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命を懸けた、せつない片想い。
tenkyuugi no umi
作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます
待ちに待っていた、尾上さんの新作。
ちるちるさんから本が届いた日、上京せねばならず後にしようかと思いましたが我慢できず、新幹線の中で読み始めました。
相変わらずの不穏な始まりと、美しい情景描写に胸がときめきます。
あとはもうこの作品の世界に没入していました。
大宮駅について、ギリギリに気が付いて慌てて降りましたが。
乗り換えで湘南新宿ラインの電車を待ちながら、彼らの佳境へ。
なぜ資紀は希にあんなに辛く当たっていたのに急に…と思っていたら…
ええっ!ええっ!ええっ!
ああ、そうか、そういうことか。
早く気が付け。希ちゃん!!
そう思っていたら電車が…
乗り込んで、我慢できずに続きを読み始めて。
滂沱…おばちゃんが恥ずかしげもなく電車の中で泣きながら本を読んでいる。
どれだけ周りの方を恐怖と嫌悪のどん底に突き落としているかわかっていても。
やめられない。とまらない。
池袋につく頃にはもうすぐエンディング。駅の近くの喫茶店に入り短編を読んで。
もうしばらく呆然…。陶然…。
この作品の世界から抜けて仕事するのが嫌で…(笑)
ネタバレ以下します…
ネタバレオッケーでアンハピ苦手で、ジュネ苦手な方。
安心して お読みください。
皆様おっしゃっていますが、三作目にして尾上さん、ばっちりボーイズラブに仕上げてきています。わかりやすくてけれど深い。
ちゃんと幸せになるけれど、カタルシスもあり、ドキドキもあり、謎もある。エッジもきいていて、個性的。
ラブもエンタメの要素もばっちりです。
物語の奥行きとは…作品には描かれなかったけれど作者の頭の中にはしっかりあるエピソードの数と表現されなかったけれど作者が読みこんだ資料の多さと取材と思案にあるのではないかと思います。
尾上さんのキャラクターには脇役一人一人に人生を感じます。
ストーリーの為だけの当て馬ではなく、それぞれのキャラクターにそれぞれのエピソードが作者の中ではいろいろあるに違いないと感じます。
気になるキャラもいっぱい。なのにそれをばっさりと切り捨てているからこそ、生まれる奥行きにうっとりします。
これを読まずして2012年を終えるのは大損ですよ!!
ぜひお読みください!
そして、尾上さんのHPにて番外編が読めます。
できれば本編読後にどうぞ。
尾上さんの新作が読めて本当に嬉しい。
ゆっくりでいいから、じっくりと。
こんなに素敵な作品をまた読ませてほしい。
大好きだ…
読者への誠実さと小説への尊敬と情熱とこの男同士の世界への愛情を心から感じさせてくれる尾上与一という作家さんの世界を早く早く経験してください。
初のレビューです。
よろしくおねがいします。m(_ _)m
尾上さんの作品ははじめて読みましたが、いやー、よかったです。
皆様がビシッと懇切丁寧にレビューを書かれていらっしゃるので、(私の文章力がショボいので)
そのへんはこれ以上は書き込みは必要ないかと。
でも私の感想をちょっとだけ書かせていただくと、皆さんと同じく資紀の希に対するはじめての出会いからそこまで執着する経緯というか、決定打がはっきりしないのが残念でした。
ひょっとしてページ数制限で削られちゃったんじゃね?ぐらいスコーンと無いんですよね。文章きれいだし、グッとくるポイントがちりばめられてるし、、、そこがあればもっと脳汁がジュワッと出るのに。
だが、それがいい(花の慶次風に。)
タイトルで使わせてもらいましたが、大事なことは二回。
10ではなく9.5くらいが読み手の後を引く感じが残って。ま、いっか。
作品の不満は作者さんのせいではなく、出版社と編集者がビシッとしていないのがいけないんだと思うので。 えっ?
