冬草
natsu no hina
九號さんが描く表紙の沢村くんが、とても印象的です。
虹色に澄んだ目元からは涙が流れているけれど
その表情は決して絶望していない。
心臓のあたりをぎゅっと握りしめ、歪んだ青道のユニフォームからは
闘志さえ読み取ることができます。
沢村くんは、太陽みたいにきらきらした高校球児。
彼の声をきかない日は、一日もなく、
めまぐるしく変わる表情は見ていて飽きない。
そんな投手である彼が、ある試合を境にその心を曇らせていき
彼の声がきこえなくなってしまったとき、
正捕手であり、誰より関心を持って彼を見てきた御幸先輩は―
イップスに陥った沢村くんが、御幸先輩目線で描かれており
終始御幸先輩のモノローグで満ちている今作。
仲間の多くが沢村くんを心配していて、
勿論御幸先輩も同じなんだけど、どこかもどかしい
モヤモヤした態度を取っていて
うまく彼の心理を掴むことができません。
沢村くんと御幸先輩の、
物語の鍵となる夏のある日の出来事が
御幸先輩の記憶の断片と共に見え隠れするも、
今はまだ彼の本心と同じく
うっすらとしか読者には知らされない状態で次回へと続きます。
上中下の3部構成が予定されている今作は、まさに序盤といったところ。
終始シリアス調で、ラブも皆無の第一作目ですが
今後、どのようにBL要素を絡めながら、彼らが描かれていくのか
沢村くんが己と向き合いイップスを克服していくのか
御幸先輩が沢村くんと関わっていくのか、とても気になります。
個人的に、九號さんが描く沢村くんの目が好きです。
大きな一重の、力強いまっすぐな瞳。
『また飛べるようになるよな...!』という沢村くんの言葉通り、
彼の目がまた、輝きを取り戻せることを祈りながら
次回作を待ちたいと思います。