛で不毛すぎるこの男が、本を読んでいるとどんどん愛しくなっていって堪りませんでした。
前作、is in youで散々爪痕を残してくれた佐伯さんだったので、勿論、評価は甘くなっている自覚はあるのですが。
普段だったらそもそも、is in youに出てくるような当て馬は正直どうでもいいというか。
八つ当たりで散々口悪く一束に喧嘩は売るし、口が悪いとか実直に物を言うとかを口実に無神経な人間は嫌いなので、すっかり佐伯さんにハマってしまった自分にもクエスチョンマークだったんです。
けれども、これを読んだらもう、この人が何しても何言っても可愛くて愛しくて仕方なくなっちゃったんですから、佐伯さんマジック凄まじや、の一言です。
また、静視点で語られる物語も、一穂先生あっぱれでした。
読み始めは物足りないというか、佐伯がどんな事を考えてどんな風にこれまでを生きてきたか知りたかったのに〜と思っていたんですが。
とんでもない。
静視点だからこその、終盤に向けての色々な感情がひとつに繋がっていく様というか。
あー、この時この人多分こんな気持ちだった、ってのがぐわーっと伝わってきてしまって。
もう、どこ読んでも泣けてくるんですよ。
序盤、子供の頃のシーンで印象的だった佐伯の言葉で
「ずっと遊んでようぜ。俺とお前と静、三人で」
と言うのがあるのですが、
これは3人にとって約束である以上に、もう、呪いにも近いものだったんじゃないかな、と感じました。
何処かに、どこまでも、いつだって。
そうやって、世界に飛び出して行きたかった佐伯が、その言葉で3人の世界に縛り付けられたような気もして、それ自体を気づいているのかいないのか、それ以外の可能性を全部反故にして、そうやって不器用にしか生きてこられなかった佐伯が。
人間らしくて愛おしくて。
前作、一束との、人間関係や、それ以外の人との繋がりにも、いくらだって違う道を選べたはずなのに。
多分佐伯はそうしなかったしそうできなかったし、望んでも居なかったと思うんですね。
そのくらい強烈に3人の居場所を愛していたんだと思うし、それ以外に要らなかったんだと思うと、結局身体は自由になったとしても心はずっと不自由だったんじゃないかなぁと。
けれどそれって究極の愛ですよね。
手書きのルビを振って、辞書の引き方を教えて、新聞を読ませて、そうしてすこしずつ十和子の手を引いて。
そういう愛し方をする佐伯が愛おしい。
大事なものを大事に大事にできる佐伯が愛おしい。
それなのに、葬式の駄賃にビールを入れた袋に潜ませた1万円札3枚が、不器用で不毛で、究極に切なくて。
言葉にできないものがそれに凝縮されているようで堪りませんでした。
そして唯一常識人というか。
健康体で、妹を心配したり友達を大事にできる良時が、いちばん歪んだ気持ちを抱えていた気もします。
ずっと遊んでよう、3人で。
その言葉を守るために、多分結婚した佐伯と、
その言葉に裏切られたと思って、多分結婚した良時。
ままならねぇ、に尽きますよ。
この人たちの遠回しの愛情と言ったらもう。
十和子を愛している密が好きだった。密を愛している十和子が大切だった。これからも、ずっと。三人で一緒に遊べなくても。こんなにも確かなことがある自分の人生は、絶対にいいものだと思った。
終盤のこの独白。
もうここで涙腺は本格的に崩壊しまして、読んでいて涙が止まらず次の行が読めないってそうそうないんですけれど。
私はこんな作品に出会える人生を歩めることが、それこそいい人生だって実感出来ました。
また、本編終了後の佐伯視点のSSで、ちょっと佐伯と十和子についても理解が深まったというか。
2人の関係性がやっぱり少しだけ違和感だったんですね。
大事なのはわかっているけど、結婚する必要性があったのかな?って疑問で。
でも、そのSSを読んで腑に落ちました。
多分、2人は同士だったんですよね。いつまでもどこまでも、傷を負った獣同士というか。
この2人の関係性も、お互い相手が良時であったなら成立しなかったんだと思います。
淀みのない呼吸、痛みのない消化、途絶のない駆動。それらを俺がどんなに憎んでいるか、どんなに妬んでいるか。どんなに愛しているか。
どんなに愛しているか。
この3人の物語は3人であっだからこそ成り立つ素晴らしいものだったと思います。
はーペーパー・バック読むのが待ち遠しい。そして読み終えるのがすごく寂しい。
この出会いに感謝します。
佐伯密、おそるべし。
「is in you」で当て馬の位置に甘んじていた佐伯密がメインのお話。
密と、子供時代に病室でベッドが隣同士だった十和子と、十和子の兄の良時。
いつまでもずっと三人で居ること、この完全なる関係性を、子供時代から学生時代、社会人になってから、そして現在に至るまで、時制ばらばらで行きつ戻りつして描かれた、極小にして壮大な物語。
当たり前だがそれでいてきちんとBL。
本当にBLっていうジャンルは柔軟で果てしない。
読んでいる途中で何度もこのお話の世界観に感心しました。
時制があちこちに飛ぶので、決して読みやすくはないのですが、それだけに描かれている三人の関係性の濃密さと複雑さ、そしてある意味至極シンプル(子供の頃の約束)、がすごくよく伝わってくる。
たとえば、いつまでも三人で居るために、兄妹という関係性が元々ある良時と十和子に対し、夫婦という形で関係性を築く密と十和子。これで良時と密も義理の兄弟になれる。
密と十和子は目的(いつまでも三人で)は同じで、同士であり、信頼もしてるし相手のこともよくわかっている。偽装結婚ではないけど普通の夫婦とは少し違う。でもこれによって三角形が保たれる。
という風に、一事が万事、当人同士が意識してたりしてなかったりというところも含めて、緻密に組み立てられているのです。
この三人の関係性に憧れもしますが一方で、とても僭越ですが正直なところ、このお話を書くのは大変だったろうなと勝手ながら思いました。
一穂先生のエネルギーを思い知りました。
「is in you」のことが出てくるのも楽しいです。
一束を結構好きだった、と密が述懐するところや、絶妙なタイミングで本命が現れた、と弓削のことを表現したりするところなど、別視点での見解にわくわくしました。
新聞社シリーズはほとんど読み切っています。
ペーパーバック2を読めば完読かな。
ペーパーバックを読み終わってこれまでの本を一斉に評価しようと思い立ちました。
他の本は評価のみなのですが、このお話だけレビューをと。
読み物として、とても楽く読ませてもらいましたが、BLとしてルンルンと楽しむだけとしては、佐伯が地雷でした。
と言うか、不倫、現地妻でドン引きです。
前作is in youの時の不倫で嫌だなぁと感じていたのですが、主役ではなかったので大丈夫だったよう。
キャラクターとしては、いつもなら好きなタイプの人です。
博識な毒舌家。
他のレビュアーの方が書いていらっしゃったのですが、良時の元奥さんに対しての態度は最悪でした。
お前が言うのかよと。
他のシリーズも楽しく読ませてもらっていますが、佐伯の分だけこの本の評価には萌と言う言葉は使いたくないと思うぐらいに地雷でした。
他のシリーズの評価はもっと高いです。
