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知明の親が変なので実華子がどれほど辛く当たられたのかが推し量れて、こんなに可哀想な目に遭って、若くして亡くなったなんててただでさえ思ったのに相手からも言われていたなんて…口の悪い慈雨が悪いのは周りの方だって言ってくれる人で救われていたなら良いのだけど…
結局、慈雨と実華子は自分の相手については仕方がないと、自分が家族になれないって引け目を受け入れてしまっていて、互いの相手を罵ることしかできない
2人一緒にいることでお互いを通して裏切りに憤ったり寂しがることができる
実華子は俺、慈雨は私って思いながら一緒にいたんだろうか
怖くなるくらい酒を飲むけれど、実華子と慈雨は身体は別物だから…
でも、死ぬのは2人にはあがりみたいなことで、一緒だったら良かったのになってくらいだったんだろうな
遺されたらさみしいんだぞって、さみしくしてごめんねって、そんな感じだったのかな
遺されたさみしさを知ったら家に迎え入れた知明を遺すことが怖くなって、慈雨は繊細だよな
失恋したくらいで結婚なんかするだろうかって初めから思ってた
もう二度と誰とも恋しないって思うかなって
本だけ買って調理器具も買わない
そもそも、家で仕事してるのに弁当の本だし
皐月の親が離婚したのが自分のせいって発言とか、ん?て少しだけ引っかかることが終盤に(なるほど)て腹に落ちて行く
そして、謎だけじゃなくてエピソードに意味がついて行くのが見事で余韻もとても面白い
皐月は知明からもらった手紙が実華子に促されて書いた物だと知るのだ
赤い印象的なスーツケースは実華子の物だったのだ
ちあきはモテモテになるんだよって実華子の言葉には意味があって、よくいる子供にそう言うこと言う人のとは違ったんだ
モテモテになって、1番ステキな異性と結婚して父親に…祝福される幸せの中でも更に1番を得るのだって、可愛い甥がそんな幸せの中で生きているって思うことは実華子の慰めになったのだろうか
咲彦がいて慈雨と咲彦を見ているから、知明は皐月のところでこれからも働いていけるんだろうな
食べて、生きている人間は前に進んで行くんだもんな
甘いの食べない子供に買ってくる親、独りよがりなの大人になればなるほどゲンナリするよね
実華子の親や姉みたいなのと慈雨の親
子ども自体に無関心で自分の思う善を微塵も疑わないで責めるのと憐れんで施すの、おんなじだよね
面白かった
家庭の温かさや家族の情と触れ合わずに生きてきた知明。トモアキ、だか親戚中からハブられていた叔母は、ちあき、と呼んで可愛がってくれた。
その叔母の夫から叔母が亡くなったとの連絡を受け、訪ねる。そこには夫だったという慈雨が居た。
知明と慈雨は同居を始め、知明の家庭の問題や慈雨のバックグラウンド、さらには叔母の過去までも知ることになる。
知明が慈雨に惹かれていくところは、少し分かりにくいけれど、穏やかな流れで日々が過ぎていきます。途中、慈雨の元恋人が出てきたり、家族・家庭を持つことの普通さ、男女で付き合う、結ばれることの普通さなんかが思い課題として読み手に提示されているようで、深いなと思いました。
叔母の過去の出来事もちゃんと回収されていて、どちらの想いも選択の結果だけれど、やはり子供を持つことの本能、それを超える愛情、色々あるんだなと考えさせられました。
一穂さんの作品は穏やかな中にグッとくる要素が入ってるな、と思います。
一穂先生の『イエスかノーか半分か』がとても好きなので前知識なしで読み始めたのですが、残念ながら、キャラクターもストーリーも好きになれませんでした。
読んでいて、主人公と優しい叔母の思い出とか、主人公と師匠である料理家との出会いとか、また師匠一家の優しさとか、叔母の看護をしていた時に男が書いた文章とか、色々と素敵だなと思うエピソードは多かったのですが、後々それらが素敵なだけではなくなる(性的な生臭さに関わってくる)のが不快で。
最終的に、この話では性的な臭いを感じさせないキャラクターというのが皆無なのですよね……
美しく気だるげな世界観と性的な臭いというのはマッチするのですが、全員が全員となると、その生臭さが鼻についてくる。
なので、根幹を否定するようではありますが、せめて主人公と亡き叔母の夫はデキちゃわない方がよかったな……と思いました。その方が、美しい話だった気がする。
