茶鬼
nora
アユ・ヤマネさんの電子配信していた作品を紙媒体でまとめて出した1冊。
とてもほっこりして、心が洗われる作品。
まさに野良ネコがイエ猫になっていくお話で、男性同士として行きつくケジメみたいな、本物の家族となるその先まで描かれています。
親の会社が潰れて大学を休学して日当のよい現場のバイトをしている鯖寅。
彼が現場で倒れたのがきっかけ知り合った建築会社の人・土屋とは、ご飯をたべさせてもらう仲。
日々の暮らしで精一杯の鯖寅を土屋が餌付けするような形で行く中、二人の想いがすれ違いながら寄り添っていくのです。
鯖寅は、まさに野良ネコのよう。
アパートの老人が野良ネコに餌をやっていて、その姿に主人公達が重なります。
ご飯だけは断らない鯖寅は、食べないと働けないからとその点は遠慮しない。
穴のあいた靴をはいていて、土屋が新しい靴を買ってあげると、それを受け取りはするのだが鯖寅は「俺の事をみくだしてるんだろ」と土屋を突っぱねる。
でも、その靴の履き心地はとても良くて、後日土屋にさりげなくお礼を言うのです。
彼には彼なりのプライドがある。
そうやって土屋と近づいていくのを鯖寅は不安に思う。
楽しんだだけあとで現実が追い掛けてくるのが怖いと・・・いつまでこんな暮らしが続くんだろう。
彼は自分の人生と真剣に向き合っているのです。
土屋と真剣に向き合う事を決めた鯖寅は休学していた大学を辞めて、お気に入りになった喫茶店の従業員として働くようになり、土屋と一緒に暮らすようになる。
すっかりなついた家猫のようになった鯖寅だけど、土屋が怪我をして入院した時、自分が他人であることを思い知るのです。
それは土屋も考えていて、二人は結論を出します。
土屋の母親が登場し、彼等を認めてくれます。
すんなりとではなく、土屋がカミングアウトをした時になやんではいます。
そして息子の幸せを想い受け入れてくれる。
苦労した分、幸せになっていいんだよ。
二人の距離感がくっつきすぎず、離れすぎず、ちょうどよい加減を感じます。
鯖寅の一生懸命がゆえのツンデレも、まるで猫のよう。
土屋は猫をてなづけて拾ったような形ではあるけれど、家族として愛したいと思っている。
それは充分に相手を愛おしいと思う気持ちにあふれている。
歳の差もあり、ひょっとすると親子に近いものもあるかもしれないが、でも、愛なのです。
アユヤマネさんの誠実な絵柄、多くないセリフとパントマイムのように見せる間と表情で、色々なものが組取れてしまう、まるで絵本のような展開。
それは決しておとぎ話じゃなくて、しかり地に足のついた二人の人間の物語でした。
とてもよかった、そして癒されます。