月とピエタ 下

tsuki to pieta

月とピエタ 下
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神8
  • 萌×21
  • 萌1
  • 中立2
  • しゅみじゃない2

--

レビュー数
2
得点
49
評価数
14
平均
3.8 / 5
神率
57.1%
著者
大地幹 

作家さんの新作発表
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媒体
漫画(コミック)
出版社
KADOKAWA
レーベル
カドコミ
発売日
電子発売日
ISBN
9784048116664

あらすじ

自分を曝け出せない美大生×変人講師 不器用な二人のたどり着く先はーー

「俺……先生が描きたい」

百合川への《特別な感情》を認めることができないまま、
卒業制作のテーマに行き詰まる陽介。

しかし、百合川のまっすぐな言葉に、彼をモデルに絵を描くことを決意する。

思い起こされる辛い過去の記憶
目を背けてきた自分自身の本当の気持ち

それぞれと向き合い、答えを出そうともがく陽介だったが
突然、周囲から百合川との関係を問われ……

自分を曝け出せない美大生×変人講師
不器用な二人のたどり着く先はーー

【描き下ろし】
コミックス描き下ろしイラスト&おまけ漫画
を収録!

レビュー投稿数2

陽介の過去

キスしそうになったことを「冗談だから」と言って誤魔化して逃げ出した陽介。同級生たちの同性愛者についての差別的発言に傷つきます。自分の気持ちを認められなくて、女性と関係を持とうとしても気になるのは百合川先生のことばかり。
そんな時に先生に偶然会い、実は誰にも恋したことがないけれど、自分への想いが好意なのではと伝えられます。「大切なものが周囲の目より価値があると思えるぐらい好き」と素直に言える先生に、陽介はまだ恋だと認められなくても先生をモデルに絵を描きたいと願います。

ヌードモデルになってくれて先生の身体を見て興奮し、結局ひとりでそれを慰め、やっと恋だと認めます。
そして、陽介が頑なに同性に恋することにおびえている理由がわかります。カトリックファミリーとして暮らしていた中、大好きだった兄に同性の恋人ができたことによって親が拒絶した過去。
同級生にからかわれて強く否定しまい、先生に顔向けできなくなったり、姉の結婚式で実家に帰って息苦しさを覚えたり、大切な人を傷つけて自分を苦しめているのは自分だと気づいてきます。

先生との待ち合わせの場所にストーカーが包丁を持って現れます。陽介を庇って刺される先生に包丁を掴みストーカーに立ち向かう陽介。大事な人を守るため、すべてをさらけ出して助け合うふたり。
このことによってふたりは強く結ばれます。周りの人に認められなくても自分を信じ、周りが見えていなかった自分に気がつかされたりもします。陽介は頑な過ぎたんですね。怒りと悲しみと愛をやっと解放できたようでした。

セックスはしていません。キスをするぐらいで。でもエッチなシーンはなくても十分に満足できる作品になっています。絵も巧みですし、物語運びも上手いです。
自分の好きなものに素直に!そんなメッセージが強く伝わってくる物語でした。

タイトルの「月とピエタ」聖母マリアのあの顔に衝撃を受けたのは自分への怒りとも思えたのでしょうか。カトリックの教えの元に同性愛者であることの苦しさは耐え難い苦しみだと理解できます。でも導いてくれる月に出会えてよかった!そしてピエタは美しいものの象徴であり、また「救済」でもあるから。

デビュー作かな?上手いなと思ったら、青年・少年漫画のコミカライズを描かれていたみたいで、BL漫画ははじめてのようです。これからもBL作品を描いてもらえたらいいなと期待しています!

1

自分の一番の味方は、自分自身であって欲しい

「自分の一番の味方は自分自身であって欲しいと
願いを込めて描きました。」

先生のあとがきにあったそんな一文が、
読後の今、強く心に響いています。

評価の★の数を見ると、ちょっと好みの分かれる作品...
なのかもしれない。
(※作中一部、攻め・陽介が女性を抱こうとするシーンがあります(未遂)。
苦手な方、ご注意ください)

でも自分は、最高に完成度が高く、
先生のメッセージがダイレクトに伝わってくる
素晴らしい物語だと思いました。

表紙の絵柄(上下巻)や短いタイトルが、
物語を象徴するものとなっているのことにも、読後気付いてハッとした...
(こちらについては、レビュー後半に書きたいと思います)

これから読もうかな?どうしようかな?と迷っている方の背中を
少しでも押せれば...という気持ちでレビューを残したいと思います。
(+もちろん、先生への感謝を伝えるために!)