このお話は端的に言うと、叔母と、叔母の夫だった受けが、傷ついて弱った獣が身を寄せ合うようにして共に暮らしていたという話、だと思うのですが、叔母が死んで文句が言えない状況になってからその間に主人公が入り込むのもなんとなく不快だったし、叔母も、叔母の夫も弱い人だったんだな、というのが後々わかってくるので、その弱さが性的なものと結びつくのが嫌だなあと感じたのもあります。
そして、あくまで二人は可哀想な被害者で、他の人々は二人をいじめた人たち、という配置なのも好きになれなかった。
『イエスかノーか半分か』の受けは、どんなにいじめられてもつらくても泣きながら立ち上がって相手をぶん殴るような人で、そういう強さが好きだっただけに、余計に叔母と叔母の夫(受け)の弱さが好きになれなかったのかもしれない。
叔母と、叔母の夫(受け)が好きになれないと、彼らを愛した人々のことも(その人々自身のことが描かれないこともあって)好きになれないし、主人公のことはさらに好きになれない。そんなふうになってしまうのだなと思いました。
そういえば主人公の母が主人公に全く関心を示さないことへの説明も、叔母の「あんな女には子育てなんかできない」という中傷以外なかったのも気になりました。
実の妹である叔母をいじめた悪いやつなんだから、実の息子にも当たりがきついんだと納得すればいいのかもしれないけれど……なんだかなぁ…
やっぱり一穂ミチさんの表現する女性はいいですね。
そして北上れんさんのイラストも良かったですwwwイメージ通りでしたw
ちょっと今回の受けさんはビミョーでした。
見た目が美形青年。感性が鋭く、翻訳家で勉強量もすごくてちゃんと仕事として成り立っている。そして救いようもなく口が悪い。
うーん、、受けさんに生きた人物像が見える気がしたのですが、それが魅力的かどうかは別で、自分にはイマイチ乗れないタイプでした。
最低に口が悪いデリケートな男性……、要するにキャンキャン吠えまくる小型犬みたいで、なんかなぁ、、。
変なところばかり露悪的なまでにあけすけで、ストレートな性格の攻めさんには素直じゃなくなるという…。
ただこの受けさんは前の男とは中学だかからの付き合いで、捨てられた後もずっと付き合いが続いてるというくらい一途なようなので、新しい男チアキとうまくいかなくても多分その時は可愛くなく縋るんじゃないかな?
その可愛くない縋りつき方、可愛くない「捨てないで!」、可愛くない「ごめんなさい!」可愛くない「戻ってきて!」…ってのはぜひとも見てみたいと思いました。
悩み過ぎて胃潰瘍になって救急車で運ばれて攻めさんを強制的に戻ってこさせるっていうのは反則だと思います。
攻めさんは面倒見が良すぎてついつい受けさんをつけ上がらせてしまいますが、そこから~の攻めさんお怒りモード、受けさん可愛くない縋りつき土下座モードになってくれると!次回作読みたいです!!
一穂先生の作品に、面白くないものがありません。
どういうことなんでしょうか…
読んでいて、すごくよく構成が考えられているなと思いました。見事にミスリードに引っかかる私。
大切な人を亡くすという点、キーパーソンが多いという点で、『青を抱く』と雰囲気が共通しているような気がしました。ワガママを言えば、メイン以外の登場人物に焦点を当てられることが多く、主人公の2人の関係性をもう少し詳しく見ていきたかったなと思います。
今回の受けさんの名前が『慈雨(じう)』さん。雨宮という性に、慈しむ雨かぁ(一瞬韓国の女優さんが過ぎる)毎度ながら楽しんでおられるな、というのが伝わってきます。私も楽しいです。
作中の、慈雨さんのエッセイが本当に素敵だったので、一穂先生は本当に多彩な方だと…
小説に果物やスイーツが出てくると、読後がその雰囲気を引きずったりするので、とても好きです。
さみしさのレシピでは、すももの甘酸っぱい香りと、そこにかすんだ雨の香りが重なったような読後感を味わいました。
お料理に、フランス語に、一穂先生の知識を駆使して紡がれた文章がとても楽しかったです。
れん先生の挿絵見たさで購入。(れん先生大好きなんです!)
一穂先生は今まで2作ぐらい読ませていただきましたが、今一つピンとこず。
今回も今一つ・・・無念。
なんでだろうなあ、みなさん高評価なんだけど、どうもずれている私。
攻めさん:お料理愛情もって一生懸命作ってて、エライー。
私が最も嫌いな家事=料理 ができるってことだけで 尊敬!
