鈴碼
mitakai
読み終わって、涙が止まりません。
一穂先生は「イエスノー」シリーズが好きで。全部の作品は読破しておりません。
10周年記念本きっかけで「新聞社」シリーズに興味を持ち。
えー、読んだ事ないやつが人気投票上位なのか…って感じの興味で。
最初はステノグカフィカで。
正直ネトラレとか、オヤジ受けとかは…うーん…って感じでした。
でも、新聞社シリーズをちょっとずつ読めば読むほど佐伯密という人物にズブズブとハマっていきました。
性格悪いし、口も態度も悪いし。
さっさと学生結婚して長年連れ添った嫁もいるのに、世界中で散々と奔放な肉体関係を持ち。
いい歳して若い子に手を出したり。
…設定だけだと本当に最低な四十路男なのですが。
どんなにとおくへ行ったって。いちばん欲しいものに手を出せない、密の賢さ。孤独。優しさ。弱さ。
愛おしい。
人生は本当にままならないものだけど。
死にたいくらい苦しかったり、ハッとするほど美しかったりする。
明日からも人生に向き合ってみよう。
そう思える深い作品でした。
こんな物語を紡げる一穂先生を心から尊敬します。
同人誌だけなのがもったいない…!
1月のサイン会で配布された小冊子「虹を見たかい」「雨を見たかい」に、書き下ろし二篇が追加された四部構成の作品です。
タイトルからホラー的な何かを想像していたら、それ以上に深いテーマに驚愕。
虹や海、そしてヴィクトール・フランクルの名著『夜と霧』…
複数のモチーフをキーワードに様々な人々の運命が交差する群像ドラマとしての完成度に圧倒されます。
■「虹を見たかい」
佐伯の父視点の話。
訪ねてきた息子の妻に、虹は過ちの象徴であるとの中国の言い伝えを話す。
それに対する彼女の反応は…。
密と良時の未来をこの時点で予測していたような、十和子の聡明さと(部外者から見た)異常さが垣間見える一篇。
最後の一行にゾクリとさせられます。
■「約束の園」
中学時代のエピソード(と、現在の良時×密)。
密が十和子に渡すも父に取り上げられてしまった『夜と霧』という書物。
中学生の良時は、同じ本をこっそり書店で購入するが…。
「自分の手から離れても、良時が持っていればいい」
幼い十和子の言葉がここでも先見性を発揮しており、何とも切ない気持ちになる一篇。
世界の美しさと醜さを間接的に描いたエピソードとして、次の二篇への伏線にもなっています。
■「雨を見たかい」「海へ行く日」
異国から佐伯を訪ねてきた黒髪の美女。
彼女の正体は…。
世界の光と闇を体現するかのような、ある二人の人物の半生。
そして、そのどちらの生き方にも少なからず影響を与えた、佐伯密という記者の存在。
リアリストでありながら情の細やかさも併せ持つ彼の人としての魅力も感じさせる、大変印象的な二篇です。
本編は密が帰国したところから始まる物語でしたが、世界には彼の仕事により救われた人々が確かに存在し、密と同じ時間軸でそれぞれの人生を生きている。
現実の世界情勢も想起させることで、登場人物一人ひとりの人生が非常にリアリティをもって迫ってくる。
そんな読み応えあるドラマでした。
先日『ペーパー・バック』として番外編集が刊行された本シリーズ。
もう新しいエピソードはあまり読めないのかな?
と思っていたところに、このような壮大なエピソードが来て(良い意味で)驚きました。
数ある『off you go』同人誌の中でも出色の出来の作品かと思います。
2016年1月のサイン会で配られた二冊の小冊子
『虹を見たかい』『雨を見たかい』に加筆修正した、
『off you go』の番外同人誌。 R18
なんと言ったらいいのだろう。
本編のもつ世界にノックアウトされた人は
間違いなくこの冊子にもやられてしまうだろう。
一方で本編が肌に合わなかった人は、
この冊子に描かれる世界は、BLじゃないと思うかもしれない。
でも、私にとっては「神」以外の評価はあり得なかった作品。
緩やかに(鮮やかに!)繋がった全部で4編の短編が収められている。
・虹を見たかい
在りし日の佐伯の父の独白によって綴られる息子の結婚と、
その若き嫁・十和子との一コマ。
20歳やそこらで、何もかにも分かっていたような十和子が
愛おしく切なく、虹の運命が20年後に繋がる様も見事。
・約束の園
『ペーパーバック2』に納められた書き下ろしの続き、
金沢から帰る飛行機の中で虹が見えたことをきっかけに、
良時は中学時代の一コマを思い出す。
磯遊びの名残の透明なかけらを日にかざし笑う佐伯を見て
急に湧き起こる感情。
飛行機を降りて佐伯の家での交合の時。
・雨を見たかい
ある日社の受付に、佐伯に会いたいとエキゾチックな美女が現れる。
受付が困惑する中良時が通りかかり、些かイヤな気分を抱きながら
彼女と話すうちに十和子が現れ、そして佐伯本人もやってきて……
・海へ行く日
『雨を見たかい』の裏側。
美女との出会いの前後の佐伯と、彼を案内していた現地通訳の話。
この一冊の感動は、魂に響くとしか言いようがなかった。
突然現れた彼女が何者だったか?
かつて地球の裏側の遠い土地でどんなドラマがあったのか?は
敢えて書くまい。
虹とそれを巡る伝承、時事的な話題や、
『夜と霧』という人間の根源に迫る名著などのモチーフを使いながら
短い話の中で、佐伯密が、良時が、十和子が鮮やかに描かれる。
佐伯の残酷なまでの潔さと、情の深さ、それ故の哀しみ。
それを知る静兄妹という存在。
私たちの生きる今という時代、そして世界、を思う時
深いところで強く胸が締め付けられる一冊だった。
それぞれのタイトルの意味も秀逸。
※
『夜と霧』(英題:Man’s Search for Meaning)
オーストリアの精神科医V.E.フランクルが収容所体験について書いた
20世紀を代表する著作の一つ。
原題はドイツ語で"Ein Psychologe erlebt das Konzentrationslager"
21世紀に入り新訳が出たが、本編中に出てくるのは
白い表紙にモノクロの写真が載せられた旧版だろう。
恒例の歌詞は、by 松本大 『ボイド』 LAMP IN TERREN
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