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second cry
作者様の作品を全て読んでいるわけではありませんが、私は今のところ「セカンドクライ」が一番好きです。
作中、大きな事件は特段無いんです。敢えて言うなら、攻めのお兄さんの死。
その一番大きな出来事は既に起こっており、お兄さんの葬儀から話が始まります。
攻めはお兄さんの遺言によって、一人の青年と同居生活をスタートさせます。
”普通の生活”を送るうちに、孤独だった二人の心が少しずつ開かれ、惹かれ合っていく……とても静かで美しい、そしてぬくもりのある物語でした。
慧の想いは恋愛なのかな?と途中疑問はありましたが、彼が初めての夜に泣きそうな顔で言うセリフがその疑問を打ち消しました。
心が温かくなる、幸せな一冊だと思います。
とても悲しいところからはじまるけれど、優しいお話です。
心に深く刺さります。
重い設定もあるので読むのをためらう人もいるかもしれませんが、ぜひ多くの方に読んで欲しいです。
人が人を愛するという事の大切さ、愛情のありかについて深く感じ入りました。
ページをめくるごとに、感情が見えづらかった慧くんに血肉が通っていく様に心が締め付けられました。
読後はこの先ずっと、彼の日常が穏やかで優しいものであり続けますようにとリアルに願わずにはいられない程、私の心に存在し続けてます。
尾上先生の作品が大好きで、草間先生の作品も大好き。
まさに最高すぎる作品なのですが、ストーリーが難しそうでなかなか踏み出せず...
アワードの投票期日ギリギリにようやく拝読しました。
画家と青年、二人の出会いはまさに運命的でした。
表現者のマインドを持ち合わせていないので何とも言えないのですが、何かを描くという行為はアイデンティティと深く結びついていて、それはすなわち己と向き合うことなんだろうなぁと思いました。
アイデンティティに悩まされる画家、アイデンティティが存在しなかった青年。
互いに与え合える関係なんですね...素敵!
過酷な生い立ちで「普通」を知らずに育ったがゆえに、教えられた「枠」から1mmも外れることを許さないロボットみたいな慧(受け)。
こりゃあ恋どころではないな……と思いながら読んでいたけど、思っていた以上にすんなり「恋」になってびっくり。
いや、これは「恋」なのか??
これはヒナの刷り込みみたいなもんなんじゃないかと思ってしまいました。
なんで桂路を好きになったんだろう?そこまで好きになる理由あった?なぜ桂路じゃないとダメなんだろう?と。
だって路がうわぁ!これは誰でも好きになるわぁ!!みたいな魅力溢れるタイプではないし、超辛口評価で申し訳ないのですが、貧乏画家気取りの生活をしてこれたのも実家が極太だからであって……といった感情が湧いてしまってさほど魅力を感じなかったので……。
そして被虐待児で欲しいものがなにも思い浮かばなかった受けなのに、「あなたが欲しい」とはっきり言えるようになったタイミングがやたら早いなと。
私の感覚から言うと、土の中で発芽はしてたかもしれないけど、まだ地上には芽が出ていなかったのに一気に花が咲いた!みたいな感じというんでしょうか。
麒一郎氏とスーパー秘書緒川のおかげで、寸分狂いなく動くアンドロイドちっくな慧が出来上がりましたが、ここに人間らしいブレとか揺れとか感情とかそういうのをプラスしていくのってもっともっと時間がかかるだろうなぁと思っていたので……
(でもお葬式の様子は誰よりもだったので、スイッチが無い人間ではないんでしょう。)
でも早い段階で結論を出したのは、雑誌掲載作品という紙幅制限上仕方ないのかもしれませんね。
後半、桂路に見合いが用意されていると知った慧が、お墓の前で「欲しいものが見つかりました」と言ったシーンの後くらいに「あなたが欲しい」という展開だったら超好みだったなぁ……と。
ようやくここまで言えるようになったのか!!みたいな感慨があったはず。
(一緒に過ごしていくうちに彼と一緒にいる場所が自分の生きていく場所だとわかり、一冊の後半のほうでようやく「あなたが欲しい」と言えるようになったみたいな展開が好みの人間丸出しの感想ですみません。)
