きみがくれたぬくもり 完全版

kimi ga kureta nukumori

きみがくれたぬくもり 完全版
  • 電子単行本
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神19
  • 萌×27
  • 萌1
  • 中立0
  • しゅみじゃない2

--

レビュー数
4
得点
126
評価数
29
平均
4.4 / 5
神率
65.5%
著者
伊勢原ささら 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

イラスト
小椋ムク 
媒体
小説
出版社
白泉社
レーベル
花丸文庫
電子発売日
価格
ISBN

あらすじ

母親の一言をきっかけに、ぬいぐるみの「くま」を介してしかしゃべることができなくなってしまったメイは、母親が亡くなり施設に入ってからもその奇妙な行動のせいで孤立していた。そんな中支えになってくれたのは、年上のお兄ちゃん・倉本だった。倉本はメイとメイの代わりにしゃべるくまを、初めて二人セットで認めてくれたのだ。「ずっとお兄ちゃんと一緒にいられますように」そう思っていた矢先、メイは伯父に引き取られることになり、二人は離れ離れになってしまう。数年後、引き取り先でも過酷な生活を送るメイのもとに、倉本そっくりの斎賀と名乗る男があらわれ……!?優しい想いが傷ついた心を癒す、愛とカタルシスの物語―――。書き下ろし短編「きみがくれたしあわせ」収録!(この作品は、小説花丸Vol.31~34掲載「きみがくれたぬくもり1~4」を加筆修正して収録しております)

表題作きみがくれたぬくもり 完全版

斎賀蒼司(倉本蒼司),17歳→24歳,高校生→左門寺の秘書
田中メイ,10歳→17歳

同時収録作品きみがくれたぬくもり 完全版

左門寺辰哉,メイの従兄弟で高校生,17歳
田中メイ,17歳

レビュー投稿数4

初っ端から最後まで涙が止まらない

小椋さんの可愛い表紙に興味を引かれ、そしてあらすじを拝見して速攻で購入しました。

伊勢原さんというと薄幸・健気受けって定番な気がしますが、今作品はその中でも群を抜いての薄幸受けちゃん。序盤から最後まで泣けて泣けてティッシュが手放せませんでした。これから読まれる方は公共の場では読まない方が良いかも。もし読まれるならティッシュとハンカチは必須ですよ~。

ということでレビューを。ネタバレ含んでいます。ご注意ください。





主人公はメイ。
母親と、母親の恋人に虐待を受けている少年です。
言葉を発せば母親から「(メイの)父親に似ている声でしゃべるな」と言われ、母親の男からは激しい暴力を振るわれる日々。母親から「しゃべるな」と言われたメイは、クマのぬいぐるみを介してしか言葉を発しなくなっていく。

「くま」と名付けたその彼だけが、幼いメイの唯一の心の拠り所だった。そんな中母親が事故死。児童養護施設に預けられたメイだが、「くま」を介してしか話さず、「くま」を手放さないメイは格好のいじめのターゲットになってしまう。大人たちもメイに積極的にかかわらない中、唯一「くま」とメイを受け入れ、ことあるごとに助けてくれたのは高校生の「倉本のお兄ちゃん」だった。

お兄ちゃんとの会話は楽しかったが、しばらくしてメイは親戚の家に引き取られることに。お兄ちゃんと離ればなれになるのは寂しかったが、新しい家で幸せになれる。そう思ったメイだったが、その家でメイはさらなる過酷な状況に置かれることになり―。

というお話。

まだ幼い子を虐待する母親、という描写からスタートしていて、もう序盤から涙が止まらなかった。それでも母親を一心に慕うメイの心を思うと泣けて泣けて。虐待する母親から離れて、行きついた養護施設でもメイはくまを手放せない。彼の心に寄り添ってくれる大人がいないことに絶望しました。

そんな中、唯一の光が「倉本のお兄ちゃん」。
彼もまた、施設にいるということは何かを抱えているのだろうと透けて見えてきますが、そこでのメイとくまと、お兄ちゃんとの交流にやっと心が温まっていくけれど。

でも、そこからメイが引き取られた先で、さらなる不幸がメイを襲います。メイを引き取ってくれたのはメイの母親の兄。けれど、彼には思惑があって。そして、メイの従兄にあたる辰哉も。もう、これでもかとメイは追い詰められていきます。

