renachi
warau tsuki no yoru
下巻の始まりは、大崎が一番酷い目に遭っていたあの時期が詳細に描かれる。上巻でも何度も出て来たので概要は分かっているが、あまりにも辛く、抜け出せることを知っていてやっと読める内容。
その後も心休まる時期はなく、物理的にも精神的にも痛い展開の連続だった。
まだ学生だった大崎も、黒川に仕え始めた大崎も、若さのせいか無鉄砲。せっかく高学歴設定なのだから、事前に準備や対策をしてから行動して欲しいと思っていたら、黒川がはっきり言ってくれて良かった。
過去編が終わると、血で血を洗う争いへ。刺される大崎を前に呆然とする黒川の反応には驚いた。今までの印象と違いすぎて。黒川の中で、大崎はそれほどに大きな存在になっていたんだな、と。恋して愛して弱くなる人を見ると心が締め付けられる。
(ちなみにこの時出て来た福島のお話は、別の同人誌で読める)
一方、大崎の因縁の相手ともいえる菊池は凄惨な最期を迎えたが、大崎の気は少しは晴れたんだろうか。大崎が意識不明の間に方が付いており、同じ目で見下ろしてやる、との誓いは菊池が生きているうちには叶わなかったわけだが。
こんな世界で生きる二人の幸せの形ってどんなものなんだろう、と興味深く読んでいた。物語の後半では、それがとても魅力的に示されている。高みを目指す黒川と、公私ともに味方となって押し上げる大崎。いつか天下を取れそうだと思わせる黒川のカリスマ性が伝わってくるのもすごい。
巻末の短編は、全ての終わりと始まりの地に赴き、大崎の過去に決着をつけるお話。これまでの大崎は、両親を恨む描写もなかったけど、両親との楽しげな日々を思い出す描写もなかった。それだけ目の前の事に必死だったんだな、と改めて思う。
現実を突きつけられたその時に、大崎の隣に黒川がいて本当に良かった。泣きそうな幸せに浸りながら読み終えられる、素敵な作品。
Kindle Unlimitedで読みました。
実のところUnlimitedじゃなかったら多分読まなかっただろうな…と、あらすじを読んだ時は思ったんです。だって何だか重そうだし、ヤクザ物って苦手だし、挿絵ないしで。
でも他の甘めのヤクザBLでヤクザに対する抵抗感が薄れている時に一念発起して読んでみたら……上下巻読み終わった時にはすごい満ち足りてました。それからはもうヤクザBLばかり読んじゃうくらい性癖が変わっちゃって(;´Д`)でも私の中で、このお話を超えるものはまだ出会えてないくらい…
この小説の良さは、何と言っても受けの大崎がかっこいいところだと思います。攻めの黒川もすごいんですよ。でも、普通の大学生(と言っても東大法学部)から男娼に堕ち、そこから黒川に拾われて組の若頭補佐にのし上がる姿は圧巻です。
男娼上がりということで組の中でも組対からも揶揄されることが多いですが、頭の中に入ってる六法全書を武器に、黒川の右腕として存在感を示すんですよ。作中に「黒川は大崎の容姿にも頭脳にも惚れてる」といった文章があるんですが、そりゃ惚れるよ…と私もしみじみ。
あと何が良いかって、モルフォさんも仰ってますが、攻めの黒川が大崎に一途なところが最高なんです。
上巻には大崎以外との濡れ場が2回ありますが、そのどちらも1回のみの体の関係で、かつ大崎と出会う前。大崎と出会ってからというものの、黒川は大崎しか見てないという執着です。大崎は何度か黒川以外との濡れ場がありますが、そのことも何年経ってもぐちぐち言っちゃうくらいやきもち焼き。この2人の関係性がたまらなく好きなんです!
