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akatokage no neya
シリーズ最終巻。
前作『蛇淫の禊』にヒールとして登場した熾津組若頭・臣の話です。
あらすじ:
高柳商事の大阪支社長・光己(受け・31歳)は、妻の不倫をネタに熾津組若頭の臣(攻め・36歳)に脅され、彼と関係を持つようになり…
光己はイギリス人の血を引くクオーターで、身長180センチ強のガタイの持ち主。
高柳商事の後継者で、妻は官僚の娘で…と一見完璧なエリートですが、実はなかなかの苦労人。
水商売をやっていた母は痴情のもつれで見知らぬ女に刺され死亡。
その母に道連れに殺されかけたトラウマがある他、その後引き取られた高柳家では養母から耐えず言葉による虐待を受け、結婚後は妻やその父に何かとプレッシャーをかけられ…と、幼少期から何かとストレスの多い人生を送っています。
そのせいか自己抑制に長け、ヤクザに粘着されてもどこか飄々として逞しい印象。
犯されて苦しんだり、臣に惹かれたり…と感情の揺れはあるのですが、臣を潰すため凪斗に協力する強かな一面もあり、ヤクザに翻弄される一般人に収まっていないところが魅力的なキャラクターです。
そんな光己に執着する臣は、背中に赫蜥蜴の入墨を背負うド迫力の関西弁ヤクザ。
光己に亡き異母兄の面影を見ており、兄への憎しみを臣にぶつけるかのように光臣を抱くシーンの数々は迫力満点。
やってることは鬼畜以外の何者でもなく、何だったらラスボス的な立ち位置でもあるのですが、光己への呼称が「コウちゃん」だったり、光己のタフさにいつの間にか惹かれていたり、破滅願望があったり…と絶妙に憎めない要素があり、こちらもかなり個性的で魅力的なキャラクターです。
こんな二人なので甘い雰囲気は殆どないのですが、情事後やドンパチ後(!)の何気ないやり取りに可愛さや温かみがあり、何故か萌えてしまう不思議。
それぞれに親絡みのトラウマを抱える二人が徐々に心を通じ合わせていく流れに説得力がありました。
クライマックスの岐柳組vs熾津組のシーンは決着というより第二ラウンドといった感じの内容で、今回は凪斗のターン。
覚醒した凪斗の冷徹さが際立っており、臣だけでなく光己にも容赦ない様がストーリーにヤクザものとしてのガチ感、緊迫感を与えていました。
決して勧善懲悪とは言えない(むしろ光己は社会的には負け犬?)苦い結末ですが、そこにもリアルさがあり、個人的には好みの展開。
肩書や世間体から解放された光己の姿に清々しさがあり、これも一つのハッピーエンドかと思えました。
新装版の書き下ろし番外編は、5年後の臣と光己の話。
41歳の臣が光己に甘える姿に可愛さがあり、慣れた様子で乳を吸わせてやってる(!)光己の年下の包容力も相変わらず素敵でした。
あとがきに書かれているように相当濃い内容ですが、まさに沙野さんにしか書けない骨太のヤクザもの。
数ある沙野さんの傑作の中でも特に好きな一冊です。
極道BLのハードコアな4部作のラストを飾る超弩級作品。
1作目「蛇淫の血」、2作目スピンオフの「蜘蛛の褥」、3作目は「蛇淫の血」の続編の「蛇恋の禊」、4作目の本作はその「蛇恋の禊」に登場する非道すぎる極道・熾津臣が中心となる物語です。
破滅型の武闘派極道・熾津臣が標的にしているのが高柳商事の大阪支社長・高柳光己。
妻の浮気動画を餌に呼び出し、そのまま光己本人をレイプしてそれも録画して、関係を強要していく臣。
…というように、冒頭からハードなレイプシーン、その後も無理矢理な行為が何度も描かれますが、光己は決して屈しません。
しかし、その光己の方も臣とのトラブル以外に、実母が殺され高柳家に引き取られた過去、妻の父親との関係性、会社の方向性に対する意見の相違、その他諸々抱え込んでいます。
それでも折れない芯を持つ光己と、はじめは光己を異母兄に見立てて復讐の気持ちでいたぶっていた臣が、裏返るように惹かれ合う…
惹かれ合うといっても甘い空気は流れません。血と血がぶつかるような、火花を散らすような、そんな2人です。
後半、「蛇淫〜」の岐柳組の抗争が絡んで、あの変貌した凪斗の冷酷も読むことができます。
岐柳組に熾津組の情報を流しながら同時に臣を救いたいと寝返った光己に対して、光己を痛めつけろと命令する凪斗。
臣の目の前で肘を折られ、臣が岐柳組との手打ちを承諾する…そしてやっと光己は今までのしがらみを捨てて臣の元で生きることを選ぶ…
「葉月朔日」
5年後、「姐」的な存在になった光己と渋く落ち着いた臣の日々。
焼け落ちた忘れたい過去の場所に植え替えた光己の八朔の木。その木にやっと実が生った。まだ食べられないその実をもいで光己に果汁をかけながら激しく抱く臣。
今では自分からも求める光己の姿が官能的です。
最恐キャラの熾津臣、臣の相手として一歩も引かない凛とした光己。イラストの奈良先生も最高です。