読み物として凄く惹かれたので。
「is in you」のスピンオフ作品。
当て馬役の佐伯の幼馴染兄妹との不思議な三角関係を描いたちょっと大人なBL小説でした。
なかなかBLな展開にならず、幼馴染としての佐伯と良時+良時の妹の関係のストーリーがしばらく続きます。
それが決して面白くない訳ではなく、一般小説として読んだとしても面白いと思えるくらいでした。
ただ、萌えるかと言われたら…そこまでかな、という感想ですかね。
前作の2人がとても好きだったので、比べてしまうとちょっと評価は辛くなっちゃいますね。
酸いも甘いも噛み分けた大人が、色々な経験を経てやっとお互いにたどり着くというじれったさや、お互いを知り過ぎているからこそ一筋縄ではいかない関係性にモヤモヤハラハラしつつ長年の両片想いを傍観する、そんなお話でした。
良時、良時の病弱な妹十和子、良時の腐れ縁&十和子の(元)夫密の歪なトライアングル、妹を介した男たちの長い愛の話です。
別作品で登場済みの密は、長く海外に駐在し、妻がいるのに男とも浮気する(攻として)、切れ者だけど扱い辛い、難しい男。
そんな密が、異動で日本に戻ったものの十和子から離婚を切り出されたと、良時の元に転がり込みます。
良時は妹思いでかつ気難しい密とも長くて付き合っていける、温厚で常識的な優等生な男。
常識的という事は世間の多数派に逆らわない、ということでもあります。
若い頃の良時は、同性である密を愛しているという自分の気持ちに気付けていなかったか、無意識に気付かないようにしていたのか、といった風。
時に鈍感で、案外譲らない性格の良時のことを良く理解していれば、その時点で良時と恋愛関係を結ぶのが難しいのは密には明白です。
他方、十和子と密の間には病弱な者同士の連帯や信頼があり、互いに大切にしているのも確かです。そして支え合う関係として、男女間には、男男間とちがい、婚姻という便利な制度を世間は用意してくれています。さらに婚姻によって良時と密の間には姻戚関係という、友人よりも強固に認められた関係が築けるのです。
そう考えると、若い頃に二人が結びつかなかったのも無理ないかな、という感じ。
けれど、密たちの結婚後、当てつけのように良時がした結婚が破綻し、密が強引に乗り込んできた事で、良時はようやく自分が密に対してどう思っているのかを見つめ直すことになります。
としても、こんなにもややこしい関係の二人が今更結ばれ得るのか、結ばれるとしてもどうやって結びつくのか…というところが話の肝になります。
一見温厚で良い人っぽい良時が気難しい密に振り回されっぱなしに見えますが、良時には常識人なりの鈍感さと無神経さ、図太さがあり、密には密なりの一途さがあります。
そんな二人のシーソー関係がよみどころでした。(個人的にはどっちがどっち役をするのかという部分が新鮮でした。)
失敗しないと、回り道しないと、気づけなかった事があり、また一度失敗したからこそ、開き直った選択ができる事があります。
綺麗事だけじゃない、40過ぎ同士になったからこその恋愛だなと思いました。
一穂ミチさんは心理描写や比喩表現がお上手で、匠に適度に職業的なところも絡めてあって、好きな作家さんの一人です。
ですが、この作品についてはあまり好きになれませんでした。
辛口コメントなので、苦手な方は読まないでくださいね。
あらすじについては他の方が詳しくご紹介してくださっているので、割愛。
先に「is in you」を読んですぐにこちらを読んだのですが、こちらのお話は、「is in you」で当て馬として出てきた佐伯さんの義兄(妻の兄)であり幼馴染でもある良時の目を通して、佐伯密の人となりと妻の十和子も交えた三人の関係を明らかにしていくお話でした。
最後まで読むと、三人の各々の心情や生き方が理解はできる。理解はできますが、全てに共感はできませんでした。
一番共感できたのは十和子です。
良時については、自分だけが健康という負い目や博識な密への劣等感から密への気持ちを長らく封印していた、というのはわかります。
けど、妹の夫が海外で現地妻何人も作って好き勝手やってるのを薄々知っていて、「男の性だから仕方ない」で容認していたのには、女の私は嫌悪感しか感じませんでした。密と十和子に体の関係がなかったことを知っていたのならまだわかるのですが、当時は普通の夫婦関係だと思っていた上での容認だったので。
あと、密に男とも関係があったことを告白され、その場の勢いで密を抱いたことについても、ずっと女性が性愛の対象だった良時が、いくら長年秘めてきた思いがあったにせよ、40超えた痩せぎすのオッサン相手にいきなり最後までできるのかと、リアリティのなさを感じずにはいられませんでした。
密については、優秀すぎる頭脳と喘息という病気を併せ持って生まれてきたがために、こんな偏屈な人間に仕上がった、というのは理解できるのですが、良時と十和子以外への態度が人としてどうかというレベル。
いくらお互いに割りきっているとしても、海外の現地妻を性欲処理の相手としか見てないし、良時の前妻(不倫で子供作って離婚した)への罵倒は、あんたにそこまで言う資格あるのか!?と思ってドン引いてしまいました。決して不倫を容認するつもりはありませんが、料亭の一人娘で跡継ぎを望まれているのにずっと子供に恵まれず、昔馴染みとつい過ちを犯してしまった前妻の方が、まだ共感できます。
十和子についても、何の病気でもないけどただ生まれつき体が弱い、で最後まで通されてしまったので、お仕事関係の描写はあんなにリアリティあるのに、何故そこだけ曖昧にしているのだろうという疑問がずっと頭から離れない感じで。心情に完全には感情移入できず。
他の方が最初は良さがわからなかったけど、読み直したら理解できた、と仰っていたので、内容を完全に忘れた頃にまた読み直してみようと思いますが、とりあえず初読では、私も良さがわかりませんでした。
新聞社シリーズ第2作目。前作で妙に存在感を主張していた佐伯のお話でした。シリーズなのでリンクしていても当然なのですが、彼がスピンオフ候補になると思い至らなかった自分は迂闊でした。よく考えると確かに彼しかいないですよね…。
佐伯と妻の十和子、十和子の兄・良時の関係性を描いたもの。
『is in you』で爪痕を残していった、あの「佐伯」が香港から日本に戻ってきてからのお話だったので、めちゃめちゃ興奮して一気に読み終えました。
佐伯(以下、「密」と記)の背景を知れば納得の、それはそれは倒錯的で強固な絆を三人が密かにシェアしていた事実。このトライアングルはわたしにとってBL的に難易度の高すぎる設定だったけれど、むちゃくちゃ萌えました。
密と良時は同い年で40オーバーのおっさんず。明光新聞社の同期というだけでなく、小5からつきあいのある幼馴染みのような間柄です。
生まれつき病弱な十和子が入退院を繰り返していた病院で、喘息持ちの密と同室になったのが出会いのきっかけでした。その頃からすでに密の人格は仕上がってましたね笑
