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知明の親が変なので実華子がどれほど辛く当たられたのかが推し量れて、こんなに可哀想な目に遭って、若くして亡くなったなんててただでさえ思ったのに相手からも言われていたなんて…口の悪い慈雨が悪いのは周りの方だって言ってくれる人で救われていたなら良いのだけど…
結局、慈雨と実華子は自分の相手については仕方がないと、自分が家族になれないって引け目を受け入れてしまっていて、互いの相手を罵ることしかできない
2人一緒にいることでお互いを通して裏切りに憤ったり寂しがることができる
実華子は俺、慈雨は私って思いながら一緒にいたんだろうか
怖くなるくらい酒を飲むけれど、実華子と慈雨は身体は別物だから…
でも、死ぬのは2人にはあがりみたいなことで、一緒だったら良かったのになってくらいだったんだろうな
遺されたらさみしいんだぞって、さみしくしてごめんねって、そんな感じだったのかな
遺されたさみしさを知ったら家に迎え入れた知明を遺すことが怖くなって、慈雨は繊細だよな
失恋したくらいで結婚なんかするだろうかって初めから思ってた
もう二度と誰とも恋しないって思うかなって
本だけ買って調理器具も買わない
そもそも、家で仕事してるのに弁当の本だし
皐月の親が離婚したのが自分のせいって発言とか、ん?て少しだけ引っかかることが終盤に(なるほど)て腹に落ちて行く
そして、謎だけじゃなくてエピソードに意味がついて行くのが見事で余韻もとても面白い
皐月は知明からもらった手紙が実華子に促されて書いた物だと知るのだ
赤い印象的なスーツケースは実華子の物だったのだ
ちあきはモテモテになるんだよって実華子の言葉には意味があって、よくいる子供にそう言うこと言う人のとは違ったんだ
モテモテになって、1番ステキな異性と結婚して父親に…祝福される幸せの中でも更に1番を得るのだって、可愛い甥がそんな幸せの中で生きているって思うことは実華子の慰めになったのだろうか
咲彦がいて慈雨と咲彦を見ているから、知明は皐月のところでこれからも働いていけるんだろうな
食べて、生きている人間は前に進んで行くんだもんな
甘いの食べない子供に買ってくる親、独りよがりなの大人になればなるほどゲンナリするよね
実華子の親や姉みたいなのと慈雨の親
子ども自体に無関心で自分の思う善を微塵も疑わないで責めるのと憐れんで施すの、おんなじだよね
面白かった
家庭の温かさや家族の情と触れ合わずに生きてきた知明。トモアキ、だか親戚中からハブられていた叔母は、ちあき、と呼んで可愛がってくれた。
その叔母の夫から叔母が亡くなったとの連絡を受け、訪ねる。そこには夫だったという慈雨が居た。
知明と慈雨は同居を始め、知明の家庭の問題や慈雨のバックグラウンド、さらには叔母の過去までも知ることになる。
知明が慈雨に惹かれていくところは、少し分かりにくいけれど、穏やかな流れで日々が過ぎていきます。途中、慈雨の元恋人が出てきたり、家族・家庭を持つことの普通さ、男女で付き合う、結ばれることの普通さなんかが思い課題として読み手に提示されているようで、深いなと思いました。
叔母の過去の出来事もちゃんと回収されていて、どちらの想いも選択の結果だけれど、やはり子供を持つことの本能、それを超える愛情、色々あるんだなと考えさせられました。
一穂さんの作品は穏やかな中にグッとくる要素が入ってるな、と思います。
一穂先生の『イエスかノーか半分か』がとても好きなので前知識なしで読み始めたのですが、残念ながら、キャラクターもストーリーも好きになれませんでした。
読んでいて、主人公と優しい叔母の思い出とか、主人公と師匠である料理家との出会いとか、また師匠一家の優しさとか、叔母の看護をしていた時に男が書いた文章とか、色々と素敵だなと思うエピソードは多かったのですが、後々それらが素敵なだけではなくなる(性的な生臭さに関わってくる)のが不快で。
最終的に、この話では性的な臭いを感じさせないキャラクターというのが皆無なのですよね……
美しく気だるげな世界観と性的な臭いというのはマッチするのですが、全員が全員となると、その生臭さが鼻についてくる。
なので、根幹を否定するようではありますが、せめて主人公と亡き叔母の夫はデキちゃわない方がよかったな……と思いました。その方が、美しい話だった気がする。
