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trigger
日常系でもほのぼのでもない
イシノアヤさんの新境地作品『トリガー』。
シリアスで痛々しいシーンも含め、
ひとりの男の転落が、暴くように徹底的に描かれた秀作です。
順風満帆なエリート商社マンの三井は
不足のない人生、不足のない生活を送ってきた。
それは努力の上に成り立っているもので、
彼には絶対に認めたくない、封印すべき”ゲイ”という根幹があった。
そんな彼が妻から言い渡された離婚を機に
人生の歯車が狂っていく中で再会を果たしたのが
高校時代自分に告白をしてきた男・曽根だった。
ノンケの同居人に恋心を抱いている曽根を無慈悲に、
強制的に抱く三井だったが、更なる転落に陥っていき―
前半部分、三井が曽根にしたことは鬼畜で
どんな理由があっても許されることではありません。
脅して、凌辱して、ボロボロの自分に手を差し伸べる曽根を
どこまでも陥れる三井の姿は痛々しく、読むのはとても辛かった。
けれどこの作品の素晴らしさは、
グズで弱い三井から逸れずに、徹底的に彼に焦点を当て
読み手に納得のいく形で描き上げられたところにあると思います。
過去から現在まで、物語の視点は終始三井によるもので
曽根はモノローグですら語ることはないのだけれど、
他者の視点を入れないことで
三井という男の人生をぼかさなかったところに強い好感を抱きました。
徹底的に傷つけられた三井だけど、一方的にやられっぱなしではなく
曽根の卑劣さを蔑むように三井に拳を向けた後、
キスをし、涙で震える三井を抱擁するシーンには
これ以上にない見応えを感じ、
その後、三井のずっと認められなかったことに対する告白と
曽根の返答には、目頭を熱くせずにはおられず...
こちらの一連の描写は本当に素晴らしかった。
描き下ろしがまた秀逸で、読み応えと共に萌えが詰まっています。
三井が曽根のために購入したベッドの上でイチャイチャする中、
本来”受け”であろう三井のことを察し
まるごと受け止めようとする曽根の言動は
包容力の塊で、格好良いとしか言いようがなく、
恥ずかしがりながらも、彼なりにそれを認める三井の可愛さときたら...!!
キュンキュンキュン!です!!
(あと、以前三井が曽根につけた傷を舐めるシーンもすごく良かった...)
ぶれることなくひとりのグズで弱いヘテロを偽った男の転落と
息を吹き返すまでの道のりが見事描き切られた、素晴らしい作品。
個人的に”抱擁受け”に絶賛注目中なことも手伝い
評価は迷うことなく”神”評価とさせていただきます!
エリートサラリーマン三井の転落から始まる物語
隣家に越して来た曽根は高校時代に俺に告白してきた男だった...
ゲイだった事をひた隠して必死に生きてきた人生を根底から覆され、自暴自棄に陥る三井
隣家に友人と同居している曽根の同居人への思慕を強請りのネタに体の関係を強要する
ここまで見ると鬼畜の三井何ですが、ここがイシノさんの描き方の妙で、露悪的では無いんです
鬼畜さを押し出すのではなく、あくまでも話の構成上として書いてます
三井の壊れてしまった心を描くのに必要だと言うように。
壊れた三井に菩薩の様な包容力の曽根
三井に嗜虐的な行為を繰り返される曽根
それでも、三井に情をかけます
そんな曽根の前で涙ながらに初めて告解する三井
『俺はゲイだ..』
『奇遇だね ぼくもさ』
このやりとりに号泣しました
まるで、この言葉を三井に吐かせる為に腐っていく三井を見捨てず、離れずに曽根はいたのかと思う程しっとり受け止めました
このままでの包容力を見せつけた曽根がある意味怖く成る程でした
ゲイとしての自分を認めず、否定し続けた三井の過去を遡るプロセスをしっかり描いた事がこの作品の真価だと思いました。
人と違う自分を受け入れる事がどれ程怖くて苦しくて辛いことなのか...
