お買い得商品、セール品、中古品も随時開催中
この物語の苦しいところは、主人公のジェルミだけではなく、彼の周りにも実はいろんな複雑な事情を抱えて生きている人がいるところだなと、この巻を読んで改めて思いました。悲劇的な1つの作品に入り込んでいると、どうしてもその主人公が、世界で一番不幸な人間に思えてくるものです。ジェルミ自身も、そういう思いを持っていると思います。だけど、自分よりはマシな人生を送っていそうに見える他人も、けっして自分より苦しんだことがないわけではない。たとえそれが、自分なら簡単に耐えられるだろうと思うようなことでも、本人にとっては地獄かもしれない。他人と自分の苦しみは比べるべきものではないのだ、ということをもう一度念頭に置く必要があると思いました。
だからといって、ジェルミの苦しみをもっと軽く扱っていいということにはなりません。彼の苦しみは彼にしか分からない、彼だけのもの。もしかすれば、金持ちに何不自由ない暮らしをさせてもらいながら週末だけ抱かれ、たまに打たれるくらいのこと、何でもないという人もいるかもしれません。その事実を母親に打ち明ければ良かったのに、と思う人はもっと多いでしょう。イアンも時々そう言いますね。けれど、あの時のジェルミの苦しみ、絶対に誰にも言えないという強い思いは、そこに至るまでに彼のいろんな思考回路と経験を経て生み出されたものであって、けっして簡単に間違っていたと指摘していいようなことではないのだと思います。ジェルミと、あの時彼の出すサインに気付かなかった、あるいは気付いても何もできなかった人達で、まだまだ時間をかけて根気良く向き合っていくことが必要なのだと。そこに率先して立ち向かうイアンを、心から応援したいと思いました。