BLというファンタジーな世界、なんでもありな設定。
こんな素晴らしいBLがあっていいんじゃないでしょうか。
平和と自由という麻薬に浸りきったこの時代、極限の生と死、あの戦争を生きていた人達がどれほどの思いをされていたかは絶対私達には理解出来ないでしょう。
そんな時代背景のなかの命を賭した資紀と希のお互いの思いを未読の方には是非是非読んでいただきたいです。
最後に
引用するのはアウトなのかもしれませんが(アウトならごめんなさい)、某本に載っていた神風特攻隊の軍神、関行男という方が最後に海軍報道班員のインタビューで話した言葉をこちらに書き込みさせていただきます。
「僕には体当たりしなくても敵空母に500キロ爆弾を命中させる自信がある。日本もおしまいだよ、僕のような優秀なパイロットを殺すなんてね。僕は天皇陛下のためとか日本帝国の為とかで行くんじゃないよ。妻を護るために行くんだ。最愛の者のために死ぬ。どうだ、すばらしいだろう!」
楽しみにしていた尾上さんの新作。
でもその時代背景と特攻の文字に、ちるちるさんから届いた本を開くのがためらわれ、タオルを用意して思い切って読み始めたのを思い出します。あれから二週間、何度この本を読み返したでしょうか。そのたびに、希と資紀の一途さに心を打たれ涙が出てきて、タオルを手元に引き寄せています(笑)
ネタバレ有りで。
幼い頃自分の命を救ってくれた名家の坊ちゃんである資紀をずっと慕い続けていた希は、喜んで資紀の身代わりとして特攻に出ることを承知します。けれども再会した資紀は希にそっけなくて。しかし特攻に召集されるまでの間、時折見える資紀の優しさを、大切に拾い集めるようにして過す希です。
そして正月を境に、資紀は希にひどく冷たくなり、八つ当たりのような暴力までふるい出します。読んでいる私も、希と同じく坊ちゃんの気持ちがわからなくて、思い出のトンボ玉まで砕かれた時は、辛くて苦しくて。やっと心が通じたとのかと思った後のあのショッキングなシーンでは、心の中で悲鳴を上げていました。結局操縦桿を握れなくなった希の代わりに、資紀は特攻に出撃してしまいます。
・・・その胸に希の右手を抱いたまま。
この後はもう怒涛の展開へ。
どうして資紀は希に冷たい態度をとったのでしょうか。なぜ、希の右手を切り落とす暴挙にでたのでしょうか。謎が一挙に解けていくと同時に、資紀の深い愛に涙が止まらなくなりました。
すべては愛する希の命を救うため。あの海岸での出会いからずっと希が資紀を慕っていたように、資紀も希を愛していたのです。
“予科練卒は最も特攻に近い位置にあり、希の出撃を回避するために自分の身代わりとして希を大分に呼び戻す。そしていよいよ大分の部隊に出撃命令が下れば、操縦桿を握れないよう希の右手を切り落とし、彼の出撃を阻止して自分が特攻に出る”
資紀は考えに考え抜いて、この計画を立てたのでしょう。自分の死後に希が未練を残し悲しまないように、わざと希に冷たく当たりちらし、希の恋心を砕くためにトンボ玉を割った資紀。右手を切り落とすという冷徹で一見狂気ともとれる行動も、ただただ希の命を救うという目的から出たものだったのです。
こんな計画を抱く資紀が、再会した希に「坊ちゃんのためなら喜んで、俺は特攻に行きます」と言われ、「坊ちゃんの指揮下で活躍をしたいから予科練に進んだ」などと応えられて・・・そんな希に、わざと冷たく当たらなくてはならなくて・・・希も辛かったけれども、資紀の気持ちも苦しくて泣けてきます。
資紀の本当の想いを知った希。自分が資紀のシリウスだったことを知った希。
けれどもその資紀は、特攻で散っていってしまいました。
もう、悲しくて悲しくて、用意したタオルがびしょびしょで(苦笑)
でも、尾上さん、やってくださいました!!おおおおおお、資紀が生きていました!!ありがとうございます。
ここからはまた、歓喜の涙がドバっと。どれだけ泣いてるんでしょう(笑)資紀が死んであのまま物語が終わった方が、物語の完成度は高かったのかもしれませんが、それは辛すぎて私はちょっと浮上できなかったでしょう。“東映動画の西遊記”(古っ)でリンリンが死ななくて本当によかった派としては、このラストで一気にテンション盛り上がりました↑↑↑
その後のお話“サイダーと金平糖”の二人は、甘く優しくて。酔った資紀が次々といかに昔から希を想っていたかを披露していくのが、すごく微笑ましくて。家の前の餅のエピソードには爆笑しました。資紀、可愛い!!