なんだけど なんだか人生投げ気味な印象をぬぐえず、
どうにもこうにも惚れられなかった。
受けさん:忘れられない元カレがいて、そっちに対する気持ちの方に
シンクロしちゃった。
こいつも人生投げ気味な印象が強く、
惚れるというよりは、同類だ という印象。
元カレ:こいつ、好きだけど嫌い。
意思が強くて、エライ!素敵! と思う一方、
そんなにあっさり捨てやがって
という恨みつらみも感じて(泣)
おば:自分で幸せつかもうってもっと積極的になれなかったんだろうか
と少々思う。
攻め上司(女):色々あったけど、これから幸せに生きていけるだろうか
と,とても心配。
というようにどのキャラも、安心して入れ込めるキャラじゃなかったけど
少しずつ好きな箇所があったのが、萌の理由かな。
今の気分からはもちょっとお気楽あまんあまん がほしかったから かも。
うーん、初心者向けとは、私には思えない・・
今作は雨をモチーフにした、ちょっとしっとりめのお話。主人公が仕事でパリに行ったりするので食とアムールのイメージですかね。本編に限るとBL色薄め。なんとなく、映画の方が好きだった江國香織さんの『きらきらひかる』を思い出しました。
攻め視点のお話ですが、挿絵ナシで読んでいたら知明は受けだろうと思い込んでいたと思います。こういう、真っ当に生活してます!っていう人間が、陰があって頼りない人物に惹かれていくラブストーリーは萌える…んですけど、なぜかわたしの目には知明の叔母の実華子と、彼がアシスタントをしている皐月の方が断然魅力的なキャラに映りました。結末まで辿り着いて妙に腑に落ちたわけですが。
先生の描く女性キャラがすんごい好きなんですけど、今作ではそのコントラストがより明白で、メインカポーの恋にあまり食指が動かなかったんですよね。男性キャラの方が女っぽくて、女性キャラの方が男っぽいというか。知明も実華子も親から受けた愛情が希薄な人物ですが、同棲していた彼女に逃げられて義理の叔父の所へ厄介になる知明より、現実的には厳しかったでしょうに、さっさと一人自活していた実華子の方に男らしさを見たりして。個人的には皐月と実華子の方にBL萌えしたという。なんでや。
メインの人物の名前にも「雨」がつけられているように、雨の描写がカギですね。晴れと雨の境界線について二人に語らせるところ、そしてそこは曖昧なものなんだって結論は、まんまセクシュアリティーや家族の距離感になぞらえられています。
慈雨と元カレの関係は男女に置き換えてもリアルですごく共感しました。プラス、それとは対照的な慈雨と実華子の在り方も描いているところがニクいのです。二人の場合は表向き「結婚」という形を取っていますが、名付けようのない関係に助けられて生きている人って、たくさんいると思うんです。どうも慈雨の方に全部持っていかれて、知明の魅力が霞んでしまった感が。
本編ではエロシーン無しでしたが、「はじめてのレシピ」で描かれています。相変わらず本編との文章の落差が拭えない。先生の描くえっちは、いきなりとってつけたように古典的なThe BL!ってなっちゃって、なんだか白々しくってあんまり好きじゃないんだな。あと、小ネタはそんなにいらないので、ラブ増量して欲しかった。
パリのエピソードが最も興奮しました。このパートがかろうじてBLっぽかったから。全体的に読みものとしては満足しましたが、BLとしては中立寄り。
非常に一穂さんらしいお話だと思いました。内容は皆さま書いてくださっているので感想を。
一穂さんの書かれるトリビアってジャンル問わずとても幅広くていつも感心しながら拝見するのですが、さらに凄いと思うのはそのトリビアが話に深みを持たせることなんですよね。
タイトル通り、寂しさを抱えた人たちばかりでてきます。
虐待されることはないけれど、無償の愛とは程遠い愛情しか家族から貰えなかった攻めの知明。
ゲイであることから家族から線を引かれ、かつ長年付き合った恋人からは「結婚するから」と捨てられた受けの慈雨。
ビアンであることから家族から疎まれ、慈雨と同じ理由で恋人から捨てられた知明の叔母の実華子。
みんな、それを「仕方がないこと」と受け止めてはいる。でもだからと言って寂しくないわけではなくて。
そこでカタツムリの殻の巻の話と絡んで、より一層話に引き込まれます。たくさんの人と巻があってほしいわけではない。たった一人でいいのに、という思いに思わずウルっときました。
慈雨の元カレの咲彦にせよ、実華子の元恋人にせよ、責めることはできないなあと思います。両親のこと、これからの自分の人生のこと、いろいろ考えてある意味打算的に生きていくのは仕方がないこと。
慈雨も実華子も、そういうところも含めて相手を愛していたのでしょう。その愛情の深さにも思わず涙が出そうでした。
慈雨の可愛さにはKOされました。口は悪く、態度も大きく、それでいて相手への深い想いを抱えていて。素直に口に出せない彼ですが、その裏をくみ取れる知明と出会えて本当に良かった。
北上さんはコミックはほとんど持っていますが、挿絵を描かれているのは今回初めて拝見しました。絵柄が綺麗でうっとり。
そして、この寂しさを抱えたこのお話に、少し硬い絵柄がとても合っていて良かったです。
レシピが「さみしさ」から「こいびと」のレシピになって良かったな、と思いました。あとがきの「たわむれのレシピ」には爆笑!