とまぁ、前半部分までの評価は「中立」なのですが、後半、書き下ろしの受け視点を読んで「萌」になりました。
とうもろこしの色に絡めて綴られたところは、とてもいいなと思います。
桂路のような掴みどころのないキャラクターは、物語が進むにつれてその相手方に、つまりこの話では慧にだけに内面を見せたり、過去を開示することで、その人物に対する読者の理解も深まり、愛着が生まれるのだと思いますが、今回は紙幅の都合かそこまで書き切れていなかったように感じました。
ですがその点を除けば、人間ひいては社会の多面性のようなものが非常に上手く描き出されており、とても面白い作品だと思いました。
最後のページで完結するのではなく、読後に読者が各々さらに考えを展開していけるような、不思議な余韻の残る作品でもありました。
尾上先生といえば歴史ものやファンタジーのイメージが強くありましたが、本作のような作品も今後また拝読したいです。
将棋好きの尾上先生の最新作は、現代もの。
将棋と囲碁は、何方も先手と後手が一手ずつ交代で進めるゲーム、
違いは、「将棋の駒は動かすもの、碁石は一度置いたら動かせない」
将棋は、駒を「使う」攻略。
・・将棋好きの尾上先生の小説の構成傾向も、将棋に似ている。
兄が、生前に用意をした遺産は、二つの駒 慧と桂呂
二人は互いを動かしあい、兄の「読み」の通りに進む愛の遺産の物語・・と考えたらいいみたい。
●奥園麒一郎:兄。父と同じ病気で死亡。大手企業の取締役。妻と子供二人。
●奥園桂路:弟。画家。ゲイをカミングアウトして21才で家を出る。
桂呂が12才の時、兄は部下が引取り拒否をした虐待児童の慧を保護。
兄の「とっておきの遺産」は秘書見習いの慧。書付に「普通の生活」を教えることとあった。
●保坂慧:22才、大学生の秘書見習い。 麒一郎が、桂路に託した「遺産」。
「SECOND CRY 」は直訳で二度泣き。同名のrockオペラがある。
「私の名前」は、慧視点。
「a confidential talk」は、密約。
麒一郎が生前に予想した「手」の通り進む、
慧によって桂路が愛を知り、桂路に愛されて再生を得る慧。
麒一郎の死後に動く愛の布陣。桂路も、慧も 愛されていた。
誰かが自分の為に祈りを込めているかもしれない
コロナ禍で色々起きているけど、頑張ろうと思った読後感。
作者さま買いです。
内容については他の方が書いているので省きます。
ゆっくりと始まった二人の数年後が見たいです。
仕事になれたであろう慧がどんな成長をしていくのか。
見守っていきたいと思いました。
辛口意見になります。
こちらの出版社から出された本を何冊か読み、この作家さんは現代日常ものに向かれていないのでは…と思ってしまいました。Hollyノベルズ時代の頃の良さが全く感じられなくて、別人のように思えます。
あの世界観だからこそ力が発揮されていたのでしょうか。。
文章もストーリーも単調でキャラメイキングも微妙で入り込めませんでした。
ストーリーが地味でもキャラが立っていれば楽しめるものですが、どちらもぼんやりして全体に印象が薄かったです。
現代日常ものは特殊な設定が無いだけに文章の表現やストーリーの緩急などに工夫や技術が必要で、そちらが欠けていると退屈に感じてしまいます。
多岐のジャンルに渡るBL小説界では、現代日常ものこそが作家さんの向き不向きが出やすいジャンルだと思えます。
早逝した兄の遺言で託されたくだりのテーマは良いし、葬式のシーンは印象的で小説の帯の言葉の相乗効果で期待が高まったのに、同居生活から後は設定が生かされず、盛り上がりに欠ける展開でガッカリしました。ストーリーが面白く思えなかったので、BL萌えに至れませんでした。
出版社側も現代ものが受けやすいからというマーケティングからでなく、その作家の特性を活かした本作りをして欲しいです。
作家の良さが発揮されていない本を読むのは読者にとってむず痒いものです。
何度も過去の作品で感動しただけに非常に残念です。
尾上先生しか書けない作品があるはず…!