本当に何度読んでも心にしみる素晴らしいお話です。希が小犬のような健気で一途な愛情を示すのに対して、一方の資紀は表面冷静で中身は愛の炎がゴーゴーと渦巻いているという・・・耐えて耐えて耐え抜いた資紀の愛に、読み返すたびに涙が出ます。大好きな本がまた一冊増えました。
(せっこさんが教えてくださっているように、尾上さんのHPにはssが二編、そしてイラスト担当の牧さんもピクシブに美しい絵をアップされています。この絵見たさにピクシブに登録した私(笑)牧さんのイラストもこの話の世界を深めています。海に映るオリオン、ジャノヒゲの実、希のてのひらのトンボ玉など、作中のキーワードとなる小物が澄んだ青の世界に並べられた表紙。その中に尾上さんの名前だけが鮮やかなオレンジから青へと溶け込んでいて。このあたたかいオレンジ色は、ルリビタキの脇腹の色なのかも・・・と、一人想像して楽しんでいます)
天球儀、右手のホクロ、シリウス、片思い、反転、いくつかのキーポイントの言葉が
後半に怒涛のように押し寄せてきて唐突に真実が降り注いでくる。
う~ん、訳が分からない滑り出しですが、読み終えると浮かんでくる言葉の数々。
幼い日の二人の偶然の出会いが、その後の二人の一生を左右する事になります。
時代は戦時中、終戦間近の年代の神風特攻隊と言われていた航空特攻を背景にしてる話で
村の旧家で地主でもあり名門の家の一人息子のお坊ちゃまの代わりに、航空特攻に
いく事が決まっている受け様とそのお坊ちゃまの攻め様との愛の物語。
子供の頃に攻め様に助けられた時から攻め様に憧れ、軍の中尉でもある攻め様の父親から
攻め様の身代りに特攻に行く事を打診され、恩返しをしたかった受け様は喜んで引き受ける。
でも攻め様はそんなことは望んでいなくて、受け様に対して冷徹な態度をとるのです。
それでも、昔から憧れていた受け様は攻め様に嫌われていたとしても、攻め様の
身代りでお役に立てる事が幸せだと思える程攻め様に心酔してる受け様。
それに、攻め様が昔の事を思えていて、自分の右腕にある星座のようなホクロの事まで
しっかり覚えていてくれた事が更に受け様を幸せにする。
しかし、そんな幸せな気分も次第に攻め様の理不審な態度や言動に落ち込むようになる。
更には、攻め様に無理やり抱かれ、言葉も無く凌辱されるようになり、あれ程攻め様に
憧れ心酔していた受け様の心に困惑や戸惑い、理不尽さに対する怒りを思える。
そして、最後には、凌辱された後で星座をちりばめたような天球儀みたいだと言われた
右手を攻め様に鉈で切り落とされてしまう。
そこからは、攻め様に対する憎しみで、二度と飛行機に乗れない、操縦桿を握れない事に
絶望し、攻め様への思いが粉々に崩れ落ちてしまうのです。
そして、受け様は長く寝床に着く事態になり、攻め様は初めから決まっていたように
特攻へ任命され、飛び立つ事になり、別れの日がやってくる。
受け様は飛び立つ攻め様に対して憎悪を抱きながらも、気が付けば目で追ってしまう
自分に呆れながらも、何故か微妙な違和感を感じ始める。
攻め様の特攻服の胸元のシミ、奇妙な膨らみ、自分を見つめる穏やかな目。
そして唐突に目に前に見えなかった全ての事が・・・
不器用すぎる程の愛情を受け様に抱きながらも決して己の心を見せることなく、
過去の思い出や尊敬や優しさ絆、全てを受け様から断ち切るように冷徹に接した攻め様。
自分の狂おしいまでの愛情を隠し、酷い仕打ちをし、憎まれるように仕向け、
それでも成し遂げたかったのは攻め様の命を、愛する者を守る事、その1点だけ。
ヤンデレにも見える程の強い思いを感じる作品で、戦争の理不尽さを背景にした
物語は心を打たれる素敵な作品になっていました。
同人誌「葉隠否定論」の感想も含みます。
この作品に惹かれた方は是非とも「葉隠〜」を読むのをオススメしたいのですが、現在は手に入りにくい様ですね。いずれは商業誌になったりしないのかなー。
本作「天球儀〜」は希目線のストーリーなので、希がどれほど一途に資紀を想い、身代わりに死ぬことを待ち望んだかが描かれています。資紀が飛び立った後、希が資紀の母親から責められるシーンは、胸が痛みます。殴られながらも、資紀が母親に愛されていたことを教えに行きたい、というんですよ。
ただこの作品だけだと、資紀の真意までは推し量れない気がします。