このお話は端的に言うと、叔母と、叔母の夫だった受けが、傷ついて弱った獣が身を寄せ合うようにして共に暮らしていたという話、だと思うのですが、叔母が死んで文句が言えない状況になってからその間に主人公が入り込むのもなんとなく不快だったし、叔母も、叔母の夫も弱い人だったんだな、というのが後々わかってくるので、その弱さが性的なものと結びつくのが嫌だなあと感じたのもあります。
そして、あくまで二人は可哀想な被害者で、他の人々は二人をいじめた人たち、という配置なのも好きになれなかった。
『イエスかノーか半分か』の受けは、どんなにいじめられてもつらくても泣きながら立ち上がって相手をぶん殴るような人で、そういう強さが好きだっただけに、余計に叔母と叔母の夫(受け)の弱さが好きになれなかったのかもしれない。
叔母と、叔母の夫(受け)が好きになれないと、彼らを愛した人々のことも(その人々自身のことが描かれないこともあって)好きになれないし、主人公のことはさらに好きになれない。そんなふうになってしまうのだなと思いました。
そういえば主人公の母が主人公に全く関心を示さないことへの説明も、叔母の「あんな女には子育てなんかできない」という中傷以外なかったのも気になりました。
実の妹である叔母をいじめた悪いやつなんだから、実の息子にも当たりがきついんだと納得すればいいのかもしれないけれど……なんだかなぁ…
やっぱり一穂ミチさんの表現する女性はいいですね。
そして北上れんさんのイラストも良かったですwwwイメージ通りでしたw
ちょっと今回の受けさんはビミョーでした。
見た目が美形青年。感性が鋭く、翻訳家で勉強量もすごくてちゃんと仕事として成り立っている。そして救いようもなく口が悪い。
うーん、、受けさんに生きた人物像が見える気がしたのですが、それが魅力的かどうかは別で、自分にはイマイチ乗れないタイプでした。
最低に口が悪いデリケートな男性……、要するにキャンキャン吠えまくる小型犬みたいで、なんかなぁ、、。
変なところばかり露悪的なまでにあけすけで、ストレートな性格の攻めさんには素直じゃなくなるという…。
ただこの受けさんは前の男とは中学だかからの付き合いで、捨てられた後もずっと付き合いが続いてるというくらい一途なようなので、新しい男チアキとうまくいかなくても多分その時は可愛くなく縋るんじゃないかな?
その可愛くない縋りつき方、可愛くない「捨てないで!」、可愛くない「ごめんなさい!」可愛くない「戻ってきて!」…ってのはぜひとも見てみたいと思いました。
悩み過ぎて胃潰瘍になって救急車で運ばれて攻めさんを強制的に戻ってこさせるっていうのは反則だと思います。
攻めさんは面倒見が良すぎてついつい受けさんをつけ上がらせてしまいますが、そこから~の攻めさんお怒りモード、受けさん可愛くない縋りつき土下座モードになってくれると!次回作読みたいです!!
一穂先生の作品に、面白くないものがありません。
どういうことなんでしょうか…
読んでいて、すごくよく構成が考えられているなと思いました。見事にミスリードに引っかかる私。
大切な人を亡くすという点、キーパーソンが多いという点で、『青を抱く』と雰囲気が共通しているような気がしました。ワガママを言えば、メイン以外の登場人物に焦点を当てられることが多く、主人公の2人の関係性をもう少し詳しく見ていきたかったなと思います。
今回の受けさんの名前が『慈雨(じう)』さん。雨宮という性に、慈しむ雨かぁ(一瞬韓国の女優さんが過ぎる)毎度ながら楽しんでおられるな、というのが伝わってきます。私も楽しいです。
作中の、慈雨さんのエッセイが本当に素敵だったので、一穂先生は本当に多彩な方だと…
小説に果物やスイーツが出てくると、読後がその雰囲気を引きずったりするので、とても好きです。
さみしさのレシピでは、すももの甘酸っぱい香りと、そこにかすんだ雨の香りが重なったような読後感を味わいました。
お料理に、フランス語に、一穂先生の知識を駆使して紡がれた文章がとても楽しかったです。
れん先生の挿絵見たさで購入。(れん先生大好きなんです!)
一穂先生は今まで2作ぐらい読ませていただきましたが、今一つピンとこず。
今回も今一つ・・・無念。
なんでだろうなあ、みなさん高評価なんだけど、どうもずれている私。
攻めさん:お料理愛情もって一生懸命作ってて、エライー。
私が最も嫌いな家事=料理 ができるってことだけで 尊敬!