語りが三人称なのでストーリが進むごとにそれぞれの思いを垣間見ることはできますが、巻末収録のSSのひとつ、「I L××E YOU」を本編に組み入れて時系列を入れ替えたら神だったかもしれないと思いました。早い段階である程度ネタバレをにおわせてもらった方が、やっぱり!と萌えがより強く感じられることもある。重めのこのお話もそちらのパターンで読んでみたかったです。
密が胸の奥にしまいこんだ思いと、良時の無自覚だった密への気持ちが十和子の婚約シーンでほのめかされた時、不意をつかれてゾワ〜っとしました。密の父親が亡くなった時のエピソードでは萌えMAX!!もう、これだけで萌え満タンでした。
二人は本編でセックスしてみせなくても全然よかったかな。BL的には必須だからしかたないけど、むしろ二人の生々しいセックス見せない方が逆にエロかったかも。セックスしなくても互いを強く欲しているメンタルの部分が十分に伝わりすぎているので、BLではあるけど本編の二次創作でエロ妄想したい尊さでいっぱいっていうか…。SSの「off we go」でその願望が叶ってしまうのが嬉しすぎました。
二人はいい大人なので冷静なエロ目線がしっくりくるし、一つひとつの行為に余裕はあっても、気持ちには余裕がない良時のギャップがたまらない。他のSSを読み進めるたびに佐伯に魅了され、あとがきの彼に撃ち抜かれてしまった…。
このレビューを書きながら思ったのは、エロがなくても萌えられるのに、エロが入るとなぜか萎えるというBLにあるまじき破格の法則。考えすぎた上に奥が深すぎて混乱してきたので、平和なエロエロが読みたくなりました笑
「ずっと遊んでいようぜ、俺とお前と静、三人で」
攻めの良時と受けの密は幼馴染み。良時の妹の十和子と、喘息を患っていた密の病室が同じだったことをきっかけに知り合う。出会ってから良時と密と十和子は、お互いをかけがえのない存在として認めて成長していくものの、時間を重ねるにつれて、ずっと3人でいることの難しさに気付いていく。
そんな中で、良時を想っている事を自覚しながらも、3人の関係を保つために、受けの密が選んだ選択は、十和子と結婚する事だった。十和子は密の想いに気付きながらも、彼女のある事情から密のプロポーズを受け入れる。良時は別の女性と家庭を持ち、密の幼い頃の宣言のように、3人で仲良く、穏やかに過ごす時間が続いていた。互いの気持ちに見て見ぬ振りをしながら20年間保ってきた3人の関係性。しかし、その関係は十和子からある日突然突き付けられた「離婚」という一言からとうとう崩れ始め…。というお話です。
新聞社シリーズ3作目。女性キャラがかなり深く物語の歯車として絡んできます。登場人物はみんな40代。平均年齢がぐっと上がるので、前作ほどの瑞々しさや甘酸っぱさ、疾走感はないものの、歳を重ねてきた大人の恋愛だからこそ滲み出る、しがらみや葛藤や苦味が良かったです。時間をかけてゆっくり丁寧に焙煎された珈琲みたいな小説。直接的な表現は少ないけど、何も無いところに実は登場人物の色々な感情や葛藤が散りばめられていて、行間を読む作品だなと思いました。
受けの密がなかなか強烈なキャラクターで、一筋縄ではいきません。一癖も二癖もある人物。病弱で、クールで、博識で、口が悪くて、仕事が出来て、捻くれ者。最初はこの人をどう料理したら受けになるんだろうと首を傾げていましたが、読み終えると納得。彼が大切な人にしか見せない弱さがあって、大切な人の為なら何を犠牲にしても構わないという危うさを持っていて。すごく献身的でいじらしい健気なキャラクターなんです~。でもこれは対良時さん限定の受けだなと思いました。密の健気さって他作品の健気受けみたいに常に出てるわけじゃないんですよ。普段は飄々とした食えない奴なのに、ふとした拍子にグラッと崩れかけて、そういう健気さを見せるのがずるい。一穂先生しか書けない魅力的なキャラクターだな~と思いました。
密が良時の元妻に罵倒の限りを尽くして罵るシーンがあるんですけど、もう凄いんですよ。敵意剥き出しでよくそんな悪口思い付くなってくらい。彼女が良時を裏切って他の男の人と子どもを身篭ったっていう背景があるんですけど。賢い上に博識だからもう口が回るのなんの。
そのすぐ後に良時に結構無理やり体を暴かれるんですが、そこで初めて身体を暴かれて苦痛しかないはずなのに、密はさっきとは打って変わって悪態のひとつもつかず無言で耐えて抱かれるんです。なんだかそのギャップに密~;;となりました。
好きなシーンは、密が「ままならねえよ、なあ、良時」って言う所と、電話中に良時さんに書かれたたくさんの「密」の文字に密さんが身体を火照らせる所です。「良時の手で遊ばれた自分の名前」っていう表現がなんか物凄く艶っぽくていいなと思いました。あと、全部読んだ後もう一度読み直して「良時良時」を探すのが楽しかったです。
密の魅力にどっぷりハマった1冊でした。面白かった!
甘々~!ラブラブ~!執着攻め~!みたいな言葉とは対極にある作品。
飲み物で例えるなら殆ど砂糖の入ってないカフェオレ。
決して劇的な話じゃありません。激しい展開もありません。回想を含め淡々と進んでいきます。でも飽きずに読んでしまうし、攻めが受けを押し倒したとき、腑に落ちるんですよね。
個人的には受けのキャラがめちゃくちゃ好きです。
賢くて不遜でひねくれてて口が達者で気が強くて変人で…ってかんじなのに、攻めのことめちゃくちゃ好きじゃん…分かりやすく好き好き大好き~!って感じじゃないけど、すっごい愛してるじゃん…人生かけて片想いしてたんだねって思うともうたまりません。
主要な登場人物として女性も出てきますし、好みも分かれると思いますし、分かりやすい描写でないとダメな方には向いてないと思いますが、ハマる人にはとことんハマる話だと思います。わたしにはハマりました。
表紙の2人の背景にある雪がぴったりな、しんしんと静かで沈みそうに深い愛の話でした。幼なじみ3人で互いに向き合う愛情の矢印。大事で大好きだから、互いに守りあう為に少しの誤魔化しで生きてきた。わかりやすい愛情ではないけれど、私はこの3人の関係を愛おしく思いました。そして、密と良時はもちろん、体が弱くてつよい女性の十和子が好きになりました。
萌とか、萌じゃないとかで判断できない、ただ大好きになったので神評価です。
身体の弱い十和子、体が弱くて捻くれ者な密、健康で優しい十和子の兄の良時。子供の頃、十和子の入院先にいた密と、十和子の見舞いに来た良時が出会って、子供ながらに痛みを分け合うみたいに寄り添いあった3人。「ずっと3人で遊ぼうぜ」という約束から大人に成長した後も密と良時は仲良しで、良時と十和子も仲良い兄妹のまま。そして、密は十和子と結婚してそんな2人を見て良時も女性と結婚する。3人の関係を守る為に、3人ともそれぞれあるものから目を逸らす為に。
私は、十和子も密も良時も、大人になってからも3人だけの世界で生きているんだと思いました。子どもの頃に生まれた3人だけの世界で、大人になった今も互いが互いを思いながら守りあっている。十和子も密も、愛し合っていて、深い愛情だけれど性愛ではなかったんですよね。良時と密の小さな頃から積もり積もった恋愛の意味での愛情に、互いに目をそらし続け、突然それに向き合うことになったら?それに気付いてもいいんだと、恋愛だと認めてもいいんだと背中を押されたら?