「葉隠〜」は同人誌として発行された資紀目線のストーリーです。正直これを読むまでは、希を特攻に行かせない為とはいえ、なにも手首を切り落とすまでやらなくても…。と思っていました。しかし、ただの骨折や怪我だけだと、治ってしまえばまた特攻に行く羽目になるし、身代わりができなくなった後の希が周りに責め立てられる。一見非道とも思える行為は、後々のことまで考えた上での苦肉の策だったんですね。冷たい態度をとり、傷つけながらも、身を引き裂かれる様な痛みに耐えていたのは資紀の方だったんだろうことがうかがえます。自分を憎み恨む様仕組んだ資紀の綿密な計画は、賢しい希には見抜かれてしまうわけですが。
二人が生きていてくれたことに涙が止まりませんでした。
私的には「天球儀」と「葉隠」両方対で神です。
わたしが読みたかったものをカタチにしてくれた、というような素晴らしい一冊でした。
いやはや……読んだ後の余韻………こんな体験をしたのは初めてです。
素晴らしいです。素晴らしい。
年齢差。初恋。健気受け。執着攻め。時代背景。シチュエーション。文。
尾上先生の作品は初めて読みました。
完全に心奪われました。完全にです。天球儀の海、ただのBLなんて言っていいものじゃありません。まさに名作。何回も読みなおしたい。
綺麗なんです、どんどん読み進めたくなるしページを捲る手が止まらない。ハラハラさせるし感情移入してしまう。主人公の希が本当に魅力的なんです。
物語が最高潮に達するところは皆さんが同じ場面を示唆すると思います。読んでみれば絶対に解ります。そう、希の手首が鉈で切り落とされる場面です。私はそこで、何がおこったか全く分からなくなりましたね。何度も文を読み返してもわからない、否、解りたくなかったという表現の方が正しいかもしれない。そのページで何分か止まっていたと思います。衝撃でした。
ですが直ぐに解りました。それが資紀の愛なのであると。決意なのであると。
二人の初恋は言の葉に乗せられることなく育っていきます。賢い資紀はそれを悟られないよう、そして希を自分から引き離すように接する。それ故希の想いは不確かなものとなるが、でもやっぱり胸に突っ掛かる自分がいた。手首を切り落とされた後、何も考えられずなるがままに、人形のように生きる希に心が痛みました。引いては近づき、また引いては近づく。手首を切り落とされる前の優しい資紀。その理由が知りたいけれど、気になるけれど、ずっと追い求めてきた、たったの短い間だけでの愛でもいいから味わいたかった。
展開自体がドストライクだったんです。物語が進んで行くたびに「あぁ~」とか「うっ…来るか…」とか、「ひぃ……」とか、第三者から見たら蔑みの眼差しで見られるであろう反応が無条件で出てしまうくらい引きこまれました。重い苦しい切ないBLを求めていた私にとって、この作品はかけがえのない理想の一冊です。賞賛し続けたい。布教も存分にしていきたい。こんな素敵な作品に出会えたことに多大なる感謝です。
2013年このblがやばい第3位。もう泣ける泣ける。
資紀が、希を助けるというただ一つの目的のために、父をだまし、同級生の新多を利用する。そして、希自身にもつらく当たるのは、見ていてつらかった。本当は優しいはずの坊ちゃんにつらく当たられながら、それでも坊ちゃんの求めに応じて毎夜のように身体をつなぐ希が健気だった。
やはり、戦争はつらい。死にたくない、生きていたいと、そう主張することもはばかられるような世論の中、希と資紀はあろうことか、自分を犠牲にして相手を助ける方法を遂行しようとする。
出撃のまさにその直前、資紀の真意を察した希が痛かった。
「待って、待ってください。行かないで。坊ちゃん」
と叫ぶ希。無常に飛び立つ特攻機。これは泣けます。
生きていることが当たり前で、会いたいときに会いたい人に会える現代は、本当に幸せな時代だと思う。いっぱい考えさせられた作品だった。blと侮ることなかれ。
初恋の人を守るために特攻に行くことを決意した、航空兵、希(ゆき)の物語です。
尾上先生の1945シリーズ第1作目の舞台は唯一の日本国内で、そのためかシリーズの中でも独特の雰囲気があります。
5歳の時に助けられてから、ずっと忘れることのなかった名家の坊ちゃん、資紀(もとのり)。
資紀の身代わりになるために、成重家の養子となる、その道中を描いた冒頭は日本の童話のような趣きがあり、引き込まれていきます。
それから希は初恋の人、資紀とお屋敷の中で暫く暮らすことになるのですが、資紀は気難しい青年になっていて・・という展開です。
いつ、特攻の命令が下されるか分からない日々の中で、一途に資紀を想い続ける希。対して何を考えているのか分からない、現代にはいないタイプの男、資紀。二人の関係は昭和十九年という、閉塞感に満ちた中で静かに、だけど異様な緊迫感を持って描かれ、衝撃のクライマックスを迎えます。
(以下、ネタバレです)
希の右手首を切り落として、資紀は希を守るのです。何と凄絶な!
