もうひとつのドア

mouhitotsu no door

もうひとつのドア
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神34
  • 萌×217
  • 萌9
  • 中立3
  • しゅみじゃない0

244

レビュー数
13
得点
268
評価数
63
平均
4.3 / 5
神率
54%
著者
月村奎 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

イラスト
黒江ノリコ 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
発売日
価格
¥560(税抜)  
ISBN
9784403520501

あらすじ

―きみはこれからきっと幸せになれる。
生きる希望もなく、不幸に慣らされていた広海にそう言ってくれたのは、大きくてあたたかい手を持つ、三夜沢だった…。
理不尽な借金に追われる十七歳の広海は、バイト先に客として現れた少女とその父親・三夜沢と知り合う。
娘に冷たく見えた男にはじめは反発を覚えるものの、いつしか三夜沢の不器用なやさしさに惹かれ…。

表題作もうひとつのドア

三夜沢雅人,30代,建築家
村上広海,17歳,フリーター

レビュー投稿数13

不憫受けの丁寧な心理描写に、涙

月村先生の昔(2001年)の作品。
Kindleアンリミに入っているのを偶然見つけ、読んでみました。
古い作品ですが、古さを全く感じさせない内容!(挿絵の絵柄はちょっと古め;)
夢中になってあっという間に読み終えてしまいました。

主人公・広海は母親に精神的虐待をされ、自殺され(子供の誕生日に自殺するなんて、、( ; ; ))
母親のヒモ男にたかられながらバイトを掛け持ちし、一人暮らしをする17歳の青年。

彼のバイト先にやってくる女の子の父親・三夜沢とひょんなことから知り合いとなり、
初めは彼のぶっきらぼうさ・言葉の厳しさなどから「娘に冷たい」と反発するのですが、彼の淡々とした態度・言葉の中に隠された優しさに触れるうち、
少しずつ気持ちが変化していってー

と続くお話です。

この広海の境遇がもう本当に読んでいて不憫で不憫で、途中ぽろりと涙が出ました。
そして、三夜沢の姉・みのりの無神経な言葉には腹が立った…!
いや、いい人なんですけどね。デリカシーがないのよね…
でも、みのりが完璧な「善人」ではなく、言葉に無意識の憐れみが含まれていたり
することが、逆にお話にリアルさを加えていて胸に刺さる気がしました。

借金を肩代わりされ、同居生活も始まり甘えられるようになっても
調理師学校の学費は全額自分で払おうとバイトを続ける広海。
その意地や頑張り、心情に共感して力一杯応援したくなった…!!
道を切り開いていこうと頑張る主人公の姿がとても魅力的でした。

対する攻めの三夜沢もまた、妻を無理心中(の疑いあり)で亡くしたという
大きな傷を抱える男で…
全編受け視点で描かれていたけれど、三夜沢の方も広海との交流によって
守りたい存在・愛しいと思える存在を得、救われたんだなあと。

二人の関係がいつか明るみになった時の、今後のみのりや美生(三夜沢の娘)の
反応など、不安要素は抱えつつも。。
それでも「そばにいたい」と強く思え、そうすることを選べた広海の勇気を振り絞った決断にグッときます。

家族の愛を知らなかった広海が、愛に包まれてずっとずっと幸せを感じられますように…と、
願わずにはいられないラストでした・:*+.

0

主人公の心理描写が丁寧

2001年発刊の作品。
古い作品だからそうなのか、濡れ場の描写に重点が置かれていない。
BLによくある官能シーン重点で延々とダラダラ続く凌辱シーン描写、ではなかった。
主人公の心理描写に重点が置かれているのがとても良かった。

主人公の広海の母は、一時流行った歌手で、最後は場末の酒場の歌手。
マネージャーの男と内縁関係にあり、広海は、二人からネグレクトと暴力を受けながら育つ。
中学生になると、広海の誕生日に母が自殺。
その後、広海を芸能界に売り込もうと母の愛人が借金をするが、計画は頓挫。
中学卒業後、自立して働きだすが、母の愛人にずっと返済を強要される。
生い立ちから、広海は誰も信用できない、誰も愛せない。
母の愛人へ渡す金を作ること、憎む事が生きる支えになっていた。

広海のバイト先のパン屋によく来る女の子・美生。
美生の父親との出会いが、広海の人生観を変えていく。
誰も信じられない広海が、初めて体験する親切と愛情に戸惑う様子が、切ない。

