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muchi to muku
うわあああ…。
たった今読み終わったばかりで、ちょっと言葉が出ません。
多分3話くらいまでが配信されていた頃にお試しで1話を読んだ覚えがあります。
そのときは特に何も引っかからなかったのですが、完結しているのを知って読んでみました。
この作品は「萌え」とか「BのL!」という範疇のものではないです。
ゲームセンターで、ゲーム機の間に落として諦めようとした100円玉を掻き出して拾ってくれたバイトの少年。
その日の夜、偶然再び街で出会った少年は家も食べるものもなく、道に座り込んでいた。
100円玉を拾ってもらって、自分は少年を拾ったという始まりです。
設定だけで言ったら目新しいものは何もないかもしれません。
生まれたときに母を亡くし、仕事一筋で疎遠だった父も10代で亡くして、天涯孤独。
在宅の翻訳業で外出はほとんどせず、会うのは大学時代からの友人ひとりくらいという篤志。
仲が良かった両親が些細なことから仲違いして離婚。
中学を卒業して家を飛び出したものの、食うに困ってホテル代目当てで体も売ってきた結弦。
家事能力のない篤志が家政夫として結弦を家に置くという流れを見たら、BLを読み尽くした方々でなくても、「ああ、そのパターン」と思うのではないでしょうか。
家族というある意味絶対的な砦に恵まれなかった2人が一緒に生活していくうちに、心を通わせていくんだろうな、とか。
お互いの事情にどちらかが踏み込み過ぎて、「出て行け!」or「出て行く!」というすれ違いイベントがあるんだろうな、とか。
その通りです。
予想通りの展開を繰り広げて、ラスト間近には「え、そのイベントまで入れちゃう!?」という出来事まで盛り込まれてます。
作画もベースは少女漫画風の繊細なタッチで、たまにデッサンが崩れます。
ではなぜ神なのか。
言葉です。
言葉の力ってすごいですね。
ぞわぞわ来ますよ。
親からの愛情を諦めてから傍観者を決め込んで、自分は何も感じないし、踏み込まないし、知らなくていいことも知っておいた方がいいことも知りたくないというバックグラウンドを持つ篤志が言う台詞も、人の絆は永遠でもなければ絶対でもないということを目の当たりにして、それでも誰かを喜ばせたい、笑ってほしいともがく結弦が投げかける台詞も、同性愛者という設定だからこそ、おそらく今まで嫌な思いもつらい経験もしてきたであろう友人(女性で現在は篤志と同業者)の台詞も、それぞれが「その人だから言える言葉」なのです。
結弦の言葉は時にドラマティックすぎるように感じるかもしれません。
決め台詞のひとつに「何も感じないよりは人を傷付けたい」というのがあるのですが、Lady Antebellumというアメリカのユニットの”need you now” という歌の歌詞を思い出してしまいました。
ただ、結弦は19歳なんですよね。
「いい大人」歴が徒に加算されてきたわたしの耳には青くてクサく感じる言葉も、自分の若かりし頃の黒歴史の数々を思い返せば、そんなことを照れもせず言えていたなと思い当たる節が。
そういう意味で、青くさい言葉を躊躇いもなくぶつけられる若さが見事に再現されています。
友人の言葉も説教くさかったり、グサグサ痛めつけるようなあの感じ、知ってる。
そういう友達、いる。
むしろ一時期、自分もそうだったかも。
そんなリアル感がありました。
女性だからこそという視点と、同性愛者だからこそという視点が、これまた見事でした。
これ、友人の設定が男性だったらここまで語り合えないと思いました。
篤志の態度や言動も、ふつうなら「そんなに意地張らなくても…」と食傷気味になりそうなものなのに、説得力があるのですんなり入ってきます。
とにかく人物設定と心理描写、発話のリアルさと言葉の持つ力を出し切った感が見事でした。
気付けばものすごく長いですが。
絵は好みが分かれるかもしれません。
ymzさんやよしだゆうこさんの雰囲気や音海ちささんのタッチが好きな方は好きだと思います。
「少女漫画風タッチはちょっと…」という方にも、そのハードルを超えて読んでほしい。
もしかしたら次々と繰り出される言葉に「こんなに上手く話せるわけないじゃん」とか「え、青い…」と引いてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、とりあえず読んでみてくださいませ。
良いです。