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秋里和国の同性愛作品は、まだ”BL”なんて言葉もなかった頃に描かれたものです。
そして秋里ファンだった10代の私は、同性愛のなんたるかをまったく知らずに、作家読みでTOMOIシリーズに出会いました。
みみみ。さんが仰るとおり、なんだかわかってなかったから平気で読めたんだと思います。
そして、大人になったら手に取ることができなくなった物語…
友井久嗣は医者の長男に生まれ、美貌・才能にも恵まれていたため自信家で、周りにどう思われようが知ったこっちゃない自己中でどうしようもない男です。
友井の人生を時系列にすると、
「眠れる森の美男」…N.Yで年上の渋い医師・リヒャルトと恋に落ち捨てられる
「気分はもう正方形」…捨てられた腹いせに、日本で後輩の雪弘と周りの人間を引っかきまわして楽しむ
「マンハッタン症候群」…N.Yに戻って運命の人・マーヴィンに出会うも、修羅場の末にマーヴィンを亡くしてしまう
「空が青い」…死に場所を求めて戦場へ
(先のレビュアー様によると、後半3作品が描きなおされてまとめられたものが、続編『TOMOI』のようです。)
私の友井との出会いは「気分はもう正方形」。
お気に入りの後輩・雪弘にセクハラしまくるわ、女をクソ扱いするわ、もうなんてとんでもない男なんだと思いました。
と同時に、その自由奔放さに憧れのような気持ちもありました。
時系列的には「眠れる森の美男」のほうが先なんですが、私は先に読んだ「気分はもう正方形」で、友井には自己中・自由奔放イメージが定着してます。
●「眠れる森の美男」
親の期待を裏切って、友井はN.Yに渡り、年上の医師・リヒャルトに惚れます。
すると、処女のようにかわいくなったり(カラダ的には処女なんですがw)、リヒャルトの浮気にヒステリックになったり、あの自己中男が恋をするとこんな女々しい一面を見せるのか!っていうのが意外で惹きつけられました。
でも、元恋人がAIDSで死んだことを知ったリヒャルトは怖気づいて、何も言わずに友井を捨ててドイツに帰国しようとする。
友井が空港まで追いかけた別れ際、リヒャルトは日本語で”さよなら”はなんていうかを尋ねる。
外国語だろうが意味がわかれば気持ちは伝わります。でも慣れ親しんだ母国語の響きはやっぱり特別で、より気持ちが伝わる気がするんです。
リヒャルトが日本語で友井に別れの言葉を言おうとしたのは、リヒャルトなりに「この関係は終わりだ」と友井に理解させて、次へと背中を押す、身勝手な男なりに友井を愛していた証拠なんじゃないかなと思えます。
そして友井は、さよならは”愛していたよ”だとリヒャルトに教える。
現在形ではなく、過去形の言葉…
友井もリヒャルトを愛していたからこそ別れを受入れ、あえて過去形の言葉を選んだのだと思う。
数々の物語のなかで、空港での別れのシーンは繰り返し語られてきましたが、自己中男のロマンチシズム漂うこの別れが、私にとっては一番印象に残っています。
そして続編の『TOMOI』へ…
みみみ。さんのレビューのおかげで10年以上ぶりに、TOMOIシリーズを読み返すことができました。
懐かしんで再読したわけではなく、今回が初読みです。
秋里和国さん、存じ上げなかったなぁ。
ストーリー的にも、テーマ的にも、これが少女漫画誌に掲載されていただなんて、当時の少女たちはなんて重くて深い作品を読んでいたんだろう。
仮に10代で出会っていても私にはきっと半分ぐらいしか理解できなかっただろうなぁと思いながら読み終えました。
今の年齢で手にして寧ろちょうど良かった気がします。
本作と「TOMOI」でひとつのお話です。
紙の場合は秋里和国弐名義の文庫版「TOMOI」を買えば2冊分を一気に読めるのかな?