ハッピーエンド。読後感凄く良い作品。

0

健気不憫が二人…

自分ごときに人を傷つけられるはずがないと、自虐的に思っていたが、それは自虐でも謙遜でもなく、倣慢だった。


月村さんのお話は健気不憫受の心理観察がやはり素晴らしいです。生まれてからの境遇から生じた性格の捩れ、諦めが前提で良き物事があっても正常に消化出来ない気持ち。恋を自覚して自己完結的な気持ちからの移り変わりが、側から見ると見事な空回りなのに共感させられるし、目が覚めた上記の言葉には背筋を伸ばすような気持ちになりました。

母親に愛されず義父の借金を背負った広海、中卒の彼はとにかく肉体労働の自給制でバイト三昧。パン屋のバイトで出会った少女の服装や発言に虐待を予感し、そして自分に重ねる。
少女は父親に迷惑をかけまいと熱を出しても無理をする。月村さんの書く健気不憫x2の破壊力…!
天涯孤独な広海が自分と彼女は違うのだと若干がっかりするところも巧い書き方だと思いました。
この少女の父親と交流するうちに、広海は投げやりだった生き方から、仕事とは、人生とは、と考えるようになり視野が広がっていきます。「ボナペティ!」でもそうでしたが、人との接し方、考え方そして生き方の変化を描くのがとてもポジティブで清々しいです。

仏頂面三夜沢視点のお話も読みたかったなぁ。子供の美生から伝えられる、広海を思う言動が日常的で家族的でとてもよかったので。
彼は無駄口叩かずとも的確な言葉を残し、「うそだ。笑っていい。もっとそういう笑顔が見たい」は優しくて沁みました。男同士なのをどう思うか全く触れられてなかったけど。

1

人を信じる力を得ようとしていく姿に感動した

古い月村先生の作品を最近読んでいるのですが、この作品の受けは、今まで読んできた月村作品の薄幸不憫受けの凝縮系というか、原点だ!と思いました。

このお話の受け・広海は母から疎まれて育ち、一度たりとも愛情をもらえなかった子なんですね。

自分の誕生日に母親が自殺をし、ヒモだった内縁の夫から借金を背負わされ金をせびられる。

「親から愛されなかった自分」というものが深く心に根を張っていて、「誰も信用できない。誰にも愛される筈がない。」と思って生きてきた。
そんな広海が訳ありの親子と出会って……というお話。

最初から信じなければ裏切られない、という究極の人間不信だった広海。
疑心暗鬼の塊で、マイナス思考という殻で己を守るしか術がなかった子なので、手負いの野犬、あるいは手負いの野鳥といった感じかな。
自分ごときが人を傷つけられるはずもないと自虐的に思っていたけど、それは自虐ではなく傲慢なだけだったと気付くんですね。

恋愛要素に萌えるというよりも、一人の人間が変わろうとする、人を信じる力を得ようとしていく姿に感動させられます。

月村先生の受けって、親の愛情に恵まれず放置されてた子が多いですよね。
昨今の虐待ニュースなどが頭をよぎることもあり、こんな親ありえない!と憤慨したり、気が滅入ったりと心の消耗度が激しくて疲れることもあり、作家買いは怖くてできなかったんです。(好きな作品はめちゃくちゃ好きなのに)

だけど、この作品や古い他の作品をいくつか読んだおかげで、月村作品に限っては受けの不幸背景への耐性ができた気がする。

初期作品をあれこれ読むことで、あの作品の受けの原型はここに!みたいな受けばかりというか、月村さんがご自身で「金太郎飴作家」だとおっしゃるのが良くわかったんですね。
今まではどんな不幸受けが登場するのかわからなくて無闇にビビってたところがあるんだけど、多少変化や差はあれど基本は変わらないんだなというのがわかって私には良かったです。

2

イイハナシダナー

イイハナシダナー…という感じでしたが…うーむ。三夜沢と広海の関係は恋人ではなく親子のほうが自然なように思えて、BL的な萌えは残念ながら分かりませんでした。

私の読んだ限りですが、月村さんの作品は常に「恋愛」と同じかそれ以上に「家族愛」がテーマになっていると思います。そのこと自体はいいのですが、天涯孤独の17歳の少年と30代前半(7歳の娘あり)とのお話で、下手したら父親よりも娘との会話のほうが多い上に、ベッドシーンも含めて恋愛ならではの描写があまりないのです。いっそのこと「広海が温かい家族の一員になるお話」で終わったなら「萌x2」だったのですが、最後の最後で辻褄合わせのように三夜沢が恋情を告白してきて「???」となりました。

