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よしながふみをパーソナリティーに、BLと80-90年代の漫画をBL漫画界の重鎮(!?)と語り尽くした対談集。
対談メンバーの中の1人でも好きじゃないと手が出し難い本だと思うのですが、BL好きで、更に「80-90年代の漫画が好き(←かなり重要、後述します)」という方なら、「あーわかるわかる」と何回も頷ける部分がある対談になってます。
私ごとですが、よしなが先生の「一般作」は好きなんですけど、BL作品はそんなに好きじゃありません。先生の持ち味は「女性のたくましさと卑しさ」をこれでもかとリアルに掘り下げる部分だと思っています。が、BLになると完全に作品全体が「ファンタジー」にのまれてしまうため、「別にこういう作品をよしなが先生の漫画で読まなくても良いな」と恐れ多くも感じてしまうためです。
しかしこれによって「BLだけは乙女の夢として描く」という作者のBL好きが、一般作との対比で物凄く浮き彫りになっているなとは思うのですが。
という訳で、私は「BL漫画家」としてのよしながふみ、ではなく、「女性の思考を鋭く見つめる作家」として捉え、その先生をパーソナリティーに向かえた本書の、「そういった部分」が深く垣間見えるのではないかと思って購入した1人です。
中身ですが、期待通り、描く側から見た「BLの方程式」をそれぞれ入念に語って下さっています。作家を知らなくとも、BL好きならば非常に分かりやすく、うなずける内容です。
逆に言えば、現実味が伴って作者らの舞台裏が見えてしまうので、「難しい事は考えず、純粋にBLは乙女の夢作品として、二次元のなかの出来事として楽しみたい、それをわざわざ解体し、社会などと結びつけて欲しく無い」という方にはあまり適さない本かも知れません。クリエイターのクリエイターによるクリエイターのための内部事情も込み入ってますから。
そして前述した「80-90年代の漫画」についてですが、皆さん、失礼ですが、この作家陣の年齢をお考えになってみてください(苦笑)恐らく30代から40代の方が多いと思うのですが、その頃全盛期だった漫画のタイトルがこれでもかってくらい出てきます。
恐らく10-20代でも、昔の漫画をかなり読んでる方の人なら分かると思うのですが、昔の作品にはほとんど手を出さない、2000年代以降の本にしか興味無いわという方には読んでいると結構辛いと思います。何せ作家陣が読者そっちのけで「あの漫画は本当に凄かったよね、面白かったよね」と話をすすめていってしまうのです。名前すら知らないと「え、ああそうなの?」と思うしかありません...。いちおう漫画タイトルが出てくるたびに注釈は出てくるのですが、読んでるのと読んでないのとでは天地の差なのは明白...。
「24年組」「つげ義春」「吉田秋生」らへんが分かるなら問題無いと思います。しかしこの本を手に取る人はそもそも24年組なんかは読破しちゃってる層なのかしら!?
自分らの作品を交えながら過去話にふけったり、BLと女性社会について語ったりと、対談相手によって内容が結構変わりますが、本人達が楽しんで語っている事は手に取るようにわかります。
作家側からのリアルな「腐女子の世界」を楽しみたい方には是非お薦めしたいです。
よしながさんの作品は一概にこう、とは語れない奥深さがあります。
ジャンルを超えてご活躍されている希有な作家さんが、
さてどんな引き出しを持ってらっしゃるのか。
がっかりする位に総評できる言葉の持ち合わせが無かったので、
以下に各章毎記します。
第1章
1960年代の少女マンガから各社のコミック雑誌のカラーについて、
次から次へと作品を挙げてとんとんと話しが弾みます。
これは世代の違いによって追いつけない部分もありますが、
少女マンガに投影される幻想は時代によって変化してきたのですね。
くらもちふさこさんの素晴らしさについては満場一致でした。
第2、4章
余程盛り上がったのでしょう、しをんさんとは
2回にわたって対談されています。
初めて聞いた「クィアーラブ」という言葉。
もはや「ボーイズ」だけではないこのジャンルに浸透させたい
単語だそうですが、発端がエロティックF編集部というのが驚きです。
BLというジャンルはフォーマットがある程度出来上がっているけど、
そこからこぼれ落ちるものは必ずある。その受け皿になるような
場所が必要だと。この業界が広がる鍵とも言われていました。
また、何故BL作品がこれ程読まれるのかという疑問に対し、
男女の在り方に無意識的にも居心地の悪さを感じているのが
理由の1つにあるのではと示されます。
第3章
ある世代を区切りにBLの源流にはこだかさんの存在が大きいと
言われるようで、ご本人も初耳のご様子。
描き手として作品へのアプローチが違うことで、お互い参考になると
おっしゃってます。こだかさんは読者のニーズを把握することを
常に意識していらしゃり、自身をとことん研究される方でした。
ヒゲ×ヒゲで盛り上がったというコアなお話も飛び出します。
第5章
まずは2人の馴れ初めから始まりますが、お互いに
「気持ち悪いー」と口を揃える程ベタ惚れです(笑)
同人時代は同じジャンルの2大大手で活躍されていましたが、
デビューしてからの邂逅はつい最近とのこと。
羽海野さんの仕事に対する一貫して真摯な姿勢に触れ、
メディア化においてはよしながさんの当事者と対外的に感じた両面から率直な意見が語られます。
第6章
マンガのいかがわしいところが好き、とあっけらかんとお話しになる
様子に思わず和みます。そうそう、いかがわしくて何が悪いでしょうか。
志村さんの作品には”普通”に潜むエロスをよく感じますね。
他にも報われない人にどうしようもなく惹かれるという
共通点で盛り上がります。
点と点とつないで線にする作業がマンガを読む面白さなのだから、
読者には読み解くための努力だって必要なんだ、という言葉には
身につまされます。
第7章
漫画界の大御所とのお話は若干改まった雰囲気でしたが、
連綿と続く流れの中で確たる位置と繋がりがみえるお2方です。
よしながさんの作品考察に対し、マンガからも伺えるけれど、
さすが読みどころが鋭いと感嘆されたご様子でした。
時間軸が交差する表現の面白さを取り上げており、
他の対談にあった、よしながさんの作品で描かれる交差表現に対し
分かりづらいと言われる所以は、読者が往年の少女マンガに
触れてきたかどうかが大きいと改めて思いました。