お買い得商品、セール品、中古品も随時開催中
シリーズ第3部の3冊目。通しで14冊目になります。今回は表題作のみの収録です。
音楽家としての悠季の話としては、1~3部の中で一番お気に入りの話です。
以下ネタバレします。
―僕は、あなたの思いを聴き手達に伝えるための楽器―
駅で捕まえた音を手放さずに《雨の歌》全曲を弾き通せるよう自分の音の追及に励む悠季はバイオリンを弾くことが面白くてたまらない気分になり、福山先生のレッスンも初めてアグレッシブに受けることができます。フジミの練習は3月まで休むことにして、コン・マス代理は五十嵐くんに任せることになります。
そんな中、圭がM響定例講演の代振りで本拠地デビューすることになり、悠季は五十嵐くんと聴きに行きます。演奏会はアンコールを要求されるほどの成功をおさめます。ここの演奏会の描写にはゾクゾクきました。圭、本当に凄いです。
しかし、圭のオケの音を聴いた悠季はその素晴らしかった音が頭から離れなくなり、せっかく見つけた自分の音を見失ってしまいます。そして、自分の音を取り戻すために圭と別居します。別居期間中、圭は成城の実家に出戻っています。
しばらくの別居生活の後、悠季は再び自分の音をつかんだと確信し圭に帰ってきてと電話します。圭は翌2月11日に始発で薔薇の花束を持って帰宅します。その日は悠季の25歳の誕生日で、生島さんとソラくんも呼んで伊沢さんの料理でホームパーティーでお祝いをします。そこでプレ・リサイタルをするのですが、この演奏がソラくんと伊沢さんの心には響かなかったことで、悠季は新たに自分にはまだ何かが足りないと気付きます。生島さんにヒントをもらって圭と話し合って、悠季は人に伝える演奏ができるよう全力で努力します。
そして3月になり日コン入賞者ガラコンサート(日コン入賞者披露演奏会)の日がやってきます。自分がバイオリンを弾いていることの意味を悟った悠季は、営々辛苦の末に綴りあげてきた《雨の歌》をステージで披露します。ブラームスの思いを聴き手に伝えるための1個の楽器となる悠季。
今の自分にできる精一杯の演奏を成功させた悠季は圭を初めとする人たちからブラヴォーの賞賛を浴び、福山先生からはイタリア留学を命ぜられ、石田ニコちゃんのフジミ退団勧告に背中を押してもらいます。そして生島さんと寿司を食べに行く福山先生に一緒に来いと初めてのお誘いを受けます。
他には、悠季が生島さんにパンケーキを焼かされながらマムの話を聞いたり、慰問演奏に参加しなかったことで拗ねている市山さんに快気祝いの宴会で絡まれたり、鈴木ヨシコさんにお叱りの手紙を貰ったりします。延原さんはスイス公費留学が決まりました。それから、悠季は福山先生のレッスンで初顔合わせした外国人が彼の有名なエミリオ・ロスマッティであることには気付いていません。なお、圭は国際コンクールに挑戦する準備を着々と進めている模様です。
題名を見たときに「うわ~やばそうだ」と思って読みました。
中はドロドロの人間模様かな、と覚悟して読み始めましたが、大丈夫でした。
主人公のバイオリニストの卵・守村悠季が、七転八倒しながら自分だけの音を模索しつつ、コンクールにチャレンジしていくストーリーです。
今回はこの「退団勧告」という言葉が最後の最後にならないと出てきませんので、皆様覚悟してお読みくださいね。
指揮者として将来が嘱望されている恋人・桐ノ院圭や、実力派ピアニスト・生島高嶺などに囲まれて、自分がどうしようもなく卑小な存在に思われてしまった悠季。
そんな悠季が自信を無くしてしまった原因も、自信を取り戻すことができたきっかけになったのも、すべて音楽そしてバイオリンだったという、書いてしまえば短いオチなのですが、そこまでがどうしようもなく苦しい道のりだったんだとわかるストーリーになっています。
自分が自信を無くしたとき、わがままを聞いてくれるだけでなく、時には突き放して、その苦しむ様子を影ながらじっと見守るっていうのも愛なんだなあと思いました。
自分としてはすぐにでも助けが欲しいところですが、音楽家というものはとてもM気質みたいです。