なんだけど なんだか人生投げ気味な印象をぬぐえず、
どうにもこうにも惚れられなかった。
受けさん:忘れられない元カレがいて、そっちに対する気持ちの方に
シンクロしちゃった。
こいつも人生投げ気味な印象が強く、
惚れるというよりは、同類だ という印象。
元カレ:こいつ、好きだけど嫌い。
意思が強くて、エライ!素敵! と思う一方、
そんなにあっさり捨てやがって
という恨みつらみも感じて(泣)
おば:自分で幸せつかもうってもっと積極的になれなかったんだろうか
と少々思う。
攻め上司(女):色々あったけど、これから幸せに生きていけるだろうか
と,とても心配。
というようにどのキャラも、安心して入れ込めるキャラじゃなかったけど
少しずつ好きな箇所があったのが、萌の理由かな。
今の気分からはもちょっとお気楽あまんあまん がほしかったから かも。
うーん、初心者向けとは、私には思えない・・
今作は雨をモチーフにした、ちょっとしっとりめのお話。主人公が仕事でパリに行ったりするので食とアムールのイメージですかね。本編に限るとBL色薄め。なんとなく、映画の方が好きだった江國香織さんの『きらきらひかる』を思い出しました。
攻め視点のお話ですが、挿絵ナシで読んでいたら知明は受けだろうと思い込んでいたと思います。こういう、真っ当に生活してます!っていう人間が、陰があって頼りない人物に惹かれていくラブストーリーは萌える…んですけど、なぜかわたしの目には知明の叔母の実華子と、彼がアシスタントをしている皐月の方が断然魅力的なキャラに映りました。結末まで辿り着いて妙に腑に落ちたわけですが。
先生の描く女性キャラがすんごい好きなんですけど、今作ではそのコントラストがより明白で、メインカポーの恋にあまり食指が動かなかったんですよね。男性キャラの方が女っぽくて、女性キャラの方が男っぽいというか。知明も実華子も親から受けた愛情が希薄な人物ですが、同棲していた彼女に逃げられて義理の叔父の所へ厄介になる知明より、現実的には厳しかったでしょうに、さっさと一人自活していた実華子の方に男らしさを見たりして。個人的には皐月と実華子の方にBL萌えしたという。なんでや。
メインの人物の名前にも「雨」がつけられているように、雨の描写がカギですね。晴れと雨の境界線について二人に語らせるところ、そしてそこは曖昧なものなんだって結論は、まんまセクシュアリティーや家族の距離感になぞらえられています。
慈雨と元カレの関係は男女に置き換えてもリアルですごく共感しました。プラス、それとは対照的な慈雨と実華子の在り方も描いているところがニクいのです。二人の場合は表向き「結婚」という形を取っていますが、名付けようのない関係に助けられて生きている人って、たくさんいると思うんです。どうも慈雨の方に全部持っていかれて、知明の魅力が霞んでしまった感が。
本編ではエロシーン無しでしたが、「はじめてのレシピ」で描かれています。相変わらず本編との文章の落差が拭えない。先生の描くえっちは、いきなりとってつけたように古典的なThe BL!ってなっちゃって、なんだか白々しくってあんまり好きじゃないんだな。あと、小ネタはそんなにいらないので、ラブ増量して欲しかった。
パリのエピソードが最も興奮しました。このパートがかろうじてBLっぽかったから。全体的に読みものとしては満足しましたが、BLとしては中立寄り。
非常に一穂さんらしいお話だと思いました。内容は皆さま書いてくださっているので感想を。
一穂さんの書かれるトリビアってジャンル問わずとても幅広くていつも感心しながら拝見するのですが、さらに凄いと思うのはそのトリビアが話に深みを持たせることなんですよね。
タイトル通り、寂しさを抱えた人たちばかりでてきます。
虐待されることはないけれど、無償の愛とは程遠い愛情しか家族から貰えなかった攻めの知明。
ゲイであることから家族から線を引かれ、かつ長年付き合った恋人からは「結婚するから」と捨てられた受けの慈雨。
ビアンであることから家族から疎まれ、慈雨と同じ理由で恋人から捨てられた知明の叔母の実華子。
みんな、それを「仕方がないこと」と受け止めてはいる。でもだからと言って寂しくないわけではなくて。
そこでカタツムリの殻の巻の話と絡んで、より一層話に引き込まれます。たくさんの人と巻があってほしいわけではない。たった一人でいいのに、という思いに思わずウルっときました。
慈雨の元カレの咲彦にせよ、実華子の元恋人にせよ、責めることはできないなあと思います。両親のこと、これからの自分の人生のこと、いろいろ考えてある意味打算的に生きていくのは仕方がないこと。
慈雨も実華子も、そういうところも含めて相手を愛していたのでしょう。その愛情の深さにも思わず涙が出そうでした。
慈雨の可愛さにはKOされました。口は悪く、態度も大きく、それでいて相手への深い想いを抱えていて。素直に口に出せない彼ですが、その裏をくみ取れる知明と出会えて本当に良かった。
北上さんはコミックはほとんど持っていますが、挿絵を描かれているのは今回初めて拝見しました。絵柄が綺麗でうっとり。
そして、この寂しさを抱えたこのお話に、少し硬い絵柄がとても合っていて良かったです。
レシピが「さみしさ」から「こいびと」のレシピになって良かったな、と思いました。あとがきの「たわむれのレシピ」には爆笑!