とにかく文句なく神評価です。
評価の高い作家さんだけに、ずっと気になっていました。
好きな北上先生のイラストの作品を見つたので、初めて読んでみて納得です。
内容は昼ドラを彷彿させる様なお話なのに、全くドロドロ感を感じさせません。
逆にさらりと読めたくらい‼
その位文章が印象的で上手く、特に攻めの言葉には、ホロリと涙するくらいに胸を鷲掴みにさせられました。
フードスタイリストの卵・知明は×翻訳家•慈雨のお話。
そこに二人を結びつけた、智明の叔母&慈雨の妻•一年前に亡くなった実華子。酔っ払った慈雨を送り届けにきた、商社マン•咲彦。智明の師匠•皐月が上手く絡まっていくんです。
それぞれ、子供の頃から家族や両親から愛情というものを感じた事がない人達ばかり。人にも言えないさみしさを抱えながら生きているんです。
それを、仕事であったり、お酒であったり、結婚生活であったり、孤独な部分を埋めるために、逃げたい気持ちに負けそうになりながらも、必死で生きている姿が、雨のシーンとも重なって、いっそうさみしさを印象づけさせられます。
読んでいく内に、謎だった部分がパズルのピースのようにうめられていくので、本当に目が離せない展開でした。
すべてが繋がった時の、言葉には表現しきれない壮絶な想いに、せつない気持ちでいっぱいになります。
智明が子供の頃に叔母•実華子の部屋で見つけた一冊のお弁当の本。
何回も読み返す姿を見た実華子が、智明に「好きになりました」とファンレターを書くことを勧めるんです。
その後直ぐに、智明は母親に実華子に会うことをかたく禁じられ、最後に実華子と交わした言葉が約束の様な気がして手紙を書きます。
それから手紙のやり取りが続き、卒業後アシスタントとして働き始めたのが皐月の所だったんです。
どうして、料理をしない実華子が、お弁当の本なんかを持っていたのか…。
すべての始まりは、実華子と皐月が高校時代付き合っていたという衝撃の事実。
二人は真実が公けになり、両親に引き裂かれて一度は終わりを告げます。
でも、智明がお弁当の本にひかれていたこと、智明の母親に甥との幸せな時間を奪われたさみしさからか、再び連絡をとり付き合うように…
そこに、同じように男同士で付き合っていた、咲彦×慈雨と知り合い、四人で出かけるようになって行ったんです。
でも、咲彦と皐月はそれぞれ家庭を持つことを決め、二人から離れていきます。
慈雨はヤケとカモフラージュをかねた偽装結婚だといいますが、同じさみしさ、痛みを抱えた似たもの同士だったからゆえ一緒になったんです。
慈雨は、大酒のみでひねくれ者! 美人な俺様気質。でも実際は、必死で虚勢を張っているだけで、人間関係のひびには凄く弱い人でした。意外に心配性だったり、なによりさみしがり屋!
智明のフランス出張を追いかけて来るくらい好きなのに、智明の告白には逃げるんです。そんな所が、慈雨の心の弱さを表していてせつなくなります。
智明は、年下ながら真面目な本当にいい男。
気立てが良くて、家事全般もできて、なにより素直で一途さがたまりませんでした。
「あんた抜きで幸せになるくらいなら、あんたと不幸になりたい…あんたがいてさみしいほうがいい」
「あんたは男じゃないと駄目だから、俺は男に生まれてきてよかった…それは一生両親に感謝し続けると思う」
一言一言の真っ直ぐさが、読んでいて何度泣かされた事か‼
慈雨のエッセイ、マリリンモンローや幽霊、紫陽花とかたつむりの話を交えながら、2人の心情上手く表現している文章にも魅せられます。
本当に、背景が思い浮かんでくるようで、読ませる凝った文章にどっぷり浸らせて頂きました。
あと、裏切り者の咲彦と皐月なんですけど、決して悪者にはなっていないんです。今の2人の立ち位置が、逆にリアルな人間模様を垣間見たようで嫌いにはなれないんです。
やっぱり好きだったのが、智明の「何食べますか」だったり、慈雨の「腹減った」の言葉!