弱くて脆い三井には目を背けるしかなかったのかと。
曽根はある意味とても強いのです
誰のせいにもせず、受け止め辛くても向き合い生きてきたのですから
これからの二人にささやかな幸せが訪れます様にと願いました
甘さとは程遠い作品ですが、人間の弱さと強さをしっかり描いた良作だと思います
最後に曽根が三井の恥部を暴いた時に『うわぁ やっぱ曽根怖い笑』と思いました
魔性の菩薩系ですよ曽根はww
最後に少しづつ甘くなっていく曽根と三井に絆されました
イシノさんの新境地を見せてもらいました。
心に響く素晴らしい作品です
ああ、ひどい作品でした。
こんなにひどい男の話を読まされて、最後はその男がこの先もしあわせであるように願ってしまうなんてひどいにも程がある。
三井という男の半生が描かれています。
エリート。会社での評判も上々。3LDKのマンションに美しい妻と私立に通う娘。何不自由なく、家族が欲しがるものは全て与えられる甲斐性のある自分。誰もが羨む「男」の生活。
三井が叶ったと思っていた理想の生活はもう崩れていたのに、目を背けていたんですよね。夕飯を食べる三井の前で、ごはん代わりにサラダ味のスナック菓子を食べる妻。突然の離婚の話に手放したくないのは「彼女たち」ではなく、「既婚者である自分」という世間からのレッテルだと気付く。必死で築いた砂の城が崩れたあとに頭をもたげてきたのは、隠し続けた本当の自分。
そこに現れたのは、過去に自分に想いを寄せていた同級生の曽根。
曽根の弱みにつけ込んで、何度も何度も乱暴に体を奪う。あまつさえ消えない傷跡までつける。曽根の腕に3つ残された跡は、脆くも消え去った自分と妻と娘を象徴しているのか、それとも曽根と曽根が想う友人と自分なのか。
てっぺんから底辺まで落ちて、手にしていたはずのものが何もかもすり抜けていったとき、本当に欲しいものはただひとつだけだったと気付く。
自分を受け入れるまでのショック、否認、怒り、承認そして受容。
とにかく痛いです。どこからどこまでも三井はひどい。曽根を酷く扱うさまは目を背けたくなるほどです。
三井がずっと否定してきた「同性愛者である自分」を受け入れている上に好きになった相手に告白までできる曽根への蔑みと無意識な羨望、でも結局はゲイであることを隠して好きな相手のそばにいようとする曽根の狡さを断罪したい気持ち、そして何より自分自身を受け入れられない苛立ち。
そういうドロドロした感情をすべて曽根にぶつけているのです。自分を痛めつけるには三井は自己愛が強すぎる。だから曽根に自分を投影してぶちのめす。でもいくら殴っても傷つけても、痛みも苛立ちも消えないし、罪悪感まで生まれて自己嫌悪がひどくなっていくばかり。
悪循環で残っていたはずの社会的地位まで失ったときに、狡猾なやり方で三井は曽根の秘密を暴きます。曽根も自分のように何もかも失えばいいと思うと同時に、そんな自分を見捨てないでほしいという微かな願いすら感じる場面に、もしかして同居人に暴きたかったのは曽根の性癖ではなくて、曽根は自分のものだということだったのではないかと思うのです。
「同性愛者かもしれない」という事実を受け入れるのって、本当に難しいことですね。いくつかコラムや記事も読んだことがありますが、「ふつう」でないことを認めたくない気持ちが強ければ強いほど、より「男性らしく」いようとして、強烈なホモフォビアになってしまうそうです。
最も憎むべきものが自分の真ん中にもあって、いくら蔑んでも罵っても全部自分に返ってくるだけなんてどれほどの苦しみでしょうか。受け入れられたら楽なのにと思うのは他人事だからなんですよね。それだけ枠から外れるのは怖ろしいことだというのを全部は理解できていないからなのかもしれません。ゲイフレンドリーなひとだって、ゲイフレンドリーであるがゆえにゲイの人を傷つけることもあるし、本当に難しい問題だと思います。
三井が妻子を不幸にしたことや曽根にしたことを「酷い」と言い捨ててしまうのは違う、と考えさせられました。
三井が必死で打ち消そうとした種を芽生えさせてしまった教育実習生の存在も不幸。妻を愛し切る演技すらできなかったのも不幸。自分ひとりでは受け入れられずに曽根に当たってしまったのも不幸。