とにかく文句なく神評価です。
評価の高い作家さんだけに、ずっと気になっていました。
好きな北上先生のイラストの作品を見つたので、初めて読んでみて納得です。
内容は昼ドラを彷彿させる様なお話なのに、全くドロドロ感を感じさせません。
逆にさらりと読めたくらい‼
その位文章が印象的で上手く、特に攻めの言葉には、ホロリと涙するくらいに胸を鷲掴みにさせられました。
フードスタイリストの卵・知明は×翻訳家•慈雨のお話。
そこに二人を結びつけた、智明の叔母&慈雨の妻•一年前に亡くなった実華子。酔っ払った慈雨を送り届けにきた、商社マン•咲彦。智明の師匠•皐月が上手く絡まっていくんです。
それぞれ、子供の頃から家族や両親から愛情というものを感じた事がない人達ばかり。人にも言えないさみしさを抱えながら生きているんです。
それを、仕事であったり、お酒であったり、結婚生活であったり、孤独な部分を埋めるために、逃げたい気持ちに負けそうになりながらも、必死で生きている姿が、雨のシーンとも重なって、いっそうさみしさを印象づけさせられます。
読んでいく内に、謎だった部分がパズルのピースのようにうめられていくので、本当に目が離せない展開でした。
すべてが繋がった時の、言葉には表現しきれない壮絶な想いに、せつない気持ちでいっぱいになります。
智明が子供の頃に叔母•実華子の部屋で見つけた一冊のお弁当の本。
何回も読み返す姿を見た実華子が、智明に「好きになりました」とファンレターを書くことを勧めるんです。
その後直ぐに、智明は母親に実華子に会うことをかたく禁じられ、最後に実華子と交わした言葉が約束の様な気がして手紙を書きます。
それから手紙のやり取りが続き、卒業後アシスタントとして働き始めたのが皐月の所だったんです。
どうして、料理をしない実華子が、お弁当の本なんかを持っていたのか…。
すべての始まりは、実華子と皐月が高校時代付き合っていたという衝撃の事実。
二人は真実が公けになり、両親に引き裂かれて一度は終わりを告げます。
でも、智明がお弁当の本にひかれていたこと、智明の母親に甥との幸せな時間を奪われたさみしさからか、再び連絡をとり付き合うように…
そこに、同じように男同士で付き合っていた、咲彦×慈雨と知り合い、四人で出かけるようになって行ったんです。
でも、咲彦と皐月はそれぞれ家庭を持つことを決め、二人から離れていきます。
慈雨はヤケとカモフラージュをかねた偽装結婚だといいますが、同じさみしさ、痛みを抱えた似たもの同士だったからゆえ一緒になったんです。
慈雨は、大酒のみでひねくれ者! 美人な俺様気質。でも実際は、必死で虚勢を張っているだけで、人間関係のひびには凄く弱い人でした。意外に心配性だったり、なによりさみしがり屋!
智明のフランス出張を追いかけて来るくらい好きなのに、智明の告白には逃げるんです。そんな所が、慈雨の心の弱さを表していてせつなくなります。
智明は、年下ながら真面目な本当にいい男。
気立てが良くて、家事全般もできて、なにより素直で一途さがたまりませんでした。
「あんた抜きで幸せになるくらいなら、あんたと不幸になりたい…あんたがいてさみしいほうがいい」
「あんたは男じゃないと駄目だから、俺は男に生まれてきてよかった…それは一生両親に感謝し続けると思う」
一言一言の真っ直ぐさが、読んでいて何度泣かされた事か‼
慈雨のエッセイ、マリリンモンローや幽霊、紫陽花とかたつむりの話を交えながら、2人の心情上手く表現している文章にも魅せられます。
本当に、背景が思い浮かんでくるようで、読ませる凝った文章にどっぷり浸らせて頂きました。
あと、裏切り者の咲彦と皐月なんですけど、決して悪者にはなっていないんです。今の2人の立ち位置が、逆にリアルな人間模様を垣間見たようで嫌いにはなれないんです。
やっぱり好きだったのが、智明の「何食べますか」だったり、慈雨の「腹減った」の言葉!
気まずい雰囲気の時や本心を隠したい時に、必ず交わされる言葉。
私は、さみしさを食に置き換える事で、さみしさを満たそうとするニュアンスが含まれている気がして、逆にこの台詞を読むたびにほのぼのした気持ちになりました。
「さみしさレシピ」なんだけど、2人の想いが通じあった今では、「しあわせレシピ」2人だけの合言葉のようで…
これは、食い意地がはっている私が勝手に思った解釈なんですけどね(笑)
この独特な雰囲気にハマっていく気持ちが、読んで初めて理解できました。
BL的萌を感じるかと言えば少し違う作品なんですけど、充分読み応えがあるので、オススメしたいと思います。
私にとってちるちるさんでの初レビューであり、初読み作家さんである一穂ミチさん。
とにかく初めてづくしなので、お見苦しい点はどうかスルーでお願いします。
あと、お話の大筋は他のレビュアーさんのレビューでご確認ください。
まず、内容に関して。
仕込まれたたくさんの伏線とともに、主人公である知明と慈雨さん、そしてその周りにいる登場人物がキレイに繋がっていく様が、本当に気持ちいいくらいに清々しかったです。
しいていえば、落ちゲーでどんどん連鎖でブロックが消えていくような、そんな感じ。
特に、脇位置にいる人たちが、すごく良かったんです。
知明には皐月先生。
単なる「雇い主とバイト」みたいな感じかと思ってたんですが、読み進めていくうちに、この皐月先生が知明の人生に多大なる影響を与えてきたというのがよくわかります。
慈雨さんには咲彦さん。
今まで「知明・実華子・慈雨」という、BLとして読み進めていくにはちょっとアレ?と思うような話だったのに、彼が出てきた途端、なんだか一気にBL的な香りが立ち込めてきました。
当て馬か?と軽く思ってましたが、咲彦さんに謝りますスミマセン。
彼こそものすごくいい立ち位置にいる人でした。
咲彦さんが知明に、慈雨さんのエッセイの掲載された本を渡すところ。
あれは彼にしかできないことです。