いや、両想いになるだろうなと思って読んではいたのですが、二人ともゲイじゃないのにそんなにあっさり肉体関係になるかね…と冷めた目で見てしまいました。

広海の人生がこれから明るく楽しいものであってほしいと思います。

1

やっぱスゴイと思った、月村先生。

この作品を読んで先生の力量にKOされてしまった。大衆ウケするエンタメ色は皆無ですが、物語をパーソナルなものとして受けとめるタイプの読者には強く響いてくるお話だと思います。

主人公は母親にネグレクトされた十七歳の広海。母親は既に他界しているが、ソリの合わない義父から、これまでかかった養育費と称して金を要求され毎月返済している。高校へは行かずバイトを掛け持ち、まるで借金返済のために働くだけの日々。バイト先のパン屋の客で小学生の女の子、美生(みう)の健気な姿に幼い頃の自分を重ね、広海は彼女のことを心にとめていた。

美生がホント、チャーミングなんですよね。孤独な広海は彼女の子供らしい屈託のなさに癒され、美生との出会いがきっかけで広海の世界が少しずつ開かれていきます。

広海の悲しいモノローグに何度も涙が出そうになっちゃって、移動中に読むのをやめました。多分、彼に共感する部分がたくさんあったからだと思うんですけど、不思議とイヤな気分にはなりませんでした。広海がネガティヴなままではなく、それまでに染み付いていた思い込みや考え方を別の見方で捉えられるようになっていく変化が描かれていて、わたしにはそこが一番、読んでいて励まされたところです。

たまたま某質問サイトで、読んだ小説の中で最も感動した作品としてこれを挙げられていた方がいらっしゃったのを見つけ、期待して読み始めましたが、すごくよくわかるような気がしました。

出版年からするに、まだJUNEの香りが微かに残る頃。主人公の自己確立と自己肯定、そして自ら幸せに生きていくための居場所を見出すまでが物語の核にあった頃の、ラブストーリーというよりかは愛情物語だと思います。

4

何度も読み返している本です

 最初に本が来たときは、あまりの薄さに驚きました。うわあ、薄い。こんな本を買うんじゃなかったと後悔しましたが、読んでみると、値段以上の価値があると実感しました。
 恋愛要素は、薄いですが、好きでたまらない人に告白されても素直に『はい』と言えないひねくれた性格の主人公が個人的にはすごく好きです。
 幼少期の虐待、トラウマなどから、ひねくれながら生きてきた主人公が、今まで自分が経験してこなかった明るいこと、楽しいことに触れていく様子で、さまざまな感情が浮かんでくるところが気に入って何回も読んでいます。
 BL小説というよりも、一つの小説としてとても素敵な物語だと思います。

7

不幸な過去を持つ者同士

1冊丸ごと表題作です。広海の目線で進んでいきます。

母親に虐待され、自分の誕生日に自殺された過去をもつ広海(受け)。
妻が浮気相手と無理心中したので、娘の美生と暮らす三夜沢(攻め)。
そんな二人が出会い、恋人になるまでの話です。

母親に愛されなかったことから人間不信になっている広海が、三夜沢や美生たちと過ごすうちに、嫌われることに臆病で壁を作っていた自分から脱却する成長物語でもあります。

内容が人の死を扱うものなのでシリアスチックですが、読むのが辛いほどの重さはありません。

三夜沢は広海に優しいですが、笑顔で包容力のあふれる男ではありません。ぶっきらぼうなので広海には分かりにくいのですが、そこが読んでいる方としては萌えるところではありました。

広海の借金を三夜沢が払ってもめる場面があるのですが、広海の気持ちも分かるし、三夜沢がそうしたかった気持ちも分かる。登場人物の心情に共感しやすく読みやすい作品でした。子持ち年上攻め、不憫年下受けがお好きな方にお勧めです。

3

他人から家族へ

愛に恵まれず育った苦労性の主人公に男前な社会人。
こういう歳の差モノは組み合わせとしてはある種のテンプレートにも感じますが、とても大好きな設定です。

家庭に恵まれず、学校にも通えず、狭いアパートで借金返済の為だけにバイトを掛け持ちする主人公・広海。
気が強い一面もありますが、思考はネガティブ。こういう鬱々した感じの作品、上手くやらないと健気さにほだされる反面、卑屈さが鼻についてしまう気もするのですが、このお話はそんなこともなく、只管広海の行く末や結末が気になって一気に読めました。

