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萩尾先生、よく研究されているので、驚きました。9年かけた連載。
英国はなんらかの精神疾患を持つ人が多い国で、代替医療の研究が進んでいます。ヒーラー=手かざし(気功)が作品の中で出てきますが、レイキを国家権威の資格として付与する免許制は、昨年までは英国だけです。
どうやって、ジェルミの深刻なトラウマを解消していくのか、興味があって読みました。
粘り強い、精神力も体力もずば抜けていた、イアンでなければ、ジェルミを救えなかったと思います。サイコパスのグレッグの息子;イアンは、グレッグの気質がプラス面に現れた人。グレッグも若い頃は良い人だった。
作品の中に、数人のカウンセリングを行うトレーナーが出てきますが、ヘタクソなカウンセラーにおっかなびっくり担当されると、余計に拗れて患者が苦しんでしまいます。・・そんな場面が出てきたり、とても参考になりました。作品の中でジェルミが「もう行きたくない」と拒否っていますが、信頼関係が築けないトレーナーは選ばない方が良い・・断る勇気を持つ事は大事。
私は、途中まで、ジェルミは解決の方法を「死」に求めるのじゃないかなと、結末はジェルミの自死になるだろうと諦めながら読んで居ましたので、完結を読んで、イアンの愛の力はすごいもんだなーと吃驚しました。
こういうハッピーエンドは、あの類の事件を経験した人の場合、あんまり例がないと思います。
痛みの経験は、遺伝子情報に記憶されると医学情報で報道がありました。
カウンセリングに興味を持つ人にとって、この作品は、良い資料になるのじゃないかと思います。
萩尾先生の細かい心理描写の掘り下げに拘る姿勢。ジトーッとした粘着気質は、目を引くものがあるように思います。気質が良い方向に現れた一例じゃないでしょうか?
心理学を少し齧った人には、萩尾先生の取り組み方をこの作品から読み取る方が、面白いのかもしれません。
---参考
▼興味深い資料
ウイキ:https://ja.wikipedia.org/wiki/残酷な神が支配する
ブログ: 講演「たましいの創造性 ゲスト:萩尾望都」について。
https://bit.ly/2Y0EVKD / https://bit.ly/2Y0QSjr / https://bit.ly/2PMRiWa
>講演で:
★萩尾 「ジェルミは自分の傷を見つめていきていくしかない。 イアンはそっと寄り添う。でもそれではおさまらない。まだまだざわついている。鳥が飛ぶ 川は流れる・・・落としどころを見つけたかった・・・それであの終わりに」
★誰への切り替えしか?・・怖い粘着気質。
萩尾『グレッグはサイコパス。相手が罪悪感をもつような言葉で人を責める。モデルは過去の嫌な人。グレッグを通じて、自分がsaれたことを自分のキャラにやり返すという行為は、想像外に気持ちよかった』
http://www.nhk.or.jp/manben/hagio/
▼「The savage god」という表現
Al Alvarez(アル・アルヴァリーズ)が引用した言葉。
ウィリアム・バトラー・イェイツ(William Butler Yeats) イェイツの日記「The savage god」
かつてこんなにも「愛」について考えさせられた作品があっただろうか。そう思い返してみて、少なくとも私はこの作品以上に考えさせられた作品には出会ってないかもしれないなと思いました。暴力や支配は愛かと聞かれれば、多くの人は違うと答えるでしょう。ですが、それらを引き起こす嫉妬や執着、独占欲を、愛から切り離せる人もいないでしょう。愛していれば、自然と湧き上がるそれらの感情。それが結果的に相手に対する暴力や支配に繋がった時、果たしてその人は相手を愛していなかったのだと断定できるのでしょうか。
グレッグとサンドラから与えられた「愛」によって、ジェルミはずっと愛の本質について悩んでいたのですね。グレッグは暴力で相手を支配することも愛だと言った。実際、彼は時々打つ以外はジェルミに甘く、優しい顔もたくさん見せていた。ジェルミに縋るような真似すらしたこともあり、慈愛と凶暴性を見事に両立させていました。一方でサンドラも、ジェルミの母として親友として恋人として彼を慈しみながら、彼の苦しみに向き合うことで自分をさらに追い込むことは拒んだ。愛という言葉に秘められた二面性。彼らは確かに己の孤独、人生の空白を埋めるために、ジェルミを利用した面もあったのでしょう。
しかし、100%利己的ではない愛などこの世に存在するのでしょうか。相手が誰を好きでも構わない、どんなことをしても許せる、という愛し方もありますが、それが自己犠牲に陶酔しているわけではないと言い切れるでしょうか。己を顧みない愛なんて、きっとないんじゃないか。私はそう思います。ジェルミはそうして、少しでも自分が得をするような愛し方をして、他人を傷付けるのが怖いと言う。ああ、なんて悲しい考え方なんだろう。運命はジェルミになんて酷い仕打ちをしてくれたのだろう。こんなにも繊細で美しい魂が、やっと健全な愛に巡り合えそうだという時にすら、過去に彼を支配した愛が枷となってそれを阻害する。
グレッグやサンドラのジェルミに対する気持ちが愛ではなかったとは言い切れない。イアンの愛し方が正しいと誰もが思うだろうけれど、それは暴力がないから? 血縁関係じゃないから? でも、イアンにも強い独占欲はある。愛を正しい、正しくないと振り分けることは非常に難しいです。そんなことはできないのだと思います。ただ、ジェルミが心地好いと感じるものだけ愛とすればいいんじゃないか、そんな陳腐なことしか言えません。今はまだ、イアンの愛し方が苦しいかもしれない。時間をかけて、何度もそれに触れて、受け入れてもいいと心から思った時に、その愛に身を委ねて欲しい。そして、ジェルミの方からも、少しでも自分がイアンにしたいと思うことが芽生えてくるといい。愛を知らぬまま、死んで欲しくはありません。たった1年や2年では傷は癒えない。けれど、イアンも読者も皆ジェルミに寄り添いたいのです。何年かかってもいいから、心を真に通わせられる人を見つけて欲しい。様々な人生と愛についてこれからも考えさせられるであろう物語でした。