栄養が足りず痩せた身体。
学校にも行かせてもらえない境遇。
そして、ことあるごとに暴力をふるう従兄。

けれどメイには対抗する手段が何もないんですね。自分の身を守るためにくまという友人を作り出すことが精いっぱい。メイは17歳になっていますが、幼少期から子ども時代、そして高校生になる年になるまでかなり過酷な人生を過ごしています。虐待とか、鬱憤晴らしのために暴力を振るわれる、といった展開が苦手な方にはかなりしんどいストーリーですので、注意が必要かもです。

で。
ええ、まあお約束ですね。
メイは、その家でお兄ちゃんに再会します。
名を変え、そしてメイに気づいた風もない、倉本ではなく斎賀という名前になった、かつて唯一メイとくまを受け入れてくれた、あのお兄ちゃんに。

倉本のお兄ちゃん、もとい斎賀がなぜそこにいるのか、という謎は、なんとなく読めてしまう部分はあります。けれど、斎賀と再会したことでメイの生活は一気に色づいていく。

幸せとは無縁の立場にいたメイの嬉しさや幸せな気持ちが、怒涛のように読者に流れこんできてこれまた涙が止まらない。メイは、斎賀と再会したことで幸せを手に入れられるのか?と、そこを軸に進むストーリーではあるのです。

けれど、救われたのはメイだけじゃないんですね。
斎賀も、なのです。

圧倒的なスパダリ・斎賀に、メイが愛され幸せを手に入れるストーリー。
そう思いつつ途中まで読みましたが、今作品はメイと斎賀の、二人の救済のストーリーです。

そして、くまが可愛い…。
ストーリー自体はさほど珍しくないというか。王道の展開なんですね。けれどくまの存在が、それら王道のストーリーとは一線を画すものにしてたように思います。言葉を話さないメイですが、くまが、メイの内面を端的に表わす。その表現の仕方が秀逸でした。

辰哉がね、クソなんですよ。
辰哉の父ちゃん(メイの叔父)もかなりのクソ男なのですが、BLという軸で見ると辰哉の方がクズ男。

でも、辰哉は、メイを愛してたんじゃないかな。
その表現の仕方を間違えてしまっただけで。
きっと彼の中にもいろいろな葛藤や鬱憤があって、それをメイに受け入れてほしかったんじゃなかろうか。いや、だからと言って許せるわけではないんですけれども。

辰哉メインのスピンオフがあるみたいなので、そちらも読んでみようかなと思います。

メイが可哀そうすぎてちょっぴり萎えることもあったのですが、健気・薄幸受けが大好物な私にはドンピシャな作品でした。そして小椋さんの挿絵がこれまた良い…!

綺麗で、儚くて、美しくて。
この作品の持つ世界観を見事に描き切っています。小椋さんが表紙を描かれていたので手に取った作品でしたが、もうパーフェクトな挿絵でした。

8

メイとくまの、健気な優しさと強さに心打たれました。

すごく心に残っている小説です。ぬいぐるみに愛着を持っている方なら、こちらのお話は少なからず心に刺さると思います。あらすじなど、ポッチ様が詳しく書いてくださっているので、私の方は長くなりますが感想のみを…。

まず、メイとくまの関係に心が揺さぶられました。幼少時に心を傷つけられ、喋ることができなくなったメイと、メイの代わりに言葉を発するくま。無表情で無口なメイに対し、くまは天真爛漫で賑やかで、メイをいつも力づけてくれます。本当はくまの言葉はメイが発しているので、不思議な感じなのですが…。私は元気いっぱいで可愛いくまが大好きでした。
メイとくまが一心同体であるのは、読者にはよく理解できるのですが、事情を知らない第3者にとっては気味が悪く困惑しますよね…。それもわかるのですが、心がきれいで純粋なメイとくまが邪険にされるのは読んでいて辛かった。

施設に保護されたメイは、年上の斎賀さんと出会います。メイのこともくまのことも受け入れて接してくれる彼のことを二人は大好きになり、そして斎賀さんは唯一無二の人になります。二人に優しくする人が現れて私の心も救われました。
その後、斎賀さんと何年も離れ離れに…。メイにとってまた辛い日々だったのですが、再会を祈り、生きがいにします。そして運命の再会(歓喜)!!大人になった斎賀さんの頼もしさといったら、まさにヒーロー!!斎賀さんとメイは心を通い合わせます。

斎賀さんはメイとくまが一心同体であると理解し、見守り、助けます。そしてメイは自分の存在を肯定していくようになります。対照的におとなしくなっていく、くま。そう、斎賀さんのおかげでメイは本来の自分を取り戻していくようになるのです。
そして、斎賀さんもまた、メイとくまの存在に救われ、メイの伯父への恨みや復讐への執着が薄れていくのです。いつしか、お互いにかけがえのない存在になります…。
自分よりも斎賀さんの幸せを祈るメイとくま。本当に気持ちが優しいですよね。そして守られているだけではなく、自分も斎賀さんを守りたいと行動に移せる、強い心も持っています。