爆弾のように落とされた感情の波に流される2人を描く一穂ミチ先生の言葉のチョイスが素敵でした。ぶわ、と鳥肌がたつ感じ。わかりやすい恋愛や甘い恋を望む方にはオススメできませんが、大人のややこしくてある意味ピュアなこの話を、ぜひ読んでほしいと思います。関係が変わって辿り着く、3人の世界を見てほしいです。
シリーズ2作め。萌えるとか萌えないで評価しにくい作品ですが、私個人としては重要な役回りの女性も登場するこういう作品は、読み応えがあって大好きです。
こちらは、1作目で憎まれ役?だけど、背景や人となりが気になる印象的な人物であった佐伯さんと周りの人たちの物語です。
不思議なバランスの三角関係、遠回りして歳を重ねてしまったけど、まだまだ全然ままならないことだらけの人生。
キュンキュンする!!とかとは評価基準が全く違ってくる物語なのですが、大好きな作品なのは間違いありません。
再読です。昔読んだときは、主人公三人の誰にも感情移入できぬまま、さらりと読了、そのままほぼ忘れかけてました。なぜ再び手に取る気になったかというと、前段の「is in you」をこのほど初めて読んで、超絶頭よくて体弱くて仕事ができて素行の悪い佐伯というとんがったキャラにやられてしまったから。こちらでの佐伯は主役ではなく当て馬、しかも日本に愛妻がいながら香港で男の「現地妻」をかこってるという、BLの王道からも大手を振って転げ落ちているような役どころ。なのにその存在感はあまりに鮮烈で、正統派いいやつの主役である攻めをかすませるほど。でもって、その余韻の濃厚なまま本作を読んだらあら不思議。再読でこれほど印象が百八十度変わる作品は珍しい。そのくらいハマってしまいました。
「ずっと遊んでようぜ、俺とお前と静、三人で」11歳の密(=佐伯)は高らかに言い放ったけれど、そういうわけにはいかないことくらい、三人の中でとびぬけて聡い彼が気づいてなかったはずはない。たとえ風にも当てられぬほど病弱で、病院と自宅を往還するだけの毎日でも、こどもにだけ許される自由って、確かにある。大人になってしまったら、ただ一緒にいたい人と一緒にいるだけなのに、そこにはきちんとした「理由」が要るのだ。十和子と良時は兄妹だからいい。密と十和子には、男女だから「結婚」という方法があった。では密と良時には? 幼友達で、同僚で、十和子を介せば義兄弟。いろんな言葉で二人の関係性を言い表すことはできるけど、そのどれもが決定的な「理由」にはなってくれなかった。
実際、二人はそれぞれに、あがいてみたりもしたのだ。良時は無自覚で、密は確信犯という違いはあれど。同じ新聞社に同期入社しながら、海外の支社局を転々として凄腕の外信記者として名をはせる密と、ほぼずっと内勤の良時。長男のくせに初任地の金沢で料亭の一人娘に惚れられてあっさり入り婿になるという良時。「おまえなんかどこへでも行っちまえ(=off you go)」そんな捨て台詞を投げ合って、まるで互いの磁力から、無理にも遠ざかろうとするみたいに。「ままならねぇな」時折密の漏らす呟きは、良時に向けてか、自分の心に対してか。
そうして一定の距離を置くことで、あやういながらも絶妙のバランスで保たれてきた三人の関係が、20年という時がたったいまになって、あっけなく崩れ去る。妻に去られた良時、ずっと病弱な十和子の身だけを案じてきた母の死、そして密の帰国。いろんな枷や重しや境界線が取っ払われて、改めて良時と密はふたりきりで見つめあう。よく知っているようで実は知らない相手のことを。そこで「行って」と背中に最後のひと押しをするのが十和子の役目だった。
二人の初めての夜は、知り合ってからだと実に30年越し、さぞ感動的であまあまなものになるかと思えばさにあらず。普段温厚な良識人で、不倫の揚げ句身ごもった妻に別れを切り出された時でさえ激高することのなかった良時が、香港での密の男関係を聞かされて逆上し、いつになく荒々しく迫ってるし。密は密で、もとより腕力では良時にかなうべくもないけど、その気になれば一撃必殺の毒吐きで、瞬時に良時を萎えさせることだってたやすいはずなのに、終始ほとんどその口を開かない。「やらせろ」にも「密」と繰り返し名を呼ぶ声にもかたくなに口を結び、ただ良時の激情に身を委ねる。普段あれだけ饒舌で毒舌な彼だからこそ、その沈黙が純情の証しのようで萌えました。
一夜明け、我に返ってわたわたする良時を残して、涼しい顔で大阪出張に出る密。ここで「is in you」の時間軸とリンクしてるんですねえ。それにしても密ってばとことん人が悪い。今やわが身に現在進行している大事件で手一杯で、一束にちょっかいかけたり圭輔を報復人事で遠くに飛ばしたりする算段なんてできっこないくせに、行きがけの駄賃で、ちょいと嫌がらせだけはしとくか、みたいな。相変わらず圭輔のことは「大嫌い」と言ってはばからない密だけど、絶対それだけじゃないよね。圭輔って良時と同じ匂いがするもん。素直ですこやかで、過不足なくいろんなものが備わってて。いびつな自分を自覚すればするほど苦しく妬ましく、でも焦がれずにはいられなかった相手。あと、肝心なところで少し鈍感なのも、いかにも育ちのいいボンボンにありがちな弱点だけど、そこは苦にしてないようだしね、密も、一束も。
青石ももこさんのイラスト、「is in you」の高校生が主役の時はすごくハマってたのですが、本作では正直かなりの違和感が…。絵柄が綺麗で爽やかすぎて、40過ぎのオッサンの草臥れた色香みたいなのが感じられないんですよね。でも表紙の構図は神でした。
子供の頃、入院している病室で焦燥感を共有した佐伯と十和子。
そこに十和子の兄の良時が加わり、三人の関係は純粋だけど少し曲がったものになってしまう。
小さい頃から病弱で普通の子のように思いっきり外で遊ぶことも出来ず、少しの病気でも命取りになってしまう十和子は、良時と佐伯にそれぞれ無言の『約束』を求める。
血の繋がりを持たない佐伯はそれを『結婚』という形で与え、良時は『兄』という繋がりでそれを十和子に与える。
一方、佐伯と十和子、二人への疎外感から、良時も佐伯を想いながらも別の女性と結婚してしまう。
いっそ、十和子が佐伯の妹だったら、もっと簡単だっただろうになぁ。
でも、そうしたら佐伯と良時は出逢うこともなかった訳で・・、
「何で、ひとりの人間に生まれてきてくれなかったんだ」
「ままならねぇ」
この佐伯の台詞が全てを表しているように感じます。
ーー評価が低いのは、単純に好みの問題です。
私はどちらかというと甘々だったり、分かりやすい執着を求めているのですが、この作品もある意味執着は強いですが、何だろう、大人だからか、それとも子供の頃の想いゆえか、登場人物たちが静かに達観しているように感じられて、あまり萌えられなかったので・・。
「趣味ではない」けれど「硬質ないい作品」だとは思います。
明光新聞社シリーズ4冊をまとめて読みました。
話題だったし高評価なのでずっと読みたいと思っていました。
シリーズ2冊目は、前作で当て馬的存在だった元香港支局長の佐伯が主役です。
不倫相手の一束に対してうっかり「静」と呼びかけてしまい、知りたくなかった妻の名と間違われたんだと思ったシーンがありましたが、その意味がやっと分かりました。
佐伯は前作ではあまり物事を深く考えない快楽主義者、のように思えましたが…。
『is in you』の香港での任期が終わり帰国したところから始まります。
空港で妻に連絡したところ、住んでいたマンションは解約した。離婚するから書類は送るという一方的な通知のみ。
行先がなく友人であり妻の兄でもある静のマンションに行くことになります。
海外赴任中にあちこちで現地妻を作って遊んだツケでしょうか。
でも散々遊んできた夫を許してきたのに今になって?
