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koibumi
初めてこの作家さんを知ったときの衝撃は忘れられません。
大正~昭和風味の仄暗いレトロな絵柄、
エログロ耽美な作風、
切なく、かつゾッとする結末…。
ページ数が少ないこともあり、
話自体は捻りの少ないオーソドックスなものが多いが、
シンプルだからこそ迫ってくる独特の恐怖感、物悲しさに
病みつきになります。
怪奇系の作品が多い中で、この「恋文」は
戦時下の友情と悲恋をまっすぐ描いた、比較的珍しい雰囲気の話です。
兵士として戦地に召集された赤平は、
同じ部隊の藤宮という青年と仲良くなる。
純朴で明るい藤宮の存在は、
戦場でいつ死ぬともしれぬ恐怖と戦う赤平にとって
何よりの癒しであった。
山育ちで字が書けない藤宮のため、故郷の幼馴染への恋文を代筆する赤平。
頼りになる友人として振る舞いつつも、
藤宮の「一番」になりたい、と募っていく暗い欲望。
その欲望は、ある夜、敵襲で密林の中二人きりになったとき
藤宮にとって最も残酷な形で解き放たれ…。
赤平のしたことは、容易に許されることではない。
しかし、恋が成就することはなくとも
もっと時間があれば、仲の良い友人に戻ることはできたかもしれない。
赤平は、藤宮にまた手紙を代筆することを申し出ているし
藤宮も、赤平を無視することに辛そうな顔を見せていたから。
しかし、戦争という時代の荒波がそれを許さなかった。
故郷に帰った藤宮が、
読むのが少し遅かった詫び状―暗に「恋文」でもある―に
涙するラストは哀切で胸を打つ。
冒頭にも書いた、シンプルな展開で引き込む作風が
時代の悲劇と、若者特有の切迫感や頑なさ、それ故の後悔を
ありのまま見せつけていて、余韻の残る作品です。