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kourou no yoru ni tsumi wo kamu
作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます
『清澗寺サーガ』の中ではあまり注目されていない(と、思うのね。そもそも評価を付けている方が少ない)本作。やっぱり私はへそ曲がりなのかなぁ……表題作はとても好みでした。
何が好きかって言えば、主人公の二人にはそれぞれ『自分が守っていきたい唯一の人』が別にいるということなんです。もう二人とも、自分の矜恃も曲げてでもその人を守ることに囚われている。こんな二人の関係がとてもスリリングなんですよ。
電子版には挿絵はなく(円陣画伯の描く『ふてぶてしい浅野』を見たかったのですが)あとがきはあります。
一作目の『この罪深き夜に』で強烈な当て馬且つ悪役(?)として登場した憲兵の浅野が抗日運動の調査と鎮圧のために上海に赴任します。彼が目を付けたのは梁天佑という楼主。天佑は兄弟の様に育った来宝がのめり込んでいる抗日&共産主義運動に力を貸しています。しかし、出自が訳ありで、浅野ですら手が出せません。そんな中、浅野は上海に潜伏していた国貴に再開します。以前とは異なり脅しに屈しない国貴を見て、浅野は国貴への感情を過去のものとして葬り去れない自分に気づきます。同時に、非常に優秀で強い後ろ盾を持ちながら、生きていることへの執着が乏しい天佑に対して愛憎入り混じる激しい渇望を抱きます。上海配属の上層部が一変し、また抗日運動が過激化する時代の流れの中で二人の関係も大きく揺れ動いて……
前述の様に、浅野×天佑という関係のほかに、天佑→来宝、浅野→国貴(どちらも正確に言えば恋愛ではないのですが)という関係があります。
また、二人の立ち位置から浅野と天佑は敵対関係にあります。殺し合いに発展する直前までのやり取りすらあるほどなんですよ。
ですから浅野×天佑には甘さの一欠けらもありません。
互いに相手を「出来る奴」と認めていて「どうせ死ぬなら、こんな奴の手で」と思っています。
何て言ったら良いかな?
どっちも極めて『雄』なんですよ。心が。
誤解を恐れず行ってしまえば「これぞ究極の攻め×攻め」。
いやー、これが堪りませんでした。
あとね、効率を第一に考えた結果、利己的で卑劣になるのも厭わないと決めている浅野が、国貴との再会によって矛盾を抱える所がとっても面白かったんです。
これがあったから、この物語が『浅野と天佑のどっちかが死ぬ』という結末にならなかったんだと思うの。
この二人、とっても複雑なキャラで、だからこそ人間臭い。
クールなお話が好きな姐さま方、これ『清澗寺サーガ』の中の『穴馬』だと思いますよ。
お話は二つに分かれています。
最初は浅野編。
長男の国貴の友人で国貴逃亡の真相を知る一人です。
浅野の背景、家の事情、国貴への思いなどを綴りながら上海での秘密の活動がストーリー。
相手の天佑は日本人。
訳ありで上海育ち。
そこには清澗寺と繋がりが無くはなく……嵯峨野や伏見などが見え隠れします。
国貴もちらっと登場して、いよいよ再登場か?という感じです。
結末には意見もあるかと思いますが、このシリーズは異色と言えば異色のような気がするので、このシリーズには似合いかと思います。
もう一つは和貴編。
まさに伏見との関係や家との確執を考えたとき、このシリーズはなぜ国貴から始まったんだろう?などと思うときが。
話の中心はどう考えても和貴のような気がします。
国貴編はプロローグか?(笑)
それにしては長編だったが^^;
そしてヒドイのになぜか憎めないお父さん冬貴……
冬木編があったのに、もっとお父さんの話が読みたい。
冬貴の内面を描いた話は出ないのかしら?と思いつつ、このシリーズはどんなに長くなっても、グダグダになっても(もうなっていると感じてる人も居るでしょうが)私は読み続けます!
「紅楼の夜に罪を咬む」
今回は番外編的位置づけになるのでしょうか。
国貴(長男)の元同僚・浅野とその浅野さんが上海に渡って出会った妓楼の主人・天祐。
好きとかそういうのよりも執着に似た何かで。
「この男に殺されたい」と思い、殺されるためには相手にもそれなりのレベルになってもらわなくては、みたいな感じで。
恋愛恋愛って感じではなかったです。
今までのシリーズの中ではなんか一番すっきりしてる感じがする。
舞台が上海ということで、これからの布石的な作品にも思えました。
天祐の出自も「ははーん。そこに繋がるか」というところに繋がってましたしね。
「凍える蜜を蕩かす夜」
いわゆるメインは和貴の初めて編ということで、お相手は義康なんですが。
和貴が色事に耽るようになった根幹というか経緯が書かれています。
それまではまだ父の陰に怯えていてもそこまで自覚はなかったようだが、ある日自覚した途端に自分という存在がこわくなって。
どう生きていくのが自分にとっての正しい処世術なのかわからなくなり。
一度は踏み止まろうとするんだけども、結局、自分の考え方が既に歪み腐っているいことに気付いて、それならば周りをも巻き込んで破滅していこうと考えるようになって。
それでも。
義康でさえも。
和貴にとって一番の「特別」には成り得なくて。
もちろん、義康の「特別」は冬貴でしかなくて。
ほかの男と接するよりは義康なら感じられるけども、それも全部で欲する感じではなくて。
ラスト、深沢との現在のシーンが描かれているのだが。
ここでようやく和貴が「特別」を感じられる相手に巡り会えたことがなんか嬉しかったです。
和貴に救いがあったみたいで。