気まずい雰囲気の時や本心を隠したい時に、必ず交わされる言葉。
私は、さみしさを食に置き換える事で、さみしさを満たそうとするニュアンスが含まれている気がして、逆にこの台詞を読むたびにほのぼのした気持ちになりました。
「さみしさレシピ」なんだけど、2人の想いが通じあった今では、「しあわせレシピ」2人だけの合言葉のようで…
これは、食い意地がはっている私が勝手に思った解釈なんですけどね(笑)
この独特な雰囲気にハマっていく気持ちが、読んで初めて理解できました。
BL的萌を感じるかと言えば少し違う作品なんですけど、充分読み応えがあるので、オススメしたいと思います。
私にとってちるちるさんでの初レビューであり、初読み作家さんである一穂ミチさん。
とにかく初めてづくしなので、お見苦しい点はどうかスルーでお願いします。
あと、お話の大筋は他のレビュアーさんのレビューでご確認ください。
まず、内容に関して。
仕込まれたたくさんの伏線とともに、主人公である知明と慈雨さん、そしてその周りにいる登場人物がキレイに繋がっていく様が、本当に気持ちいいくらいに清々しかったです。
しいていえば、落ちゲーでどんどん連鎖でブロックが消えていくような、そんな感じ。
特に、脇位置にいる人たちが、すごく良かったんです。
知明には皐月先生。
単なる「雇い主とバイト」みたいな感じかと思ってたんですが、読み進めていくうちに、この皐月先生が知明の人生に多大なる影響を与えてきたというのがよくわかります。
慈雨さんには咲彦さん。
今まで「知明・実華子・慈雨」という、BLとして読み進めていくにはちょっとアレ?と思うような話だったのに、彼が出てきた途端、なんだか一気にBL的な香りが立ち込めてきました。
当て馬か?と軽く思ってましたが、咲彦さんに謝りますスミマセン。
彼こそものすごくいい立ち位置にいる人でした。
咲彦さんが知明に、慈雨さんのエッセイの掲載された本を渡すところ。
あれは彼にしかできないことです。
慈雨さんの書いたエッセイを何度も何度も読み返した後、出て行こうと纏めた荷物を知明が黙って解いていく。
次の日、庭でスモモをひとつもいで、リビングのソファーでちいさく三角座りをしている慈雨さんの横に座り、素直に謝る。
ぽつりぽつりと自分の思いを話す慈雨さん。
そして、初めてほんとうの慈雨さんに触れたと思った知明の心情。
この一連の流れは、本当に神懸かってます。
『心に触れる』ってこういうことなんだなあと改めて感じさせられます。
その時点でだいたい半分。
そこまでかなりゆっくりな感じで物語が進んできていたのに、そこからが凄かった。まさに急展開。
まず、慈雨さんがパリまで来た時点で「うぉい!」と。
その後の、知明の心の揺らぎと、慈雨さんの心の葛藤が、まるで心理戦のように(でも言葉少なに静かに)繰り広げられる様は、読んでいてドキドキしました。
帰国して皐月センセと実華子さんの関係を知った知明が慈雨さんを問い詰め、同時に告白するシーンでは、「実華子を裏切りたくない」と涙を零す慈雨さんにもらい泣きしてしまいました。
慈雨さんは実華子さんに自分を見ていた…とかいう生温いものじゃなく、本当に実華子さんを自分の半身だと思ってた、一心同体だと思ってたんじゃないかな。
だから、実華子さんが夢見ていた知明の未来を自分が潰しちゃいけない、その思いが痛いほど伝わってきて辛くて。
でも既に、慈雨さんの中でも知明はものすごく大切な存在になっていたんですね。
自分の半身じゃなく、お互い支えあえる存在に。
自分の半身を失い、真っ直ぐに立てない歩けない慈雨さんに、ようやく支え合えるパートナーができて、本当によかったです。
物語は知明目線で書かれていて、一見わかりにくい知明の性格も読み手に伝わりやすく、さらに、個性的な慈雨さんや咲彦さんの人となりも、知明の洞察力が思いのほかしっかりしているお陰で、説明っぽくならずに読み手に伝わってきて、そういう行き届いた書き方が素晴らしいなと思いました。
個人的に、本編の後に収録されている短編2作が、私の萌えツボにぐさっとブッ刺さりました。
一穂さん初読みで、素敵な御本に巡り逢えてよかったです。