劇的な展開はないのですが、その分、広海の生い立ち、三夜沢と出会って変わっていく思考や、自分がこの先どうなりたいか、自分がいままでどこが駄目だったか、そんな内面が上手く整理されていて、素直に読んでよかった、面白かったと思えました。

愛情に恵まれなかった分、誰かに期待する事も信じる事も自分から誰かを愛する事もしなかった広海。親切は偽善ばかりと虚栄を張ってきたけれど、三夜沢親子と出会った事で自分を傷つけられないために誰も信じないと決めた虚栄心が誰かを傷つけると学びます。
過酷な環境で育った広海が、誰かに教わる事無く自分でそれに気づいた所にお決まりな展開で終わらない満足感を感じました。

本当は神評価を付けたいところですが。。。BLという要素があってもなくてもある意味で成り立ってしまうお話ではないかと所々感じたので星4つで。妻に先立たれ、男手一つで幼い娘を育てる会社員が、不幸な境遇の男の子と出会い、家族の交流を深めていってやがて家族になる…というハートフルストーリーでも成り立ってしまう気もしました。

4

ドアは開くのか開かれるのか

月村さんの書く健気少年はむっちゃツボです。
自分はどうも昔っからいい子な少年にもっそい弱い。
それは子供の頃に読んだケストナーやリンドグレーンの児童書だったり○○名作アニメ劇場シリーズであったりその頃からともかく健気でいい子な少年が好きだったので、三つ子の魂何とやらは本当だなーとしみじみしてみたり。
そしてそういういい子な少年には幸せになってもらいたいし、いい子な少年は相手も幸せにしてくれる存在だと思う。
この作品に出てくる広海は、彼の生きてきた境遇のせいで児童書や名作アニメのいい子な少年より臆病で意地っ張りで繊細だけど、根っこの部分は自分の好きな「いい子の少年」と共通してる気がします。

広海[受]は母親に嫌われ、母の恋人の男に虐待されて育ち母の自殺後は中卒でその男への借金を半ば意地で返しているオンボロアパートに住むフリーター。
三夜沢[攻]は彼のバイト先によく買い物に来ていた女の子美生の父親で、奥さんは美生が2歳の時に自殺しており父子家庭。
仕事が忙しくなかなか娘にかまってやれない三夜沢は美生の世話のバイトを広海に持ちかけ、三夜沢本人に反感はあるものの美生と自分の為に面倒をみる事に。
そうして近くで見る様になって広海は三夜沢が決して冷たいだけの父親で無いのを知っていくのですね。
広海の年齢は17歳で年齢よりしっかりしている部分もある反面、三夜沢親子と一緒に食事をしているだけで涙ぐんだり、何気無く買ってもらった靴が生まれて初めてのプレゼントで凄く大事にしたり、旅先でこれも三夜沢が買ってくれたお土産物の兎の箸置き5つを幸せの象徴の様に思ったりとそういう大人から与えられる無条件な愛情には免疫が無くそういった所がまだ子供の部分であるのが彼の生い立ちからくるものだけに切なくて、あと良かったねーって気持ちになります。
愛情への臆病さと三夜沢の周りの人々の事を考えてしまって、恋愛と新しい世界への扉の前で足を止めそこで立ち止まってしまう広海がいいんですよー。
構わず飛び込んじゃえばいいのにって思うんですけど、いい子だから考えちゃう。
その臆病さが、いい子な臆病さがたまらんです。

最後は広海は自らドアを開けたけど、三夜沢のドアを開いたのは広海なんじゃないかな。

黒江ノリコさん挿絵は口絵の次のモノクロのタイトル画(何と表現すればいいのか分からない~扉絵でいいのかな?)で広海が床にくの字に寝て男のシルエットがあるイラストが印象的。
それ以外は普通かなあ。
あと自分的に、おっと思ったのは2001年発行で手持ちのは2006年5刷でした。
ディアプラス文庫さんの再刷や既出在庫状況は分からないのであれですが、単作で5年絶版にならず出続けているのは結構長目な気がします。地味に読み続けられてるんだなあという印象を持ちました。

7

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