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boku wa tenshi janaiyo
とっくにバブルは弾けて飛び散っていたけどみんなまだ呑気で
ほしいものは全部手に入れて流行を消費していくのが当たり前だと思ってた
エロ本出身の女性漫画家の作品がファッション誌に載ってるってだけで
なんだか大人のオシャレを肌で感じられる気がしていた90年代後半に、
誰かに愛される可能性を信じることができなくて
文学的で退廃的で世紀末的な表現に憧れたり焦がれたりする中の一つとして
まだ少数派ながらボーイズラブっぽいものも存在ていて
「僕は天使ぢゃないよ。」はそんな自分の暗い欲望とうしろめたさと絶望ごと鷲掴みにされた作品。
誰にも見られないところに隠した単行本をなんども読み返してた
岡崎京子とか魚喃キリコとか南Q太とか当時のフィールヤングとかキューティコミック系の
資本主義的な日常の痛々しいラヴ。が流行った時代がたしかにあって
いまのゆるふわ、あるいはリアルご近所ラブなBLとはまた別のところに
小野塚カホリというジャンルがあったんだよな、と
久々にふと思い出したのでレビューを書いてみました。
時代を超えて愛される名作漫画というのはよくいわれるけども
これはヒリヒリするほどその時代の空気を思い出してしまう漫画。
「僕は天使ぢゃないよ。」
16歳2ヶ月の“犬”と、暴君のお話。
「万事快調」
幼なじみモノ。
舌ピアスの愛撫v
「嫌」
監禁モノ。
「セルロイドパラダイス」
拉致連れまわしモノ。
「かみのけ」
不倫モノ。
酷い暴力と殺伐としたSEXの狭間に見え隠れする
若さゆえの感情。
それを恋と呼ぶか愛と呼ぶか、錯覚なのか・・・。
1998年出版なので、ちょい古いコミックスですが
パンチの重さは十分現役。
基本的に愛があるBLが好きで甘いSEXが好きですが
この作品において甘さは、ほとんど感じられません。
だけども“神”としか評価できないほど痺れました。
「好き」だとか「せつない」だとか「さみしい」だとか「こわい」だとか
「そばにいてほしい」だとか、言葉にしちゃえば済む話を
言葉にできない若者たち。
自分の中で、ふつふつと湧き上がる感情を処理できないまま
暴力をふるってしまうんですよ。
罪悪感をじめじめと綴ることはなく、突き抜けてます。
短編集です。
特に「セルロイド・パラダイス」が印象的でした。
夏、目的のない旅、15歳。
刹那的な愛が、一点に留まらない男の欲望とかけ合わさって描かれています。そしてその性的な欲望は生と死をも意味しています。
「15歳 抱かれて 花粉吹き散らす」という冒頭の詩が、この作品を象徴しています。主人公の最終ページの言葉が忘れられないのです。未だに。
そして「かみのけ」が来ます。最後に。触りたくても触れない、どうしようもない切なさが残ります。
小野塚さんの細くて繊細な絵柄がマッチしています。
ひとつでも決定打を言ったら、消えてしまうような気がしました。刹那なんです、この作品は1コマ1コマが。是非この作品を読んで、「あの」切なさを感じてみてください。
勿論、他収録作品もとっても素敵です。
理屈ではなく、感情と衝動が全て。そんな刹那的な若者たちの描かれている短編集でした。
1998年出版ということですが、その時代の空気を感じられる作品だなと思います。
どんな漫画や小説も、時代に全く影響を受けずに生まれてくることはありませんが、それでもより濃厚に時代の影響を受けて生まれてくる作品もあり、まさしくこの作品がそうなのではないかなと思います。
モノローグや行間から漂ってくるような、焦りややるせなさ。登場人物たちの渇き。何に渇いているのか、飢えているのか、本人たちすら理解していない。
ある意味では、この作品は青春漫画と言えるのかもしれないです。
でもそこにあるのは若さゆえの不安定さや焦りだけではなく、時代が共有していた閉塞感のようなものもあるのではないかなと感じました。
時代背景とか、当時の若者像とかをもっとよく知ればより楽しめそうです。
全編を通して漂う独特の空気や、陰影の濃い絵柄などがとても好きだなと思える作品でした。
セックス・暴力・刹那的でひりひり感満載。
恋愛なんて生易しい言葉で片付けてはいけないものが描かれていました。それは執着なのか、愛なのか、狂気なのか…。
バッドエンドでもないけど、ハッピーエンドともいえない話が多い。
身を切り刻みながら、心から血を流しながら生きているような痛さに満ちているゆえに心に突き刺さります。重いしハード。
印象に残った作品は以下。
【かみのけ】妻子いる男性との不倫を描いた超短編。わざとスーツに置いた髪の毛を女のものだと女房に勘違いされてに酷いめにあったと笑って話す相手を見ながら、オレのやらしい液体は舌や食道や胃壁にくっつけたまま帰るくせに…と思うくだりが好き。
【セルロイド・パラダイス】最後に乗っかったとき、もう息絶えていたんだろうか。多分そうなんだろうな…。エイズ患者と過ごしたひと夏のお話です。
答姐の「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」で教えていただいたのが、こちらの作品です。
「精神が安定している時にお読みください。」とおすすめ下さった方のコメントを実感する一冊でした。ぽちの話も印象深いです。その忠犬ぶりが凄い。
教えてくださり本当にありがとうございました。
◆「僕は天使ぢゃないよ。」(表題作)
いわゆるクズ攻めの関と、彼になら何をされても構わないというポチ。こういう組み合わせの場合、一見受けの方がずっと可哀想に見えるのだけど、関係性をより深く掘り下げていくと、実は攻めの方が不安定だったりするんですよね。ポチは無体をされれば悲しむけれど、関さえ傍にいてくれればいい。でも、孤独を暴力や言葉で覆い隠していた関は、少し突かれれば簡単に崩折れてしまう。傲慢な態度から一転、幼い子供のようになってしまった彼に、ポチの存在が染み渡る。共依存のようで危なっかしいカップルですが、嫌いじゃないですね。
◆セルロイドパラダイス
一番お気に入りです。ゲイセックスとは切っても切り離せない病気・エイズ。意外と扱っている作品って少ないですよね。死期を悟った大人と、突如彼の息子として拉致された少年。人生の最後に自分だけを見てくれる人が欲しい、という欲求があまりに健気で切なくて。刹那の逃避行でしたが、間違いなく2人にとって永遠に忘れられない、あの世に行っても残り続ける記憶になったんじゃないでしょうか。突飛で自分勝手な思い付きだったけれど、私には彼を責められないなと思いました。