薄雲
valentine blue
二月病の商業番外編同人誌。
全て蒼司視点で語られる千夏への片思い本という感じです。
本編前の、まだ普通の高校生活を送っているふたりが読めるので貴重です。
表題作はバレンタインの一日で、モテる千夏とそれを心の中に抱える物を飲み込みながら過ごす蒼司のちょっと切ない思いの話でした。
鈍くて無神経な千夏に怒りながらも、そんな相手が好きで好きでたまらない蒼司が健気で、ドライな見た目に反して心の中ではこんな風に情熱的に想っていたのかと思うと、何だかもうこの意地っ張りな健気がなんとも可愛くてたまりません。
蒼司に告白してきた女の子からのチョコよりも、千夏が女の子からもらった高級チョコよりも何よりも、千夏自身が一袋200円で買った包みに入った安物チョコが美味しく感じる蒼司がいじらしい。
その他にも高校生活の日常を切り取った、他愛もない日々のお話がいくつか入ってますが、いずれも蒼司の苦しくて甘い片思いのお話でした。
そして最後に入っているのは、本編後、海を渡った国で生きているふたりのお話。
ここまで読んで、これを読めて良かったと心から思いました。
本編では重苦しい展開が続き、絶望の中に僅かな光が射しただけのところで終了していますが、その後の二人を読めて本当に心から安堵。
生活は決して楽なものではなく、全てを失ったふたりがお互いだけを頼りに力強く生きている日常は、もしかしたら今まで過ごしてきた安寧の日々より満たされているのかもしれず、そう考えるとこれで良かったのかもしれないと思いました。特に蒼司の片思いを知っているだけに。
あの事件の贖罪のために行動するふたりの未来が、いつか本当の意味で穏やかな日々に彩られることを願ってやみません。