薄雲
plumeria no koro
【碧のかたみ】【彩雲の城】と同じラバウルが舞台です。
兄弟山盛り貧乏畳屋の息子・偵察員のカズイは、一旗揚げて内地で出世をするためラバウルに赴任したけど、そこでペアになったお飾り貴族様の搭乗員・千歳が、まさかの高所恐怖症でとんでもないチキンだった、あぁどうしよう、な話です。
腕は確かで凄まじく強いけど、搭乗の度にげーげー嘔吐してるヘタレ健気受と、俺が内地の家族を守るんだ! という意識が薄くて基本やる気のない自己中攻が、受の背後と事情を知るごとに絆され、お人好しになってく様が小気味良いです。
月光ペアや彗星ペアに比べると、千歳の健気っぷりが際立ってます。
ふんわりふらふら天然気味、でも守るものを得た時の心の強さが愛しい子。
恐がりな癖に、弱虫な癖に、カズイを守るためならなんだってする、というその凜とした”強さ”に胸を打たれました。
最初はあまりに面倒くさい千歳とペアになった事に対して、貧乏くじを引いたと嘆いていたカズイも、千歳の底なし沼のような孤独や寂しさに触れることで、徐々に態度を軟化。
逆に千歳のあまりの素っ気なさや、諦め癖、読み取ることの出来ない感情にやきもきしていくんですが、ストーリーが進んでいくとそれがもの凄い切なさを伴って涙腺を刺激してきます。
悪化していく戦況の中で絆を育み、唯一無二の存在となる2人ですが、戦闘中に負傷してしまったカズイが内地に戻るときは、もう涙で紙面が霞んで先に進めなかったです。
なんだかんだと問題があっても、最終的にはハッピーエンドなのでほっとしますが、毎回毎回、まさか……という展開が待っているのでドキドキします。
後日談や月光ペアとの絡みもあって、非常に充実した1冊でした。
碧のかたみが大好きで大好きで、イラストを描いている牧さんも大好きで、これを買わずにはいられない!と販売前からソワソワしながら楽しみに待っていました。
冒頭は一にも千歳にもあまり萌えられず、時々出てくる碧のかたみの恒と六郎を楽しみに読んでいたのが正直な感想。
ところが、読み進めていくうちに千歳の異常な怖がりが慕っていたペアの上官の死によるものだということが明らかになると、自分が千歳の感情にみるみる傾倒していくのがわかるほど夢中になっていた。
碧のかたみに比べると、気になり始めてから好きになるまでが早いかなぁと思ったけど、その後の2人の甘々ぶりが悶えるほどよかったので目を潰れたかな。
両想いになってからの一を死なせまいとする千歳の行動による憔悴っぷりが痛々しかった。でもその痛々しさが私には萌えどころですごく良かった!!
一が帰国する際、その輸送機の掩護をするための零戦に乗っている千歳が炎上して離れて行ったところはもう涙が止まらなくて、続きが読み進められないほどでした。
最初は萌えない2人だったのに、最終的には千歳の健気さが大好きになってしまった。
もー!もー!ホントによかったね!といってあげたい気持ちでいっぱいになり、やっぱり尾上さん大好きだな~と再認識した作品になりました。
千歳+恒や一+六郎の内緒話にも萌え!顔がニヤニヤして仕方なかった~。
後日談で、全部スッキリ!
後味の良い、幸せな余韻の残る素敵なお話でした~。
商業誌の番外編同人誌に、本編と同じ先生が表紙絵を描かれているだけでも、大変嬉しいのです。
さらにこの本は、表紙の続きの場面を描いた絵が中ほどに収められていて、読んでいる途中でそれを見つけた時には、思わぬ贈り物をもらったような気がしました。
きれいな表紙をめくると、尾上先生が作られたらしき戦闘機模型の両面ポスターが折りたたんであり、物語を読む前の気分を盛り上げてくれます。
本文も、「碧のかたみ」とは別のペアによる、「碧のかたみ」と同様の、可笑しくて切なくて真剣な物語に、満足すること必至です。
掌編「我が愛しの…」では六郎に、夜の生活に関する、あることを聞こうとする一と、その様子を後ろで見て首をかしげる恒と千歳の姿がコミカルに描かれています。
最後の「ちーちゃんせんせい」で、一と千歳の未来に希望を見て、幸せな気持ちで本を閉じることが出来る、いたれりつくせりの同人誌です。
(この関連であと二冊は出される予定という、嬉しいあとがきにも夢と希望をかきたてられました)