慈雨さんの書いたエッセイを何度も何度も読み返した後、出て行こうと纏めた荷物を知明が黙って解いていく。
次の日、庭でスモモをひとつもいで、リビングのソファーでちいさく三角座りをしている慈雨さんの横に座り、素直に謝る。
ぽつりぽつりと自分の思いを話す慈雨さん。
そして、初めてほんとうの慈雨さんに触れたと思った知明の心情。
この一連の流れは、本当に神懸かってます。
『心に触れる』ってこういうことなんだなあと改めて感じさせられます。
その時点でだいたい半分。
そこまでかなりゆっくりな感じで物語が進んできていたのに、そこからが凄かった。まさに急展開。
まず、慈雨さんがパリまで来た時点で「うぉい!」と。
その後の、知明の心の揺らぎと、慈雨さんの心の葛藤が、まるで心理戦のように(でも言葉少なに静かに)繰り広げられる様は、読んでいてドキドキしました。
帰国して皐月センセと実華子さんの関係を知った知明が慈雨さんを問い詰め、同時に告白するシーンでは、「実華子を裏切りたくない」と涙を零す慈雨さんにもらい泣きしてしまいました。
慈雨さんは実華子さんに自分を見ていた…とかいう生温いものじゃなく、本当に実華子さんを自分の半身だと思ってた、一心同体だと思ってたんじゃないかな。
だから、実華子さんが夢見ていた知明の未来を自分が潰しちゃいけない、その思いが痛いほど伝わってきて辛くて。
でも既に、慈雨さんの中でも知明はものすごく大切な存在になっていたんですね。
自分の半身じゃなく、お互い支えあえる存在に。
自分の半身を失い、真っ直ぐに立てない歩けない慈雨さんに、ようやく支え合えるパートナーができて、本当によかったです。
物語は知明目線で書かれていて、一見わかりにくい知明の性格も読み手に伝わりやすく、さらに、個性的な慈雨さんや咲彦さんの人となりも、知明の洞察力が思いのほかしっかりしているお陰で、説明っぽくならずに読み手に伝わってきて、そういう行き届いた書き方が素晴らしいなと思いました。
個人的に、本編の後に収録されている短編2作が、私の萌えツボにぐさっとブッ刺さりました。
一穂さん初読みで、素敵な御本に巡り逢えてよかったです。
私にとって、初・一穂ミチさん。
数か月前、北上れんさんを好きになった時にたまたま手に取ったこちらの作品。
そもそも一穂ミチさんを存じ上げずに購入していた自分は、すぐ読む訳でもなく、ずっと本棚に寝かせてありました。
月並みな言葉しか発せない自分のボキャブラリーの無さに落胆しますが、それでも言いたい。
……何で今までほったらかしにして読んで居なかったの!早く読んでおけばよかった!
本当、そう思える位夢中で読み耽りました。
とある料理研究家のもとでアシスタントとして働くフードスタイリストの知明(ともあき)と、知明が幼い頃半年間だけ会い慕ってた叔母の夫・慈雨(じう)のお話。
自分を「ちあき」と呼び、可愛がってくれた叔母の実華子。
その実華子が亡くなって一周忌を迎えるのを節目に連絡を受けた知明は、翌日実華子宅を訪れる。
そこには、誰の目をも惹きつけるような美貌を持った実華子とは対照的な、けれど目を離せない、そんな不思議な空気を纏う慈雨が居て――と続いていきます。
初めて一穂さんの作品を読みましたが、とても読みやすかったです。
綺麗な文章、それでいて時折出て来る砕けた言葉もすんなりと受け入れられる。
テンポが良く、実際に目にした事はないパリの風景、料理の数々、慈雨がフランス語で冗談を言って笑顔になる様子。
そのどれもが言葉と連動して映像として頭に浮かんで来ました。
実直でクセのない知明に対し、知明の二歩も三歩も先を読んだ皮肉を言ったりする慈雨の掛け合いが実に楽しかったです。
自由な言葉で知明が振り回されているかと思いきや、ド直球な言葉に逃げ場を失う気持ちになる慈雨の方が、実は……と思えるのも良かった。
どちらか一方が、と言うよりも、やはりバランスよく振り回し振り回され、が楽しいので私は好きです。
知明が慕った実華子。
知明が師と仰ぐ皐月。
知明が苦手だと心底思う咲彦。
知明が一生大事にすると誓う慈雨。
どれもがどこか不思議と繋がる構図。途中で明かされる真実に、ほうとため息が漏れます。
けれどその4人には、至極単純な感情だけがあって、けれど人知れず悩んでいて。
だからこそ皐月と咲彦は「自分」を選んだし、実華子と慈雨は「お互い」を選んだのだと思います。
実華子と居る事を選んだ慈雨が『はじめてのレシピ』で口にした寂しさも、根本的な欲求の怖さに触れた気がして思わず頷きました。
そしてそれに対しての知明の言葉も、本音!という感じで実にすばらしい(笑)
一緒に居る事で生まれた知明の感情も、正直「そんなにすんなり?」と思わなくもない、とは思うのですが、兎に角話の流れがスムーズで綺麗でした。
1つの話の構成も章ごとに分かれて居ないのが効果的と言いますか、場面転換の時も、文章の幾つかの改行のみで、それがたまらなく余韻を残している感じで好きでした。
表題作の他、慈雨が退院した直後、二人が体を初めて重ねるお話『はじめてのレシピ』。
その後、久々に出来た恋人と少し喧嘩をした話を元恋人に話す、という何とも可笑しい慈雨目線のお話『こいびとのレシピ』が収録されています。
「腹減った」と慈雨に言われると、知明は、彼の生きようとする力と自分を求められている嬉しい気持ちの二つの感情を実感できる。
「あしたの朝、何が食べたいか」と知明に問われると、慈雨は、生きる活力と彼に求められている自分が居るのだろうと二つの感情を持てる。
似ていないようで似ているような、二人のリンクする感情に引き寄せられました。
>snowblackさま
コメントありがとうございます♪
初めて一穂さんの文章と世界観に触れましたが、読み終えた今も余韻を噛み締めています。
ゆっくりと心が侵食されているようで、怖くも嬉しいような…
snowblackさんにとっても素敵な作品のひとつになっているんですね(*´-`)
ブログ情報ありがとうございます!