幼少時に深く傷つけられたメイの心を慰めたのは、ぬいぐるみのくまでした。本来のメイは明るくておしゃべりで賢く、強い子。くまの存在があったからこそ、メイの精神は壊れずに守られていた…。辰哉がくまを引き裂き、一度メイの心は壊れますが、立ち直れたのは斎賀さんがそばにいてくれたから…。
くまとのお別れは悲しかったのですが、ちゃんとメイのなかにいる、と感じることができたラストは感動的で、心にぽっかり穴が空くことがなく、救われました。

メイの腹話術?や、10代後半の男の子が常にぬいぐるみと一緒など、客観的に「??」と感じるところはあるのですが、それはそれ、です!
また、くまを引き裂いた辰哉には殺意がわきましたが、メイに振り向いてほしくて必死だったのは伝わり、メイと同じで、嫌いになれませんでした。続編があるようなのでこちらも読んでみたいです。
私は、このお話をBLというよりヒューマンドラマとして読みました。

そして単話配信版の表紙のくまがすばらしく、大好きです。十字架やベスト、ピンクのお花など細かい所まで描かれ、本当に愛らしくて生き生きしています。小椋先生、ありがとうございます。

3

思いやりの心が引き寄せ合った幸せ

 執着攻めを求めて出会いましたが、伊勢原ささら先生は別作品で好きになっていたので、心が洗われるような優しい作品であることを期待して読みました。

 メイがぬいぐるみを介してしか話せなくなるまでの経緯が丁寧に描写されており、初っ端から辛かったです。むかつく声だと黙らせ、メイの自信と声を奪ったのが、メイが長年依存してしまうことになるぬいぐるみのくまを贈った母親というのがやるせないし、そんな母親を愛しているメイがさらに不憫でした。
 くまのあの天真爛漫さはメイの本来の人格なんですよね。そんなメイがあそこまで無表情な子供になってしまうなんて、母親たちの犯した罪は重いです。
 最低な母親たちが亡くなったからメイは救われました、というわけにもいかず、母親の心ない言葉がメイの心を縛り続けることになります。
 施設に引き取られてからも、学校へ行けずに孤立してしまいますが、いじめられていたところを倉本(後の斎賀)が助けてくれます。それどころか、くまの存在を認めた上でメイとくまの両方と会話をしてくれたのです。こんな完璧な対応ができる当時高校生の斎賀は素晴らしいです。
 初めて「自分たち」を受け入れてくれた斎賀のことをメイは好きになり、懐くようになりますが、このあたりがかわいくて和みました。斎賀も一匹狼と呼ばれるわりにメイたちをかまってあげていたし、お互いにとって穏やかで幸せな時間だったのが感じ取れます。
 一日でも長く斎賀と一緒に過ごしたいという願いもむなしく、メイは伯父の左門寺に引き取られることになりますが、新しい環境への不安や斎賀と別れる寂しさを隠せないメイに、斎賀は力強く励まし「がんばれ」と言葉をかけました。
 悲しいことにメイは引き取られた左門寺の家でも優しくしてもらえず、人目に触れないようにと離れに隔離されてしまいますが、そこから舞台は七年後に飛ぶんですよ。
 左門寺の拒絶や辰哉の歪んだ愛による折檻など、辛いことがたくさん詰まっていたはずの七年間が容赦なく省略されているんです。まるで、「倉本のお兄ちゃん(斎賀)にまた会えるのを信じてがんばったから、この七年の間にあったことなんて大したことないよ」とメイが意思表示しているかのようにも見えるし、七年後のメイを見た時の斎賀と読者の心情を一致させるための演出にも見えました。