だけどこれからの三井にはしあわせだけが訪れてほしい。すべて気付いた上で離れずにいてくれた曽根がいてくれる限り、大丈夫だと思える、希望に溢れた作品でした。
自分はきっと普通じゃない……ゲイであることを心の底では自覚しながらも、どうしても認められない三井。そんな心の闇を、仕事はエリートで家族にも真面目に向き合う生活をすることで埋めてきた。三井はどこまでもまっとうであろうとし、道を外れることを深くおそれている。それなのに妻から離婚を突きつけられ、ここからどんどん三井は崩れていく。
一緒にいるからこそ、奥さんも三井が自分自身を愛してくれているわけではないとわかっていたんでしょうね。別れたくないんじゃなくて離婚がしたくないんでしょう?っていう妻の言葉に三井も絶句しています。
苛立ちとこころの隙間を埋めるように昔自分に告白してきた隣人の曽根を犯すようになるのだが、体を痛めつけたり気持ちを踏みにじったりするようなやり方でつらい。酒を飲みまくる三井を心配して咎めるもビンタされたり…。それでも、酷い扱いを受けても曽根は健気です。突き放しても自分を見捨てなかった曽根に、ようやくポツリと本音を漏らすシーンは淡々としていながらもよいシーンでした(´ー`)
崩れ落ちそうになる三井の脆い心をそっと支えてくれる曽根。何もかも捨てて逃げ出してしまおうとするも、曽根の何気ないメールが三井を現実に引き戻してくれます。一見弱々しく見える受けが、実は脆い心を持つ攻めの背中を押してくれるってなんかいいです^^
酷いことをした分、これからはめちゃめちゃ甘やかしてあげて欲しいです♪
ぐっわぁーんっとやられてしまった。なんと書いていいのやら...自分のような人間の場合は好きな作家のレビューほど書こうとするなって話なのかもしれませんが、それでも少しだけ。
『トリガー』とタイトル付けた所以
作品を通して表現したかったもの
登場人物の裏話・裏設定
どれもあとがきにて、作者の言葉でなめらかに語られていました。
あとがき最後の「2015.07 イシノアヤ」(手書き)まで進み、自分が漠然と、だけどたしかに感じとったこと、との答え合わせじゃないけどそんな感じで深く沁みる作品だったなぁと再度振り返ることができました。私なりの言葉で表すとすれば、これもまた "壁ぶち抜き男" 作品です。
元気がなくなるたびに読みたい。
イシノアヤさん好きと言えどもこの作品は皆さまのレビュー読んだだけでびびって、これ(自分にとって)ヤバいやつだ、読まないでおこ、と封印してました。
でも結局、好奇心が優ってついに読んでしまったのですが、結論から言えば読み応えがあり読んで良かったです。
最初はビビりながらも、そして途中からぐいぐい読み込んでしまいました。
ゲイである事を否定して生きてきた三井。「ヘテロの男」の仮面を被り続ける事によって得た妻や子供を失い残されたのは養育費とローンだけ…。
三井が曽根にやったことは確かにクズだし弁護できない。だけど彼の背景を知ると救いようのないクズとばっさり斬り捨てられなかった。
自分が「普通」じゃないかもと気づいた三井の少年期。葛藤する間も無いままバカなノンケ教育実習生(男)による勘違いスキンシップで強制的に性に目覚めさせられてしまい(あれ性的虐待だと思う)背徳感を植えつけられてしまったのが本当に可哀想。
男に欲情する自分は気持ち悪い、けがわらしい…そんな自分は隠さなくてはと思う三井。そして告白してきた曽根を「俺は変態じゃない…!」と拒絶した。
結局、お互いにちゃんと恋愛したのは初めてなんじゃないかなぁってあとがきを読んで思いました。(三井に再会するまでほんのり好きになった人はおそらくみなノンケとある)
高校時代の恋のやり直しというんでしょうか。下手すると初恋どうしなのかもしれない。
「俺はゲイだ」「奇遇だね ぼくもさ」
ぎゃーどうしてこういうセリフを考えられるのでしょう。イシノさん神過ぎます!!泣けちまう。
「ヘテロの男」を演じ続けてきた男の底には受け願望があったというところまで描かれているところが好き。
そしてそれを曽根が見抜いて、「ヘテロの男役をもうだれも強要しないから」と言って今まで彼を縛り付けていたものから解放してあげるところが一番いいと思います。
