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約束だ 抱かせろ
shiroi yoru ni
ホラーチックな表紙につられ購入してみました。
大きな会社の跡取り息子である美樹也は、突然両親を事故で亡くします。遺産を巡り争う親戚や、順調だと思っていた会社が実は火の車であったことを突き付けられ逃げてしまいます。
雪の降りしきる中、助けを求めたのは自らを『鬼』と名乗る男で…。
というお話。
火崎さんらしいというか、ちょいホラー+ファンタジーな設定でした。
表紙に鬼が描かれていることとか、読み始めてすぐに『鬼』の正体は読み取れちゃうのですが、たぶん、隠そうという意思が作家さんにないのだろうと思うので、そこはスルーしつつ読みました。
が、話があっさりしてるというか、ツッコミどころが多かった気が。
美樹也は一人息子で跡取りになるのに、経営状況とかをまったく彼に知らせていなかったのはこれいかに。まだ子どもならともかく、もう大学も卒業している年なのにそんなことあるのかな、と。
また、親戚が遺産争いするというのも不思議な気が。祖父が亡くなったときに遺産分けはすでに完了しているわけだし、息子がいるのだから樋口家の遺産に口を出せる立場ではないはず。
と、美樹也の立場の設定にんん?と思いつつ。
そして、一方の『鬼』の方も。
美樹也の希望をかなえてやったら自分のものになれと言う、ある意味品行方正な鬼。
願いは叶えてくれるし、「いやだ」と言ったら無理強いはしないし。なかなかの紳士ぶり。
願い事は何でも叶えることのできる万能さがご都合主義だと思わないこともなかったのだけれど、このお話は鬼と美樹也の恋のゆくえなわけですから、まあ、それもいい。
けれど、鬼である彼には人間の「情」が理解できない。そこの折り合いをどうつけるのかがこのお話のキモだと思うのだけれど、あっさり恋人になっちゃってそこもんん?と思ってしまった。
面白くない、というわけではないのですが、正直『鬼』設定とかありふれているし、ストーリー展開も想像の域を超える内容でもない。もうひとひねり欲しかったな、というのが正直な感想。
ホラーチックではありますが、怖くもないし、シリアス度もそこまで高くない。孤独だった鬼と美樹也の魂が救われる、優しくて、あっさりさっくり読めるお話でした。
あらすじ:
交通事故で両親を喪った美樹也(受け・「俺」)は、父の会社や遺産のことで言い争う親戚たちに嫌気が差し、高原へ逃亡。
雪の中、迷って意識を失ったところを大富豪の老人とその孫・空木(攻め)に助けられ、父の会社を継ぐ手助けをしてもらえることに…
ファンタジーであり、お仕事モノでもあるという作品。
表紙の白い鬼がストーリー上、重要なキャラとなります(正体は最初から読者にバレバレかと思いますが)。
大学を卒業したばかりで両親を喪い、いきなり父の会社や遺産の問題に対処しなければならなくなった美樹也。
群がる親戚たちに辟易し、別荘のある高原に逃げ、このまま死んでもいいとまで考え…と、序盤はなかなかのヘタレぶり。
いきなり現れた鬼に自分をあげると約束する等、絶望のあまり自暴自棄になっている印象です。
しかし、大富豪の老人にそんな甘えた考えをやんわり叱責され、新社長としての心構えについて諭され…と、ここから一気に現実的な展開に。
孫の空木が秘書として美樹也をサポートしてくれることになり、会社の経営から家事に至るまでつきっきりで指導。
美樹也は、面倒見がよく優しい空木に惹かれていきます。
ストーリーの大筋としてはカチッとしたお仕事モノなのですが、美樹也の目の前に度々現れる鬼というファンタジー要素が、物語に幻想的な雰囲気も添えています。
新社長として順風満帆な美樹也の目の前に度々現れては、その身体に触れてくる鬼。
この鬼の正体と狙いは何なのか?というのがクライマックスの肝となります。
結末について詳しくは語りませんが、人の愛を理解できなかった鬼が美樹也のような普通のお坊っちゃんをそう都合よく愛するものかな?と、ややあっけなさを感じるラスト。
序盤から鬼の正体は予想がつくだけに、彼と美樹也が恋人同士になるクライマックスの展開にはもう一捻り欲しかった気がします。
しかし全体としては、ファンタジーかつお仕事モノという設定が面白く、シリアスかつほのぼのした空気感も心地よい作品でした。