早速番外SS探してみたいと思います♪今から楽しみです☆
ありがとうございました(*´-`)
__モコ__さま、
はじめての一穂先生とのこと、素敵な文章と
さりげなく独特な世界をお楽しみになられたのですね。
私は一穂ファンですが、この作品は個人的に特に好きな作品の一つです。
一穂先生はブログをされていまして http://ichimichi.exblog.jp/
そちらを覗いて頂くと、時々さまざまな作品の番外SSがアップされています。
コミケなどの時の無料配布本も、時間差はありますがこちらに掲載下さっています。
「さみしさのレシピ」の作品もありますので、よろしければ覗いてみて下さいませ。
涼しくなって雨が続いているので、このレビューを書く気分になりました。
思いつくままさみだれのように。
まず文句から。
表紙を見た時に、学生の話かと思いましたよー。
北上さんの絵は好きなんだけれど、そこはちょっとあれ?って感じ。
一穂作品、ほぼ出版順に読んでいるのですが、
この作品の慈雨という人物は、林檎の志緒くんに次いで
キャラクターに入れこんだ人物になりました。
(慈雨の系列の、かのS.H氏に出会うのは、まだ先のこと)
こういうくせ者が好きなんだな、ワタクシ。
ストーリーは、よく考えると昼ドラという感じのドロドロな話ですが、
そうならないのが一穂作品。
:
誰もがさみしさを抱えて生きている。
知明も、慈雨も、実華子も皐月も、そして諏訪だって。
「孤独やさみしさじゃ誰も死ねない」と慈雨は言う。
さみしさじゃ死ねないから、さみしさを抱えて生きて行く。
ちなみに、私は諏訪が嫌いじゃない。
常識的に考えればなんでまだウロウロいるんだよ?って、ところなんだろうけれど、
でも慈雨にとって「ピンチョンの新作を貸せ」とか言ってくる彼は、
潔くいなくなっちゃうより、いてくれてよかった人なのだろう。
きっと二人になっても、さみしさはやはりさみしさだろう。
傷をおわざるを得なかった人間関係、大切な人なのに分かり合えない悲しみ、
それを思うとこれからも切なく心は痛むだろう。
切ないけれど、だからこそ出会い結ばれたことは奇跡のように幸せなことだ。
作中のエッセイがすごくいい。
私はここで泣きました。
あ、そうそうリモワの赤いスーツケース、
これを読んで、次回買い替える時にはこれと決めました〜♪
フードスタイリスト見習いの知明の元に、ある日一本の電話がかかってきた。
叔母の夫だと名乗るその人物は、ぶっきらぼうに彼女の死を告げる。
墓参り代わりに訪ねた家で見た夫、慈雨は明るかった叔母とは対照的にどこか陰のある男だった。
同棲中の彼女に手ひどく裏切られたばかりだった知明は、酔った勢いで慈雨の家に置いてもらう約束をするのだが……
フードスタイリストの卵×天の邪鬼な翻訳家で甥×義理の叔父。
どこかさみしい人同士が惹かれあって、幸せになる話っていいよね。
素直じゃない年上の男に振り回される知明くんが意外と大物なのが楽しかったです。
恋愛感情ではなくても慈雨が実華子さんに向けていた気持ちがとにかく優しくて切なくて、作中のエッセイはかなりぐっときた。
実華子さんの過去とか、周りを巻き込んだ真実とかは結構ハードだけれども、だからこそこれからの知明と慈雨の幸せを願わずにはいられない。
『雪よ林檎の香のごとく』の次に好きな作品になりました。
すごく、ものすごく、良かったです。
そして良かったと思う作品の場合、すべてが私にとっての最高になるんだなと思いました。
ここ微妙にハナにつくこともあったキラキラな登場人物とか、やけにスタイリッシュな会話とか、個性的な比喩の多用とか、小道具の多用とか、あざとさと紙一重の伏線のひきかたとか、青くさい理屈とか、それとは真逆の世知辛い理屈とか、、、
それら「まるごとイイんだよう!」としか言えない…。
なんだろうこのすがすがしい気分。
やっぱり作家買いやめられねーなと思いました。
個人的にウヘッと思ったのが、慈雨と咲彦の腐れ縁。私と元旦那かよ!と思ってしまいました。てゆか離婚後に友人になってしまった元夫婦って、たいがいこうなるんじゃないかな~。もちろん慈雨と咲彦は離婚した元夫婦じゃないけどさ。「愛情の残がいの馴れ合い」に苦笑。そうか、こんな上手い表現方法があったんだな。今度元旦那に教えてやろう。まぁ詩心とかゼロだから、ハァ?って顔されるだろうけどさw
エピソードの積み重ねで作られる物語はステキだなとつくづく思いました。
食傷してるはずの「過去の恋のトラウマ」「親に愛されなかったことによるトラウマ」も、こうやってきちんきちんと段階を踏んで、ストーリー進行のなかで少しずつ染み出すように提示してくれると、すんなり胸のなかに入ってくるんだな…って。