だから、三井が受けやってるところまで(つまりリバ)描いて欲しかったなぁ。
絶対喘ぐのに三井は抵抗あると思うんだけど曽根がそれに気づいて声を我慢しないで…とか言っちゃうの。で、アンアン言っちゃう三井をかわいい、かわいい、と曽根が言う。かわいいと言われることにも三井は最初戸惑いを感じるんだけど、かわいいって言われることも悪くない…どころかこれを望んでたんだ…!ぐらいになって生きてて良かった〜!ってくらい感じまくるセックスをして欲しかったです。
三井は絶対かわいくなっちゃうと思う、というか、「この家で俺以外の人間(男じゃなくておばさん相手に嫉妬)の話をするな」とか言っちゃってて、すでにかわいいし。
そしてこのまま途中、三井は自殺でもしちゃうんじゃないか…と思ったシーンでのはんぺん買ってきてメール。あそこが秀逸でした。
帯のまんまでした。
「とあるクズエリートの人生の崩壊。…………と、恋愛。」
「恋愛」の文字がちいちゃいのよね。
私はイシノさんの描く何気ない幸せな日常の様子が好きです。なので今回はどうなるかと思いました。
クズが、本当にクズでね! こういう人は現実にもいそうな気がしますよね。私はクズも嫌いだけど、ダメンズウォーカー的なそんなクズでも愛し続ける人も嫌いで、共依存BLはほんと苦手なんですけども……
これはクズの過去も描かれていて、クズの暴力は許せないし同情したくはないけども、なるほどねと思いました。
プラス、彼を受け入れる曽根くんが、クズな三井には依存してなくて、ただ彼の苦悩は同じゲイとして十分わかっているんですよね。結果的に殴り返したのもよかったし。
そして最後には、やはり日常に救われるんです。
あとがきにもあったけど、自分を偽るのは苦しいですよね。三井は曽根くんを大切にして、お尻を差し出して欲しいです。そして、そこをね、もっと読みたかったですよね!!!!!!! クズな三井が曽根くんにメロメロになったところをね、もっと読みたかったです。
この作者さんの「椿だより」を読んであー、ホワホワポカポカ、良かったね、で終わってそのままだったのですが、この不穏な作品紹介!あの方がこんなん書くの?と買ってみたら、まぁ、ガッチガッチのガチのMLでリアリティありでした。
いたしてるシーンもあり、それもハラハラさせられるものなので涙目になっちゃう事もあるかもしれませんが、さすが先生!最後の最後、書き下ろしまで読んでいただければあのクソゲス三井に萌えを見つけらます。あぁ!読んで良かったの読後感。「椿だより」系でなきゃ絶対にダメ!という以外のBL読みさん達にはぜひオススメしたい作品です。せっかくBLというジャンルに萌えを見いだしてらっしゃるんですもの!
しかし、どなたかのエッセイでチラリと読んだのですが、ほんの30年くらい前かな?今はなき某有名ゲイ雑誌の編集長さんが『ゲイの人もゲイライフを楽しんでいい年になったら前半の三井みたいなライフスタイルを送りなさい、子を成しなさい』と話してたというのを読んで、そんなにゲイのそばにいる人もそんな考えするんだ!とビックリした思いがあったので、クソゲスカス三井に同情と哀れみを持ちつつ読んでたのも最後に三井に萌を見いだしてしまった理由かな、って腐嬢さま方は「え?30年前って大昔じゃん!」と思うかなー(笑)。
あ、忘れてた!あの教育実習生に精一杯の罵声と暴力をあびせたい!!!私、本来ビビりの運動嫌いだから遠くから石投げるくらいが精一杯だけど。ダセ。でも本当のクソゲスカスはヤツだから!残念!!!
賛否両論あるのを知ってためらってたら、むしろ私が好きな方の作品でした。
クズの救済が好きなんです。クズがクズらしくクズをまっとうし、かつ実はいい人的なフォローがあるわけではなく、ただそれが愛でもって救われる話が好きです。変わろうと思えば人間は変われるけど、思わなければそのままだし、誰かの助けが必要になる時も多い。それがその誰かを傷つけていい免罪符になる訳でもないけれど、その誰かと出会えるかどうかも自分のこれまでの行い次第なわけで。
最後に明確になる彼がそちらを望んでいるという描写もかなり自分の好みでした。