それはもっと違う作品だと思いました。
実はこの作品「小説Chara vol.44 2021年 7月号」に掲載された時に泣かされたお話でした。
発売まで時間が開いたのでその作品だとは知らずに購入したのですが、読んでて途中で気が付きました。
何回読んでも桂路の兄の麒一郎の手帳の文章に泣いてしまうんですよ。
彼は意図していなかったかもしれませんが、彼の大事な家族を結び付けることには成功したと思うし、目的を達成出来てあの世でにこにこ笑って喜んでいると思いました。
麒一郎は妻や子どもたちへもちゃんと愛情があったと思うんですが、妻は彼の同士にはなり得なかったんですよね。妻は彼等の母親と同じ側の人間なんです。(ちゃんと一族や会社に守られている)
なので誰も守ってくれない桂路と慧の行く末を心配してたんだと思いました。
桂路はスパダリでは無いのでなかなか慧との距離を掴みかねててかなりもだついてるのですが、2人がどのように距離を近付けて行くのかが丁寧に書かれているのです。
これと言った悪役は登場しません。慧の叔父が子悪党なくらいでした。なので、社会から爪弾きにあった2人が出会い手を取り合って生きて行くお話なのです。
書き下ろしの「私の名前」は慧視点なので、彼の心の内も凄く分かって良かったです。ここでも桂路は慧の為と思った行動で慧を悲しませてしまってました。ここで慧の上司である緒川にお仕置きされてましたが、ここでお灸を据えられたことで何を優先すべきが学んだと思いました。
慧のお世話係であり上司の緒川が頑固で融通が効かないのは、そのまま慧がコピーしてしまってましたが、職務に忠実なので桂路に意地悪なようでいて実は心優しい緒川が凄く良いのです。
主役の2人以外の人物が光る作品でした。
なんというか、物静かでしんみりな雰囲気の中で、ところどころふふっとなるとこもあり。
受け様の慧は、秘書見習いの慧。
攻め様は駆け出しの画家、桂路。
お金持ちのぼんぼんだった桂路は、家を飛び出してその日暮らしをしながら、絵を書いてきた。
そんな時、唯一応援してくれていた兄の麒一郎が亡くなり、その遺産として、秘書見習いの慧を譲られることに。
慧に普通の生活を教えて欲しい、と兄の遺言にあり、困惑しながら受け入れる。
契約書にサインしちゃってたしね(^_^;
虐待されていた時に、桂路の兄、麒一郎に保護された慧。
麒一郎の会社の秘書見習いとして誠心誠意努力していた中、麒一郎が亡くなってしまい、その遺言として桂路を頼むと言われていて。
こうして、一緒に過ごすことになる2人。
珍しく攻め様である桂路視点。
ゲイであり、一目惚れに近い形で慧に惹かれている桂路。
いわゆるスパダリとかではなく、ごく普通の当たり前の人。
「保護者にはなりたくない、恋人になりたいんだ」という真面目で誠実な告白が好きだと思いました。
まっさらだった慧が、自分の欲しいもの、好きなものを見つけられて、本当によかった。
桂路が手放さなかった絵が、慧の心の琴線に触れる絵になるなんて。
後半は受け様である慧視点。
正しいとか間違いとか関係なく、自分の感情を爆発させる慧の姿に、恋ってそーゆーものだよ、と安心しました。
そして、ここでも出てくる契約書(^_^;
スーパー秘書の緒川と慧との会話が愉快です(*´艸`)
これから慧が芽吹いて育てていくものを、見守っていきたいな、と穏やかな気持ちにさせてもらえるお話でした(*´∀`*)
とっても好き。
登場人物それぞれが抱える生きづらさに寄り添い共に並んで歩いて行く彼らが愛おしい。
慧のここまでを思うと心痛むけれどそれでも諦めず成長しこの先を二人で過ごす時間を思い嬉しさと安堵でいっぱいになった。
読者の私も慧の個性を丸ごと愛したい。
最近めっきり希少な現代モノで尾上先生と草間先生のタッグ…と聞いて
これはもう買うしかないでしょ!