と疑問に思っていたところ、問題は単純ではなかったのですね。
小説の展開は幼いころからの回想と現在の話が交互にあり、回想シーンの時系列が新旧がバラバラなのですが、わかりにくくはないし離婚に至るまでの必然性が無理なく理解できます。
佐伯は幼いころは小児ぜんそくで長く闘病生活を送っていました。
頭の回転も良くも口も達者な佐伯は、小さいころから傲慢で可愛くない子でした。
入院中知り合った同じ病室の少女 十和子とその兄の静と出会います。
病弱で何度も死にそうになりながら成長してきた十和子。
妹に両親の関心が偏っても妹を愛し見守ってきた静。
いつか世界を旅することを夢見て実現させた佐伯。
そんな三人が三様に成長していく過程で、不思議な三角形を作っていくのです。
ここまでくると、十和子と佐伯が愛し合って結婚するけれど実は佐伯は静が好きだったというオチなのかとありきたりな先読みをしてしまい、妹の夫である義弟を取り合う義兄弟略奪ものになるのはちょっと避けたい方向だったのでやや重くなりながら読み進めました。
さすが一穂さま、素人が考えるありきたりな筋書きではありませんでした。
十和子は兄も佐伯も大好きで二人をつなぎとめるために結婚という形にこだわったのだと思いました。
佐伯は、二人との心地の良い関係をこの先も続けていくために、友人ではなく結婚という形で十和子とも良時とも絆を作りたかったんじゃないでしょうか。
多忙な新聞記者になって妻との時間はあまりないけれど、妻ともその兄である静とも離れていてもつながっていられるのです。
やがて国内の遠隔地や海外支局に派遣されて離れ離れになっても、三角形のまま時を経ていくわけです。
三人の出会いが三人を育てたんだと思います。
もし佐伯が居なければ、親の関心を得られない静は妹を疎ましく思う日が来たかもしれません。
頭はいいけれど人との付き合いを重視してない佐伯はまともな社会生活が送れるようにはなれなかったかもしれない。
幼いころから長生きできないことを知り、あまり生に執着してなかった十和子は病室や自分の家の中だけの生活で、生きることの意味や世界を知ることにも関心がなかったかもしれません。
最後の方まで静と佐伯の間に明確なLoveな描写ありませんでした。
自覚してないまま求め合っていたのか、十和子のために考えてはいけないと律していたのか。
このままプラトニックに想い合って生涯三角形のままかもと思いました。
「売女に名前で呼ばれる筋合いはねえよ」から始まる数々の佐伯の台詞にスカッとしました。
静の元妻と路上で遭遇したとき、実家の料亭を継ぐことを前提に婿養子にまでした夫が居ながら、昔馴染みの料理人と浮気した挙句子供ができたからと捨てるような女と罵倒し続けますが、人のいい寝取られ亭主の見本みたいな静は、怒るどころか体調に気を使うような優しいことを言ってしまうのですから、佐伯としたらいいように扱われた静のことを思うと黙っていられなかったんでしょうね。
そしてその後、二人になったとき、佐伯から静が結婚したのは自分が結婚したあてつけだったのだろうと、真実を突きつけられたとき静が佐伯を組み強いてしまったのには驚きました。
前作では佐伯さんは攻めでしたし、温厚で大人し目な静さんが!と。
急展開でがっつくような性急な攻め方でこんな部分を秘めていたのですね。
でも、ここまできても急展開なエッチシーンはもうなくてもいいかなと思っていたので私の中では余分なことでした。
この作品はBLとしては萌える作品というのじゃない気がします。
一人の女をはさんだ男2人の3人の物語として出来上がってる気がします。
恋情ではない愛情で結びついた三人の男女の成長物語として。
◆ダイジェスト◆
新聞社に勤める静良時(しずかよしとき)(43歳)は妻の浮気で離婚したばかり。
独りで暮らし始めた彼のマンションに、妹・十和子の夫で同僚の佐伯密(さえきひそか)(43歳)が、十和子に離婚を言い渡され、転がりこんで来ます。
密と十和子は、幼い頃、数年間を同じ病室で過ごした闘病仲間。十和子を介して知り合った良時と密も、32年来の友人です。
20年前に結婚してからも、本当に仲の良い夫婦だった密と十和子。ただ、二人の間に男女の関係は一度もありません。
誰よりも理解し合っている二人ですが、それは男女の愛情とは別のもの。
そして密が本当に愛しているのは、良時――
にもかかわらず、密が就職と同時に十和子との結婚を選んだのは、ずっと3人一緒にいるため。十和子が密の本心を知りつつ結婚に応じたのは、病弱な自分に心を痛める両親を安心させるため。
二人の本心を知らない良時は、妹の結婚を家族みんなの幸せと受け止め、自分の中にある密への想いからは眼をそむけたまま、やがて家庭を持ちます。
仲睦まじい二つの夫婦、穏やかに巡っていく年月…ただ、3人の心の小さな歪みは、それぞれの人生に淡い翳を落し続けます。
そんな偽りの人生に終止符を打つべく、両親の死、良時の離婚というタイミングを見計らうように、離婚を決意する十和子。彼女の決断が、お互いを想いつつ心を解き放てなかった良時と密に、漸く「その時」をもたらし――
最愛の3人の絆を守ろうとした、良時、密、十和子の半生の物語です。
◆レビュー◆
長い長い紆余曲折を経て、漸く宿命の恋人の元に回帰する――何か大きな運命の歯車のようなものを意識せずにはいられない作品です。
読み終わった後、どこからともなく”Off you go”という声が聞こえてきそうな…それは、十和子の声でもあり、運命の導きの声のようにも…
十和子がいたから、二人は出会い、惹かれ合う。にも拘わらず、十和子がいたから、結ばれることなく、どこか心を偽ったまま人生の過半を過ごしてしまい…それでもなお、結ばれる時が訪れて、既に若さという輝きを失ったお互いになお惹かれあう、という。これはもう、宿命としか言いようがない気がします。
しかも、どこまでも「二人」ではなく、十和子を抜きにしてはありえない、「三人」の宿命。
3人で積み上げて来た、たくさんの思い出。
描かれていくありふれた過去の光景が、3人の想いを鏡のように映し出していく…その手法も鮮やかです。
そして、過去のエピソードが一つ重ねられる都度、3人が発する言葉の一つ一つに陰影が加わって。
病床の十和子が良時に向かって言う、
「ごめんね良時、ずっと、ごめんね……」
という一言にしても、そこに幾重にも過去の光景が重なってきて、どこにでもある言葉が、彼らだけの特別な意味を持ってくるのです。
人間は他人の言葉や行動を、共有してきた過去をプリズムにして捉えているわけですが、読者に3人の過去を共有させることで、その習性を効果的に活かした作品だと思います。
少しずつ不幸を分け合ってバランスさせた過去の三角関係を解消して、新しいバランスで再スタートさせる三角関係。重心を変えただけで、長く曇天だった良時と密の心は初めてくっきりと晴れわたる…そしていつか十和子の心も。
幸せそうな良時と密の背景に、まだ癒えていない十和子の哀しみが淡く滲んでいるような、深く複雑な色彩のエンデイングが、心に沁みました。
どう見ても神!としか言いようのない作品なのですが、惜しむらくは――
個人的に、密みたいな理屈っぽい男性に全然色気を感じられなくて(笑)
もっとも、見た目プロ棋士風で蘊蓄タレの新聞記者43歳って、そもそも受けとしては極左(反体制w)だと思うのです。
これは敢えて萌え要素を排除した作品なのかもしれない。そんな気さえしてきます。
そうすることで、性の匂いのする「恋」ではなく、宿命の「愛」の世界を書こうとした作品なのかな、と。
ただ、良時が密のシャツを破って強引に初セックスに持ち込むシーンだけは、良時にエロBLの俺様攻めが突如憑依してしまったようで、逆に違和感が。
あの瞬間の、良時のほとばしる劣情の発露は、32年の想いのたけなのか…う~む。。。(汗)
本質は、BLであってBLでない作品だと思います。
でも、敢えてBL的評価を付けてしまうとすれば萌×2。やはりBLには萌えを求めてしまう私なのでした。
『is in you』『ステノグラフィカ』そして今作は、同じ新聞社に勤める同期たちが主人公であったり主要人物であったりするのですが、『off you go』は二冊目にあたります。
攻めの良時は新聞社勤務の43歳、バツイチ。
体が極端に弱い妹・十和子は、良時の幼馴染みでもあり友人でもある密と夫婦。
受けの密は切れ者の特派員で、香港から日本へやっと戻されたばかり。
良時とは幼馴染なので遠慮のない間柄。
幼少期ほどでないにしろ、今も体は丈夫ではありません。
『is in you』で、主人公の上司であり恋人でもあった佐伯密。
主人公たちと対はる人物でした。
彼が香港から日本へ戻ってきた時からのお話です。
良時のマンションへ帰国直後の密が当たり前のように転がりこみ、お互い43というイイ歳こいた男ふたりが一緒暮らすことになった理由。
それは良時の妹・十和子が密へ離婚を申し出たためでした。
この理由は読み進めていくと判明しますが、こういう十和子には賛否両論ですね。
でも、わたしは潔いと感じました。
もちろん密との結婚は自分の体の弱さゆえの打算と、密への同士愛が混在したもので、すべてが純粋であったかといえば違うのかもしれません。
ただ、それはふたりで秘密を共有した時点で密の方にも折半されるべき責任ですから。
良時、密、十和子が知り合ったのは小学生の頃。
体が極度に弱い十和子が密と同じ病室でベッドが隣同士ということがあり、徐々に3人の心の距離が縮まっていきました。
