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namaiki na kiss
電子短編。
私この作品すごく好きです。
主人公は、若い役者・ケイタ。もちろん食えずに美術系ヌードモデルもしている。
そのクロッキーの会でデッサンを勉強している鍵山と知り合い…
…というお話なんだけど。
美しく若いケイタはクロッキー会では人気者。だが芝居のチラシを配っても実際は誰も観には来ない。
逆に会では薄い反応だった鍵山が公演を観に来た事に驚くと、「お前に興味がある」と言われて。
そんな事を言うくせにちっとも甘くも熱くもない鍵山にじれるケイタ。
視点が変わって。
鍵山にはしっかりケイタが光って見えています。初めてモデルを務めた時の、ケイタの美しさ、美の傲慢さと暴力性、その光に惹かれてる。
ケイタは結局役者の芽が出ず、芝居の道を諦めます。
弱さを見せるのは信頼と甘えの証し。
鍵山もそんなケイタをちゃんと包んで、その光を信じてる。
年上を惑わす彫像のような男と若い男を信じない狡猾な攻め…みたいな話にもできたはず。だけど、ちゃんと地に足がついたリアルな2人の関係性を、しっとりとした官能と共に感じさせる部分がすごく好きです。
波真田かもめ先生のお話は、淡々と進む日常の風景に色を付ける心理描写が巧みでいつも引き込まれてしまいますね。
情緒的でしっとりとした2人の大人な関係は、彼らが恋人同士なのかそれとも別の関係なのか…といったグレーなボーダーラインを想起させ、その曖昧さが何故かゾクゾクっとくる。画家とヌードモデルの関係を超えたところで、気持ちの奥底で繋がり合ってるようなそんな特別感のある姿が、素敵に映りました。
元はアンソロの内の1つの話ってことですが、読み切りにしとくのもったいないなと思うくらいです。
夢を諦めた敬太のその先は?とか。
鍵山は夢を追い続けてるのか?とか。
そういう関係になってどれくらいなのか?とか。
2人の明確にしてない関係以外のところでも気になるところがいっぱい。
物語から分かるのは、鍵山は敬太の良き理解者であり応援者ってとこくらい。
敬太の出演者する舞台を観に来た鍵山の中の敬太の存在感は、彼の表現者としての魅力なのか、1人の男としての魅力なのか…そうした答えも分からないままに終わります。
分からない部分はたくさんあるし、正直言うと物足りなさはあります。
でもこのくらいボカしたストーリーの方がこの世界観には合っているのかも知れません。
一冊まるまるで読んでみたいなと思うストーリーだったし、個人的には好きめの作品でした。売れない画家と、ヌードモデルって組み合わせがもう最高。
もっと先のストーリーが読みたくなる余韻は間違いなく神でした。