これは、この時代を描いたblならではですね。
巻末の「サイダーと金平糖」では、戦後の穏やかな二人が見れてホッとしましたが。
5歳の時の初恋を貫いた希と、如何にも戦前生まれといった感じの古風な男、資紀。なかなか印象に残る二人でありました。
そして希の兄、琴平ワタルが主人公のシリーズ2作目となっていくのです。
瑠璃色のとんぼ玉。鏡写しのオリオン。
傷ついたルリビタキ。透明なインク。
これらを鍵にしながら、物語は進んでいきます。
尾上先生の1945シリーズの1作目で、太平洋戦争時代を生きた人達の物語。シリーズの中でもこの作品は少し異色で、日本を舞台に物語が進んでいきます。痛くて、苦しくて、切ないけれど、とても美しいお話。私はシリーズの中でこれが一番好きです。
舞台は昭和19年で、終戦間近。戦況が思わしくない日本が、起死回生を狙って特攻隊を募り、敵軍を撃墜させようと躍起になっている時代。そんな中で、受けの希は自分の命の恩人であり、初恋の人でもある資紀が、特攻に行かなければならない状況にあると知る。希は自分が彼の身代わりとなるために資紀の家に養子としてやってくるけれど、資紀は自分を助けてくれた昔とは違う、冷たい青年に成長していた。それでも希は、昔の恩を返したいという一心で、特攻に行くまでの短い期間、資紀に報いようと様々な手を尽くすけれど、そんな希に、資紀はただつらく当たってくるばかりで…。というお話。
戦争の時代をテーマにしていますが、掘り下げすぎることなく、軽く扱っているわけでもなく。尾上先生独特の美しい言葉で物語が綴られていて、とても読みやすいです。戦闘機などの描写も、この作品ではほとんど出てきません。理由は主な舞台が戦場ではなく、出撃する前の日本での生活だというところが大きいかな。ただ平和な今の時代とは違い、常に死と隣り合わせという状況があるので、そこから生まれる感情や葛藤、覚悟なんかは重く苦しいものが多いです。でも読んでほしい。物語後半は涙無しには読めませんでした。
主人公の希がただひたすらに健気。天文学を志す父の元に生まれたため、賢くて聡くて、どこか達観してる所がある子なんですけど、そんな賢い子でも理由が分からないくらい、攻めから色んな理不尽な扱いを受けます。到底叶えられない無理難題を押し付けられたり、大切なものを壊されたり、無理やり体を暴かれたり…。でも、それでも希はひたすらに攻めを疑わずに慕い続けようとするんです。5歳の頃助けて貰った大切な思い出と、長年大事に温めてきた資紀への気持ちを、その張本人からどんどん粉々に壊されても尚。その姿が見ていて可哀想で、痛々しくて。読み進めるのが辛いシーンもありました。ほんとにこの子がいい子すぎて健気すぎて、攻めの資紀さんに対して疑心暗鬼になりながら読み進めました。
攻めの資紀の性格がなかなか拗れてて読めないです。優しいのか、冷たいのか、昔の彼と今の彼のどちらが本物なのかがほんとに分からない。彼の内面に触れられる描写が物語中にほとんどないので、読者は希と同じ気持ちで話を読んでいくことになると思います。なんで?どうして?そんな気持ちではらはらしながら私も読みました。
王道の展開かと思いきや、衝撃のシーンが待っていたり、なぞかけのようなものが端々に隠されていたり。読み応えは十分です。戦争物にありがちなきな臭さ、生臭さはあまり無く、星を大きなテーマとして、どこか幻想的で美しい雰囲気でストーリーは展開していきます。少しだけネタバレを含んで言いますと、死ネタ、バッドエンドはありません。そして読み終わった後は、資紀の視点でもう一度読みたくなるはず。私は彼が唯一優しく希を抱いたシーンを読み返して、涙が止まりませんでした。本編後の短編で、穏やかな2人のその後を垣間見ることが出来ます。この手のお話が苦手ではない方はぜひ、読んでみてください。
そして尾上先生が出されている同人誌「葉隠否定論」ではこの作品の資紀視点で物語が繰り広げられ、彼の葛藤や希への狂おしいほどの愛が描かれています。作品を気に入った方には必読かと思います。そちらも合わせて是非。
読んだのがかなり前で、その時は「この結末は惜しいんじゃないか」と思っていました。
尾上先生も、本当は悲恋の物語にしたかったのではないかと失礼極まりないことまで考えていました。
私が未熟でした。
これぞBLです。
BLの名作です。