ココナッツ
nagoriyuki
『雪よ林檎の香のごとく』の同人誌です。
わたしは『林檎』の同人誌では『Summer Tune』が一番好きなのですが、二番手はこの作品です。
とうとう桂が志緒の母校から離れ、転任してしまう早春のお話。
桂は転任すると同時に、学校目の前好立地住居から引越しすることに。
志緒にとっては、桂との色々な初めてはつねにこの部屋から始まって、まさかここにいなくなる日がくるなんて考えもしてなかったのでは。
もちろん公務員の桂が、一生今の学校から動かないことなんてないわけで、それは頭ではわかっていただろうけれど…
桂と、昼も夜も一緒にいられたのはたった三年。
これから、そんなふうに毎日つねに同じ場所にいられる日は二度と訪れない。
桂が語るちょっとした学校の話にも、自分がその時間を共有することはもうないのだとあらためて実感する志緒。
そんな時に桂が思い出したように語った女子生徒に、自分はもう願っても叶わない時間を持つことのできる存在に嫉妬してしまったのかな。
自分も大人になり始めてはいるけれど、桂との年齢差が縮まるわけもなく…
いつまでも自分だけが子供のようにだだをこねている気がして、何も気にしていないような素振りをしながらも、結局桂を訪ねて母校へ足を向けてしまう志緒は本っっ当に可愛い!
そしてそんな志緒を愛しく思う桂も。
やっぱり『林檎』は良い!
まだまだ一穂さんに書き続けていって欲しいです!
『雪よ林檎の香のごとく』同人誌12冊目。
卒業のシーズン。
もちろん志緒のではありませんが、切なく少し息苦しくなるお話。
あぁあの歌声は誰だったか。
桂がそう一瞬思い返した時、きっと志緒の心は締め付けられたのでしょう。
他愛もないことを思い出している筈なのに、桂の記憶の道は自分ではなく、違う歌声の彼女を思い出そうとする行為に。
だから、「気にしないで」と言ったのに。
あっけらかんと、ただの引越と分かっていても、志緒にとってはセンチメンタルな感情を芽生えさせる、少し大きなことだったのに。
そして、その彼女の熱量も、静かで凄まじく勢いづいていたものだったのかな、とも。
だからこそ聴いて欲しくて、桂の心に決めた人が居ると気付いて居ても聴いて欲しくて。
独りよがりな気持ちでも、それでも知っていて欲しかった。
例えハッキリとした言葉にしなくとも、桂が去る高校に、一生懸命そう想って居た人間が居たんだよ、と。
読んでいくと、私も物寂しいと言うか、センチメンタルになるというか、少しいたたまれないと言うか眩しいと言うか切ないと言うか。
甘酸っぱさもいっしょくたになった、懐かしいような気持ちが蘇りました。
真正面からぶつけられる、志緒の嫉妬心に、驚いて素直に口から吐き出された桂の言葉は益々志緒の心を乱れさせるのだけれど。
抱き締めれば本心を言ってくれる、そんな志緒を愛おしく感じる桂。「あぁ本当に好きなんだなぁ」と思えてなりません。
置いて行くわけじゃないのに。
自分がいずともそこに彼が居る、という、何かしらの安心感を感じていたのでしょうか。
二人の思い出、出会った場所、涙もしたし笑いもした、貴重な3年間。
桂の在籍した10年の内の、たった3年。けれど、大切で大事な3年。
それを捨て、置いて行かれると思ったのでしょうかね。
……かわいいやつだな、本当に。
「好き」と言い合う二人が好きです。
離れていかないで、ずっと触れ合える距離に居て欲しいと、しみじみ感じました。
『雪よ林檎の香のごとく』番外編同人誌。
春は別れの季節。
同人誌『ランデブー』を読むと桂が志緒の母校から転任していることが知れるのだが、
その転任を前にした早春のエピソード。
今や大学院生になっている志緒だが、少し時間が巻戻る…
二人が出会った高校を去る時…
早春の歌々を通じて桂の、志緒の、そして桂に恋した女子高生の想いが際立つ。
そして、珍しくストレートに嫉妬の感情を表した志緒…
(大体、そこに丁度やってくるってところが、獣の志緒ちゃんの真骨頂!)
ト、トイレに連れ込みましたかっ?!
林檎の同人誌は、素晴らしいクオリティのまま発刊され続けている。
キッパリと透明なまま志緒は成長し、本編の文学的な静かな雰囲気は相変わらずなんだけれど、
時々はっとする程の狂おしい熱が放出される場面がある。
その切なくも純度の高い想いに、やはりいつまでも惹き付けられ続けてしまうのだ。