黒川や大崎以外にも、舎弟の高井であったり、組対の池上などといった魅力的な人物が出て来るので、本当に出会えて良かったと思えました。
(あまりにも読み返すのでUnlimitedではなくちゃんと購入しました笑)
もちろん重めのストーリーなので、抗争ドンパチ、暴行拉致監禁陵辱死人ありと、これでもかと地雷はたくさん埋め込まれてますが、そういった地雷がない方で、かっこいい受けが好きな方、一途な攻めが好きな方には是非読んでいただきたい一冊です。
上下巻の読後感想。
痛いグロいエロを書く作家、と評される著者が、この作品で書きたかったのは、
「痛みを乗り越えた先にあるもの」=試練を超えた先の愛
人より優れた容姿と頭脳を持ち、難関国立大法学部卒、公務員上級職試験に在学中に合格した大崎。
大崎は、闇金に騙された親の自殺、親の借金の返済、拉致され凌辱や暴力を体験する。
男娼のアルバイトを強制され、搾取されながら生きていた大崎は、
黒川から借金の肩代わりを受けて、関西の闇社会で生きることになる。
どんなに辛いことがあっても生きることを諦めない大崎。
カインの男娼・マコトとして、黒川の補佐として、本来の自分ではない何かを演じ偽装することで、弱い自分の本質を隠して、誰かを憎むことで現実の痛みから意識をそらして耐えぬきます。
最後の「そして全てが癒される」の章で、やっと大崎は、素の自分を初めて黒川の前で出し、生きる意味を得る。 「愛」という言葉が当てはまるかわかりませんが、愛より深い「痛みを乗り越えた先にあるもの」を黒川から得て、心の安息も得ています。
この末尾の章がなければ、ただの痛グロ官能小説になっていたと思う。
痛い流血シーンやエログロだけじゃない展開、
大崎の「どんなことがあっても、諦めず、生き抜く」精神力と生き様は、コロナ禍で色々起きている今に必要な示唆を含んでいるのかも。
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著者サイトのこの作品に関連する頁のメモ。
戒めの傷
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3434461
https://note.com/haruo_inoue/n/n7b25899f1671
上下巻読み終わっての感想です。
この作品は作家様が15年以上も前に初めて書いたBL作品だそうです。
改訂版の実本版を出したのが2013年で、今回再修正をしての電子書籍化だそうです。
同作家様の作品は幾つか読みましたが、自分にはこの作品が1番刺さりました。
文庫本にすると4冊分程だそうで、かなり読み応えがあります。
現在、Kindle Unlimitedにて上下巻とも読めるのですが、他の電書サイトでの取り扱いは無いようで非常に勿体無いと思いました。
こんなに面白いのに。
もっと多くの人に読んでもらいたい作品です。
そして、わたしのこんなショボいレビューでなく、もっと的を射たレビューを多くの人が挙げて下さればいいのにと願っています。
以下、ネタバレありの感想です。
両親がヤミ金取り立てに追い詰められ命を絶ち、一気に男娼へと転落させられた受け大崎と、その前に現れた攻め、稲村組若頭の黒川。
二人が縺れ合うように上り詰めて行く10数年が時系列バラバラで総集編として描かれています。
なんと言っても受けの大崎が非常に魅力的でした。
男娼時代も、そして組幹部となっても、受けは攻めへの尻奉公でのし上がったと一部から蔑まれ狙われます。
BLにありがちな危ういところで攻めが助けに来て…とのご都合展開は無く(全く無いわけではないのですがガッツリヤラれます)輪姦あり、暴行あり、撃たれたり、刺されたり。
その内容は目を背けたくなるほどハードです。
でも大崎は決して折れない。
「生き残って、絶対ここから這い上がってやる」と。
落とされても汚されても矜持を捨てない強さを持ち、それでいて何処か壊れた所のある、危なげで魅力的な男です。
そして、そんな大崎を守り這い上がる為の足掛かりを与える攻めの黒川。
彼も素晴らしくいい男でした。
攻めの黒川は苛烈な男です。
若くして若頭の地位を得た頭脳派のヤクザですが、裏切りや敵対する勢力との抗争では容赦しない獰猛な男。
そんな男が、大崎が拉致監禁され壮絶な暴行を受けた時の映像を何度も繰り返し見るというシーンがありました。
惚れた男が何人もの男に手酷く輪姦される映像です。本来なら攻めにとって絶対に目にしたくない映像ですが、繰り返し繰り返し見るのです。
大崎を嬲りものにした加害者全員を特定する為。加害者全員を人知れず粛清する為に。
一つのエピソードとして描かれていたこのシーンに、黒川と言う男の本気を見たようで、わたしにはとても印象的でした。
甘くない893BLと作者様は仰っていましたが、いやいや、二人のやり取りは甘いです。
チョコレート菓子で言うと、ビターな大人のテイストですが、使われているリキュールが上質でほんのり香る甘さが堪らない、そんな感じ。(どんな感じよ)
だって、出会って10年以上経っても、受け以外は抱こうとしない攻めって最高ですよね。
残念な事に誤字、脱字が非常に多かったです。
身悶えする程良いシーンで攻めの名前に誤字を見つけた時はガッカリしましたが、それを差し引いても素晴らしい作品だったと思います。
大崎同様東京から逃げてきたと言う福島のスピンオフもあるそうです。大崎を刺した相手に踵落としを食らわせたシーンから気になって仕方ない人物でした。是非そちらも読んでみたい。