あとストーリーの核となる部分に二組の“元恋人”が存在してるんですが、これ、書き方を一歩間違えば、ただの綺麗事になってたと思います。でもそうなってなかったのが凄いなって思いました。綺麗事と感じる方もいるかもしれないけど。
なんかあんまりストーリーに触れてないなw
未読だとナンノコッチャな感想だし。
まあいいや。
私この作品は、この先何度も何度も読み返すことになると思います。
あと初エッチの場面、大好きです。
慈雨のアレは照れ隠しだな(ニヤニヤ
この作品の匂いが好きです。
お話の中で「匂い」が重要なモチーフとして、あちこちで出てきますが、
知明の作る料理たちの匂いはもちろん、
慈雨の部屋の古い辞書の匂い
鬱蒼とした洋館の古い家の匂い
熟して落ちるすももの匂い
そして、雨の匂い
雨漏りのする家の中で
パリの街角で
そして、海の上で
一穂さんの作品って、「赤ん坊が日の光でキラキラ踊る埃をつかもうとして手を伸ばしている」ってイメージが、漠然とあったのですが、この作品は、もう少し大きな子が、雨の中に、ただ、立っている、そんなイメージ。
一穂さんで、もうちょっと大人の話が読みたい。
そんな希望が叶ったかなって感じです。
評価が厳しいですが、一穂さんだからと期待していたので低めになってしまったところもあるかと思います。
今までの作品もそれなりに泣かせていただいたし、今回は題名からして泣かせてくれそうだったので、期待が高すぎたのかもしれません。
そうです、今回は泣くまでには至りませんでした・・・
家族の中で孤独を感じていた上、結婚も考えていた彼女に手ひどく振られて、仕方なく実家に帰ってきていた知明と、唯一彼が慕っていた叔母の死を伝えてきた夫と名乗る男・慈雨のお話です。
大きな家に住みながらも家事能力は無く、酒ばかり飲んで暮らしている慈雨に誘われるまま同居を始めた知明が、どんどん慈雨に惹かれていってしまうわけです。
また、実華子を大切に思っていた慈雨は、その甥である知明に惹かれていくことに負い目を感じています。
お互いの欠けた部分を補うように惹かれてゆく二人なのです。
二人だけのお話ではなく、亡き叔母・実華子や慈雨の元カレ・咲彦、知明の師匠・皐月、彼らの家族達も絡んできて、恋人とは、夫婦とは、家族とは、などを考えさせられる展開になっています。
また、雨がキーワードだったり、英語の発音の件がしばしば登場したりと、人物以外の伏線も張られています。
ところが、このように盛り沢山の背景があるので、お話が複雑になっていそうですがそれ程でもなく、大体の展開は読めてしまうのです。
却ってその分かりやすさがお話を分散させてしまっているようで、なぜかお話の中にのめり込むことなく終わってしまった感があるのが評価が下がった理由です。
ただ、「将来を考えて、結婚し子供を作る」ために同性愛の関係を解消する人を登場させたのは、きれいごとでは済まない部分があるので冒険だったと思いますが、評価できます。
酒飲みで、かたくなで、美人な年上の受と、真面目で家事一般が得意な年下わんこ(但し、従順ってほどではありません)攻が好きな方にはおすすめです。
いつものことだけど、一穂さんの作品を読んだ後は、どこが良かったとかどんなところが好きだったとかいう感想じゃなく、「好きな作品」としか言いようがないのです。
言い出したらキリがないというのもあります。ひとつひとつだと取るに足らない小さなエピソードの積み重ねで作品が出来上がっている気がします。
二階の雨漏り、日本にはない「ヴ」の発音、緑色のあじさいと左巻きのカタツムリ、のうぜんかずら、「腹へった」。
本当に言い出したらキリがない。けど、どれひとつとして無駄なものがないから、すべてを組み立てて綺麗な形に整えてしまう一穂さんは、やっぱり凄いなぁと思うんですよね。
攻めの知明の印象は、ちょっと感情の起伏が薄い人でした。
バッと感情に左右されるというよりは、喜怒哀楽どれも等しく、じわっと感じてじわっと受け入れる感じ。
だから爆発的なエネルギーが働いてどうにかなっちゃうってことはなくて、自分で決めるまでは冒険もしない、みたいな。
けども臆病ではないところが素敵で、その絶妙なバランスがそのまま知明の魅力に繋がっていました。
逆に、受けの慈雨の方がしれっとしてそうに見えるんだけど、じつはとても弱くて寂しがりやで不安定な人で、ほっとけない感じでした。
けども仕事に対する貪欲さや、昔の恋人との付き合いを受け入れるだけの潔さみたいなものを持っていて、ただの「守ってあげるべき人」じゃないところがとても好きでした。
実華子のことをとても愛していたんだということが物凄く伝わってきて、男女の愛情とは別の部分での繋がりをとても感じました。
慈雨と実華子の元恋人たちも、とても良かったです。
ある意味凄く現実的で、とてもズルくて、狡猾な人たち。
