木春菊
ashita sekai ga owarunara
大和と由紀夫の親世代の若い頃の物語。槇視点で語られます。
槇(大和の母)、三笠(大和の父)、矢萩(由紀夫の父)の3人の関係性が切なくも愛しく描かれている秀作。
この三人はある種の共犯関係であったのだろうな、と。
『赤と黒』本編で一度も顔が出ることのなかった三笠ですが、こちらでは描かれています。
そして、本編で並々ならぬ執着と忠誠心を三笠(美洞組)に捧げていた矢萩はこの頃から既に強く惚れ込んでいたということが読者に示され、『赤と黒』本編での矢萩の言動もさもありなんと納得。
それが恋情であるかどうかはさして問題ではなく、三笠と矢萩は互いに唯一の存在であり、半身であったのでしょう。
三笠が息を引き取るというとき、妻である槇が最期まで側にいるのが普通でしょうが、槇はその瞬間を矢萩に託します。
世界の終わるその瞬間、最も己の魂に近い人の側で逝ける。
それを御膳立てして身を引ける槇の強さにも感無量。
三笠に愛する男(矢萩)がいても、それでもいいと、最後まで幸せな片想いだったと言える強さ。
“泣かない女”の槇から“泣かない男”の大和が産まれ、二人とも愛する男に関してだけ涙を見せる。
本当に似た者親子。
人に歴史あり。
子どもにとって大人であり「親」でしかない人にも子どもが知らない若い頃があり、人生がある。
親世代とは違う関係性(恋情込み)で唯一の人と向かい合う大和と由紀夫の姿に感涙。
素晴らしい番外編でした。
この話を読んでますます大和と由紀夫の物語の続きを願う気持ちが強くなりました。
いつか、また二人の物語に会えることを願って。