nanao77
お酒にまつわる色んなシリーズの短編盛り合わせといった趣きの本です。
どのカップルにどんなお酒を絡ませるのかな?というところも楽しみです。
Yummy,gummi 8p
「ふったらどしゃぶり」の一顕と整のお話。
一顕が残業で遅く帰ったら、整はとある食べ物で酔っている上、一顕には心当たりのないことを問い詰めてきて…、という。
この2人は一穂作品の中でも一番一般人っぽく、人間的にも穏当で中庸なサラリーマンカップルで、その普通な2人の、本当にごく普通の日常を描いた感じなのに、だからこそやけに甘やかでご馳走さまと言いたくなる一編でした。
ハネモノ 6p
イエスノーシリーズの竜起となっちゃんのお話。
設楽や計、なっちゃんが関わる番組に、栄が異動する直前の、番組スタッフと竜起の飲み会の話。
悪名高い栄が乗り込んでくること、それにも関わらずなっちゃんだけは喜んでいることに、スタッフは言いたい放題。
ところがたまたま同席した、バラエティ担当時代の栄の凄さやなっちゃんの立ち位置を知っている芸人さんからすれば、そんな彼らに言いたい事もあるようで…。
こんな、読んで後味悪くなりそうなシチュエーションを、竜起は実に竜起らしく丸くおさめます。
そんな微妙な飲み会のあと、竜起はなっちゃんとバーで飲み直すのですが、その時のお酒がタイトルとつながっていてなるほどなと思いました。
水のしずく 3p
イエスノーシリーズの設楽と栄。
この2人が、実は「ハネモノ」の飲み会の会話を近くで聞いていた、というところから話は始まります。
気分を変えて飲み直すべくバーに行く2人。
設楽は、栄が番組に加わることの意味を、とあるお酒のとある飲み方に託して栄に伝えます。
このキーアイテムと飲み方がめちゃくちゃ大人で、さすが設楽…!という感じです。
短いのに、やけに印象的なお話でした。
式日 8p
「雪よ林檎の香のごとく」の桂と志緒の話。
幼なじみの結婚式に立ち会うことになった志緒は、まさにその式の同日に実家を出て一人暮らしを始めます。
シリーズ第1作、桂と出会った頃は高校1年性だった志緒たちも、こうやってどんどん大人になっていくのですね。
そんな特別の夜、法的な結婚は(今の日本だと)まだできない中で、2人は密やかに酒を酌み交わすのですが、その意味は…という。
こちらも10ページに満たないお話なのに、非常に感慨深い物語でした。とうとうここまで来たのだなあ。
ハッピーエンドで終わった物語のその続き、登場人物がちゃんと年月を積み重ねて生きていく姿が読めるのは、作品ファンとして本当に幸せなことだと、特にこの2人の物語については思います。
なんなら2人がおじいちゃんになるまで読みたいな。
そんなふうに思える、本当に素敵なお話でした。
お酒が鍵になる短編集だからか、どの作品も、いつもよりちょっぴりしっとり大人モードで、そんなところも良かったです。