ただ、この頃から密などは今の片鱗を見せている頭デッカチ系。
この幼少期のストーリーはたびたび登場します。
ここが三人の原点であったからでしょうか。
人に囲まれ守られ、そうでしか生きていけなかった十和子にとって、密の存在はどんなものであっただろうかと考えます。
密は眩しくて潔く、自分を、そして自身をも特別扱いしない唯一の人間だと十和子は感じたと思うのです。
甘さだらけの家族とは一線を画する密。
それこそ十和子にとっては、望むことさえ無理だとはじめから諦めていた小さな自由。
そして密自身も昔ほどでないにしろ丈夫なたちでない自分の体に心底嫌気がしていて(スピンオフ先のis in youで少し出てましたが)、彼を本当の意味で理解しているのは良時ではなく十和子なのだろうと思います。
密と十和子のキャラクターがひじょうにエキセントリックなので良時が地味に感じますが、彼の凡庸さのおかげで読者が置いてけぼりにならずにすんだのではないでしょうか。
そして、良時の前妻に偶然遭遇したふたりのシーンが好きです。
密が良時の前妻を罵倒するんですが、それがあまりに密らしく、言っている本人の方が体を壊しそうな命をけずるような怒り。
密のことはつねづね爬虫類っぽいと感じていましたが(体温低そう)、良時が絡むと熱を発するのですね。
はー、いや、この作品で一番良かったです。
えっちシーンより良かったです(笑
全体に今回の作品には綺麗事がないわけですが、その中でもこのシーンには人間の生々しい怒りしかない。
密はいつも何かに怒りを抱えながら生きており、それは自身の体のことであったり社会であったり十和子の境遇であったりと様々でしょうが、ただそれでも良時自身が密の唯一の善良なる部分なのだと感じました。
こちらの作品は読むのに体力がいりましたが、読んで良かったです。
好みがわかれそうではありますが、『is in you』で密が「静」と、主人公を呼び間違えたシーンが気になった方にはおすすめです。
一穂作品の中でも最も好きな一冊です。
やはり佐伯という人物の強烈な魅力が大きいですが、
文章や物語の構成も素晴らしい。
四十代半ばの幼なじみ男女三人。
根の深い三角関係の正体を、過去-現在をオーバーラップしながら徐々に解き明かし、ある一点で爆発してまた穏やかな日常に戻る…という構成に大変引き込まれます。
この繊細な物語世界を、
三人のうち最も鈍感でまとも(に見える)良時の視点で描いている点が絶妙。
もし十和子や佐伯視点であったら、
聡すぎる彼らの心象世界はあまりに感傷的すぎて苦しかったかもしれません。
少し鈍い良時視点だからこそ、十和子と佐伯の秘めた思いが本当にさりげなく伝わってきて、相手に気取られないよう努力する彼らの健気さに心打たれます。
例えば、互いへの呼び方。
十和子は兄・良時を、佐伯を真似て「良時」と呼び、
十和子と佐伯の夫婦は、互いを名字で呼び合います。
呼び方一つとは言え、「いびつな三角関係」を少しでも正三角形に保ち三人でいられるための、佐伯と十和子のさりげない努力であるように思えるのです。
そんな努力が水面下で行われてきた関係は、
佐伯が偶然出会った良時の前妻と夫を、激しく罵倒したことで終わりを告げます(酷すぎるけどスカッとする…w)。
あまりの罵詈雑言に圧倒されると共に、いつも飄逸とした佐伯が、良時のためならこんなにも激昂できるという事実に胸を打たれます。
佐伯は、
病弱な子供時代から、ある種の切迫感を感じさせるほど貪欲に知識を吸収し続け、「ままならない」境遇と戦うように世界中を飛び回ってきた。
彼がようやく良時という「行き着くところ」を得て見せる穏やかな表情に感動すると共に、遅れて来た初恋を噛み締めるように幸せそうに過ごす二人を愛おしく感じます。
そして十和子。
二人の関係は、良時の妹で佐伯の妻のこの女性なしには成立しません。
恋愛感情とは違う大きな愛で佐伯を愛し、佐伯と良時のため離婚を切り出す。
傍から見ると悲しい人生かもしれないが、
彼女は彼女で離婚により自分の道を行く自由を得たように思えます。
佐伯と良時を送り出すことは辛い選択でも、
十和子もまた打算的に結婚を承諾した負い目から解放され、綺麗な子供時代の思い出を取り戻すことができた。
今後は何にも縛られることなく、自分の道を歩んで欲しいと思います。
雪絵さんが言うように、彼女は小さくとも確固たる自分の世界をもつ、聡明な一人前の女性なのだから。
大阪本社での佐伯の様子(『is in you』)、同僚から見た二人(『ステノグラフィカ』)、同人誌での様々なエピソード等、様々な人物の視点・時間軸を通じて、これからも永遠に続いていくであろう物語。登場人物全ての人生が愛おしい、本当に大好きな作品です!
BL要素をすっぽり抜けば、きっと一般でも勝負できるだろうと思えるほど文章の書き方がお上手だな~と思いました。
やはり自分にとっては読みやすい人、一穂さんの作品のため、この作品も割とすんなりと文章が頭に入ってきました。
しかし、この内容、趣味か趣味じゃないかと言われたら『趣味じゃない』んですよね~。
40になったおじさんの歯車合わせの恋愛が描かれているんですが、
なんか二人のエロの部分要らなかったです、私の中で。
いきなり二人がエロに突入したところがこの作品の中で一番謎だったところでもありました。
密が香港の男の愛人のことをわざと言って良時を煽り、良時はそれの内容に嫉妬して密を襲うという。お互い「挑発してそれに乗っかって・・・」と納得済みで行為に至ったわけですけど、どうしても強引な描写に思えてしまったんですよね~。
ほかの部分が丁寧なのに、ここの描写は性急に思えて、未だ納得いたしておりません。
そして二人ともに、おじさんを感じられなかったのもキャラとしての違和感を覚えました。
そんなに枯れたおじさんを求めている訳ではないですが(笑)中年らしい落ち着いた雰囲気がもう少し欲しかったと思いました。
密も良時も30代前半と言われても納得すると思います。
それと佐伯密の妻であり、静良時の妹でもある『十和子』さんの記述が多すぎて、
いや別にいいんですけどね。私は十和子さんの味方だから←
けどBLなのに十和子さんとの回想シーンが多いのは少し気になりました。
十和子さんは何のために生きて、何のために存在して、何のために結婚しているんだろうと。
まぁ、十和子さんの気持ちも分からんでもなかったけど。母親のために結婚するって、とても親思いないい子よ、本当。
でも親の立場なら、自分を喜ばすために結婚なんてしなくていいと思いますけどね。本当に好きで好きで、幸せになるために結婚するんなら問題ないかなと思いますけど。十和子さんも幸せじゃなかったとは思わないから、まぁいいんですけどね。
ただ、理由としてはいま一歩の結婚理由だったかなと思いました。
しかし若い頃の三人の表現や、幼い頃の三人の表現は秀逸だと思います。
本当に丁寧に描いていると思います。
また、心の中にある恋慕を抑えて、良時の肩を食い込むほどに握っている密の描写はとても良かったと思います。
この作品に限らず、一穂さんは心理描写の掘り下げ方や文章の書き方がとても素晴らしいと思っています。
残念ながら内容やキャラが私には合わなかったので萌えませんでしたけど、
他の方にも読んでもらいたいなぁ~楽しんでもらいたいな~と思う作品ではあります。
「is in you」から続けて読んでみました。
「is in you」で大きな存在感を示していた佐伯、
彼が下の名前「密」と呼ばれ、彼について紐解かれていく展開は目を見張るものがありました。
メインの登場人物にはハッキリとした個性と人間臭さがあって、重みのあるドラマとなっています。
きっと普通に考えれば、素敵とか素晴らしいといった言葉が似合う作品なのだと思います。
ですが自分は、密の奥さん、「is in you」で佐伯が一束を間違って呼んだ「静」というその人、
彼女の描かれ方がどうしても苦手すぎて、きっともう、しばらくこの本は手にできないと思います。
「is in you」でも少し語られていましたが、
佐伯密は子供の頃に体が弱く、その事実が彼の性格にとても影響を及ぼしています。
その彼よりも更に病弱な妻の静、というか、この本では十和子。
(この、名字と下の名前とで呼び方が変わるところ、とてもいいなぁと思いました)
妻である彼女の方が密との離婚を決意し、その理由もちゃんと彼女の口から語られます。
そして読者は、密の視点と、十和子の兄である良時の視点で、彼女について知ることができます。
十和子の視点での話はありません。
男性ふたりの視点で彼女を見て思うのは、彼女はとても強いひと・・・。
でも、わたしはその一言で済ませて、メインの恋のはなしに頭を切り替えることができなくて、
十和子が長い間何を思って過ごしてきたのか・・・気がつけばそんな想像が止まらなくなっていました。
身体的な苦痛との闘いは、
普通のひとが、普通にしていることを自分は行えないという苛立ちは、
してもらうことが殆どという生活が延々と続くであろう虚しさは、
膨大にある時間は、
十和子に何を考えさせたのだろうかと。
密の心にある人を知り、
それがもし自分だったらどうなっていただろうか・・・、
密の想いが早くに成就したとしたら、自分はどうなるのだろうか・・・、
本当は自分は何を望んでいるのだろうか・・・、
もし自分がこんな身体じゃなかったら・・・?
