COMPLETE E

木原さんの切れ味のよいセンスが光る短編集

合同誌と個人誌の過去作品、お蔵入りしていた作品に、書下ろしが加えられた短編集です。
木原さんの切れ味のよい、ダーク、ホラー、ユーモア、切なさのセンスが光っています。

「Partner」
初老のサラリーマン二人の、不毛で暗い肉体関係のお話。
社長の長谷川は、外見はスマートなのに、実は淫乱な男。三十年以上、同期で部下の南雲を体の関係で縛り続けています。南雲は、こんな関係は嫌だと思いながら、長谷川から離れられません。
においクンクン、フェラ、アナルをいじる濃厚エロ描写。でも、二人がずっとこれ止まりって？？あとがきでの種明かしにびっくり！長谷川が、南雲が自分から離れなかった本当の理由を暴く場面が、胸に刺さります。

「Swimmer」
オリンピックを諦めきれない水泳選手・四条要と、献身的に彼を支える大学時代の先輩・鵜飼。
四条要はオリンピックに返り咲くため、鵜飼の好意を利用し、ご褒美にフェラを許しています。ある日、自棄になった四条要を優しくあやして、鵜飼は自分が四条要に尽くす理由を明かします。
その理由が、些細だけれど純粋で、ジーンときます。恋ってこんなことがきっかけだよね、と思い出させてくれるお話です。

「黒い影」
中学生の湯葉は、いじめられていた宮里をかばううち、キスしたり触りっこする関係に。宮里をいじめる同級生、湯葉と宮里の関係は、実は…。ホラーな種明かしと、思春期の青さが一緒になって、ちょっと生々しい読後感を残す作品。好みが分かれるかもしれません。

「ある日の四十万谷常光」「危ない四十万谷常光」
書店店長・四十万谷常光が、ゲイゆえに部下や客にいじられるお話。トイレネタ、尺八ネタに爆笑。

「あなたは、だあれ」（書下ろし）
クリーニング店のアルバイト・袴田はゲイ。偶然店に来た高校時代の野球部の先輩・井上は、憧れの人。アルバイトの自分に引け目を感じて、後輩だと明かせません。友達付き合いをするようになり、井上から特別な好意を感じるようになっていたある日、事件が起きて…。
同性同士ゆえに好意を感じても確かめることのできないもどかしさや、ゲイ同士の恋愛の繊細さ、切なさがギュッと詰まっています。勇気を出して一歩を踏み出した二人の甘い描写に、キュンとします。

長編とはまた違う、木原さんの魅力を堪能した作品集でした。