 十七歳のメイの現状を知った斎賀は「がんばれ」と言ったことも悔いたかもしれませんが、メイにとっては確かな生きる力になっていたので間違ってはなかったと思います。
 あと、復讐否定派の人は一定数いますが、私は斎賀の生き方も間違っていたとは思いません。彼は両親を失った悲しみで打ちひしがれることなく、復讐という目的で生きる力を持ち続けたのです。
 怒りの感情ってすごく力を消費するけど、それ以上にみなぎりますよね。復讐心は一種の生きる活力であり、一種の精神安定剤だと思っているので、斎賀もきっとそれで心を保っていたのではないでしょうか。
 復讐にのめり込むほど破滅へ向かうのが定番ですが、それをさせなかったのがメイの存在です。
 再会した場面の斎賀のそっけない態度で、さらに苦しい展開が続くのかと思いましたが、それは杞憂でした。
 斎賀は再会直後からメイを探し回り、看病をしたり、プレゼントを贈ったり、声の治療という名の虐待現場に乗り込みメイを救いました。
 その後も斎賀はメイに会いに行ったり助けたりしますが、復讐一辺倒だったら敵の本拠地で自分が不利になる行動なんてできませんよね。当初は多少の下心もあったとはいえ、どう見ても斎賀の優先順位はメイが一番でしたし、メイも斎賀に笑顔でいてほしいという理念で行動していて、両想いな二人にキュンとしました。
 斎賀もメイも心の奥底で求めていたのは愛し愛されることだったと思います。
 斎賀は孤独で荒んだ心を癒すため、メイは声を取り戻すため、お互いが必要であり、それ以外の人では駄目だったんです。無条件で相手の味方になり、相手の幸せを願える二人。斎賀が言った「運命」がしっくりくる二人なので、結ばれて本当に良かったです。
 性描写はなくても満足でしたが、軽い描写だったし、くまをメイの胸元に置いてあげる気遣いを見せた斎賀にキュンとしました。彼は百点満点の攻めです。

 メイは母親のせいで自己肯定感を失ったけど、それでも自分を愛してほしいという無意識の欲望が、自分で自分を愛せない代わりに「くま」という第三者としての人格を作り上げたのではないか。斎賀にコンプレックスだった声を綺麗だと褒められ、さらに愛されることで、メイも自分を好きになれたのではないか。メイは声と自己肯定感を取り戻し、自分で自分を愛せるようになったから、「くま」は役目を終えたのではないか。
 くまとメイは同一人物だと分かっていながらも、最後の会話はグッときました。

 そして辰哉ですよ。いい意味で父親の影響を受けた斎賀と対照的な人物です。
 親に恵まれていたら辰哉もメイへの好意を素直に認めて優しく愛せたのかな、と想像すると少し切ないですね。
 くまの件を筆頭にメイにしてきたことは許されないことだらけですが、ある意味辰哉も左門寺の被害者だったと思います。最後の最後にメイを左門寺から守ったことで、彼はいい方向へ進めるのではないでしょうか。
 斎賀が完璧すぎましたが、執着攻め好きとしては辰哉も時折ツボでした。終始メイの声に執着していたところや、初めて名前を呼ばれた時にメイにもう一度とせがんでいたところは素直に萌えました。
 私は辰哉のことも好きなので、彼のお話もさっそく購入しようと思います。

 序盤はくまを介して話す設定に正直困惑しましたが、読み進めていくうちにメイとくまとのかわいい掛け合いに癒されました。
 小椋ムク先生の挿絵がまた素晴らしくて、メイとくまの表情の対比なども楽しめます。個人的には、斎賀が「もっと泣け」と抱き締めている挿絵がお気に入りです。

0

じっくり向き合い癒される様子がいい

幼少期のトラウマのせいで声を出せない健気不憫受け、出会って早々に溺愛スパダリ攻めが甘々に包み込むのかと思いきや、なんと一冊の半分まできてようやく「ぼくの声嫌いじゃないの」「嫌いなわけないだろう」という会話に行き着くのです。心を許した人に対しても、幼少期の傷はそんな簡単に癒されるものではないのだし、それを焦れず読んでいられるのは丁寧なお話作りをされているからなのだと思います。

蒼司だけがメイとくま両方を見てくれて、両方の頭を撫でてくれるのは、くまの発する気持ちが表情の変わらないメイのものだと大切に思っているから。メイ視点でもちゃんと届いているのですが、蒼司視点の後半でもやっぱり優しくて沁みました。彼自身が心を閉ざしていたことにも気付けて良かった。
本当に、こんな人ばかりなら色んな人が生きやすいのになぁと思ってしまいます。

それと今まで読んだ他の不憫健気受け作品とちょっと違うのは、辰也の存在でした。メイを引き取った叔父の子息で傲慢な少年。彼はストレスからメイに暴力を振るい、機嫌の良い時には勉強を教え、玩具のように弄ぶ。思春期になればメイに一人で弄る事を強要します。
喋られないか弱い少年が側にいて思いのままに出来るのはこの手の人間には恰好の餌食でしょう。疎ましくも気になる執着の描き方、また主人公メイの純真さに一筋スパイス(そんな言い方しちゃってごめん)が効いて良かったです。

1

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