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kimi ga kureta nukumori
ぬいぐるみのくま、を通してでしか会話が出来ないという強迫観念に苛まれているメイ。
その存在は唯一の支えであり、癒し。どんなに酷い環境でも二人一緒なら大丈夫と信じ生きてきました。
初めから愛情を知らないことと愛情を失ってしまうことと、どちらがより辛いのかは決められませんがメイも斎賀も後者になります。
親の育児放棄から養護施設そして引き取り先とメイが幸せになる道のりは長く遠いので、王子の登場はまだなのか!とじれ、現れたと思ったら離れ離れと、なかなか読ませます。
早くメイと王子様を再会させたくてページをめくる指もとまりません。
また従兄の辰哉の存在と行動に恐々。
だからこそ王子(斎賀)が現れた時と、辰哉をやり込めた時は本当に嬉しい!
特に音声外科が登場するシーンは斎賀の的を得たセリフと何物にも動じない姿勢にスカッとしましたね!
くまとのお別れはメイにとって良いことだけれど、二人が歩んできた道のりに最後は涙が出ました。
エロは少なめですが良作だと思います。
逆境に晒されても、過去に貰った優しさ(これは言葉だったり、行為だったりしますが)をお守りにして頑張る主人公(しかも、その頑張りは傍から見ると頑張っている様には見えないんです)が、想い人と幸せをつかむ……実に伊勢原さんらしいお話だと思います。
確かに、世に溢れるBLはその手のお話が多いと思いますよ。
でも、伊勢原さんが書くと「いや、これはないんじゃないか」とか「ちょっと古くないか?」と思う様な設定でも、すんなり読めちゃうんですよね。
文体が気取っていなくて読みやすいのと、キャラクターが素直でいじらしいからなんだと思ったりします。
この方も確実に『少女小説の遺伝子』を現代に色濃く伝える方だと思うのです。
主人公のメイは被虐待児です。
母と母の男にお喋りすることを疎まれたため声が出なくなり、ハンドパペットの『くま(これ、名前です)』を通してしか人と会話をすることができません。
くまとメイは別人格(『熊格』か?いや『ぬいぐるみ格』?)です。少なくともメイはくまのことをたったひとりの友達だと思っています。
母と母の男が事故で亡くなり、メイは養護施設に入ります。話せないため孤立していたメイをかまってくれたのは同じ施設の斎賀という『お兄ちゃん』。彼はかまってくれるだけではなく、メイがくまと一緒に生きていることを認めてくれた初めての人でした。
だからメイは斎賀とずっと一緒に居たいと思います。
でも、伯父が現れてメイを引き取ります。この伯父が酷い奴でねぇ。言葉が喋れない甥は世間体が悪いと、家から出さずに下男の様に扱います。でもメイは「信じていれば願いはきっと叶う」と言う斎賀の言葉を繰り返しながら、斎賀との再会を信じ続けるのです。
ああもう……泣ける。
で、願いは叶います。
斎賀は伯父の経営する会社の秘書としてメイの住む家に通う様になります。
しかし、斎賀はある信念を抱いてこの会社に入って来たのです……
いや、色々と突っ込みどころはあるんですよ。
伯父の家でのメイの扱いはちょっとばかり時代がかっていると言うか「明治大正昭和初期か?」という様なものであること(使用人が沢山いる伯父の家、それもどうも都会っぽい所でこれはやれないだろうと思うんですよね。家の中にいる結構な人数の人が児童虐待防止法違反に問われてしまいます)とか、メイの喋れない理由が機能的なものではなく『虐待を受けたことによる解離性障害』であることは、少なくとも養護施設の職員であれば解るよねと思えることとか。
でも、そんなの関係ないのっ。
だってこれは『不幸な生い立ちに負けず健気に頑張る子が幸せをつかむ』少女小説だから。
斎賀は子どもの頃から『とあること』をするためだけに生きてきました。
『願いは叶う』という斎賀の言葉は、自分を奮起させるための言葉でもあったのです。
しかし、彼はメイの為に生きるよすがであったそれを捨てます。
これが良かったの!
非常にピュアだなぁと思ったのですよ。
結果としてシミひとつない綺麗な結末を迎えることができました。
ああ、少女小説はこうじゃなくては!