だけど、人って生きていくうえでそうやってズルくならなきゃならない部分があって、それを一概に「汚い」とは言えないんだと、改めて思います。
改めて思うんだけど、慈雨たちに感情移入している分腹は立つ(笑)
作中で、ズルさが間違いではないとちゃんと示した上で、それでも慈雨と実華子がお互いの元恋人に対して激怒してくれたのが、とても救いでした。
「死ね、売女」とまでは私は思わなかったけど(笑)
この作品全体を象徴するように「雨」が使われていたんですが、それがとても効果的で、いろんな場面で言葉よりも雄弁に心情を表現している気がしました。
「雨」って見るときの気持ちで、寂しかったり拒絶だったり、どんな風にも見えるんだなぁと感じます。
私も雨と晴れの境界を見たいと思いました。
それにしても、毎度のことですが、一穂さんのあとがきには物凄く意気を感じます。
「作品の感想に、作家の思い入れや事情、心情を加味しないで下さい」という心意気が伝わってくるのです。
一穂さんのことを知りたいファンとしてはちょっと寂しいけど、作家としての潔さに心底惚れます。
作品ももちろんですが作品やあとがきから漂ってくる人となりが好きなので、私の一穂さんに対する採点がちょっと偏っているのは自覚しているんですが、それでも好きなものは好きなので「神」です。
けど、この作品は大抵の人には「神」ではないだろうとは感じているので、あまり私のレビューは参考にならないだろうと思います。
今回はいつものキラキラが影をひそめ、それぞれの心に傷を抱えた淋しい者同士の出会いと邂逅が、とても自然に表わされていました。
キラキラがなくてもやはり一穂さん、言葉の選び方や引用が独特でその世界は確立されているんだな、と心地よさを味わいました。
突然叔母の夫だったという雨宮という男から叔母が亡くなったという電話を受け取る千明。
とても厳しい母親に内緒で、家から絶縁されていた叔母と心を通い合わせていた千明は、その雨宮の元へ叔母の足跡をたどりに訪れます。
料理研究家のアシスタントとして働いている千明は、その家の遣われていないキッチンに惚れ、雨宮の家に同居することになります。
千明の人となりは、少し温度の低い執着というものが薄い人のような感じがします。
同居して結婚まで考えていた彼女に酷い裏切りに会っているのに余り怒りが感じられない。
彼の中で料理という世界以外で自分がどうしたいのか、とか、何が欲しいのかわからないけれども、彼が叔母の実華子の思い出や彼女との触れあいが何か特別なものに感じていたような雰囲気は漂わせています。
それが何なのか、作中でやはり!と思った通り、千明はその疑問を雨宮にぶつけますが、あっさりと否定されます。
その話はそこで終わってしまうのですが、終盤で実華子の真実が明らかになった時、それはありえないことだったというのがわかります。
それにしても、千明の母親というのはどうして愛情の薄いエキセントリックな母親になってしまったんでしょう?
母親というものを”食”に見て、それを求める為に自分で作ることになったという千明の淋しさを表わすのが、彼の選んだ職業なのかもしれません。
千明は、最初、雨宮に対して丁寧語で話ています。
それが、彼が元恋人の咲彦と間違えて(本当に?)キスした時から”あんた”呼ばわりするようになります。
しかし改まる時は”慈雨さん”と・・・そんな呼び名の変化部分、些細ですが彼の感情をくみ取るのに効果的だなと思います。
一方雨宮ですが、彼の印象はとても淋しい人。
元恋人の咲彦とは、彼の結婚によって別れたのですが、それでも淋しくなると彼を誘って食事をしたり飲んだり、と、肉体関係はなさそうですが、続いている関係があるようです。
千明と少し揉めては、咲彦と会ったり、千明と言い合いをしたと言っては家に帰ると千明がいなくなっているのでは?と臆病になって飲んで帰ったりと、すごく繊細な人のような気がするのです。
一体彼の本当の気持ちと姿はどこにあるのでしょう?
本音でズバっと酷い事も言ってのけるのは、本来の姿でもあるのでしょうが、特に千明に向けて言われた数々の言葉や態度は、実華子の言葉に囚われていた彼なりの突き放す優しさだったのか、と思う時、この人、不器用だよ!と切ない気持にもされます。
実華子の過去、それに千明の先生の皐月との関係。
雨宮と実華子の結婚の理由。
淋し者同士が肩を寄せ合って慰め合っている家だった雨宮の家は、千明が住むことになって温かい愛の家になったのでしょうか?
ラストでやっと結ばれる2人のエチは何故か、それまでの生意気な雨宮が異様に可愛く変身し、でも甘さだけでなくじゃれあいのような雰囲気も醸し出していました。
一人一人取り出せば、それなりにイタイ人達ばかりだったかもしれませんが、痛い話にならなかったような気がします。
自分的に、キラキラしたいつもの登場人物より、こちらの彼等の方が断然好きな人々でした。