本心を隠し、周りに合わせて生きている美大生・陽介×
美大の美術解剖学教師・月衣(るい)というカップリングのお話。

先生生徒という当たり障りない関係だった二人が
偶然同じマンションに住んでいることが分かり、
そこから思わぬ交流が始まってー

と物語が進む上巻。


自分が先生のことを”好き”になっていることに気付き、
恐れを抱く陽介。
ある日自然にキスをしようと体が動くも、直前でハッと我に返り、
先生を突き飛ばしてしまいー

という上巻ラストでした。

で、下巻!
やーーーこれはびっくり!という、よりシリアス度・切なさの増す展開です。

”世間の大多数”に属さない者の生き辛さ、葛藤を抉り出してくる物語。
胸を刺す痛みに苦しくなりましたが、ちゃんとラストに光があります。


なぜ、陽介は必要以上に”周囲に合わせよう”と振る舞うのか。
先生を好きになりかけている自分に恐怖を抱いている様子なのは
なぜなのか。

同性を好きになることで戸惑う気持ちには共感できつつも、
何か必要以上に”怯えた様子”だったところが、上巻で気になっていたんですね。

そして下巻で明かされる陽介の過去、
大好きだった兄との切ない別れと家族から”見捨てられた”兄の記憶。。

これが上記の疑問への答えとなっていました。


兄のように自分を貫いて家を出る勇気はなく、
両親の求める”普通”の息子にならなければ、というプレッシャーに押し潰され...

そんなふうにして形成されたのが、
”いつでもニコニコ・人当たりの良い陽介くん”だったんですね...


友人たちの、先生への心ない憶測の言葉や、
何気なく投げかけられた質問に激昂してしまう陽介。

好きな人に対する酷い言葉を咄嗟に吐いてしまい、
自己嫌悪からトイレで戻す描写が本当に痛々しい...( ; ; )

で!

ここからの、二人のすれ違いターンか...と覚悟したところでの、
月衣からかけられた”あの言葉”。
月衣の圧倒的包容力に、心が震えてしかたなかった...

「たとえ本心だとしても 君が私を嫌いなことと
私が君を好きなことは関係ない」

「そんなに簡単に君のことを嫌いになれないよ」


どうしても”男を好きな自分”を好きになれず否定し続けてきた陽介に、
差した光...

自分をまるごと受け止めてくれる月衣という存在を得て初めて、
陽介自身もまた、自分自身を認められるようになっていくー

月が太陽の光を反射して光るように、人もまた
自分を肯定してくれる人の存在を得てこそ力を得、
自分自身を受け入れられるようになるのかな...と、そんな思いに耽ったシーンでした。

その後衝撃的な事件を経て、意図せずゲイバレしてしまう展開は
なかなかショッキングです。

ありのままの自分を受け入れ、吹っ切れたとしても、
周りからの陰口や”見る目”に感じる息苦しさには、変わりがない。

そんな残酷にも思える現実がある中で言われた、
友人からの謝罪の言葉。

やはり、到底理解なんてしてもらえないんだーと
陽介自身も読んでいる自分も諦めかけていたところに、
ふっと明るい光が見える描写が救いでした


自分と向き合い、受け入れ、愛するということ。

トラウマから臆病になっていた主人公が、
大切な人との出会いを経て、そんな勇気を持てるようになるまでの軌跡。
上下巻を通して丁寧に紡がれる描写に、心打たれる物語でした。

ちなみに...
タイトルの「月とピエタ」について。

月=受け・月衣(るい)の名前にちなんだものだと思われますが、
この”月”が物語の重要なシーンで度々登場しています
そんな描き方も、本当に素敵...

自分が一番印象に残ったのは、入院先でキスした二人の
背景、夜空に輝く月のシーン。ただただ、美しかった...・:*+

また、「ピエタ」=主にキリスト教美術における題材として、
聖母子像のうち「死んで十字架から降ろされたキリストを抱く母マリア
(聖母マリア)」を表すとのことです。

上巻では、そんな”ピエタ”をある画家が描いた一枚、
聖母マリアが、愛する息子を殺されたことへの”怒り”の感情を
露わにした印象的な一枚が紹介されていました。

また下巻では、陽介の家族が敬虔なクリスチャン一家だったことが
分かる描写があります。

怒りを隠さず表したピエタの一枚と、
自分の「ありのままの姿」を受け入れられるようになった陽介。

タイトルの「ピエタ」には、そんなふうに主人公を重ねる意味が
あるのかな、と思います

タイトルやストーリー、月の描写や二人のセリフに
いろんな思いが交錯し、じっと考えさせられる物語。
上下巻2冊を通して描かれるお話に没頭し、
胸いっぱいになりました...(ああ、語彙力...!!)


★修正:なし(行為の描写なし)

※上巻おまけに出てきて、とってもキュートだった
月衣(るい)の飼い亀(って言うのかな?)・ミミ子が
下巻シーモア限定おまけにも登場しています

相変わらず陽介に嫉妬してる様子なのが可愛い(*´艸`)
シリアスなお話の中の癒しでした✧

4

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