詩雪
…『HYDRA 1+2+3+4』レビューの続き
同人誌『HYDRA』5~10巻の再録集、約260頁。
さていつのまにやら表紙は左がヒトミ、右に平良です。このふたりの相性だって、実はかなりのものだと思うんですよね。たとえば竜には言えないような心中を、平良には言えちゃうヒトミ。ただ「竜とヒトミ」のふたりはソウルメイトのような、本人たちにしかわからない「なにか」でつながっているという感じがあって...おそらくそれを、皆がそれぞれに感じとっている。
ハイドラ中盤以降での一番の見どころは、竜と平良の間で揺れ動くヒトミの心、その乱れ具合だと思います。心ではわかっていると思うのに、ふたつに分かれた道のどちらも選べない。好きだマジなんだという一途な平良の気持ちは信じられても、抱き合ってそれを実感するほど、自分の心は竜をこんなにも想っているのだと気づかされてしまう。このあたりの描写がホントたまりません。心では竜のことを考え、身体は平良に触れられたい、自分じゃなくなっていくような感覚。心と身体がバラバラになっているとわかっているのにコントロールができないヒトミ。自分をこの作品に夢中にさせたパートのひとつです。
それからこの若さにして平良の色気がねぇ、これがカラダとかじゃなくなんといえばよいのかな。やさしさと強引さ足して2で割ったような感じで...とにかく言動ににじみ出ております(笑)。ヒトミへの気持ちといえば、竜は竜でわかっていることがあるものの、背中の龍がジャマして違う方向へと一歩を踏み出してしまう。自分たちはすごいところでつながっているんじゃないだろうか…それを確かめたいのに、どうしてもすれ違う道を選んでしまう彼らに胸の奥は痛くなるばかりです。なんだかもう、なにかが起こるのを見守るしかないようなー。
自分らしくいられる場所(仲間)がほしかったのかもしれない佐藤も、与える(愛情を)側だからといってきっとよく眠れるわけじゃない平良も、どこまでも素直になれないだけなのかもしれない伊藤も、みんなさびしがり屋で、どこかで竜やヒトミに憧れていたんだろうな。そうやって仲間がいつのまにか自然と集まり一緒に過ごすようになり、楽しくやっていたところへ入れなかった者もいて。彼はやってはいけないことばかりやってしまうけれど、変わりたい気持ちもきっとあったのだろうと思いたい。そしてもしかすると一番淋しかったのは、泣ける場所のない竜だったのかもしれない…。
ところでHYDRA(ハイドラ)の意味ですが、作品の最初に辞書を切り取ったような形のものがあります。その一部、ギリシャ神話の『ヒュドラ(九頭のへび. 一つの頭を切ると新たに二つの頭が生じたという)』のことを指しているようですが、ここでのハイドラはいろんなものを含んでいるんだろうと私は勝手に思っています。人の「心(魂)」と「身体」のこと。竜と平良、双方に揺れ動くヒトミ自身のこと。同じく悩むあまり行きたい方へ行けない竜の心中。竜が背負った双頭の龍(過去~現在)のこと。背中の龍が招いた禍(わざわい※…と、竜自身が思っている)。そんな「うまくできないまま」きているすべての事柄―。これは登場人物皆に当てはまると思います。
この先の道は一本になるのか、彼らはなにを選びながら進んでいくのか。
内容は端折っているのに、ただものすごく長くなってしまいましたが。
レビューは『HYDRA 11』へ続く予定…