というわけで、端正な美しい文章で綴られていたのは再生をテーマにした”寓話”という印象で、”萌”で括れない作品だなと思いました。(でも、喪服とか敬語とか男秘書とかに地味に萌え…)
正直なところ、やはりBたちがLする生々しい関係性やモダモダが好きなので、”あぁ~なんて清らかなんだ~!”とちょっと物足りなさを感じてしまいました。攻め受けのLっていうより麒一郎氏の大いなるLに全体が包まれている物語でした。
遺言によって共同生活を始め、互いに足りないものを補いあうという、出会いの化学反応をめっちゃ活用していくふたり。桂路は画家としてのアイデンティティを見失ってて、慧は麒一郎氏の死という大きな喪失を抱えてて、それを互いに癒やしあいながら満たし、さらにプラスに広げていくんですよね。”愛せよ。人生においてよきものはそれだけである”でした。
あと、”好きなことをみつける”とか”普通の生活”ってわりと誰にとっても難しいお題な気がしたのでした。喜びや楽しみを知りなさい、っていうことなんだろうなって解釈したのですが。慧はちょっと設定不足なアンドロイドっぽいけど、葬儀で悲しみに暮れる様子はたぶん誰よりも人間みあったし、、なんといってもエロかったw攻めが一目惚れするのわかります。攻めには受けほど魅力を感じなかったんですけど、彼の画家というお仕事についてのあれこれが興味深く読めました。ただ、透明感のある世界観でふたりともギラついてないし、なんとなく清いままのほうが収まりがよかったのでは?って思えなくもなく…。(エロ大好きなんですけど)
最後に、ひっそりと緒川さんから”トロイメライ”の黒田氏を連想してしまったのは私だけでしょうか?このおじさまに、とても尾上イズムを感じてしまったのでした。
先生買い。雑誌掲載時もいいなあと思っていましたが、描きおろし部分も良かったです。見守ってくれる他者の愛、攻めの絵に向き合う心、受けの小気味よい仕事ぶりなどが好きでしたので、神よりの萌2にしました。温かい愛情(性愛抜き)も大好きよ!という方でしたらおススメしたいです。私はやっぱりお兄ちゃんが大好き。
企業の次期代表取締役だった兄が亡くなったと連絡を受けた桂路(けいじ)。絵を描きたいと21歳の時に家を飛び出し疎遠だったのですが、気にかけてくれていた兄の葬儀に顔を出します。そこで受け取った兄からの遺産は、兄の秘書見習いだった男と、その男の住む家で・・・と続きます。
攻め受け以外の登場人物は
麒一郎(攻め兄、故人)、緒川(攻め兄の秘書、超優秀)、梅宮(銀行頭取)、画廊など関係者、受けの伯父ぐらいかな。騎一郎さんと小川さんが大好き。梅宮さんもいいなあ。温かい。
++ 良かったところ
攻めは絵が描きたいといって創業家から飛び出しちゃった「奔放傾向あり、何でも受け入れそうな包容力高い、生きていくための力ありそう」な方。絵を描くのに方向性を見いだせずちょっと足踏み中。兄の遺産として渡された慧(さとし)とその家で、なかなか強敵な慧相手にあれこれ試行錯誤されます。無理やりとかではなく、ゆっくり色々試してという感じに進められるので、読んでいて安心する感じ。その方が、絵の方向性を見出して心の中から溢れるものを描くことに成功し、梅宮さん(絵好きな頭取さん)が「いいね!」とほめてくれるところを読むのはとっても嬉しかったでした。
受けは虐待を受け「普通」を何一つ知らずに育った方。騎一郎さんがあれこれ心配りをし穏やかに見守り、なんとかあと一歩(でもでかい一歩)というところまで来たのに、騎一郎さんが病で他界。彼は無念だったろうのに、そこは次期代表取締役までなった方、先を見通しあれこれ手配し、そしてそこに愛情をたっぷり注ぎ込み。きっと受けのことを心から慈しんでいたのだろうなあと思います。受けが素直で純粋だったからでしょうか。ああ、マッチングセンスが驚異的に良いというところにも魅力を感じていたのかなあ。攻めのために持てる情報を駆使して、さくさく道を切り開こうとする受けは、確かに本当にカッコよかったです。感情が発露するところは少ないので、やり遂げた!などと大喜びする様子はないのですが、静かに微笑んでいそうな感じの方です。