電子版はプチフラワーコミックス版の方が電子化されていますので、「眠れる森の美男」→「TOMOI」の順で。
日本で生きていくことにぼんやりと生きづらさを感じていた主人公〔友井〕が就職をきっかけに単身ニューヨークへ渡るところからお話は始まります。
研修医として働く病院で外科部長をつとめる〔リヒャルト〕に出逢った友井。
彼に出逢ったことで、友井の中に眠っていたセクシャリティが目覚めていくお話です。
友井は同性愛者だったのだけど、日本にいる間はそのことに自分では気付いていなかったのですね。男系の環境で育ったから女性が苦手なのだと思っていた。特別に可愛がっていた後輩がいて眠っている間にこっそりキスをしたこともあったけど、自分が同性愛者だとは気付いていなかった。
このあたりの感覚は異性を好きになるのが当然とされていた時代特有のものなのでしょうね。今でこそ同性愛やその他マイノリティも個々の生き方として受け入れられつつありますが、当時「普通」からはみ出すことは「変わり者」とか「ひねくれ者」で片付けられていましたもの。
2人の恋物語は運命の人との出逢いを描いたドラマティックBLよろしく順調に進んでいくのですが、3/4を過ぎたあたりで一気に風向きが変わります。
この作品の時代設定は1982年。
40代以上の方は当時のことを覚えてらっしゃる方も多いでしょう。
1981年に最初のエイズ患者が報告され、ゲイへの偏見が最悪な形で加速した時代でした。
リヒャルトの昔の恋人がエイズで亡くなってしまいます。
このことをきっかけに友井とリヒャルトの蜜月はいとも容易く終わりを迎え、リヒャルトは友井を捨てて自国ドイツへと帰っていきます。
最後の空港での別れのシーン、日本語を知らないリヒャルトに「さよなら」は「愛していたよ」だと教える友井。
「愛しているよ」じゃなくて「愛していたよ」と教える友井が切ないです・・・T_T
テーマが一気に重くなる「TOMOI」へ続きます。
先にレビューされているトオコ様が本作について詳しく書いてくださっているので、少し調べてみました。
『気分はもう正方形』・・・「花のO-ENステップ(1)」収録
『マンハッタン症候群』・・・「花のO-ENステップ(8)」収録
『空が青い』・・・雑誌掲載のみ、コミック未収録
ストーリーが少しずつ違うということですので、手に入るものはいずれ読んでみようと思います。
ayaayacさま
「TOMOI」も読みました!
秋里作品を読んでみたいと思ったのは、少し前にayaayacさんが上げてらっしゃった「デッド・エンド」のレビューを拝読したからなんです。そちらも含めて今回5冊ほど一気読みしまして、すっかりハマってしまいました。
素敵な作家様と出会わせていただき感謝です。
「青のメソポタミア」文庫版でならまだ買えますね!あらすじ読んだらとても面白そうだったので読んでみます。
同人誌も出ていたのですね。久嗣くんどんな子に育ったのでしょう。気になります。
みみみ。様
この2017年にみみみ。さんの秋里作品レビューが見れるなんて!うれしいです♪
『TOMOI』まで読まれたでしょうか?私はこの重苦しい作品群を10代の頃に読みましたよ…
でも年齢を重ねれば重ねるほど味わい深くなり、『デッド・エンド』含め心に刻まれています。
同人誌『TOMOI (友井久嗣×シモン) 』で、同じ名前をつけられた甥っ子”久嗣”の恋話が描かれてます。
また関係無い作品ですが『青のメソポタミア』のとある登場人物の血を友井さんは引いてるようです。BL作品ではありませんが、秋里先生のストーリーテーラーぶりを堪能できる作品なので読んでいただきたいです。
(電子化されてないのですが…)
このシリーズは、『気分はもう正方形』→『マンハッタン症候群』→『空が青い』→『眠れる森の美男』→『TOMOI PART1』(『気分はもう正方形』改稿版)→『TOMOI PART2』(『マンハッタン症候群』改稿版)という順番で発表されました。
同じ話を書き直されているのです。
秋里さんの入れ込みようが感じられますよね。
時系列で一番最初の物語となるのが、この『眠れる森の美男』です。
研修医としてニューヨークへ渡った友井。
そこで彼が医師を目指すきっかけとなった外科医・リヒャルトと出会う。
気難しいリヒャルトに気に入られた友井もまた、リヒャルトのことが気になり彼の姿を目で追うようになる。
リヒャルトによって少しずつ同性愛に目覚めさせられていく過程が丁寧に描かれています。
ひねくれ者の友井さん、恋愛では一途で健気です。
束縛を嫌い、他の男とも関係を持つリヒャルト。
モラルの違いに苦しみながらも、関係を深めていくのですが・・・。
あまりにもあっけない別れ。
リヒャルト、冷たすぎるー。
怒り狂っていたのに、顔を見れば責めることが出来ない友井さんが可哀相です。
嘘をついて日本語で「愛していたよ」と言わせたことが精一杯の意趣返し。