そんなことをきっと繰り返し何度も何度も考えたのではないかと、わたしはどうしても思うのです。
共に旅をすることさえ叶わない、思い通りにならない十和子の身体、
誰が悪いわけでもない、その不条理さに、残酷さに、
わたしは心がすっかり砕けてしまいました。
単なる脇役ではなく、十和子という女性に大きく比重を置いてこの本は描かれ、
密の過去を通して、身体の弱さとその苦しみがその人に及ぼす影響についても知ることができるため、
十和子という存在を、
うやむやにも、見なかったことにも、ましてよかったことにも、できなかったのです。
彼女が見えないところで何を思ったとしても、
密と良時の目に映る彼女が、本にある文章通りの女性なのは間違いなく、
そのことで十和子自身も救われていたと思います。
彼女の生活にも、楽しさや喜びがささやかながらもあったことでしょう。
でも本を読み進め、密が愛する人と時間を共にして、
どんどん生き生きと幸福そうに変化していく様子が描かれると、
同じような経験を十和子はできないのだという現実が被さってきて、ひどく心が痛みました。
いくら幸せを感じる瞬間や穏やかな日々があっても、
十和子を心から愛する密と良時もきっと、わたし以上に心が痛いのではないかと思いました。
すべては誰にもどうしようもできない、生まれつきの身体の弱さのため。
それがあったからこそ、3人は出会い、惹かれ、愛を知ったのに。
逃れられない辛さや不公平さまでもが鮮明に描かれている、その描き方が正直苦手です。
でも、その中でもがきながら生きる3人は、人としてとても魅力的だと思います。
ただ、わたしにそれをしっかりと見つめるという、器がない、
ただ、それだけです。
snowblackさん、コメントありがとうございました(^^*)
十和子がちゃんと語っているのがあるのですね、
うわーそれなのにこんなに勝手な想像を晒しちゃってお恥ずかしい!!
そうですね、ちゃんとそういうのを読んだほうがいいですよね。
情報、ありがとうございます。
今回、あまりにダメージが大きかったので、読みたい気持ちと怖い気持ちと、正直半々です。
もう少し時間を置いて落ち着きましたら、改めてちゃんと考えたいと思います。
その際はまた、よろしければ色々と教えてくださいm(_ _)m
江名さま、snowblackです。
なるほどなぁ、と思ってレビュー拝見致しました。
逃れられない辛さや不公平さまでもが鮮明に描かれている、
私はその描き方こそに魂を奪われましたが、
でも、そうですね、おっしゃることはとてもよく分かります。
その後の同人誌の中で、結婚していた頃の十和子、離婚の理由を語る十和子も出てきます。
機会があったらお読み頂いて、また感想をお聞かせ頂けたら嬉しいです。
良時と密は小学5年の時に、密と十和子の入院先の病院で出会います。
それ以来3人は幼馴染となるのですが、
家が近所でも学校が同じでもない3人は、
密と十和子が同じ病室で数カ月共に闘病生活を送った、というただそれだけの繋がり。
だけど、出会った時から良時と密はお互いに特別な存在でした。
自覚はなかったけど・・・
いや、密は自分の気持に気付いていたのかもしれません。
密が退院する前、
「いい人生って何だと思う?」「十和子が急にかわいそうになって・・・」と言う良時に、
「ずっと遊んでようぜ。俺とお前と静、三人で」
密は、自分へ人生へ、挑戦のように宣言の様に、言い放ちます。
これは良時目線の良時と密の話ですが、
本当は十和子が主人公では?と思えるほど、十和子の存在は大きいです。
生まれた時から人並みの生活が出来ないほど体が弱った十和子。
壊れ物の様に、家族に大切に育てられた十和子を、
初めて人並みに扱い、知恵も授けた密。
十和子が家族の様に密を愛したのは、自然な成り行きだったのでしょう。
十和子が良時に離婚の本心を語る場面は、切なくて泣きそうになりました。
子供のころはいつでも側に良時と密が居てくれる事が当然だった十和子。
それが二人の就職が決まった事で、一人取り残される怖さを知ることになる。
そんな時に、密は十和子に「大人になってからも一緒にいるための特別な約束」をくれる。
聡い十和子は、密が良時が、本当は誰を想っているのか当人たち以上にわかっていた。
それなのに、その「約束」にすがりついてしまう。
いつまでも三人で居るために。娘の幸せを心から願う母親を安心させるために。
心からお互いを想い合う三人の、長い長い三角関係。
三人ともがやさしすぎて、相手を思いやりすぎて、本当に全編通して切なかったです。
人生の折り返しを過ぎてから、やっと自分の心に正直に生きる事を選択した三人。
十和子に背中をおされ、長年の気持ちを確かめ合った良時と密。
最後に、良時が「俺は今、幸せなんだな」と急にはっきり自覚したところは、
胸にずきんと来ました・・・
なんか、しみじみとした感慨が残る作品でした。
この本読むに当たって、前作になる「is in you」に佐伯っていたっけ?
と、佐伯の事を全く思い出せなかったのですが、、、。
そして、佐伯の方が攻めだって、なんとなく思いこんじゃっていて、読んでいても良時のイメージが全然定まらない。
で、「is in you」を改めて読み直してみて、
「佐伯」と「密」。
理由はこれか!
「佐伯」は攻めで、「密」が受け。
「is in you」でなんとなく腑に落ちなかった「佐伯」の背景も、「off you go」で細かく語られるし、「佐伯密」の物語として読むなら、「is in you」と「off you go」はぜひ続けて読む事をお薦め。
この本単独だと「萌2」かなと思ったけど、前作を読み直して、+1の「神」
一穂先生の作品はもともと好きなのですが、
これはもうどうしようもない位好きっ!
3月に読んで、はやくも今年のベストが個人的には確定してしまった作品です!
幼なじみで、義理の兄弟で、同僚でもある二人。
海千山千、頭がよくって性格が悪くって口も悪い佐伯が、良時にだけ向けていた純愛。
長い年月、知っていて、でも知らないふりをして生きてきたバランスが崩れる…
初めて出会った小学生の頃、学生時代、同じ新聞社に勤めてから、
様々な過去のエピソードが現在と交錯して、行きつ戻りつしながら物語が紡がれる。
どのエピソードも目を見張るような大事件ではないが、鮮やかだ。
彼らの想いの歴史であるそんなエピソードの一つ一つが
どれほどお互いが特別かを物語り、読み手の胸に迫る。
想いが通じあった時に、いつも目だけが醒めている佐伯が眼差しで笑ったシーンが好き。
「ままならねぇ」世界で、駆り立てられるようにより先へより先へと生きて来た彼が
ようやく手にした本当に欲しかったもの。
そして、少しして良時が突然は気がつく(彼はちょっと鈍いのですw)、幸せなのだと。
今までだって決して不幸ではなかったけれど、「雨じゃない」と「快晴」が違うように
とても単純に違うもの、幸せ。
決して甘い話ではないのだが、こういうところで胸が一杯になる。
危ういけれど絶妙だったバランスは、実は3人で形作られていた。
それを潔く突き崩したもう1人の主役、良時の妹十和子がとてもいい。
彼女に生涯寄り添うと決めている家政婦の雪絵さんといい、
女性達の生き方にも心を動かされる。
脇役として出てくる人々にも、ちゃんと仕事があり家族があり人生のドラマがある。
そんな当たり前のことがきちんと描かれたり、
描かれなくてもそんな背景を感じさせてくれるのも
この作者の作品の感動が深い物になる要因だろうと感じます。
(そして、新刊「ステノグラフィカ」では脇役西口の人生も繙かれます。)
巻末の短編は「I L××E YOU」だけが受けの佐伯視点。
「off we go」「sofa so good」と、甘さ増量。
これからの二人がこんな風に一緒に生きていくんだろうなぁ、と
なんとも可愛い佐伯も垣間みられて、こちらも幸せ気分になれる小品でした。
※追加のコネタ
作中、佐伯が口ずさんでいるのはOASISの「Champagne Supernova」だと思われます♪
それから指輪のロシア語「орько」、頭の「г」が落ちちゃってますが、
いいエピソードですね。
ザグレブの失恋博物館にも行ってみたいし、二人の道中も読んでみたい〜
ナツッジのソファといい、レヴィ=ストロースといい、一穂先生は小物の使い方が上手いですね!