上にも書きましたが、騎一郎さんの愛情のほかにもう一つ、緒川さんの愛情もありました。描きおろしの部分です。前半きれっきれの差配を見せていたあの緒川さんです。「愛情ですか?計れないものには興味ありません」などと言いそうな緒川さんです。あの方が絵を見に来られているのですよ・・・受けとキリキリ会話をしておられるビシっと怖い感じのあの秘書さんが。人間だったのね、この方もととても嬉しい気持ちになりました。それから、書き下ろし部分の、緒川さんと受けの丁々発止な会話は大変面白かったです。「また機会がありましたら」という断り文句、はい、いただきました。有難うございます、緒川さん。
攻め受けの恋話も好きでしたが、それより絵に目覚めていく過程や、自分の一枚を見出す話や、騎一郎さんのとてもとても深い愛情がとても好きだった一冊でした。
ファンタジーではなく、現代日本男子達のお話。なんだかホッとします。リアリティがあるかないかでいえば、まあないんだけど、こういうちょっと現代のおとぎ話のような感じも好きです。
挿絵が草間さかえさんだと特に読んでみたくなる不思議。画家を目指して金持ちの家を飛び出した青年26歳×可哀想な過去を負った訳ありのアンニュイな謎めいた青年22歳のお話。20代の若者同士です。
プロローグから見ると、訳あり美青年・慧くんは絶対攻めの亡くなったお兄さんの愛人だと思った。ミスリード、騙された方多いと思います(私だけ?)。お兄さんそんな人じゃなかった。可哀想な慧くんを密かに育てていたのでした。
実際、彼を教育し、育てたのはデキる秘書の緒川さん44歳。彼のことが気になってたまりません。最後の書き下ろしショートストーリーが面白かった。慧くんの育ての親みたいなもんだから息子の彼氏も気になるんだろうなあ。また私の気に入った人を受けにしてしまいたい病が!スピンオフないかなあ。当て馬とかではないけど、わりとキーパーソンだと思います。
どこか人として不完全で自分を空っぽだと思っていた慧くんが愛というものを知り、戸惑う姿が良かったです。最近海外BLを読んでたので久しぶりに日本のBL読んだな、という感想です。
尾上与一先生の作品はこの作品がハジメマシテです。
評価値が高い作品が多いのも知っていましたが、なかなか読む機会がなく…本日が私の尾上作品デビューの日。
まだまだBL小説修行中の身で、色んな作家さんの作品を色々と拝読させて貰っている途中です。まだ読んだことのない作家さんの作品を読むこのファーストタイムが一番ドキドキするし楽しみな瞬間です。
今日、尾上先生の作品を手に取ることが出来て嬉しく思っています(*´︶`*)
ではでは。本題のレビューに話を戻しまして…
このお話は、亡き兄の遺言で、兄が面倒をみていた青年と売れない画家との同居ラブストーリーです。
兄の会社の秘書候補である慧と、兄の残した屋敷で同居することになった売れない画家の桂路。不本意なカタチで始まった同居生活に訪れた変化は環境だけじゃなく心にも変化をもたらして……と話が進みます。
ストーリーが良いですね。作品全体の空気感が美しいです。
現代もの作品が大好きなのでそれだけでもう堪らんのですが、ひいき目ナシにしてもこの作品は素晴らしかったです。
不思議な同居生活が始まる物語の神秘性に、ワクワクとドキドキ。今後のストーリー展開や辿る結末を私なりに予想・想像するのが楽しい作品でした。
まあ何と言ってもこの作品のグッとくるポイントは、兄の麒一郎からのメッセージでしょう。
彼からのメッセージは、慧に「普通の生活」を教えること。そして慧の好きなことを見つけることでした。
麒一郎は亡くなった後も書付けを通して、その存在感を示してきます。亡くなってしまったからこそ、彼の言葉の重みが増しているような気がしました。
何となーくですが、麒一郎が桂路に残したノートは、だいぶ昔に流行った「未来日記」に近いものを感じました。(な…懐かしいー!笑)
隙のないロボットみたいな慧が、桂路に心を開くようになっていく過程が滑らかに描かれていて読み心地がよかったです。桂路の方もまた、慧への恋愛の気持ちを抱くようになっていく時間の流れが本当に自然。
最初は義務的で無機質に見えた2人のギクシャクした関係が変化し、次第にトゲがなくなり感情や温もりが表出してくることに注目しながら読んで下さい^ ^
麒一郎が桂路と慧を引き合わせた先の結末を想定していたのか分からないけど、麒一郎には未来がお見通しだったのかも知れませんね。
前半は桂路視点、後半「私の名前」は慧視点のストーリー。慧視点では慧の心の動揺が痛いくらい伝わって胸が締め付けられる思いでした。麒一郎に問われていた「好きなもの」を求め、慧がこんなにも感情を露わにするなんて…!
