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とうとうイアンにすべてを告白したジェルミ。この文庫本が10巻であることを考えると、まだ折り返し地点に過ぎない上に、彼がグレッグと出会ってからまだ半年程度しか経っていないというのが信じられないほど、これまでの出来事があまりにも長いことに感じられてしまいます。楽しいことはあっという間だけれど、辛く苦しいことは実際の5倍も10倍も長く感じる。ジェルミ本人にとってはどれほど長い苦痛だったでしょうか。数年どころか十数年にも感じるくらいの苦しみだったのではないか。そう思えてなりません。
すべてを告げて、初めてすっきりした表情で深く眠るジェルミとは反対に、今度はイアンに苦しみが訪れます。彼がグレッグをそこまで慕っていたようには見えなかったけれど、それでも父親として尊敬し、彼が父親であることに誇りを持っていた。そんな完璧だった父親の、初めて知る裏の顔。それも血の繋がりがなく半年しか付き合いのない養子から聞かされたわけです。実子だからこそ、グレッグはイアンには絶対気付かれないよう振る舞ったのでしょうけれど、なんとも皮肉な話ですね。シャロンもナターシャも、自分より劣っていると思っていたマットでさえ、気付いていた。イアンは突然義弟になったジェルミに十分良くしてくれていたと思いますが、それでも根底にある無関心というか、1つの主観でしか他人を見ていなかったツケは、払わなければならないのでしょう。
そして、ボストンへ戻ってすっかり落ちぶれた生活を送るジェルミ。あんなことがあった後だから、性的なことはもう当分無理だろうと思っていたけれど、彼は逆に、一度汚れたと思った自分の体をさらに汚すのを厭わず、フラッシュバックに苛まれながら、男娼として稼いでいて。もちろん家もお金もない自分が手っ取り早く生活するためでもあるのでしょうけれど、グレッグの暗示や、今更何かまともな職、まともな生活にありついて真っ当に生きようとしたところで、どうせトラウマからは逃げられずそのギャップに苦しむだけなのだから、だったら最初から今の自分に似つかわしい場所にいようという自衛でもあるのかな、と思いました。1巻ではあんなに健全で快活な男の子だったジェルミの変わりように、涙が止まりません。イアンはどう彼を救おうとするのか、今後に期待です。