なんかね……上手くいえないんだけど。
よかったよね。
「is in you」から続けて読んで、この二ついいわ〜って思った。
一穂さんの作品は、若い子のピリピリとした繊細な心情と、美しい文章によって紡ぎ出される美しい情景がたまらないんだけど、登場人物が40過ぎてもいいよね!
年を重ねてもピュアだよね。
年を重ねたからこそ、ままならなかったり、今に至るまでの時間と理由があったり……。
BLの萌えを求めると違うんだけど、上質な物語を読んだなーという感じでした。
兄妹と密(幼馴染)の物語。
歳も歳だし性格もあるのでしょうから、こんな感じなのでしょうが
甘甘好きな私には個人的には物足りなかった。
それでも、お互いを想いあっているのは伝わってきました。
ソファの話はニヤニヤできて良かった。
妹、十和子の視点の短編があったら面白かったかも。
一穂ミチさんの小説は始めて読みました。
表紙の雰囲気に惹かれて購入してみましたが、中を読んで吃驚。
これまで私が読んでいたBL小説は受けを主軸(視点)に物語が展開しいくものばかりで、一変してこちらは攻めの良時を主軸に描かれていて、最初は入り込めなくて大分戸惑いました。
けれど作家さんの技量と、この物語は攻め視点でなければこれほどの苦さを味わうことが
出来ないお話だったので、中盤辺りからは慣れて読めるようになりました。
文体はさらさらとしていてとても美しい。
中身はさっぱりとした大人の、子供みたいな苦い恋愛。
非常によく合わさっていると思いますし、読みやすかったです。
ただ、時間軸がころころ変わる為、頭が時々ついていかなくなる時がありました。
章ごとに区切らず、一本丸ごとを描ききるのは凄いと思いますが、その分物語に入り込みにくかったです。
そして互いに何故好き合ったのかという描写も薄いので勿体ないなーと。
現代の商業誌で、こんなにもほろ苦くさっぱりとしたBLを読めるとは思ってなかったので、非常に嬉しく、楽しめました。
病弱な妹が取り持つ縁なんですよね、でも取り持つ予定が両親を安心させる為に
攻め様の妹は受け様との結婚を決めてしまう。
受け様と攻め様の妹は子供の時から病弱で一緒に入院生活を過ごしたまさに同士
病気の辛さや弱さ、意地っ張り具合も全て理解しあえるような仲なんです。
妹を中心に受け様と攻め様も仲良くなって、いつも3人でいるのが当たり前に
でも、受け様の心の中では叶わぬ思いの葛藤があったんですよね。
そしてそれを攻め様の妹は全て知っているのに、受け様の為にはダメだと
言わなければならないのに、病弱な自分に心を痛ませている母の喜ぶ顔を見た時に
受け様の覚悟を受け入れ、利用してしまう・・・
受け様は攻め様を好きなんですよね、でも無理だと知っているから、でも少しでも
いつでも傍にいれる事が許される場所を求めてしまった。
攻め様も、妹を愛してる受け様が好きで、受け様を愛してる妹が大切でいつまでも
子供の時と同じような関係を望みながらもままならない思いに、歪な関係を正すように
攻め様も結婚して、形だけは妹夫妻と、兄夫妻と言う形で過ごしてる。
でも、その均衡が崩れる、攻め様の離婚なんです。
そして妹も、両親が共に亡くなった事で、受け様を自分から解放してやろうと・・・
受け様も攻め様も既に40を過ぎてて、でも、受け様の執着にも似た思いは
今も変わらずに続いているんですよね。
妹も受け様も大事な攻め様は、二人の離婚話に困惑を隠せない。
結婚する時も、心の底から喜べなかった攻め様なんですが、思いを形にする事すら
考えていなかった攻め様。
今更の展開のような気もするんですが、本来のあるべき形だったんだろうと
最後は思える内容になっていたと思える作品でした。
でも、好き嫌いのでる作品だろうなぁ~とは思いますね。
全てが妹を中心に動いているストーリーで、比重が高すぎる感じがしました。
短編が4編収録されていて、二人の大人になってからの恋心みたいな雰囲気が
楽しめるお話もあります。
…の、つっこみから、入りました。
期待して待っていた分。っていうか、タイトルの感じで
is in youの関係?新聞記者、そうかーって思っていたから。気づくの遅かったんですけど。
まあ、なんていうか、救済措置というか、is in youも読み返したくなるような、そんな感じ
まったくもって一束や先輩の名前は出てこないのですが、ニュアンスでね。
まさかの左の人が右に!!!!!!!!っていう。でも、小学校5年の頃からアラフォーまでの
長くて山あり谷ありの人生もおもしろいな、と。最後は結局おっさんになってから
一生となりにいて歩くのかなぁ、とか。
密がこんな口悪いんだけど一途な人だったなんてなぁ、と。
アラフォがヒトリが食器洗って一人がアイロンかけるとこなんて、ほほえましいったら。
なんていうか、ミチさんって、大人の男かくの上手なんだよなぁって改めてしみじみ。
シュガーギルトがよみたくなったもの。
一生そばにいたい人に出会って、でもその人と一生一緒にいるためには
どうしたらいいか、そんなことを考えた結論決断は、ある意味清清しかった。
ソファのくだりは、だいすきで。二人が一緒にファーストクラスで旅行するとこが、みたい。
体の弱い十和子という妹を持つ兄の良時。
妹の入院先で知り合った隣のベッドにいた密。
この兄弟の三角関係は、ひょっとすると十和子を主人公にして、十和子目線で良時と密を見た展開になったとしても、充分に読ませる話になったと思われるものでした。
決して十和子が自己犠牲の元、密と結婚したのではなく、自分の望みとして彼と結婚してる。
密は、叶わぬ想いを義理の兄弟となることで絆をつないでおこうと考えたのではないだろうか?
十和子は、それを知った上で密と一緒になっている。
だからこそ、良時が妻の不倫で離婚したのをきっかけに、もう密を良時に返してあげよう、
密を良時にあげようと、決意したのではないだろうか?
そんな、主人公達にそれぞれ妻(元妻)なる存在がある話しであるために、とても女性の存在が大きな重要性を占めている。
しかし、主人公達は43歳。
出会ったのは、小学校の時。
それだけの長い時間を使って相手を好きになり、そして叶わぬ想いを封じ込め、それは中年にさしかかっても継続していて、女性が彼等の気持ちに決着をつけさせるために引導を渡す。
何と、男というのは不器用で純情でかわいらしく憎たらしい生き物なのか。
そして、女性はどんなに強いんだろう。
そんな印象も受ける物語でした。
今回は登場人物が中年、そして女性の存在が大きく、独特な雰囲気があるのだが、
その根底は43年という中年であっても青臭く、恋というのはいくつになっても変わらないものだと、抱えるものが長すぎた為に余計に青く感じるのでありました。
自分的に、実はこの作品、作者さんの今までのなかで一番好きな作品であります。(本当は神をつけようかとおもったくらいに)
ちょっとひねくれてるかなwww