胸が熱くなるシーンで響きました。
2人のラブストーリーだけじゃなく、桂路の仕事面…特にギャラリーのやりとりも含め面白さ満点でした。
兄の死が色んな出会いと変化を与え、兄弟愛にもジワッときちゃう側面もある作品。まるで一本の映画を観ているかのような素敵で素晴らしい作品でした。
作家買い。
しかも草間さんが挿絵を描かれているということで発売日を心待ちにしていました。
尾上作品はほぼほぼ読んでいますが、毎回泣かされます。けれど、今作品ほど温かな涙が流れたのは初めてかも。切なく、けれど温かく優しいお話でした。
ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
主人公は駆け出しの画家・桂路。
実家は大企業を営む富豪だが、両親の敷いたレールに乗ることを拒否し画家を目指す青年。しかも母親にゲイバレし、以来実家とは距離を置いてバイトをしながら画家としての成功を夢見ている。
そんな桂路が唯一心を許していた家族は彼の兄の麒一郎だった。
画家を目指す桂路の夢を応援してくれていた優しい兄。が、その兄が病死。遺産相続争いをしたくない桂路は、麒一郎の優秀な秘書である緒川が差し出した書類に、ろくに目を通さずにサインと押印をするが、兄から「意外なもの」を相続することになってしまいー?
ごめんなさい、ちょっと激しいネタバレがあります。少し下げますので、お嫌な方はここでストップされてください。
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麒一郎が桂路に託したのは、彼の秘書見習いの慧という青年の存在だった。
いやいやいや。
どゆこと?
と、慧という青年の存在について疑問符が頭の中に一杯浮かんでしまいました。読み手のその謎を、桂路と共に解き明かしていく手腕で、いったいどうなっていくのかとページをめくる手が止められませんでした。
慧という青年は薄幸な子ども時代を過ごしています。気の毒に思った麒一郎が、慧を引き取り、衣食住を、そして名前さえも与え、そして育ててきた。が、己の死期を悟った麒一郎は、自分亡きあと、慧を桂路に託した。
のだと、そう思いつつ読み進めました。
が、さすが尾上先生です。そんな浅いお話ではありませんでした。
慧という男の子は、両親から虐待を受け続け、愛情も、満足な食事も、そして人としての尊厳すらも与えられてこなかった。そんな慧を不憫に思い、慧を一から育てたのは麒一郎。けれど、人間は、生きていくうえで困ることのない衣食住だけでは、人にはなりえないのだと。麒一郎は愛情を与え衣食住を与え、けれど出来上がったのは慧という青年の入れ物だったのかな。
その中に、何を満たしていくのか、何色をつけていくのか、という部分によって、初めて人は人たらしめるのだと。それを補うのに足りる人物として麒一郎が選んだのが、桂路だったのかな。
そんな風に思いました。
そして桂路の方も。
己の足で立ち、目標を見つけた彼が、けれど欠けていたもの。
桂路と慧は出会い、試行錯誤しながら、お互いにお互いを埋めるべき唯一無二の存在になっていったのだと。その過程がめちゃめちゃ温かくて良い。
慧は壮絶な過去持ちさんで、ドシリアスなバックボーンを孕んだ作品ではあるのですが、全体的なバランスとしてはコミカル寄りです。その大きな理由の一つとしてあげられるのは、慧という男の子の中身。過酷な過去故、彼はいい意味での「普通」を知らない。知らないからこそ引き起こされる出来事がめっちゃ可愛いし笑いを誘います。そこに慧を愚弄する意図は全くないので、ただただほっこりします。麒一郎さんが愛情を与え作った慧という入れ物に、カタチの違う愛情を注ぎ続け、麒一郎さんが埋めた芽を芽吹かせたのは桂路だったのだと。ナイスな兄弟たちが繋いだ愛情のバトンが、きちんと繋がっている。
慧に惹かれている想いを自覚した桂路の行動も可愛い。
彼は駆け出しの画家という設定ですが、それがきちんと生きているストーリー展開なので、話が上滑りせずに奥行きを与えている感じなのも良い。
慧は血縁者にこそ恵まれませんでしたが、麒一郎さん、そして桂路が彼を温かくサポートしていくので、そこも心が温かくありました。そして何より有能な秘書さんの緒川さん。
いやー、彼が最高過ぎるイケオジでした。
そうくるかー!
シリアスさをベースにしながらも、「自分」を見つけるために模索し、そして大切なものをつかみ取っていく、成長物語でもあり、何より人の温かさがじんわり染み入ってくる良作。
草間さんの麗しく温かな挿絵も素晴らしかったし、控えめに言って最高過ぎる、そんな1冊でした。