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「JUNE」誌に掲載された作品を中心に、作者自身がセレクトした短編集!
坂田靖子氏の作品は実に久々に目にしたのですが、ここにレビュするのにすごく時間を要しました。
一言で言いつくせない、もしくはたった一言・・・
「素晴らしい!」
BL的言い方をしてしまえば、じつにJUNE的でした。としか大雑把なくくりにしてしまうのはとまどいを覚えるのですが。
かの昔「バジル氏の優雅な生活」の熱烈ファンだった自分には、有閑貴族のバジル氏にそこはかとなく英国らしいバイの匂いを感じ、女性との恋もあったけれども、基本彼の姿勢はヘテロじゃないよな~と感じていたものが、スムーズに表わされているのがこの短編集だよな、と思うのでした。
過去JUNE掲載時にはお題の元にその作品を描かれていたようですが、表題にした「へだたり」というのは、どの作品にも通じる共通の根底にある要素なんですよね。
元来、人とのむすびつきは、他人である以上違う人間である以上、障害といえないまでも差があるわけで。
それは身分差であったり、かなわない想いであったり、
でも決して切なさだけではない、ウィットを伴って、かといって幻想におわらせないシュールさを持ち合わせて、じつに小粋に展開される作風は、お洒落としかいいようがない。
全ての作品が自分にはお気に入りになるので、逐一上げられない(涙)
ゲイの恋人に家族を味あわせる「聖夜」
叶わない想いを夢魔に実現させられる「まどろみ」
男娼を自分のものにする為にじつにまどろっこしい方法をとる「サザンアイランドホテル」
堕ちた道をたどっていく友人との「くされ縁」
クリスマスプレゼントに本当に欲しいモノは、今でもすぐ手に入る「クリスマスがやってきます」
そんな切ないものから、
坂田氏一流のウィットが効いたヨーロッパ流のユーモア短編まで
実に実に幅広くそろっています。
どれも短い作品なのに、不足感や不満感が一切ないのがとても素晴らしいのです。
かなり古い作品もありますが、全く時代を感じさせなくて今でも新鮮な姿に感じられます。
この短編集が出版される前にも、雑誌や他のコミックスで読んでいる作品が中心になった作品集でした。でも「前にも読んだのばっかりで損したー」とは微塵も思わないというね。
坂田靖子さんの絵は白い部分が多くて、省略が大きいようにも思えるのですが、例えば二人の人物が並んで腰掛けているカットだけでもその関係性が想像できるような豊かな表現力があって、ほんの短い短編でも奥に芳醇なストーリーを無理なく感じせてくれます。
そしていつも感じるのは、いわゆる「借景」的な表現。
坂田作品は、ぱっと見シンプルな絵とシンプルな言葉で構成されている物が多いのですが、古今東西の膨大な知識をベースに選ばれた"シンプル"なんですよね。(私は子供の頃に坂田作品で名前が出たり、チラッと登場する文学・映画・舞台…などを教科書のように思って新たな知識を吸収していったものです。)
下敷きにしたイメージを奥に重ねることで「語られない」部分もしっかり表現されているように思います。
…と、ここまでこの本についてを殆ど書いていませんでした。
過去に「JUNE」詩に発表された短編が中心に収められています。独立したお話ばかりなので、ちょっとした空き時間にパラパラと好きな所を読むのに最適! 当たり前のように同性カップルが出てきたりもしますが、際どいシーンはありませんので、電車とか病院の待合室とか…そういった所で開くのにもバッチリですよ。
お気に入りの作品を幾つか挙げるとすると…、恋を打ち明けられないまま親友が結婚してしまう…という最近のBL作品でもよくあるシチュエーションを詩的に描いた『Night Slumberーまどろみー』や、どんな時もお茶の時間を優先する英国人カップル(紳士と美青年)が愛しい『東は東』、ドイツ兵とアメリカ兵の交流のエピソード『幽霊』などかな…。ああ、でも本当は選びきれない。
天才かな?って読むたびに思わせてくれる作品集です。
↑ のタイトルは良いのが思いつきませんでした…。
短編の名手坂田靖子が存分に腕を奮った珠玉の作品集。
坂田靖子、ジュネ、と来たら私は《村野》を思い出します。
手持ちのコミックスでだいたい読んでいましたが、
未収録作品もちらほらあるし、こういうかたちでまとめられるとまた
違った味わい深さがあります。 私のおすすめは《まどろみ》ですね。
何度か読み終えて涙ぐんで改めてページ数を数えたらなんと8ページですよ…。
信じられん。 なんというぜいたくさ!
ムダなものをそぎおとして、そぎおとして、 芯の部分だけで
勝負する潔さに惚れるぜ。 ボーイズラブでもやおいでもなく、
ジュネな感じです。 古き良き、良いにおいが漂います。
あらすじはあってないようなものというか、寝台の上のワンシーン。
男は親友に恋している。 そしてそれを隠している。
その日、彼は親友の未来の妻となるべき女性に引き合わされていた…。
彼は飲みすぎた、と断りを入れてひとり別室で寝入ってしまう。
窓を開け放したまま。 人の気配で目を覚ますと、
親友と同じ顔をした男が彼に寄り添っていた。 男は裸だった。
親友と同じ顔をした男の正体は、夢魔(ナイトメア)なのですが、
二人のやりとりが劇的で素晴らしい。 言いたくて、言えなくて、
そういうギリギリの心理状態の男に夢魔は容赦なく揺さぶりをかける。
親友は、男を信じている。 もしも、男が彼女は親友に相応しくないと
告げれば、ふたりの仲はこじれるかもしれない。
なぜなら、二人の間にあるものが混じりけなしの友情だと信じているから。
でも、それは言えない。 今までもこれからも、決して。
「一生言わないつもりでいたなら俺で良いだろう?」と語りかける
ナイトメアの残酷な優しさがたまりません。
最後のコマが泣けるのでぜひとも読んで欲しい…!
夜とか、闇とか、眠りとか、死とか、そういうものに囚われることの甘さ。
タニス・リーとか谷山浩子の世界がお好きな方におすすめします。
《ジェラシー》とか4ページだもんなあ。 凄い。