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シリーズ第6部の5冊目、通しで30冊目になります。
《出版社あらすじ》
定期演奏会を間近に控え、音のまとまりに不安を抱える「フジミ」の面々。それを打破するために、飯田は圭と悠季に、ある「秘策」を提案するが!?その一方で、悠季は夏休み返上で学生のレッスンに努めるが、「指導者」としての姿勢の甘さに直面。圭もエージェントの副社長・ディビッドと方針の違いから対立するなど、二人を巡る様々な嵐の予兆を描いた表題作『嵐の予感』他、短編2編を収録。
収録作
・嵐の予感
・雪嵐 (初出:単行本『クラシカル・ロンド』2005年3月)
・こよなき日々(初出:単行本『クラシカル・ロンド』2005年3月)
※今回は「嵐の予感」のみが書き下ろしです。
「嵐の予感」は夏休み中の話で、タイトルにある通り、今後やってくるであろう嵐を予感させる内容となっていますが頁数も掘り下げも少なくて消化不良な感じがあります。夏休みといえど悠季は休む暇がありません。受け持ち生徒のレッスンに四苦八苦している上に大学での夏期講習やフロイデ・オケの夏合宿にも参加させられてヘトヘトです。それでも何とか都合をつけて圭と一緒に2泊の日程でエミリオ先生に会いに行っています。かたやの圭は2ヶ月間の休みをもぎ取り、ずっと自宅で過ごしています。多忙な悠季に代わり、フジミの定演では【シベ・コン】のバイオリン・ソロを引き受けることになり、指揮者は由之小路くんに決まりました。不穏な伏線エピソード盛りだくさんで、ネタ回収は次巻以降となった今巻、続きが気になります。
「雪嵐」は悠季が母校のバイオリン科講師、圭はM響の押しも押されもせぬ常任指揮者になっている時点での話で凄くお気に入りです。福山先生の悠季への愛情のほどが分かりますし、M響定期公演での圭と悠季のバトルが面白いです。まず福山先生は今回、娘(悠季)を嫁に出した父親っぽいです。2人の仲を知っているだけにグルグルされています。桐ノ院圭のことは人間としても音楽家としても認めてはいるし、才能を萎縮させたまま卒業していった悠季を成長させて力を引き出してくれたことにも感謝している。おまけに「2年待て」という自分の忠告を守って野望(悠季とのシベ・コン)を実現させたところも悪くない・・・・が、しかし!悠季をホモにしたことは許せない云々。などと考える先生が、圭のことを「桐ノ院のバカ造」「浮かれ亭主」「あいつはヘビ年かサソリ座の生まれだろう」と形容されていたのには笑いました。悠季は福山先生が圭との仲を御存知だとは知りませんから、真実を知ったときには青くなったり赤くなったりするのでしょう。
そして圭と悠季のバトルの方は、シベ・コンに向けての練習中に悠季も圭も互いに一歩も譲らず自分の音楽を追究しようとして傍目にも険悪な仲になっていくさまが面白かったです。コンサート前に決着がつきますが、それは圭に体力負けした悠季が脳貧血で倒れたから。この時に圭は、タクトをぶん投げて悠季に駆け寄り、目を血走らせた瀕死の形相で抱き上げて「楽屋はどこだ!」とわめいたことで、天才・桐ノ院圭の一生の笑い話となり、2人に一生ついて回ることになったそうです(笑)その後の本番は2人のラブラブな演奏によって見事大成功をおさめました。
「こよなき日々」は考えさせられる話でした。歳を取った悠季(74歳)と圭(73歳)の話で(注:五十嵐くんの妄想ネタ)内容的には穏やかで幸せな話なのですが私的には気分が落ち込む話でした。老いても仲睦まじい2人を見ていると何故か「老」「病」「死」の現実というものを眼前に突き付けられたような気がして胸が苦しく悲しくなりました。限りがあるからこそ、毎日を大切に生きていかなければならないのだなぁと思いました。